第7話 未来の英雄と王女様
急に震えだし、質問をしても会話にならずパニック状態に陥るユウキを見て二人は戸惑った。
あれほどの身のこなしに強力な武器まで持って、何故こんなにも取り乱しているのか。
――否、かわすだけで一切攻撃を仕掛けてこなかったユウキに対して意味がわからない。
敵の追手かと思っていたが、行動に不信感があり、それに見たことがない服装に武器。
謎だらけの男の正体、目的を知りたいのだろう。
フランは真相を把握するべくユウキに近づいて、
「手荒い歓迎で悪かった。私らも事情があっての事だ。殺しはしない。貴様、何処の者だ?」
「......多分ですが、未来から来ました」
質問の答えに目を丸くさせる二人は、前にラグナスが「未来から来た」と会話した時のユウキの反応にそっくりだった。
あの時は自分もこんな顔をしていたんだなっと思ったに違いない。
それと同時に変な誤解や問題に巻き込まれた時の対処に苦労する事を知り、ラグナスに同情しただろう。
「未来から来たか。それを証明するものはあるのか?」
ユウキは頷いて、レイナが興味津々に眺めている銃を指差して、
「俺の武器が証明になります。扱い方を誤るとかなり危険ですので、あまり触らない方がいいかと」
「さっき誤発射したからわかる」
「......火弾じゃなくてよかったです」
山火事にやらずほっとするユウキにフランは首をかしげる。
「どういう事だ? 火弾とは?」
銃に関して全く文化も知識もないので、理解が追い付いていないフランに、
「この武器は各属性を打ち出す事が出来るんです。もし、火属性の弾を撃っていたら間違いなく山火事になってましたね」
「――ッ!」
山火事と聞き、二人は青ざめて銃から距離を置いた。
火魔法を込めて貰ったのが、父・賢治であるのだからユウキは想定出来ただろう。
――ユウキはふと閃いた。
この二人は強い。
特に大剣を使う女性は別格だと。
何か問題を抱えているのは先程の話し振りからしてわかっている。
ならば、解決できれば味方に引き入れる事が出来るのではないかと。
それに美女に囲まれて冒険とは男のロマンがあるとユウキは思っている。
「二人は事情があると言ってましたが、どんな内容ですか? 場合によっては力になれるかもしれないので」
最悪を想定して保険をかけた言い方をする質問に二人は俯いた。
悔しく、悲しい表情をしていては美女の美しさが二割減してしまうのが勿体ないとユウキは余計なことを考えてしまう。
「貴様は英雄気取りか? 目的を達成したら金でもせがむか、それとも私らの身体が目的か? 抱える規模の大きさ的にそんな慈善をする奴などこの世には――」
「フラン姉様っ!」
レイナに叫ばれてハッと我に帰った。
素性の知らぬ相手に情報をばらすなっという意味合いを込めて必死に怒鳴った。
暫く沈黙が続き、突然レイナが泣き出した。
そして、ユウキに迫る。
「私達を助けてください! 目的を達成したらお金も用意できます。ただ、身体が目的ならば私だけにして――」
「レイナッ!」
「フラン姉様は黙ってて! もう、これしか方法はないのよ?」
「......わかった。だが、身体の件は私だけにして貰おう」
要求するものに身体目的を前提として話を進めていく二人にユウキとしては嬉しい話でもある。
が、本当に欲するものは二人の武力。
誘惑に負けてこの先で命を落とす真似などしたくない。
ならば、今は武力を手に入れて後でハーレムでもなんでも築けばいいじゃないか。
考えが纏まったので、盛り上がる二人の話に割り込み、
「あ、あの。お金とか身体とかはいらないです」
「「は?」」
物凄く不服そうに二人から返事をされた。
何かおかしいことでも言ったのかユウキは不安になる。
「じゃあ、何が欲しいのよ? 慈善です。――と言われてもお礼の品一つも出来ないなんて王族として一番の恥だわ」
「レイナの言う通りだ。せめて、どちらかを選んで頂きたい」
――っ王族!
誤算であった。
正直、冒険者......良くて騎士だと思っていたが、王族とは。
自身の旅に王族を付き合わせるなんて、はっきり言って不可能に等しい。
レイナ達が予想外の身分であったことに頭を抱えたいユウキであった。
縄で縛られているため、頭はかけないが。
「俺の要求は恐らく拒否されると思っています」
「教えてください。出来る限りの要求は飲みます」
「俺は事情があって過去を旅する事になりました。ですが、一人で旅をするにも無理があります。なんせ、この様ですからね。俺一人じゃ解決出来る規模の問題ではないんです。だから、二人の力が欲しいんです。仲間になってくれないでしょうか」
土下座をする勢いで思いっきり頭を下げてお願いをした。
ユウキの表情から察するに、真面目に言っていることは間違いないと判断した。
二人は微笑み、レイナが手を差し伸べた。
「私達が力になれるのでしたら、協力します」
「――っ! だけど、王族なんでしょ? そんな危険な事をするなんて反対されるに決まってます」
「フフッ、元王族なら反対はされないでしょう? それに王族の権利を奪還したい理由は今の王政があまりにも悪政だからなの。私は王族の身分なんていらないわ」
予想を覆す答えに目を白黒させる。
ユウキの考えとしては王族の身分が戻れば、安泰に暮らすのが普通なのだと思っている。
自分なら間違いなくそうすると。
でも、目の前の王女様ことレイナは身分を捨てて力になってくれると言う。
何事も言ってみるものだとユウキは一つ学んだ。
「でもね、まずは王政奪還からよ? それが出来ないのなら私達はあなたの力にはなれないわ」
「わかりました。協力しましょう」
「契約成立だな」
ユウキは頷き、握手をしようとしたが、
「あ......。縄が」
「ふぁあああ、ごめんなさいっ! 今ほどきます」
レイナは慌てて縄をほどく。
縄をほどきながら胸がユウキの腕にあたり、デレデレとしている。
フランはとても白い目で見ているが、お構い無しにゲスい女の敵といえる表情をする。
「貴様、レイナに手を出したら真っ二つにするからな」
大剣を木に降り下ろし、綺麗に二つに切り裂かれた。
ユウキは顔面蒼白になった。
無事、縄はほどかれて握手をかわす。
ユウキにとって握手とは約束したということなのだろう。
「さて、契約も成立しましたしお互い自己紹介をしましょう。俺の名前は鏡悠希です。ユウキと呼んでください」
「私はレイナ・フェルナードです。この国を治めるフェルナード王国の女王でした。レイナと呼んでください」
「私はフランルージュ・ドリアードだ。レイナの直属護衛隊長をしている。フランと呼んでくれ」
自己紹介が終わり本題に入る。
と思いきや、一つ気になることがあったユウキが、
「どうしても二人にしたいことがあります」
真剣な表情に二人は後退り、身体を守るように構える。
フランは剣を右手で持ち、いつでも斬りかかれますという態勢。
ユウキは必死に「違います違います」と慌てて誤解を解く。
「二人を鑑定術で確認したいだけなんです! これから協力するにしても虫が良すぎる話なので、鑑定して真意を見たいんです」
「なんだ、そんなことか。ならいい」
「か、身体かと思って焦っちゃったわ。鑑定術なんて珍しい! 鑑定結果教えてね」
「ありがとうございます」
あっさりと二人から許可を貰い、お礼をして頭を下げた。
しかし、ユウキの鑑定術では真意など見抜ける訳がない。
この二人、レイナとフランがどれだけ強いのか知りたい。
かなり強いのであれば、戦力として十分すぎる。
あわよくば、自分は安全地帯で射撃しているだけで大丈夫なのではないかと。
良からぬ事を企むユウキの真意を見抜けるはずがない。
とても気の毒だ。
「では、鑑定をします」
二人は同時に頷いた。
そして、レイナとフランの実力が明らかになるのであった。