ミサイルの部品を作ってて北朝鮮のハッスルぶりに仕事が増えてもういやだ。そうだ異世界に行こう
五月病にお気をつけて
「というわけで転生したいんです」
「いきなりそんなこと聞かされるとは思わなかったわ」
目の前の女神様、どこのなんて女神様かは知らんが美人のちょっとタレ目が可愛い女神様に現状を訴える。
女神様は手元のノートにペンを走らせて、俺の話をメモってる。
悩ましげにふう、と色っぽくため息ついて。
「あなたの世界の輪廻転生のシステムが壊れて、回りの世界に影響が出てるから調べてるのだけど。その原因が、その世界に生まれた魂が同じ世界への転生拒否だとは思わなかったわ」
「いやもう、あの世界に生まれるのは勘弁して下さい。もう無理ですって」
「なにがそんなに嫌だったの?」
「誰だって悪いことだっていうのを解ってするのは嫌でしょ?」
「仕事が嫌になったってだけじゃないの?」
「その仕事がねぇ。電子部品のちょっと変わったのを作ってたんですけどね。これがロケットとか通信衛星なんかで使うようなのなんですよ」
「それのなにが悪いの?」
「ロケットっていうのが建前で、海外に輸出したその部品ってのがミサイルとか対ミサイル兵器に使われてるんですよ。私は知らなかったとはいえ兵器の部品を作って売ってたんですよ」
「そのことを知って嫌になったの? だったら仕事を変えたら?」
「今さら転職しようとしても、ろくに採用されませんって。それに私が仕事を辞めてもその会社は日本で普通に営業してるし」
「ふむふむ」
「北朝鮮が頑張って核ミサイルとか作ると、それに危機感を感じた国がミサイル開発するわけで、日本の回りの国が緊迫するほどうちの会社は注文が増えて儲かるわけです」
「利益が出て仕事が増えて忙しいのが嫌なの?」
「嫌なのは日本がこの会社が合法で問題無いって言ってるとこなんですよ。日本は輸出を増やすために近くの他所の国では戦争になるかもよー、と煽って利益を出そうとする。北朝鮮が頑張るほどに輸出が増える。で、日本は民主主義だからこの会社の存在をアリって考えてる日本人達が大多数ってことになるんですよね」
「あなたの世界の社会とか知らないけど、そういうことなの?」
「一応、そういうことになってしまうんです。だけどね、うちの会社で働いてるパートのおばちゃんは自分が何を作ってるかなんて知らない。お昼休みに食堂のテレビのニュースを見て、『北朝鮮て怖いわねー』って言ってるんですよ。それを見てウンザリしてしまうんです」
「はぁ、つまりあなたの住んでる国は兵器を作ってて、他所の国が戦争すると儲かるのね」
「いえ、作ってないってことになってますけどね。ゲーム機のコントローラーが地雷設置とか除去のロボットの操作に使われたり、ちょっとばかり装甲車に改造しやすくした自動車を輸出したり、うちみたくロケット用とか通信衛星用って輸出した部品が軍事兵器に利用しやすいってことになってます」
「ふぅん。兵器は作ってないけど、兵器に使えるパーツとかなら作って売ってもいい国で、兵器の部品を作るのが嫌になったと」
「そういう輸出を増やすために『戦争になるかもよー』と煽るやり方も嫌なんですよ。うちの国は巻き込まないで、他所の国同士で争ってくれ、そしたら儲かるからっていうのも嫌ですね」
「それって変えられないの?」
「いやー、無理ですね。だから異世界に転生して、素朴な世界で納得できる社会を作りたいって、町を作ったりとか国を作ったりする物語が人気あるんですよ。もう自分らの住む社会は建て直せないって諦めて、一から作り直したいって欲求が潜在的にあるんじゃないですかね?」
「それで回りの世界に生まれ直していろいろ変えられても困るのだけど。その世界にはその世界なりの文明とか文化があるわけで」
「そうかも知れませんね。私個人としては戦争は良くないって育てられたのに、気がついたら他所の国の戦争とか戦争への不安を助長する仕事をしてて、それで生活してたってのがショックでして」
「でもまぁ、建て直したいならその機会はありそうだけど」
「そうなんですか?」
「あなたのいた国の首都付近が、周期的にそろそろ地震が起きそうだし、戦争気分も高まってるし、1回ぐしゃぐしゃに壊れて人口が減ったら、悲惨な体験から社会を作り直そうってなるんじゃない?」
「そうなりますかねぇ」
「そうなったらあなたの望む、素朴な世界で一から社会を作るっていうことができるかもよ?」
「そこまで生き残れますかね?」
「聞くことは聞けました。ご協力有り難うございましたー」
「にっこり笑顔で言われましても、あの、私を異世界に転生させてくれませんか?」
「えーと、またのご利用をお待ちしています」
「女神様がアンケートとるのに私を利用したんですよね? ちょっと、ほんとにお願いしますよ。私はもう帰りたくありませんからー」
「さよなら三角、また来て四角ー」
「また来ますからね! トラックに轢かれたりとか通り魔に刺されたりして、必ずここにまた来ますからね!」