第7話 テストでトゥナイト! 〜前編〜
ピンチである。
今まで歩んできた人生のうち、一番のピンチを迎えていた。
何故今まで気がつかなかったのか……
それを後悔しつつ、僕は机に向かった。
思い起こせば3週間前の事である。
―――――――――
「お〜い、東馬。今暇か〜?」
5月に入り、1週間が過ぎたある日の出来事だった。
妹に昼休みに潜伏していた場所を発見され、料理研究クラブの部室に場所を変えていた時のことだった。
「なんだよ?今忙しいんだけど……」
1人で食後の冷えたプリンを食べようとし、冷蔵庫に手をかけていた僕は大智の声に顔だけをそちらに向けた。
「大ニュースだよ!大ニュース!」
大智は手に握っていたチラシを僕の顔の前で広げた。
「うわっ!邪魔だよ。見えね〜から!」
冷蔵庫から手を離し、僕は大智の手からチラシを取った。
「………なんだよ?これ……」
そのチラシに書いてあったものは、僕が予想していた物とは異なっていた。
「何って……バイトに決まってるだろ」
「意味が分からん……」
話の意図が読めず、僕は再び至福の為に冷蔵庫に手を伸ばしていた。
「だ・か・ら!バイトだよ、バ・イ・ト!
働いて見たいって以前言ってたじゃないか!」
そう言えばそんな事も言ったような……
しかし、それがいつ言った事なのかはまるで記憶に無かった。
「確かに言ってたかも知れないけど……
今は部活もあるし、それに今月末はテストだってあるじゃないか!
バイトなんて到底無理だよ」
僕は折角の大智の努力を無駄にしたくは無かったのだが、現在の状況でバイトをするには無理があった。
「けど東馬さ〜、欲しい物があるって言ってたよね〜?」
「うぐっ……」
心底大智の情報網と記憶力の良さには舌を巻いていた。
「まぁ、欲しいけど……」
「そうだよな、欲しいよな!じゃぁバイトを……」
無理にでもバイトをさせたがる大智に不信感を抱いた僕は、大智に理由を尋ねてみた。
「何でそこまでバイトにこだわるんだよ?」
「ふふふ……それはだな……」
なにやら不気味な笑みを浮かべながら僕に近づいてきた。
「そ、それは……?」
妙なプレッシャーに息を呑む僕。
「それは……バイト先に可愛い女の子がいるんだもん」
僕は大智の不純な理由に頭を抱えながら、冷蔵庫の中を空けた。
するとそこには……
『プリン作ってくれたんだぁ〜。ありがと by柊』
と書かれた紙だけが残されていた。
「うぅ……大智……」
「なんだ?東馬」
僕は大事な娘を嫁に持っていかれた父親のように泣き、大智に言った。
「やるぞ……もう、やってやる〜!」
こうして僕はバイトを始める事を決意した。
―――――――――
「こんなことになるなんて……」
現時刻は深夜1時。
忘れ去られていたテストまで残り1日とちょっとだった。
「うわぁ〜、大智のバカやろ〜!」
泣き叫びながら必死になって手を動かす僕をよそに他の皆は眠りこいていた。
こうなった経緯は2日前のことであった。
―――――――――
「東馬、今度の土日は暇か?」
バイトを始めて早2週間。
バイト先の雰囲気にも馴染み始め、仕事も手馴れてきていた。
「ん?今度の土日はバイトが……」
僕は携帯のスケジュールを開こうとした時だった。
「お前余裕だな〜?テスト前にバイト入れるなんて」
その時僕は一瞬大智が何を言っているのか分からなくなった。
「テスト前……?テストって……ハッ!」
気がつけば既にテスト直前の金曜日になっていた。
うちのテストは基本的に月曜日から始まり、4日間の死闘を広げる。
よって、その直前の土日をどう過ごすかによって勝敗が左右されるのでもあった。
「ううう……忘れてた……」
すっかり頭から離れていた僕に大智は同情したのか、バイト先の店長に連絡をいれてくれて、なんとか土日は行かずに済む方向に話がまとまった。
「悪いな、大智。助かった」
僕は大智に何かお礼がしたかった。
まさかそれに付け込んでくるとは思いもしていなかった。
「じゃぁ、今度の土日はお前んちで勉強合宿ってことで……」
「うっ……」
確かに大智には感謝をして御礼をしたいとは思ってはいたが、ここまでとは思っても無かった。
しかし、ここで断る事も出来なかったので僕は渋々了承した有様だった。
そして次の日……
――ピンポーン――
現時刻は午前8時。
いつもなら寝ていた時刻であったのだが、昨日大智が『8時に行く』と言っていたので僕も眠たい体に鞭を打って部屋を片付けていた。
「はいはい……今あけますよ……」
僕は独り言を言いながら、玄関のドアを開けた。
するとそこには大智と他3名がいた。
「ち、千草さん……それに……」
千草の後ろで親指を立てて笑っている大智に僕は心の中でガッツポーズをとる。
「……なんで柊と不浄がいるんだよ?」
何故だかは分からないが、千草の後ろに柊と不浄が立っていた。
「私が誘ったの。なんか最近うちの教室にいる事が多いから、友達になっちゃったの」
よりによってこいつ等とは……
そんな心の声が聞こえたのか、柊は僕の顔を睨んで来た。
「ま、まぁ、立ち話もなんだしあがってよ」
この日僕は何か不吉な予感がしてならなかった。