第6話 初めての戦いと命乞い
ユウキは地面に白い霧が渦を巻いている所に立っている。
横には、この国の王シャンダリアがいる。
不安そうにしているユウキにシャンダリアは声をかけ、
「怖いのはわかる。もし、時代を超えれる適正がなければゲートは発動しない。むしろ、適正があった人物を私は一人しか知らないがな」
「一人いたんですか?」
ユウキの問いに「ああ」と答える。
遠くを見つめ、懐かしむような......そんな表情をするシャンダリアは言葉を続ける。
「百年前にいた。既に行方不明になっているがな」
改めて、過酷な事実を突き付けられた気がした。
過去が安全だなんてユウキは思っていなかったが、未来を救うには敵の親玉を探る事はもちろん必須になってくる。
自ら危険地帯へ足を踏み入れないといけないことを感じ、逃げ出したくなっていた。
が、遅かった。
ユウキはシャンダリアに背中を押されてゲートへ飛ばされた。
「ま、待ってえええええ」
「いい報告を待っているぞ」
ゲートは光を放ち、ユウキを包み込んだ。
瞬間、渦に吸い込まれるように消えていった。
「まさか行けるとはな」
独り言を言うシャンダリアの背後に人影が近付いてくる。
すぐに気配を察知し、後ろを振り向いて、
「ラグナス本当にいいんですか? 彼、死にますよ?」
「フォッフォ、あやつは根性を叩き直さにゃいかん。これぐらいがちょうどいいわい。それに――」
含んだ言い方をするラグナスは自信あり気に、
「ユウキは死なんよ。いつからお主の目は節穴になったのじゃ?」
「はっ! 食えない爺だな。ユウキの身体能力と特殊な魔力位見抜いておるわ。だが、魔力に関しては未熟過ぎる。適正があるといっても焦りすぎじゃないか?」
ラグナスのやり方に不満全開である。
無理もないだろう。
未熟な状態で戦場に送ったらどうなるかなど知れている事である。
わざわざ、才ある者を殺す真似をするラグナスにシャンダリアは口に出さずにはいられないのだ。
「ユウキは必ず成功させる。戦いに関しては未熟かもしれんが、弱いわけではないぞ。あやつのことだ、きっと仲間を見付けてうまくやると思っとる」
「あなたがそこまで言うなら信じましょう。我々にはそれしか出来ん」
肩を撫で下ろし、謁見の場へ戻っていく。
お互いに思うことはあれど、行かせてしまったものは行かせてしまったので、結果を待つしかない。
この場で口論しても無駄だとシャンダリアは思っている。
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渦に呑み込まれたユウキは森の中にいた。
辺り一面見渡しても緑、緑、緑。
ひたすら走って出口を探る。
そこら中から、不気味な鳴き声が聞こえているせいもあって、早く抜け出したいのだろう。
「なんだよ、ここ。何処に行けばこんな森から抜けれるんだよ。変な鳴き声の正体なんて魔物だろ? 出たら銃で仕留めるからな。だから、出るなよマジで」
恐怖に堪えられず独り言が激しくなる。
魔物に出くわすだけで気を失いそうな勢いであるが、失神したら確実に餌になるだろう。
ユウキは魔物に会わないよう心から祈っている。
が、そう甘くはないものだ。
目の前に棍棒を持った小人が襲いかかってきた。
「アアアアッ」
「うわあああ。......あれ、遅っ!」
拍子抜けであった。
不意討ちで狙われたにも関わらず、相手の攻撃を避けられるほど、トロい動きだった。
先程の恐怖が一気に消え、余裕な表情になる。
「雑魚は練習台になってもらわなきゃな。まずは、鑑定してみるか」
ユウキは小人を鑑定した。
LV:4
種族:ゴブリン
性別:?
武器:棍棒
「おおお、鑑定出来た」
物は試しに鑑定を使ったところ、予想外にも成功したのでガッツポーズを取るが、ゴブリンからすれば関係のない事だ。
隙ありと言わんばかりにガッツポーズを取った瞬間に棍棒を降り下ろした。
「フッ、遅いな......。――そーれよっ!」
攻撃をかわして、蹴りのカウンターを顔面に打ち込んだ。
身体の軽いゴブリンは吹き飛び、木に頭をぶつけて気を失った。
ユウキはレベルが上がった! ――っと思っているが、ふと自分を鑑定したことがない事に気付く。
完全に盲点だった。
周りに敵が居ないことを確認して自分を鑑定した。
名前:カガミ ユウキ
LV:2
種族:ヒューマン
性別:♂
武器:銃、火炎瓶
属性:時、植物
――っ!!
ついさっき、鑑定したゴブリンよりも更に詳細に情報が流れてきた。
武器の薬品は自前で三つしか持ってきていない火炎瓶もカウントされていたことにユウキは驚く。
気分が良くなったお調子者から恐怖は消えて、ご機嫌にスキップをしながら森を散策する。
それほど遠い距離ではない場所でパキパキっと音が聞こえてくる。
何処かで焚き火をしているようなので、あわよくば食料と寝床をお願いしようとしている。
図々しい男だ。
距離にしたら思っていたよりも近く、焚き火をしている場所へたどり着いた。
そこには女性が二人いたのだが、なんと両方とも美人である。
一人はスラッとしたスタイルで髪色は金髪、顔も文句の付け所がないくらい整っている絶世の美女で、上品なお嬢様って感じの女性が体育座りをしている。
もう一人は細い身体とは裏腹にメロンよりも大きそうな胸があり、顔は正しく美人と口を揃えるほど綺麗で髪色は茶髪、か細い女性が持てるのか不安なほど巨大な大剣を背負っている。
「二人に挟まれて寝たい」
下心丸出しになって見つめていると、二人に気付かれた。
そして、お嬢様風の女性が荷物の下敷きになっていた弓と矢を取り出し、ユウキに向かって射つ。
放たれた矢を交わして我に帰り、
「ま、待ってください。けして、怪しい者では」
十分怪しいだろう。
先程の表情は、いつ襲おうか考えている変態の顔だった。
まさに女の敵。
矢も止まることなく次々と放たれていく。
「聞いてください! この森で迷ったんです。それで焚き火している所を見つけたんで、色々と聞きたかったんです」
「レイナの攻撃を難なく避けれる奴がこんなとこで迷子か。笑えない冗談だな。レイナ! 背中は任せるぞ」
「はいっ!」
レイナと呼ばれるお嬢様風の女性が頷いた。
そして、もう一人の女性が大剣を担いで向かってきた。
素早く、そして重い一撃が何度も襲いかかるが、無駄のない動作でかわす。
だが、レイナの矢も飛んできているせいで完全な防戦一方。
二人の女性は凄腕なのだろうが、ユウキのみかわし技術が若干勝っている。
ユウキは泣きそうな顔になりながら、
「ほ、本当に迷子なんです。お願いします。攻撃を止めてください。まだ死にたくありません。本当に――」
「はぐれ者の風よ! 我の矛となり、全てを飲み込む凶器となれ」
『暴れ狂う竜巻』
大剣を背負った女性の目の前に魔法陣が現れ、唱え終わったと同時に魔法陣から竜巻が出現した。
ユウキは竜巻から逃げようと後ろを振り向いたが、いつの間にか背後には大剣を構えてる女性が恐ろしい血相で睨んでいた。
左右からは矢が飛んでくるが、竜巻が死角になっていて逃げられず、完全に逃げ場を失った。
ユウキは恐怖で全身が震えた。
「ああ、詰んだ」
前方から迫る竜巻、左右には死角から飛んでくる矢、後方には凄腕の大剣を構える美女。
頭上に気配を感じて上を見上げると、レイナが長い棒を振り下ろした。
予想外の光景にユウキは反応が遅れ、頭に直撃して気絶した。
倒れたのを確認すると竜巻を消した。
「レイナやったか?」
「はいっ! 気を失っているだけなので、今なら生け捕りに出来ます」
「了解。縛って洗いざらい情報を吐かせよう」
「フラン姉様の拷問を受けるなんて可哀想な人」
フランと呼ばれる女性が「失礼な」と口を尖らせた。
その反応にユウキを縄で木に縛り付けながらクスクスと笑う。
武器である銃を取り上げられたが、二人は初めて見る武器に興味を持った。
「なんだこれは」
エレメンタルショッカーを観察していじくり回すフランは扱い方を知らないせいで過ちを犯した。
そう、引き金を引いて発砲してしまったのだ。
唯一、救いなのは人に向けていなかった事と、発砲した属性が風であったため森への被害は少なく済んだ。
「――っ! コイツこんな武器を所持していたのか。不意討ちで使われたら不味かったな」
「か、かっこいい......」
銃の威力に冷や汗をかいているフランとは正反対に、レイナは目をキラキラさせて銃に見惚れた。
そして、ユウキの頭を長恨でポンポン叩く。
「ねぇー、起きて! この武器なに?」
「ん、あぁ......美しい女神よ。――いたっ、痛い」
「起きた。この武器なあに?」
「いたっ、痛い痛いっ! 答えるから叩かないで」
悲痛の叫びを聞き入れ、レイナは手を止めてニコニコしながら顔を近づける。
ユウキは縛られている現状を把握すると、寒気が走った。
間違いなく、目の前にいる二人の魔女によって拷問が始まるんだっと理解した途端、震えが止まらなくなった。