13話 早めの文化祭準備
5月が終わり、6月となった。
6月に入り、最初に実力テストがあった。実力テストは範囲指定のされない試験で、今まで学習してきた全範囲が出題された。
全範囲とはいえ、4~6月初旬までの範囲のため、実際は二か月分のみと考えればそれほどでもないのだが。
試験の様子や手ごたえなどは前回と特に変わっていない。
今更特に語るようなこともなかったのだが、かといって油断することもなく、万全を期して試験に臨んだ。
……少し前に父との話があったため、いつもより少しだけ感傷に浸りながらではあったが、それで別段何かが変わったわけではない。
思うところが多少あったとしても、私は行動を特に変えるつもりはない。私は今、自分が間違ったことをしているとは思わないから。
父も、私が変わることを望んであの話をしたわけではないのだ。
実力テストが終わった後、文化祭の話となった。
我が校では文化祭は6月に行われる。理由はよくわからないが、昔からとのことらしい。部活動の大会は大体7~10月にあるだろうからそれらと被るのが理由というわけではないだろうし、なぜ6月なのだろうか。
まあ、それを私が考えてもしょうがないことなのかもしれないが。
それはさておき、担任の山田先生が説明を始めた。
まず、準備期間は10日とのこと。そこそこ長いのではないだろうか。我が校は普通の学生よりも色々と忙しい生徒が多いだろうになぜだろうか、と考えていたところ、そこに関しては山田先生からの説明があった。
我が校では文化祭は毎年それなりの盛り上がりを見せるらしい。
なぜかというと、そもそも学校に所属する生徒の数が多いこと、野球部を始めとした全国屈指の強豪の部活動に所属する生徒たちが握手会をしたり写真を撮ったりしてくれることの2つが主な要因らしい。
また、それに触発されてなのか、多くの人数に見てもらえるからなのか、強豪の部活に属さない生徒も毎年それなりのやる気を出して出し物を作るのだそうだ。
確かに、将来プロ入りするような人たちと私も握手したりしたいし、その人たちが自分たちの出し物を見に来る可能性があるのならやる気も出るな、と話を聞いて思った。
そのため、学校側もそれを踏まえ、10日というそれなりに長い準備期間を与えるとのことだ。
文化祭の出し物について、山田先生は去年実際に行われた出し物のリストを配ってくれた。
これを見る限り割と自由に何でもできそうだ。
お化け屋敷や出店などは衛生面などを理由に許可しない学校も多いのだが、ありがたいことだ。
物によっては検便なども必要なことがあるとか聞いたことがあるがどうなのだろうか。確か学校や自治体によってその辺りの基準が異なると聞いたことがある。
まあ、それも私が考えても仕方のないことか。何かあったら先生が指摘するだろう。
私の前世において所属していた学校では、かなり基準が厳しく設けられていており、お化け屋敷や出店などを含めて様々な出し物が許可されていなかった。そのため、生徒もほとんどやる気を出さず、訪れる人数も少ないため、体育祭と比較して文化祭は盛り上がりに欠けるイベントであった。
そのため、これから行われる文化祭は私にとってはよりいっそう楽しみである。
出し物の被りについてだが、ある程度は許容するらしい。どうしても多すぎる場合は上位の進学クラスと部活の特待生が多くいるクラスが優先されるとのことなので、私たちは被りを気にする必要はなさそうだ。
山田先生から、クラス委員である理央へとバトンタッチして文化祭で何をするかの話し合いをすることになった。
お化け屋敷、喫茶店、射的、たこ焼き、脱出ゲームなど色々な候補が上がった。中にはメイド喫茶もあった。
私は、文化祭におけるメイド喫茶など創作物限定の架空のものだと思っていたのだが、そうでもないのだということを前世において大学で出会った友人に教えられたことを思い出した。これもまた懐かしい記憶である。
予想通り(期待通りもしくはお約束)かもしれないが、話し合いの結果、メイド喫茶をすることになった。男子諸君にはちゃんと執事服の用意があるらしい。
曰く、服さえ用意できれば、あとは市販の飲み物に適当にタピオカなどを入れるだけでできるため、準備が楽だからだそうだ。そのメイド服も、準備の算段は既に整っているとのこと。
実に打算的な理由だが、まあそんなものなのかもしれない。
女子からの反対は特になかった。
男子諸君には意外かもしれないが、女子はメイド服などのコスプレを割とノリノリですることが多い。むしろ、逆に男子のほうが思っていたよりも女子のコスプレに興味がなかったりする。
特にこういう理由付けが容易な場所だと、自ら着たがる女子も結構いるくらいだ。その場のノリやおかしくなったテンションという要因もあるのだろうが。
現に、メイド喫茶の案を最初に出したのは女子であるのだし。
かく言う私も、前世ではメイドさんを含めたコスプレになど全く興味はなかったが、今世ではメイド服などを着用してごっこ遊びに興じてみるのも悪くないと考えている。
私のメイド姿を見てみたい、というのも恐らくメイド喫茶にすることを決定した主要因の一つだっただろう。私ほどの美人のメイド姿などこの機を逃したらもう見ることはそうそうできないだろうし。
ふっ……せいぜい私のあまりの可愛さに動揺して給仕の際に飲み物をこぼさないよう気を付けるのだな。
などと自惚れていたところ、次はシフト時間の話し合いとなった。随分性急なことだが、出し物が早く決まったことだし、今日決められるところまで決めてしまいたいのだろう。
私が担当する時間は客が集まりやすいだろうとのことなので、最初の1時間と、人が多いであろう午後1~3時の担当となった。
合計3時間と少々長いが、美人すぎる私の力で少しでも盛り上げたいだろうから仕方ないだろうと考え、了承した。
このクラスで私の次に可愛い女子である理央は違う時間の担当となった。とても残念そうにしていたが、私のメイド姿を見るだけなら、違う時間担当だろうと私のシフト時間に見に来るだけで可能なので安心してほしい。
……流石に調子に乗りすぎだって?私自身そう思う。少し舞い上がりすぎているのは自覚しているから許してほしい。
こうしてシフト決めも終了した。展示などを行う組はやることが多いのだろうが、正直もう私たちがやることは服の確保と市販の飲み物などの購入、テーブルクロスなどの少々の飾りつけくらいなので、あと9日あるが、準備において、一部の人以外はほとんどやることが終わったと言ってしまっていいだろう。
「文化祭楽しみだね! 早紀ちゃん!」
「ふふっ、理央ったら。私も楽しみにしているけれど」
などと理央と語り合う。彼女の明るさは本当にいいものだ。一緒にいるといつも楽しい気持ちにさせてくれる。
文化祭当日が実に楽しみである。
「北条さんのメイド姿楽しみ。今はなんかまんざらでもなさそうだけど、当日はいつもみたいにちょっと恥ずかしがったりして」
……君だけメイド服を着せてやろうか?私手ずからメイクをしてやってもいいぞ。光栄だろう?シフトも一緒なことだしな。




