第12話 幻想と空想の狭間で……
いつも通りに寝て、いつも通りに起きる。
そこには変わらない日常があり、永遠と繰り返される。
そう、それはまるで螺旋回段のように……
そんな日常が当たり前だと思っていた。
よもやあんな事が起ころうとは夢にも思っていなかったのだから……
6月も終わりを迎えようとした頃だった。
梅雨の季節も過ぎようとし、本格的に夏が近づいてきたような気配を感じていた。
そんな代わり映えのある季節の中で、僕の日常だけが変わらないでいた。
その変わらない日常に大して不満を持つ事も無く、それが当たり前のように思っていたのではあったが……
「なッ……なんだこれはァァ〜?」
目の前で起こっている事に思考がついて来れず、思わず叫んでしまった。
―――――――――
あれは3時間ほど前のことだった……
ようやく長かった1週間も終わり、休日を迎えようとしていた金曜日の事だった。
「あ〜、やっと終わったよ〜」
そんな独り言を言いながら、家に帰る途中だった僕は突然あることを思いついた。
「そうだ!月曜が休みなんだから、3連休……
この間にこの前買ったゲームでも……」
来週の月曜日が学校の創立記念日で休日で、しかもバイト先の店が先週から改装を始めて1ヶ月は使えないので、その間休業になっていた。
「そうと決まれば善は急げ……ってことだな!」
そう言いながら僕は1人で帰路を走っていった。
走り続ける事約5分、息を切らせながらも僕は家にたどり着いた。
「ただいま〜!」
靴を脱ぎ捨てながら、誰もいないはずのリビングに向かって言った。
すると不思議な事に返事が返ってきたのであった。
「おかえり〜、お兄ちゃん♪」
「なんだ……瑞葉、帰ってたのか……」
一瞬、幽霊でもいるのではないかと思った自分が恥ずかしかった。
「そうだよな〜、幽霊なんか非科学現象なんかあるわけないよなぁ〜」
脂汗を垂らしながら、瑞葉に作り笑いをして僕は2階に上がった。
「はぁ〜、ビックリした〜。
まさか瑞葉が先に帰っていたとは夢にも思わなかった……
そう言えば、今日は全部活休みだもんなぁ〜
不覚だった……」
などとぶつぶつ言いながら着替えると自室のTV台の下からゲーム機を取り出すと、ラッピングしたままの真新しいソフトを鞄から出した。
それは2週間前に中古屋で買ったものだった。
なぜかは知らないが、その品誰も手をつけずに新品のまま置いてあった。
5000円台が一般のゲーム社会において、そのゲームだけは規格外だった。
「けっ……桁が1つ足りない……」
初めて見た時はそう思った。
しかし、よく見て見るとそのゲームの製造年が今から約5年前のものだった。
確かに古い品であった。
それと同時に古いからこそ付くプレミアがあった。
それに販売数が少ないとなれば、さらに価値が高まる。
「まさか……これは……」
その破格の安さに負けながら、内心プレミアが付いている事を期待しつつ僕はそれを買った。
しかし、よくよく調べて見るとその品は5年前に小ブレークしたマイナーなゲームであった。
『あまりにマイナーすぎて知ってる者が少なすぎ、あまり価値は無い』
と大智に話したときにそんな事を言っていた。
そして、今僕はそのゲームをしようという状況で会った。
「全く期待させやがって……」
安さに負けた自分が醜くなってゲームに当たって見るが、もちろん返答なし。
それでも僕は仕方なしにゲームを始める事にした。
『タラララ〜ン……
本格RPG「ランゲージ・ドラゴン」……』
TV画面に妙な文字が流れた。
「ん……?なんだこれは……?
パッケージには『ボックス・フロンティア』って書いてあったのに……
まさか、箱と中身が違う奴か……!?
だっ……騙された……」
中古屋では稀に起こる現象で、新入りの店員だとこういう事が起こってしまうらしい。
『―――はじめから
はじめから
はじめから―――』
タイトル画面の下に浮かび上がった文字には『はじめから』しかなかった。
「なんだよ、これ?バクってるじゃないか!」
若干イライラしながらTVに愚痴を言い続けた。
しかし、それでも僕は『はじめから』を選択した。
『ここは魔王によって支配される世界。
あなたにこの世界は救えますか……?
YES/NO』
真っ暗な画面の下にその文字だけが流れる。
「は……?当たり前じゃん!
『YES』無くしてどうやってゲーム始めるんだよ……!」
イライラがピークに達しかけながら『YES』を選択した。
すると、僕は選択した瞬間に部屋の電気が切れた。
が、なぜかTVだけは消えずに付いたままだった。
『では、あなたに託しましょう……
この世界の命運を……』
その文字を見た瞬間に僕は体が浮くような感覚に陥った。
「えっ……ちょっ、ちょっと何……?
なんで体が勝手に……
分かった!これは幽霊の仕業だ……
さっき僕が『幽霊なんか非科学現象なんかあるわけないよなぁ〜』なんて言ったから、怒った幽霊達が僕に幻想を見せてるんだ。
そうに違いない……よな……?」
気が付くと僕の体は徐々にTVに近づいていた。
そしてTVの画面には先ほどの文字はなく、中心を軸に画面が渦巻いていた。
「か、体が……引きずりこまれる。
だっ、誰か〜。助けてくれ〜!
瑞葉〜、うわぁぁぁ……」
そう叫ぶ間に僕の体はTV画面に吸い込まれていき、そして遂に僕の体はTVの中に飲み込まれてしまった。
TVの中は深海のように深く、暗かった。
そして僕の意識もそこで途切れてしまった……
その頃リビングにいた瑞葉は自分の部屋に携帯を取りに階段に足をかけた時だった。
「―――瑞葉〜、うわぁぁぁ……」
そんな声が上から聞こえてきた。
「お兄ちゃん……?」
不思議に思った瑞葉は携帯をとる前に、東馬の部屋のドアに手をかけた。
「お兄ちゃん……?入るよ……」
ドア越しにただならぬ気配を感じ、額に汗が滲んだ。
そして瑞葉は覚悟を決め、ドアを開けた。
が、そこには人一人、誰もいなかった。
「空耳だったのかなぁ〜?」
瑞葉が不思議に思いつつも東馬の部屋から去っていった。
東馬がいなくなったことなどつゆ知れずに……
「うっ……うう……」
落下した時に強く頭を打ったせいか、少しふらつくものの僕は意識を取り戻した。
周りが真っ暗でよく見えないが、上空にはどうやら光があるらしかった。
見たところ大した高さではなかったので、壁に指を掛けて登ってみた。
するとそこには青い空に一面の草原に覆われていた。
「なッ……なんだこれはァァ〜?」
目の前で起こっている事に思考がついて来れず、思わず叫んでしまった。
記憶の端を辿ってみてもTVの中に引きずり込まれたまでしか記憶に無かった。
「ここは一体……どこなんだァァ〜〜?」
その叫び声だけが草原を駆け抜けていった。