第6話 嵐の予感?新入部員とパーティータイム 〜後編〜
「……ここは……?」
気がついてみれば窓から朝日が差し込んでいた。
「そう言えば昨日は学校に泊まったんだっけ……」
曖昧な記憶を辿りながらも、昨晩の出来事を懸命に思い返した。
―――――――――
柊等がいなくなってから既に2時間が経っていた。
外は夕日が今にも落ちようとしていて、肌寒い空気が部室の中を駆け抜けた。
おおよそのレシピが出来上がった僕は、調理室に移動しようとした時だった。
「……?」
なぜか部室を出ると妙な感覚に陥った。
この感覚を以前にも感じた事があったのだが、それがいつの事だったのかは明確には覚えてはいなかった。
まぁ、覚えていないのでたいしたことではないと考えた僕はそのまま職員室へと足を運んだ。
「失礼します。並川ですけど、高須先生はいますか?」
調理室を借りるには先生の許可が必要だったので、ここに来たのであったが……
「高須先生なら帰ったぞ〜」
この感覚……
奥から聞こえたその声の主は、やはり源ちゃんだった。
「そうですか……なら、調理室の貸し出し許可を貰いたいんですけど……」
理由を述べること10分……
理解度数が低い……いや、頭の堅い源ちゃんには少々理解しがたい理由だったのだろう……
確かに『こんな事を1人に押し付けるなんて考えられない』という源ちゃんの言葉は納得だったが、そんな事を僕が柊等に言ったら何をされるか分かったものではなかったので、渋々受け入れてしまった次第だった。
ようやく調理室の貸し出しが認められ、鍵を借りた僕は下準備のためそのまま外へと向かった。
「まだ商店街はあいてるかなぁ〜?」
そんな事を言いつつ、学校から借りた自転車で軽快に走っていた。
1時間後……
一通り買い物を終えると、一旦家へと戻る事にした。
少し持ってくる物もあったのだったが、大半の理由は夕飯を作ってやらないと、瑞葉は本日絶食になってしまうからであった。
それはいくらなんでも可愛そうに思ったので仕方なく家路へと急いだ。
「ただいま〜」
ドアをあけるとほぼ同時にバックステップを踏み、その場を離れた。
「お帰り〜♪お兄ちゃん」
ドアが開くと同時に瑞葉は飛び掛ってきたが、それを長年の感覚で華麗にかわした。
「も〜、抱きつくぐらい良いじゃん!」
上手く着地はしたものの、避けられてご機嫌ななめな瑞葉をスルーして、早速料理に取り掛かった。
20分後、テーブルには美味しそうな料理が並んでいた。
「わ〜!いっただきま〜す♪」
『我ながら良い出来映えだ』と自画自賛しつつも、学校に戻る用意をまとめていた。
「じゃぁ、行って来るから後は頼んだぞ〜」
そう言い残すと再び学校へと向かった。
すぐさま調理室に行くと準備を整えた。
「よし!やるか!」
そう言って始めたわけではあったが……
―――――――――
「途中で力尽きたのか……」
僕は自分の体力のなさに落胆した。
クッキーは型をとって冷蔵庫に冷やしてあり、ケーキもスポンジは焼き終わっていた。
これを見る限りでは充分完成しているのだが、部室の黒板には柊等が食べたいものまで書き込んであった。
まだそれを作っていなかったので焦っている始末であった。
「全く無茶な要求を……」
黒板には『特大プリン&パフェ!』と書き込んであった。
パフェならまだしも、プリンを作るなんて面倒なことであった。
「仕方ない……やるか……」
5時間後……
汗水垂らしながらもようやく完成した特大プリンに多少ながらも感動していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……全く……人の休日を……なんだと思っているんだ……!」
このとき既に僕の体力は限界を迎えていた。
土曜の朝7時から5時間の労働を強いられ、時刻は既に12時をやや回ったときであった。
「並川君、できたぁ〜?」
威勢のいい声で勢い良く調理室のドアを開けたのは、なにを隠そう柊である。
「まぁ、なんとか……」
出来上がった料理が調理室の机の上に並べられているのを見て、柊は頷きながらクッキーに手を伸ばした。
それを全力で阻止する僕に向かって柊は不適されたような顔を向けた。
「少しぐらい良いじゃん!」
「ダメです。これは新入生のために作った物だから、パーティーまで待ってなさい!」
子を叱る親のセリフのように僕は柊に言った。
「……分かったわよ」
柊はそう言うと料理を部室へと運び出した。
僕もそれに習って部室へと付いていく。
すると、部室は大変な事になっていた。
「なっ、なんだ?これは……」
部室に入った僕はいつもとはまるで違う代わり映えした部室に唖然としていた。
紙で作った飾りが部屋を1周していて、黒板にも色々と書き込んであった。
「こんな事をしていたのか……」
昨晩感じた感覚は、僕が部室を出るのを待っていた柊等の視線であったのだ。
「まぁ、並川君も頑張っていたから、私達もやろうかなって思っただけで……」
柊はそう言いながら下を向いていると、今度は不浄が近づいてきた。
「……お疲れ様……」
不浄は手に持っていたお絞りを僕に渡してきた。
「あぁ、ありがとう。不浄さん」
そのお絞りで顔を拭くと、僕は席に着いた。
「じゃぁ、新入生を呼んでくるわね」
いつの間にいたのか、高須先生はそう言いつつ走っていった。
5分後……
「じゃぁ、入って。遠慮しなくていいわよ」
高須先生は2人の女の子を部室の中へと招き入れた。
「空いてる席に座って」
高須先生にそう言われると彼女等は僕の隣の席にそれぞれ腰を下ろした。
「では、始めに柊さん。お願いします」
会の進行を部長に委ねると先生も席に着いた。
「では始めに、新入生のみなさん。料理研究クラブにようこそ!
私はこのクラブの部長を勤めさせていただいている、2年B組の柊琴乃です。
これから2年間、よろしくね。
では続いて……」
柊から自己紹介が始まり、なぜか知らないけど最後に僕の番が回ってきた。
『何か面白い事をやらないといけないのか……?』とか思いつつも、普通に話して終えた僕に柊から『空気読めよ』みたいな視線を送られたが、そこはあえてのスルーで済ませた。
そして1年生の番になった。
始めは僕の右隣にいた子からだった。
「始めまして。1年D組の成瀬優です。
趣味は料理作りと音楽鑑賞です。よろしくお願いします」
丁寧で清楚なお嬢様系の雰囲気を出していた成瀬は挨拶を済ませると静かに席に着いた。
「えぇ〜と、同じく1年D組の若嶋紗枝です。
趣味は、野球観戦です。よろしくお願いします」
ややスポーティーな若嶋が成瀬の右隣に座ると柊が立ち上がった。
「では、一通り自己紹介も終わったところで……
みんなグラスを持って〜行くよ〜」
僕は自分のと成瀬と若嶋に飲み物を注ぎ、不浄にペットボトルを渡した。
準備の言い奴らだと思いながらも、グラスを持ち上げた。
「じゃぁ、成瀬さんと若嶋さんの入部を祝して……かんぱ〜い!」
その言葉と共に楽しい宴が始まった。