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最終話 君の瞳に映る僕

屋敷の入り口には、すでに大勢の来賓が集っていた。

貴族並みの衣装に身を包んでいる団体の中に一人、Tシャツの上に薄着を羽織り下はジーパン姿がいた。

周りから見ても風変わりな格好で、声をひそめて話している姿があちらこちらで見られた。

しかし、僕は気にすることはなかった。

周りからどんな目で見られようとも、どんなに蔑まれようとも僕は堂々とその団体の中を歩いて行った。


望みがあった。

僕が彼女が好きだと言いたいと。


不安もあった。

失敗したとき、どうなるのか。


逃げ出したこともあった。

ずっとこのままの状態でいいとさえ思った。


だが、みんなは一つだけ僕にくれたものがあった。

それは、勇気。


失敗を恐れない勇気。

逃げ出さない勇気。

そして、思いを告げる勇気。


だから僕は迷わずここにいることが出来る。

僕自身の気持ちに終止符を打つために、僕は扉を開いた。


「それでは、美鈴お嬢様から皆様にご挨拶が……」


「ち、千草さん……僕は…あなたに伝えたいことがあり……」


司会者の言葉を遮るほど、力一杯声を張り上げて言った。

当然、周囲の人々は僕に視線を集めた。

「なんなのよ、あの子は……」「薄汚い格好で、よくこの場に堂々と……」

そんな陰口を叩かれながらも、僕は恐れずにしっかりと前方……壇上にいる千草さんを見ていた。

長年溜め続けたこの思いを、今こそ……

そう思った矢先に、僕の話を遮るように千草が口を開いた。


「私も皆様に伝えねばならない大切なお話がありますが、その前に……

今お越しの皆様、本日はこのような式典にお集まりして頂きありがとうございます。

本来ならば、お父様がお話しすることなのでしょうが、明日の準備が忙しい故欠席という形になってしまい、誠に申し訳ありません」


この言葉を聞いた周りの大人たちは騒然となった。

彼らにとってこのパーティーに出席する意味がなくなったからである。

大抵の人はこの機会を利用してうまく千草フィナンシャルグループの会長である千草弘蔵に近づこうとする輩ばかりだった。

それゆえに千草会長がいないとなれば、この式典に出席する意味が極端に薄くなってしまうのであった。


「さて、さきほど申し上げました重大な話なのですが……

私達は大変残念なのですが、本日をもってこの日本を離れなければならなくなりました。

父の仕事の方で海外進出の話があがっていたのですが、ようやく父も決心がつきこのようなことになりました。

この日本で行う最後のパーティーになるかもしれませんが、どうぞ皆様お楽しみ下さい」


一度は興味がなくなった輩も、その眼に再び燈を灯し始めていた。

国内では上位に位置する千草会長の会社が、海外進出するとなれば莫大な金が動くことは間違いなかったからである。

その為にも娘の美鈴の機嫌をとっておいたほうが都合が良い。

帰りかけた者さえ再び席に着き始めるという事態が起こっていた。


「……そんな……こんなのって……」


壇上を降りていく美鈴の姿が歪んで見えていた。

いつの間にか瞳からは涙が止まらずに流れ出していた。

思いを伝えようと必死だったのに……

これから一緒に送るはずだった時間が、音を立てて崩れていくのを感じた。

結局僕なんかが何かやろうとしたって無駄なことだったのかもしれない……


「―――――――――諦めるな、東馬!

お前、まだ何もしてないだろう。

何もしてないのに、何やりきった顔してるんだよ!

ふざけるんじゃねーよ!

まだ時間ならあるじゃねーかよ。

行って来いよ、お前の思いをぶつけて来い!」


「……大智……」


半ば倒れかかった僕の後ろから大智が僕を叱りつける。


「並川先輩、しっかりして下さいよ。

いつもの先輩らしくないですよ!

私の知っている先輩は、もっと先を見て生きてるじゃないですか。

立って下さい、並川先輩!」


「成瀬ちゃんの言う通りですよ、先輩。

当たって砕けろです!」


「……成瀬、若嶋……」


当たって砕けろはどうかと思うし、なんでお前らがここにいるのかは知らないが嬉しい限りだった。


「お兄ちゃん、本当は行ってほしくないけど……

けど、うじうじしているお兄ちゃんなんか見たくないから……

自分の気持ち、伝えてきなよ。

で、でもお兄ちゃんは渡さないからね!」


「……瑞葉……」


気がつくと僕の後ろにはたくさんの仲間が僕を励ましていた。

いつだって僕は仲間に助けられ、数え切れないほど救われてきた。

そんなみんなの期待にこたえる為に、僕は……


「みんな、ありがとう……

なんかみっともないな、こんな姿は……

でも、こんな姿になってもみんながいてくれたから僕は這い上がることが出来る。

行ってくるよ!」


もう何も悩む必要はなかった。

僕はただ自分が正しいと思ったことをすればいいのだから。

目から流れていた涙を拭い、動かなかった足を動かし、会場からいなくなっていた美鈴を追いかけた。


「全く、世話のかかる奴なんだから……」

「でもそれが並川先輩らしいですよ!」

「……その意見は全面的に同意……」

「みんな、そんなお兄ちゃんが大好きなんだよね……」


会場の中を隈なく探し回ったが、美鈴の姿はどこにも見当たらなかった。

まさかの事態かと思ったが、その不安もすぐに消えた。

2階のバルコニーにその姿を見つけたからである。


「……千草さん……」


「……並川君……

ごめんなさい、急にこんなことになってしまって。

本当は私一人で日本に残るつもりだったのだけれど、どうしても父が許してくれなくて……」


夏だというのに、今日は涼しい風が吹いていた。

美鈴の揺れる髪の見ながら僕は再び口を開いた。


「どうしても君に伝えなければいけないことがあるんだ……

聞いてくれるかな?」


美鈴は無言のまま首を縦に振った。


「今、こんなこと言うのは千草さんにとって良くないことなんだとは分かってる。

折角お父さんの言うことに従うことを決めたのに、また迷ってしまうかもしれないから……

でも、僕はこのまま何も言わずに千草さん……美鈴さんを見送ることなんか出来ないよ。

だから……」


「……それ以上は言わないで……

それ以上言ってしまったら、私は……」


静寂という名の風が吹きぬけた。


「私、並川君の気持ちには気付いてた……

周囲の人間は私の事を敬ってくれていたけれど、どこか一歩引いたような感じの接し方だった。

けど並川君は初めて私と普通の女の子と同じように接してくれた。

覚えてるかな……私たちが初めて会った入学式のこと」


美鈴は僕の目を見ながら真剣に話していた。

そんな姿を見て、僕は口を開かずに首を縦に振り答えた。


「道に迷った私を並川君は優しく手を取ってくれた。

あの時は凄く驚いた、けど同時に凄く嬉しかったの。

人の温かさを感じた。

私も次第に並川君に惹かれていった。

けど、私ではダメなの……

だから……」


「なんで……

僕は……僕なんかじゃ君に釣り合わないからダメなのか……?」


「うぅん、違うの……

逆、私なんかじゃ並川君と釣り合わないの……

並川君は凄い人だもの……

いつも並川君の周りには友達が絶えずいる。

それは並川君の人間が大きいからみんな引き寄せられていくんだよ。

私もその一人……

本当はもっとずっと傍にいたかった。

でも、そえには私自身が強くならなきゃいけないから……

だから今は……今はダメなの……」


胸が苦しくなるような思いだった。

そんなことを考えていたなんて、思いもしなかった。

本当の意味で相手の事をよく知っていなかったのだと改めて実感させられた。

そんな僕に言い返す言葉など一つも残っていなかった。


「……かならず……

かならず帰ってきてくれ!

今の僕では受け止めることしか出来ない。

けど、いつかは……きっといつかはこの思いを伝える。

そのときは美鈴さん、僕の思いを受け止めてくれますか?」


「……もちろんです。

私も並川君に自分の思いを伝えられるように、向こうでも頑張ります。

だから並川君もそのときは……私の思いを受け止めて下さいね」


僕らにもう言葉はいらなかった。

互いの心の奥底にある気持ちを知った時には、心が繋がったのだと感じた。

その日のパーティーが終わると、美鈴はすぐに日本を出てしまった。

僕ら人間にとって、心が繋がっていればどこにいても大丈夫な気がしていた。


―――――――――


数日後、各々の家には美鈴からエアメールが届いていた。


「ねぇ、お兄ちゃん……

本当に言わなくても良かったの?」


手紙を見ながら隣にいる瑞葉が話しかけてきた。


「あぁ、いいんだよ。

言葉には表せない想いってのもあるのさ」


「けど、正式には言ってないってことはさぁ~

まだ私にもチャンスはあるってことだよね……お・に・い・ちゃ・ん♪」


そんな僕らは相変わらずの日々を送っていた。

けど、いつかはきっと……

自分の想いを伝えられる日が来るのだろう……

その日までは、こんな日常も悪くないと感じ始めていた。

改めまして、こんにちはブッシュです。

正直言いますと……

後味悪く完結しました!


っということで、実はこの話……

一見良い話で終わったかのように見せて実は終わってないのです!

一様は一区切りという形を取らせていただきましたが、今後は第2幕を制作予定でありまする。

(いつになるかはわかりませんが……)

とりあえず、乞うご期待っということで……


さて、これからはまた新しい話を書きたいところなんですが……

3年越しにもう一つの方の手直し&更新を始めたいと思います!


最後に、今まで読んで下さった皆様

更新しない日々が続き、大変ご迷惑をおかけしたことをここに謝罪と共に、今後とも愛読の方をよろしくお願いしたいと思っております。

本当に今までありがとうございました。

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