吾輩はネコである。
今回のテーマは『決断』です。
何かに抗ったり、行動を起こす、というのは難しいですね。そんなことを考えながらこの話を描きました。
もし時間があるという方はぜひ、読んでくださると幸いです。
暗めの室内に、光が差し込む。窓から抜ける風は春の訪れとともに真っ白なカーテンを揺らす。
朝だ…朝が来た。
いつも通り、ブラックコーヒーを淹れ、賞味期限ギリギリのパンをサクサクとかじる。
ただ、ここからはいつも通りではない。
クローゼットからスーツを取り出すと、乱雑に浴槽へ放り込む、冷ややかな視線とともに落とすのはオイルライター。
そしてすぐに風呂場を出た、その後、紺色のネクタイを握りしめる、ゴミ箱へ突っ込む瞬間、最後にもう1度、と首に巻き、すぐに捨てた。
「ごめんな、美幸。」ゴミ袋から薄らと透けた紺色を見て、嬉しい反面少し名残惜しい、灰色の感情がドッと流れ込む。
会社に辞表を出した後に買った、この大型リュック、ありったけの服とお金、カロリーメイトを詰め込む。一番頑丈な作りになっている所には、銀色に輝くネックレスと一枚の写真を入れて。
さて、準備は出来た。
自宅の玄関を壮大に開ける、俺の相棒と共に。
つい先週、自殺のニュースを見た。
原因は労働基準法を超える過重労働、その男は24歳にして自らの命を絶ってしまったのだ。
このニュースを見て社会の人は、どう捉えるのだろうか。あの人が弱い?訴えればいいんじゃないの?かわいそう?
ニュースを見た不特定多数の人間がどれだけ彼に同情すれど、この労働を強制される社会には、きっと大したダメージではない、もしかしたら一種のコラテラルダメージというヤツなのかもしれない。
だから、俺はこのニュースを見て…感動した。
不謹慎だろうか?まぁ、きっとそうなのだろう、それならそれで構わない。でも俺は、彼を尊敬している。
寝ても起きても、時間に縛られ、ルールに、電脳に支配されるこの世の中から、形は違えど逃げ出した。足を引き摺りながら一歩踏み出したのだ。
昔、俺の祖母が道路に転がる無惨な猫の死体を見て言っていた。
「猫は後戻りが出来ないんだよ。」
後戻りが出来ない、それは一思いに突っ切るということ、そんな猫のようになれたらいいな、カッコイイな、と憧れたのを今でも覚えてる。
だから俺も、旅に出ようと決心した。
もう、スーツは一生着ない、今までこき使われてきた分のお金で旅をする。
宛がないのはもちろん、救いも、社会に何も貢献してないのも重々承知。
きっと、どこかで野垂れ死んでも何も残らない、そんなことは想定内。
さて、準備は出来た。
10年間、毎日着込まされたスーツは燃やした。
病気で亡くなった、妻からのネクタイも捨てた。唯一、形見として持ったのは彼女が身につけていたネックレスと、彼女と俺が映った写真だけ。
5年間、苦楽を共にしてきた自慢のロードバイクのハンドルを握りしめ、玄関を壮大に開ける。相棒と共に。
庭でギヤの調子を確かめる、カチカチと。
ストンと入る音は、俺に語りかける。『気分上々』。
よし!喝を入れるように声を出した、そしてフレームを優しく撫でながら、
「今日からよろしくな、相棒。」
ペダルを思いっきり踏み込む、シャーと音を立てて綴るのは、旅の初まり、最初の1ページ。
俺は一思いにスピードを上げた。
もう後戻りは出来ない。もしこの状況を、誰かの言葉を借りるなら…
――吾輩はネコである。
こんばんは、嘘月です!
皆さん、お仕事お疲れ様です。そんなお疲れの中この作品を読んでくださったこと、誠に感謝申し上げます。
さて決断をテーマに描かせていただいた、この作品、題名はあの有名な話からお借りしました。しかし、話の内容は180度違います。ちなみに主人公の名前を考えていないので、まだ名前は無いです…
この話は、祖母が猫の死体を見て「後戻りが出来ない」と発した瞬間、パッと頭に浮かんできました。
ちなみに、つい何年か前、自分がガソリンスタンドでバイトをしていた時の話です。その時上司の方から聞いた話がとても印象に残っていたので一部紹介させていただきます。
ある大手チェーン店の話です。その内容は、タイムカードを午前9時1分に押させ、仕事が終わりに、午後21時59分に押させる、といった内容。それを理由に、約2時間分の給料を払わないといった行動。
その時私は、労働基準法の意味は?と疑念を抱いたのを未だに覚えています。
正直、聞いた話なので、どうか、否かは分かりません。
あとがきが重い話になってしまい、申し訳ございません。ここまで読んでくださった方に感謝です。
今回はここら辺で失礼させていただきます。
最後に、明日から仕事が始まる方も多いと思いますが、お体にお気を付けて頑張ってください!人事のようになってしまうかもしれませんが、応援しています!
それでは、また次回に!