02
ロッケ・ブルト大佐はアデルス・フィールたちがエテルネル塔から出ていくのガラス越しで眺めていた。
「大佐、どうしたんですか?ただでさえ強面なのにむすっとしてたら女の子は逃げちゃうと思いますよ」
そんな彼に話しかけるのは腰に刀を帯刀している黒髪ロングの女性アマガクレ・ミナ中佐。いつも明るい雰囲気を携えている人当たりのいい人間だ。そんな彼女がロット大佐は少し苦手であった。彼は、軍紀をはしっかり守るし、自信の上官に楯突くこともしない、命令を忠実に実行するそれはまさに軍の鏡 とは残念ながら言えないのだ。彼は軍の中ではかなり上位の実力者だが、命令以外のことが苦手だ。大抵のことは、全て自分でやった方がうまくいくという自負もある。だが、大抵のことではないときには他の仲間との連携が必要で、相手に合わせなくてはならないのだ。つまり彼に足りないのはコミュニケーションとカリスマ性。上に立つものなら必要不可欠なものだ。そんな彼だからこそ、ミナ中佐を見るとそんな自分の弱点を見せつけられているような感覚に陥るのだ。
「何の用だ…ミナ中佐。中佐は、都市の外での神域調査に向かったのではなかったか?」
「行ってきましたよ。3年前からα地域の掃討が続いている成果なのかだいぶ『祝福』の獣の数は減少していましたよ。ただ最近は異常種の確認もされていますが」
「異常種か、遭遇したのか?」
「いえ、それがまったくですよ。いつも新兵のときにばっかり狙われるんです。だから大佐の管理下になった新部隊は大丈夫ですか?」
おそらくこれが聞きたかったのだろう。異常種による新兵狩り。本当に異常種なのかは実際に確認されていない。そのせいで、新兵が単純に失敗して死んだのか、それとも本当に死んだのかがはっきりしない。だが、以前新人の最後の通話記録で異常種が出現したとの記録が残ったので、異常種がいると判断されているのだ。
「わからんな、だがそのための彼らだ。」
新特殊戦闘17部隊の設立。聖天石の特殊装備による戦闘。新兵でも戦果を上げれる強力な兵器といってもおかしくはない。もし彼らが敗北するとなればα地域の制圧は遅れるものである。
「大佐は期待しているんですか?」
「している。そのための彼なのだ。」
「酷いものですね。見ましたよ、あの入隊手術。、人工筋肉適合、反応神経処理容量の拡大と痛覚軽減と3つも手術するなんて細胞がボロボロですよ。」
「仕方あるまい。いつ落ちるかわからない浮遊都市などもし落ちてしまえば壊滅的被害が起こるのだ。やはり人間は地上で生きていかなくてはならない。」
「そのために彼を犠牲に?」
「個と全は比べるまでもない。どうやっても全が優先されるものだ。彼には英雄になってもらわなければならない」
その信の籠った言葉を発するロッケ・ブルト大佐を聞いて、ミナは軽蔑していた。あなたは私が知っている誰よりも強く、誇り、信念がある男だと、いつも隣合わせで一緒に闘う自分を誇りに思い、彼を敬愛していた。だが、いまの彼にはそれがない。前線から外れ、命令を下すだけ、いつも後ろで眺めてる。彼の雄々しい背中はどこに行ってしまったのだろう。ああ…私の知ってる大佐は何処へ。
「そうですか、失礼しますロッケ・ブルト大佐」
ミナ中佐のトーンが下がった落胆の声にロッケ・ブルト大佐気づかない。