第9話 罰ゲームと戦いの幕開けと……
テストも終わり、6月に入ってから降り続いた雨も今日に限っては止んでいた。
長い休暇を取っていた太陽も働き始め、心地よい風が吹き抜ける中で1人、陰湿な空気を纏っていた。
「はぁ……」
「どうしたの、お兄ちゃん?
さっきからずっとため息ばっかりついて」
朝食に箸が進んでないのに気づいたのか、瑞葉が話しかけてきた。
「なぁ、瑞葉。僕は思うんだ……
こんなにも清々しい休日があると言うのに……」
話が理解できない瑞葉は耐えかねて口を挟もうとしたが、僕はそのまま話続けた。
「なんでこんな日に罰ゲームなんだよぉ〜!」
それを言うと同時に玄関のチャイムが鳴った。
――ピンポーン――
「はぁ〜い」
話が聞き飽きた瑞葉は玄関に向かい、ドアを開けた。
すると、そこには見知らぬ女の子がいた。
「おはようございます。東馬さんはいらっしゃいますか?」
その子は礼儀正しく瑞葉に問いかけてきた。
「えぇ〜と、どちら様でしょうか?」
見た目からして年下なことには違わないが、相手の態度につられて瑞葉も敬語を使っていた。
「あっ、申し遅れました。私、神重恵美と申します。
いつも兄様がお世話になっております。」
(神重……?兄様……?)
頭を抱えている瑞葉の奥で、自室に戻ろうとした僕の姿を見つけた恵美は僕の事を呼んだ。
「ちょっと早く来すぎちゃった。居間で待っててもいい?」
なんでだろうか……?瑞葉に対しては敬語なのに、僕に対してはため口なのは……?
そうこう考えているうちに時間が経ってしまうものもったいないので、適当に返事をしておいた。
「あぁ、好きにしてくれ」
その言葉を残すと、僕は自室へと駆けていった。
全く、どうしてこんなことになってしまったのだろうか……?
思い起こせば、テストが終わった3日後の事だった……
―――――――――
何時になく速攻でテストが全て返却され、その日の放課後に忌々しきテスト結果が発表された。
「おう、東馬どうだった?」
成績表を受け取り、席に着くや否やに大智が言い寄ってきた。
「まぁまぁかな。大智はどうだった?」
僕は大智に成績表を渡しながら訊ねると、不気味な笑みを浮かべながら無言で成績表を渡してきた。
「……なっ、なんだ?これは……」
そこに並んでいた成績の順位は一桁の数字が並んでいた。
「がっ、学年8位だと……」
2年にあがるまでは僕と五十歩百歩の戦いを繰り広げていたのに、この歴然とした差に驚いていた。
「フフフ……どうやら今回は俺の勝ちのようだな。
では、この間の約束を果たしてもらうことにしよう……」
「約束……?」
身に覚えの無い言葉に不思議がっていると、見兼ねた大智は僕に言った。
「おいおい、忘れたとは言わせないぞ!
テスト直前の日曜日に『明日のテストで負けた方が罰ゲーム』って約束しただろ」
そう言えばそんな事あったような無かったような……
「っと言うわけで、今から家に来いよ」
男に二言はないので仕方なく僕は大智の家に行った。
「まぁ、上がれよ。恵美〜帰ったぞ〜」
その声が聞こえた途端に奥から恵美が走ってきた。
「あっ、お兄ちゃんおかえりなさい。それに東馬さん、お久しぶりです」
恵美は僕に微笑みかけた。
僕が1年の時に1度大智の家に遊びに行ったときに知り合った。
「こんにちは、恵美ちゃん。大きくなったね〜今年でもう中3かぁ〜!」
「そんな、あんまり見つめないでくださいよ〜。
それは1年も経つんですもの、胸くらい大きくなりますよ〜。
まぁ、東馬さんになら……」
ちょっと語弊がある言い方だったらしく、誤解したまま話が進んでいた。
「まぁ、なんだ話の途中で悪いんだが今回の罰ゲームなんだが……」
僕は何故大智が言葉を濁すのか分からなかった。
「東馬さん、今度の日曜日に私とデートしてくれない?」
「……えッ?」
2人が言っていることが理解できない僕に大智はため息をつきながら、僕に分かるように言った。
「だから、今回の罰ゲームは恵美とデートして欲しいんだよ」
「東馬さん、私じゃダメですか?」
うっすら涙目の恵美に心が痛まれ、僕はイエスとしか返事をさせてもらえなかった。
「では、日曜日の朝に東馬さんの自宅まで行きますから」
そう言われると僕は1人で自宅へ帰った。
―――――――――
「ちょっと、お兄ちゃん!どういうことなの?
私と言う女がいるのに、他の女とデートだなんて……」
もうどこから突っ込めばいいのか分からなかったのでスルーした。
「仕方ないだろ、罰ゲームなんだから……
出来れば僕もこんなことはしたくなかったよ……」
僕は仕度を済ませると、1階に降りた。
「あっ、終わったの?じゃぁ、行こう♪」
恵美は僕の腕に手を回して、家を出ようとした。
「ちょっと、恵美ちゃん。靴履けないんだけど……」
「ハハハ……ごめんね♪」
僕が靴を履くと、何時の間にか玄関にいた瑞葉と目が合った。
「じゃぁ、留守番頼んだぞ。ご飯はどこかで買って食べてきて言いから」
「いってらっしゃい……フフフ……」
気味の悪い笑い声にいやな感じがしたが、そんな事を気にしていてはいけないと僕は思い直して家を後にした。
一刻も早く休日を取り返さなくては……
そのことだけを考えていたので、これから起こる熾烈な争いに気づくまでも無かった。