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11話 カレー作りと青春

 金曜を迎え、遠足当日となった。


 本日の遠足は私服にて行われる。とはいえ今日はカレー作りをするため、あまりおしゃれな恰好をして汚すわけにはいかない。そのため今日の私の服装はシャツにジーンズといういつもよりラフな格好である。

 こんなカジュアルな服装だろうとばっちり美しく着こなしてしまう私のスタイルと美しさとは罪なものよ。


 ……それはさておき、現在、私たちはバスに乗車して遠足の会場に向かっている。私は窓際の席に座っており、私の隣に座っているのは、もうくどいかもしれないが私の高校生活初の同性の友人である高橋さんである。

 彼女はバスに乗った直後しばらくは私とともにガールズトークに勤しんでいたのだが、既にバスに乗って1時間。話疲れたのか今ではすっかり寝てしまっていた。実に女子高生らしく、微笑ましいことである。


 そのため私は1人窓の外に見える次々と移り変わる景色を頬杖付いてぼーっとしながら眺めていた。このように何も考えず別に美しいわけでもない景色をただ眺めるだけの時間も私は決して嫌いではない。

 むしろこのようにして過ごす時間もバスで行く遠足の醍醐味の一つと言えるのではないだろうか。


 ふと窓の逆方向のバス内部を見たところ、高橋さんの寝顔と同時に、慌てて私から目をそらすクラスメイトの男子の姿が見られた。


 全く可愛らしい姿を見せてくれるものだ。そんなに物思いにふけながら(実際はぼーっとしていただけだが)外を見る私の姿が美しかったか?普段はみんなして私を散々からかってくれる割に初心なことよ。

 そんなに恥ずかしがらずもっと私のことを見てみてはどうかね?別に構わないのだよ?



 と、このように調子に乗って気分を良くした後、遠足会場であるキャンプ場に到着した。


 自然あふれるいい場所だ。私は都会の喧騒も嫌いではないが、こういう自然に囲まれた場所も好きである。

 今は若いため、住むのなら便利な都会にしたいと思っているが、老後はこういった自然に囲まれた田舎に住むのも悪くはないだろう。とはいえあまりに田舎過ぎて近所にバスや店も存在しないようなところに住むことはないだろうが。



 到着後、早速あらかじめ決められたグループに分かれ、カレー作りに取り掛かった。私の班は男子4人女子2人の6人で構成されていた。全員既に私の友人であるため、楽しいカレー作りとなること間違いなしだ。


 まず、班内で簡単に役割を決めた。私はとりあえずこういった場合大抵女子に任される役である、野菜を切る係となった。

 本当に腕も何もない役であるため少々肩透かしではあるのだが、まあよかろう。

 私がすべてをこなしてしまうと流石に場が盛り下がるだろうし。


 火起こしやお米を炊く作業をする男子諸君に「わーすごーい」などと言っておだててやるのもこういった場におけるお約束というやつだろう。美人に求められる役割というやつだ。せいぜい男子諸君をおだててどぎまぎさせてやろうじゃないか。


 そんなことを考えながら黙々と野菜を切る作業に取り組む。

 ……すぐに終わってしまったな。みんなまだ各々の作業に取り組んでいる。野菜を鍋に入れるのはもう少し後になりそうだ。それまで何をしようか。


 暇になってしまったため、他の作業をしている班員のところに行き、「頑張って」などと言っておだてたり、手伝いをする余地がある作業を手伝ったりしてカレー作りに励んだ。


 今の私たちの姿はまさに青春そのものと言えるだろう。カレー作りという別に大したことをしているわけではないとはいえ、皆でこうして作業に取り組むのは非常に楽しいものだ。



 そうしてカレーが完成した。私が見ていたこともあり、ご飯もルーも非常に上出来なものに仕上がった。


「うまい!!」


「こんなに野外カレーを上手く作れたの初めてだ」


「北条さんのおかげだな。流石」


 といった感想が班員から出た。確かに野外カレーを全く失敗なく完璧に作るというのは慣れてしまえば簡単なことではあるとはいえ、高校1年生の慣れていない男子諸君にとっては珍しいことなのかもしれないな。私が火加減を判断していたがゆえの成功であるということは事実であるのだし。


「ふふ。ありがとう。でもみんなの力あってのものだから」


 と私は返す。そう、確かに旨さに貢献したのは私の力がほとんどであっただろう。だが、こうして楽しんで作ることができたのは間違いなくみんなのおかげである。それに対し感謝をしない私ではない。


 味そのものは普通のカレーと全く変わらない。だが、この遠足という状況と、みんなで作ったカレーであるということがこの何でもないカレーを非常に美味しいと感じるものにしてくれたのだ。



 この後は他の班の人たちと一口ずつカレーを交換し合って感想を言い合うというお約束のことをした。

 私の所属する班のカレーが一番おいしいとの評判を受け、みんなにもっとくれとせがまれたことは語るまでもないことだろう。



 カレーを食べ、片付けを終えた後少しの間の自由時間に入った。


 私はクラスの女子とともにふわふわしたボールでのバレーやフリスピーでの遊びに興じた。

 ……本気を出して雄姿を見せつけるんじゃなかったのかって?流石に高校生にもなってこうしてみんなゆるく楽しんでいる中一人だけ全力を見せつけるのはおかしいだろう。尊敬を集めるどころか頭のおかしいやつにしか見えないこと間違いなしである。

 それに、こうしてゆるく遊びに興じるのも実に楽しいものであるのだし。



 このようにひとしきり遊んだ後、遠足が終了の時間を迎えた。


 非常に名残惜しいことではあるが、私たちは再びバスへと乗り込んだ。私は行きと同じく高橋さんの隣の席に座った。彼女は遊び疲れたのかすぐに寝てしまった。

 私はそこまで眠くなかったため、また窓の外の景色でも眺めるかなと思ったが、行きのバスでの出来事を思い出し、少々悪戯をすることを思いついた。


 まず少々体を傾けて寝たふりする。そうして少し時間が経ち、薄眼にて男子が私の可愛らしい寝顔を見ていることを確認した後、その彼と目が合うように目を開ける。そして少し咎めるような顔をしてその男子を見つめたのである。


 当然彼は非常に狼狽した姿を見せてくれた。

 ふっふっふ……いつもの意趣返しというやつだ。別に怒っているわけではないから安心していいぞ、初心な少年よ。

 悪戯を成功させて非常に気分を良くし、窓の外の景色を眺めることを再開した。



 このように、遠足は期待していた通り非常に楽しく、満足いくものであった。このような生活を送れることに感謝しながら私は再び日常へと戻った。

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