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18話 お泊り会Ⅱ

 理央の部屋に到着した。



 理央の部屋はとても綺麗にしてあり、派手さは全くないものの、落ち着いた配色をした家具だったり、本棚の上に可愛らしい小物がいくつか置いてあったり、これまた可愛らしい花瓶に花を挿してあったり、などなどかなりの女子力を感じさせる部屋だった。

 流石は私が密かに今時の女子高生代表として参考としている人物である理央といったところか。



 理央は私に隠れているが、非常にハイスペックな女子である。

 彼女はクラスで私の次に可愛い女子であり、成績も実は私と例の彼の次である3位。帝国大学の合格圏には正直届いていないと思うが、これからの努力次第でなんとかなる可能性を持った範囲である。なおかつ明るい性格をした優しい娘で、お金持ちの家のお嬢様であり、今時の流行りにも精通している。

 私と秋山君、ついでに弟の勇人が異常なだけで、一般的にはほぼ最高クラスのスペックを持っていると言ってしまっていいだろう。



 だからこそ理央は私にやたらと懐いてくるのだろうと思う。おそらく彼女も高校に入るまでは周りから最高クラスの評価を受けてきたのだろうが、そこに突然私という異常者が現れたのだ。

 自分が一番凄いと言われていたところ、突然自分を遥かに凌駕する人間が現れたとき、嫉妬ではなく憧れの感情を抱くのはかつての私も経験したことだから。




 私は理央に家具や小物、花、部屋に置いてある服などについてひとしきり質問した。聞けば聞くほど感心させられる。これが今時女子のおしゃれ意識というやつか。




 別に自分の部屋など他人に見せることはほとんどないのだから適当でいいだろう?と思った人は甘いぞ。無論、綺麗に飾ったりおしゃれしたりした姿を他人に見てもらいたいという気持ちはほとんどの人にあるだろう。だが、女の子のおしゃれとは他人に見せるためだけにするものではない。

 だが、自己満足のためだけかと言われるとそんなことも決してない。

 部屋の飾りを含め、おしゃれとは、何かのためと一言で語ることはできない複雑なものなのだ。

 私も昔は男だったため、その辺りのことは全く理解できていなかったものだが、今なら少しだけわかる。



 自分自身が綺麗でいたいし、異性にも綺麗な自分で会いたい。同性間でおしゃれ競争をしている場合もある。以前ショッピングモールにて女子デートをした際にも言ったが、服の着こなしによって同性からの羨望を集めるのは非常に気分良くなるものなのだ。

 仲のいい人と同じような格好をすることでチームでのおしゃれ表現だったり、仲がより深まったかのような錯覚を得たい時もある。

 華やかでかわいいものを見るのが好き、おしゃれそのものが楽しいといった面も強くある。部屋の飾りつけなどはこれが主だろうか。

 つまるところ、自分、他人、社会、これらすべてよって成り立つものが女子のおしゃれなのだというのが私の持論である。


 無論、これは個人によって異なるものであり、自己満足が主目的の女子もいれば、他人に綺麗に見られることが主目的の女子もいる。おしゃれ自体に興味のない女子だってもちろんいる。


 そしておしゃれにゴールは存在しない。いや、ゴールどころか中間到達点すらない。だからこそおしゃれは楽しいのだとも言える。



 私も人並み以上に気にしているつもりではあるのだが、おしゃれとは実に奥が深いものなのだ。




 理央から色々な話を聞いていたところ、春香からそろそろ駅に着きそうという連絡があった。

 そのため、春香を迎えに行くと言って理央は外に出ていった。


 流石に一人で理央の部屋にいるのもどうかと思うので私もリビングに戻った。


 健太君は既に自分の部屋に戻っているようで、リビングには理央のお母さんしか居なかった。

 リビングのソファに座らせていただいたとき、理央のお母さんが私に話しかけてきた。


「理央に学校のお話を聞いたとき、あの子ったらいつも早紀ちゃんのお話ばかりするのよね~」


「……そうなんですか?」


 確かに理央は時が経つにつれてより私と話すことを更に好むようになり、最近は春香よりも私と話すことのほうが多くなっていると感じるほどであるのだが、家でもそんなに私の話ばかりしているとは。

 嬉しいことではあるのだが、少し恥ずかしいな。


「ええ。あの子本当にいつも楽しく過ごさせてもらっているみたいで……ありがとうね」


「こちらこそ、理央の明るさにはいつも楽しい気持ちにさせていただいています」


「ふふふ……こんな良い娘とお友達になれてあの子は幸せね」


 と、こんな風にしばらくの間お互いに褒めあっていた。

 嬉しいやら恥ずかしいやら大変だ。こんな短期間でここまで理央のお母さんから高評価を頂けるとは思っていなかった。




 少しして理央と春香が到着した。


「初めまして。岡田春香です。よろしくお願いします」


「初めまして。理央の母です。いつも理央のことありがとうね」


 などと言って春香と理央のお母さんはひとしきり挨拶をした。

 私のそれと違い、随分まともで普通なやりとりだな。

 ……普通は初対面であんなふうにからかわれたりはしないはず。理央は春香のことはそこまで面白おかしく語ってはいないのだろうが……それにしてもみんな私を玩具にしすぎだぞ、まったく。



 などと思っていたら春香は持っていたバッグの中から箱を持って私に近づいてきて、


「早紀ちゃん、少し遅れたけどこれ、誕生日のプレゼントなの。開けてみて」


 と言って私に渡してきた。


「ううん。いつでも嬉しいよ。ありがとう、春香」


 当日でなかろうと春香が私にくれた誕生日プレゼント。嬉しくないはずがない。

 ……もしかしてこれを用意していたからここに来るのが遅れたのだろうか。春香の家は確か私の家よりも理央の家から近かったはずだし。


 中身は何だろうか、と思いながら箱を開けたら、なんとホールのケーキが入っていた。

 しかもこれは手作りだ。わざわざ作ってくれたのか。


 春香は以前見た限りでは料理がそんなに上手ではなかった気がする。もちろん、人並み以上にはできていたのだが、私のようにケーキだろうと容易く作れるほどの腕には見えなかった。それでも、私のために時間をかけて作ってくれたのだろう。

 ここまでしてもらえるなんて、私は本当に幸せ者だな。


 私は春香に最上の感謝の意を示し、箱を閉じた。


 ケーキを少しの間保存するため、理央のお母さんに冷蔵庫を貸してもらった。

 今日の夕食が終わった後、みんなで食べるとしよう。そのために春香は今日持ってきたのだろうから。




 ……なるほど。女子のお泊り会にはこういうものもあるのか。

 手作りのお菓子の食べ合いっこなど男だったときは絶対なかったものだ。もしかしたらそれをする男子もいるのかもしれないが、極めて少数派だと断言できる。



 その後理央の部屋に戻り、夕食までの少々の間、春香を交えて3人で女子トークに勤しんだ。おしゃれの話だったり流行りのものについての話だったりなど、いつも行われているような話だ。

 以前から同じような話はもうずっとしているのだが、女子同士のお泊り会という魅力的なシチュエーションがそれをより楽しいものにしてくれている。

 私を含めて全員いつもよりも楽しそうに話していたのは気のせいではないだろう。




 今日の夕食は理央のお母さんが作ってくれた。最初は外で食べようという話だったのだが、理央のお母さんに押し切られてしまった。手伝いすら許されなかった。いくら悪いと思って遠慮しようと母の力というやつには決して逆らえないのだ。


 私たち3人と理央のお母さん、健太少年の合計5人で夕食を食べた。

 未だに私にどぎまぎしている健太少年はとても可愛らしく、みんなもそう思ったのか今回のからかいの標的は私ではなく健太少年だった。

 こっちがからかう側となったらとても楽しいものである。

 ……普段私が標的となっているのは因果応報ということなのかもしれない。



 夕食後、春香の作ってくれたケーキをみんなで食べた。

 とても美味しく、幸せな気持ちになった。私は女子となってから甘いものが好物となったのだ。前世では女子たちに対し、よくこんなものそんなに食べれるな、などと思っていたのだが、何が起こるかわからないものだ。


 前も似たようなことを言ったが、味自体は普通であった(私のような特殊な例を除き、女子高生で普通の味のケーキを作れるのは凄いことだと思う。春香のお母さんが協力してくださったのだろうか。こんなに手間をかけてくれて本当に嬉しいことだ)としても、春香が私のために作ってきてくれて、さらにそれをみんなで食べているのだ。普通より美味しく感じるのは当然だろう。




 その後は、理央の部屋にてテレビゲームではなくトランプなどのテーブルゲームを楽しんだり、ネイルを塗り合ったり、理央のアルバムを見て「可愛い~」などと言ってからかったりもした。


 先ほども言ったがネイルの塗り合いやアルバムを見たりすることなど男子ではまずしないし、ゲームにしても家でするのは基本的にゲーム機を用いたものだ。

 そのため、それらの遊びは私には実に新鮮味があり、より楽しいものとなっていた。



 しばらく遊んでいたところ、理央のお父さんが帰ってきた。

 随分と遅いお帰りだな。やはり高収入なだけあっていつも遅くまで働いていて帰宅が遅いのだろうか。このレベルの家を持っているということはそれなりの重役なのだろうし、きっと私の思っている以上に忙しいのだろうな。

 そのあたりのトレードオフは将来就職先を決める際に考えなければならないことだろう。


 理央のお父さんはやはりというべきかとても恰好のいい人だった。少ししか会話はしなかったのだが、とても穏やかで優しそうな人だな、という印象を受けた。

 彼と私たちと軽く挨拶をした後、自分の部屋へと戻っていった。きっとお疲れなのだろう。ゆっくりと休んでほしいものだ。



 そして、私たちはお風呂に入った後パジャマに着替え、お約束の恋バナに勤しんだ。

 私を含め全員彼氏がいないこともあり、大分好き勝手に色々と語った。やはり夜の女子トークといえばこれだろう。

 私はそこまで女子の恋愛について語れるわけではないのだが、相槌を打って聞いているだけでも楽しいものなのだ。




 初めての女子同士でのお泊り会。思っていた以上に楽しく、とても満足のいくものだった。やはりこういう生活もいいものだと思いながら私は3人同じ部屋で就寝した。


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