10話 成績と遠足
無事中間試験を終えて、1週間が経過した。
この1週間は、試験を終えた直後に小林さん、岡田さんと共にカラオケに行ったり、休日におしゃれなカフェに行ったりと、非常に女子高生らしいことをして過ごした。彼女たちもやはり遊びたい年齢の女子高生。試験を終えた直後、少々羽目を外して遊びたかったのだろう。
……肝心の私のカラオケの腕前はどうなんだって?期待をさせてしまっていたのなら申し訳ないのだが、そこそこ上手いという程度だ。小林さんは普通。岡田さんはかなり上手だった。
現在、担任の山田先生によって私たちの試験の結果が配られている。
随分早いな、だって?私もそう思うが、今日開示されるのはあくまで各自それぞれの科目における点数と総合順位のみとのことで、詳細はまた後日各自に配るのだそうだ。
私は無論1位。転生というズルをしているため当然ではあるのだが。
……そんなに言うのならわざと順位を落としたらどうだって?流石にそこまでするつもりはない。以前にも言ったが私は元来負けず嫌いなのだから。ズルとはいえそれが現時点の私の能力であることに変わりはないのだし。
更に、誰々君のほうが点は高かったのだけれど本気を出せば私のほうが凄いんだ、などという戯言を言うのは私のプライドが許さない。
加えて言うと、私は昔からちやほやされるのが好きなのだ。在学中誰かに主席の座を譲るつもりはない。
前世において日本一の大学である帝国大学に行き、今世においてもまた行こうとしているのも、学問への興味、将来のことを考えて、というのもあるにはあるのだが、それ以上に負けず嫌いとちやほやされるのが好きという2つが行き着くところまで行った結果だと私は考えている。
それはさておき、試験の成績が開示されたということは、当然首位が誰なのかみんな気になるだろう。特に我がクラスは入試で成績上位だった人の集まり。比較的勉強に意欲のあるメンバーの集まりであるためなおさらだ。
また、時の運や入学後の学習によって多少の前後はあるとはいえ、上位10人はほぼこのクラスから出ると言ってしまっていいだろう。その中でも主席入学者であり、授業中何かと特別扱いされている私は当然1位候補筆頭としてみんなの注目を集めるのだ。みんな周りの友人たちと話しながらもチラチラと私の方を見てくる。
そんなに気になるなら直接聞いてくれてもかまわないのだよ?
「ねえねえ早紀ちゃん。どうだった?」
と、最近私の呼び方を「早紀ちゃん」へと変えた小林さんがにやにやしながら話しかけてきた。
小林さん改め理央は私が1位だと確信しているようだ。
それもそうだろう。この1週間の間、各科目の答案が帰ってきた際、理央は私の点数をその都度聞いてきたため、私のおおまかな成績を把握しているのだから。一部科目では高得点者の名前が模範解答に記入されていたのも判断要素の一つだろう。
しかし、直接聞いてもいいなどと考えていたのは事実だが、そこまでにやにやしなくともよいだろう。こっちが少し恥ずかしくなってくる。みんなこちらを見ているのだし。
「もう……理央ったら。1番だったよ」
「やっぱり早紀ちゃんが1番か~ さっすが早紀ちゃん!!」
と、わざとらしく大声で言ってくる。
「やっぱり1位は北条さんか……」
「流石北条さん」
大声でみんなに聞こえるように言ったため、当然このような声が聞こえてくる。私がいくらちやほやされることが好きとはいえ、流石に少し恥ずかしい。
完全にわざとやっているとわかっているのに。悔しい。
「ちょっと恥ずかしそうにしてる北条さんかわいい」
……君、最近おとなしくしているなと思っていたが私の気のせいだったようだな。いや、以前から別にうるさくしていたわけではないのだけれど。
ちなみに、まあそうだろうなと思ってはいたのだが、2位の人物は彼だったようだ。それもなぜか少し悔しい。
いや、別にいいのだけれど。
試験の成績開示が終わった後、山田先生は週末にある、とあるイベントの話を始めた。
そう。今週の金曜には遠足が行われるのである。
場所は、学校からバスで2時間ほど掛かるところにある、大自然を満喫できるキャンプ場だ。
自然の中でカレー作りをすることによってクラスの親睦を深めることが目的だそうだ。
高校生初の学内イベントとして実にふさわしく、青春らしい催しと言えるのではないだろうか。私も当然楽しみにしている。
私の料理の腕前をみんなに見せつけるいい機会でもある。みんな、ほっぺたが落ちてしまわないようせいぜい覚悟しておくがいい。
……カレー作りに腕前も何もないだろうだって?まったく……野暮なことを言うものだ。確かにせいぜい火加減を見る程度だが、ノリというものがあるだろう。
カレー作りの際のグループ分けは既に決められているとのことだ。これは当然だろう。高校生にもなってグループ分けでもめることなどそうないだろうが、余計な諍いの可能性など無いに越したことはない。
それに、そもそも交流を深めることが目的なのだから、普段から一緒にいるような面々で組を作ってしまったら意味がないだろうし。
仮にグループ分けを自分たちでする必要があったとしても、美人で優秀で料理の上手い私は大人気となること間違いなしなので何の問題もないが。……決して振りなどではないぞ。
カレーを作った後は自由時間が与えられるらしい。各自スポーツやのんびりとしてお話などに勤しむのだろう。実に楽しみなことである。
最近定着しつつあるいじられ役のイメージを払拭すべくスポーツで私の雄姿を見せつけるのもいいかもしれない。流石にスポーツ特待生にはかなわないが、私は普通の女子の中ではかなり運動神経もいい方なのだ。
……そんなことでイメージが払拭されるわけないことなどわかっている。体育の時間で既にみんな私の運動神経などわかっていることも重々承知である。言ってみたかっただけだ。以前にも似たようなことを言ったが少々テンションがおかしくなっていることくらい許してほしい。
このように、週末の遠足を楽しみにしながら私はいつも通り高校生活の日常へと戻った。