第16話 そして日常世界へ……
勇者の手によってではないものの、意外とあっさり魔王は倒されてしまった。
「……魔王弱ッ!」
魔王が弱いんだか、大智が強いのだか分からぬままことが終わった。
というかこんな雑な終わり方でいいのか?
なんて思いながらも、これでようやく現実の世界に帰れるという喜びがあった。
「ハハハ……噂に聞くほどの強さじゃなかったな!」
別に何をしたというわけでもない、というよりも何もしていない奴が後ろで騒いでいた。
「お前、何もしてないし……
ってか何しに来た!?」
痛いところを突かれたのかその後谷口は黙り静まった。
と思いきや……
「お兄さん、瑞葉ちゃんを僕に下さい!」
突然の出来事に何を言っているのか分からなかったが、とりあえずこう告げておいた。
「ついに頭までおかしくなったか……かわいそうに」
それでも後ろで何か訴え続ける谷口をスルーし、大智の元へ向かった。
するとそこではフローレラと大智が会話をしていた。
「あぁ、貴方は賢者様なのですね……
勇者様と賢者様と魔術師と……誰でしたっけ?」
「まぁ雑魚ってことで……」
「なるほど!けど、なんだかイメージ悪くなるんで消去っと♪
『そうして3人は世界を救った!』みたいな感じでいいんですか?」
「好きにしてくれ」
なにやらよく分からない会話をしているようだが、僕には直接関係し無そうなので関わらないことにした。
それよりも今後のことについて話したいと思っていたのだが……
「雑魚はないよ〜ってか消去って……
そうそう、結婚した後の話なんですが……」
あまりにもしつこく着いてくる谷口を黙らせるため、目に見えぬ速さで剣の鞘で腹部を強打した。
「うっ……」
そのまま谷口は意識を失った。
そして僕は話の本題に戻す事にした。
「なぁ〜大智、この世界から脱出する方法無いのか?」
大智はフローレラとの会話を中断すると、僕に言った。
「まぁ、無い事は無いんだがな……
結構めんどくさいんだよ。
なんて言ったってこの世界の五大聖獣に会わないといけないんだからな」
「聖獣?聖獣ならもう契約しちゃったけど……
ダメだったのか?」
それを聞いた大智はすごく驚いた表情を浮かべたが、すぐに元の顔に戻った。
「なら話は早い!
聖獣との契約が済んでいるんなら召喚し、願いを言えば元の世界に戻れるぞ!」
それを聞いた僕は喜んだ。
なんだ……案外簡単なことじゃないか!聖獣を召喚するだけなら……召喚するだけ……?
思い起こせば未だに一度も聖獣を召喚した試しが無かった。
「大智……どうやって聖獣を召喚するんだ?」
僕はこれまでの経緯を大智に説明し、聖獣を召喚したことが無い事を伝えた。
「お前……よくそんなでここまで辿りついたな……」
「まぁ、フローレラの魔法でちょっとね……」
「はぁ〜、じゃぁ説明するからその通りにするんだぞ!
まずは『我、ここに刻む。紋章は光。今、ここに召喚せんを欲す』だ。」
大智の言ったとおりに言葉を述べる。
すると急に左目が疼き出した。
『僕の意思は君の望むままに……』
そんな声が聞こえると、辺りが光で満ち溢れた。
「なっ、なんだ?」
一瞬眩んだ目が徐々に戻り始めた。
そしてそこにいたのは見た事もない者だった。
「これが、聖獣『ゼクサス』……」
『僕の望みは既に叶った。
契約によって君の願いを叶えることにしよう』
僕は聖獣の姿に目を奪われていた。
馬のような姿に黄金の鬣、そして背中には真っ白な翼が生え、頭部には輝かしい一本の角。
その姿はまさに一角獣そのものだった。
「君の願いはなんだったんだ?」
急にゼクサスの言った事が気になり訊ねてみる。
『僕の願いはこの世界の秩序の維持さ。
以前は僕たち五大聖獣と創造主が世界に影響を与える唯一無二の存在だった。
しかし、1000年前に大邪神が復活し世界のバランスが一度揺らぎかけたんだ。
それでも僕たちは戦いそして勝利した。
だから今まで平和でいられたんだけど、今度は魔王の復活……
魔王を倒す事が僕の願いだったんだ。
そしてそれを倒した君には願いを叶えられる資格があるんだよ』
「けど、僕が直接倒したわけじゃない……
だから僕にはその資格は……」
『ううん、違うよ。
君が倒したじゃないことは分かってる。けど君とその仲間がやったことじゃないか。
契約を果たされたのは変わりないさ』
ゼクサスの声は僕の心を落ち着かせてくれた。
母の御腹の中にいるような温かい感じがしていた。
『さぁ、君の願いを……』
「僕の願いは……もとの世界に戻ることだ!」
『その願いを叶えよう。
元の世界に戻るのは3人でいいんだよね?
なら僕が作る魔方陣の中へ……』
その声の後、僕の近くの地面に何かの紋章が浮かび上がった。
僕等はその声に従いその紋章の中へ入った。
『じゃぁ今から元の世界に空間移転するから外に出ないように。
この世界を救ってくれてありがとう。
そしてさようなら……』
地面に描かれた紋章は光を放ち始めた。
とそのとき僕はあることに気が付いた。
そういえば谷口がまだ……
僕は紋章の外を見るとそこにはまだ倒れたまま伸びていた谷口がいた。
じゃぁ、ここにいる3人目って……
「なっ、なんでフローレラがここにいるんだよ!?」
「えぇ〜、だって面白そうだったんだもん♪」
「面白そうって3人しか帰れないんだぞ。谷口はどうすんだよ!」
僕は慌てて谷口を迎えに行こうとしたが、その行動を大智が止めた。
「もう間に合わない。東馬、彼のことは諦めるんだ!」
「ダメだよ。仲間を見殺しになんて出来ない!」
「よく聞くんだ東馬。
彼はうちの学校の『瑞葉親衛隊』の第一人者であり、熱狂的な瑞葉信者だ。
最近では姿を見せずに影ながら行動をしていたものの、着々と力をつけている。
そんな彼がいなくなったらどうなる?
親衛隊の第一人者がいなくなれば親衛隊だって自然崩壊さ。
それに東馬への被害もなくなる。
東馬だって気が付いていたんだろ?
最近になってやけに変な人が自分の周りに増えた事くらいはさ」
だ、ダメだ……それでも仲間は……
と思いつつも、居なくなれば……
そんな2つの思いが激しく交差しあった結果……
「……これも仕方ないことなんだ。置いておこう」
そして僕等は光の渦に呑まれていった。
―――――――――
気が付いたら僕等は僕の部屋にいた。
「帰って来たのか……?」
するといきなりドアが開いた。
「も〜、お兄ちゃんったらどこに……
ってあれ?お兄ちゃん!?」
そこに入ってきたのは瑞葉だった。
「どうした?瑞葉。
そんなところに立ってて……
そうだ、大智たちにお茶でも出してくれないか?」
「あ……うん。分かった」
そういうと瑞葉は僕の部屋から出て行った。
なんとかバレずに済んだみたいだ……
そう思った矢先。
「そういえばお兄ちゃん、その人誰?
大智先輩と一緒にきたのは違う人だったような……」
その人……?
僕は辺りを見回すと大智とそこにはフローレラがいた。
しまった……フローレラが付いてきてたんだった……
慌てた僕は急いで大智にアイコンタクトをとった。
すると大智が瑞葉に説明し始めた。
「これは……その……そう、彼女は男装が趣味なんだ。
瑞葉ちゃんも騙されちゃったでしょ?」
「へぇ〜、そうなんだ……」
なんとなく納得した様子でなんとかその場を切り抜けることに成功した。
「じゃぁ、悪いんだけど俺達はそろそろ帰ることにするわ。
今日はありがとうな」
そう言うと大智はフローレラの手を取ってその場から立ち去るように逃げた。
まぁ、実際のところ話がややこしくなる前に居なくなった方が言いと思っていたので僕としても好都合だった。
「もう帰っちゃうの?まだ来てから15分も経ってないよ……」
なんと僕等が次元移動してから帰ってくるまで十数分の出来事だったらしい。
「あぁ、用事はもう済んだしな……
それにあんまり長くお邪魔してると、東馬と瑞葉ちゃんの2人っきりの時間が短くなっちゃうものだからね。
じゃぁ、またね」
いらぬ置き土産を残し、大智らは帰った。
その後の出来事は言うまでも無く、大智の言葉のせいで僕の3連休は休む間も無く儚く散っていった。
後日大智に聞いた話だが、どうやら大智は恵美ちゃんとの約束を忘れてたためその夜は酷い目に合ったと言っていた。
それは僕に置き土産を残していった罰であると僕は勝手に解釈した。
変わらぬ日常……
それもまた平和なのだと僕は密かに感じていたりするのであった。