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第5話 鑑定と時間転移

「おおおおお! 見える......見えます!」


「フォッフォ、なにが見えたんじゃ?」


「そ、それは......恥ずかしいもので......」


「よいよい、言うてみろ」


 窓を開けて人混みを眺めるユウキとラグナス。

 一方、賢治は酔いつぶれて寝ている。

 怪しげな会話をする二人は外を眺めてニヤついている。


「ふふふ」


「勿体ぶってないで、はよ言うてみろ」


 ユウキは斜め右側にある肉屋を指差して、


「肉屋のおっちゃんがホモだった」


 ラグナスは転けた。




 鑑定術を覚えるのは簡単だった。

 条件が鑑定術に適正があり、鑑定を扱える者が触れて、鑑定出来るレベルのものを鑑定して共有し合うだけだからである。

 ユウキは調子に乗って無差別に鑑定しまくっているが、鑑定出来る範囲が自分と関わりがある人と植物のみであった。


「鑑定出来る範囲が狭すぎて使いづらい」


 想像以上に鑑定範囲がなさすぎて拗ねている。

 もっと鑑定したかっただろうが、大半が出来なかったので、ユウキはがっかりしている。


「ばかもん! 初日でそれだけ出来れば十分じゃ。それに人を勝手に鑑定するな!」


「す、すいません」


 調子に乗っていたことに、反省して落ち込んだ。

 だが、直ぐに立ち直ってラグナスに視線を向けるユウキはウキウキである。

 メインの時魔法を教わりたいのだろう。


「そろそろ教え始めてもよいかのう。じゃが、お主は調子に乗るからもう少し後の方が――」


「いえ、乗りません! 未来を救うのに悪ふざけは出来ません!」


「なら、さっき迄はなんじゃったのだ?」


「......反省してます」


 ラグナスに痛いところをつかれて、項垂れるユウキであった。


 気を取り直し、時魔法の修行を始める二人であったが、思うようにはいかない。

 前回の植物魔法と同じ様にラグナスの補助ありでやってはいるが、感覚が掴めない。

 成果が全く出ないのもあってか、ユウキが段々文句を言ってくるようになった。


「疲れた。いつ覚えられるの」


「はぁ......。お主、もっとこう頑張れんのか?」


「頑張ってます。全力です」


 やる気のなくなってくるユウキを見て、呆れ始める。

 なぜ、ここまでやる気も集中力もないのか、ラグナスは考えている。


 無言の間が十分程経った時にラグナスは口を開いた。


「自分にとって一番記憶にある出来事はなんじゃ?」


 ラグナスの質問にハッとする。

 今回は予備知識的なものがなく、ユウキ自身もどうしていいか、分からなかったのだろう。

 ニヤリとしてラグナスに親指を立ててガッツポーズした。


「こういうことか!」




 刹那、空気が変わった。

 現在、ユウキがいるところは闘技場である。

 観客一人一人が砂粒のように見えるくらい広い。

 気が付けば、ラグナスも消えている。


「え? ちょっ......。え?」


 ユウキは焦っていた。

 自分の記憶の中にこんなものが、こんな場所が一切なかったのである。


 いつの時代か? 過去か? 未来か?


 それすらも分からず、今立たされている状況に寒気が走った。

 奥から人影が歩いて来ていた。

 ゆっくりとこちらに向かってきている。

 一歩、また一歩と近付くにつれて、観客も盛り上がる。

 嫌な予感しかしないユウキであった。


「詰んだ」


 小声で口にした途端、先程の人影が見える位置にまで近くに来ていた。

 ユウキの倍近く大きい男。

 全身マッチョで武器は巨大な大斧、そして巨大な盾。

 張り手を食らっただけでユウキの骨が折れそうなほど、屈強な男である。


 ――無理だ。勝てるわけがない。まず、考えてみろ。例えるなら俺はネズミ、相手は毛並みのいいフサフサな猫だ。戦ったらどっちが勝つって? もちろん猫に決まってる。じゃあ、どうやってやり過ごす? 頭を使って小麦粉を猫にかけるしか出てこない。いや、かけれるかすら分からない。こんな例えはどうでもいい。今は生きることを考えよう。自分の命は一番大事だ。


 っとユウキは考えていた。

 走馬灯とでも言うだろうか。

 一瞬でこんな長いことを考えることは通常不可能である。


 溜め息を吐き、銃を構えた。

 目がキョロキョロしているが、逃げる様子はないため覚悟を決めたのだろう。


「次の挑戦者は貴様か?」


 大男はユウキを見下ろして尋ねた。

 斧には赤い水滴がポタポタと地面に浸っていた。

 間違いなく血だろう。

 斧と同じくらいユウキの汗も浸っていた。


「答えないってこたぁ、始めていいんだよな」


「ま、待ってください!」


 咄嗟に張り上げた声に斧を振り上げる手が止まった。

 今にも泣きそうな表情でユウキは大男に懇願する。


「気が付いたらここにいたんです。挑戦者がなんなのか知りませんが、俺はただの迷子です。見逃してくださいっ!」


 情けないユウキの姿に観客からブーイングが響き渡る。

 大男も頭をかいて呆れている。


「おめぇな、迷子ですじゃ済まない場所なんだぞ? 今は俺だけしかいなくなったからいいが、他の奴に同じ理屈が通用するとは限んねーからな。説教は後にして、出口は右側だ。ついてこい」


「は、はいっ! ありがとうございます!!」


 見た目とは裏腹に優しい大男にユウキは安心した。

 お互いに自己紹介をしあって、大男はビスタと名乗った。

 出口に近付くにつれ、観客からブーイングと共に物が飛んでくるが、ビスタが盾で防いでくれた。

 出口へ入り、休憩所に二人腰掛かる。


「ご迷惑かけてすいません」


「いいってことよ。それより突然現れたってなるとおめぇ時魔法使いか?」


 時魔法使いという言葉に反応する。

 ユウキの時代では存在しなかった魔法であるため、時魔法というワードすら一切出てこなかった。

 となると、ラグナス同様未来人になるのか、ユウキは驚愕したり考えたりと複雑な表情をしている。

 その表情がツボにハマったのかビスタは大声で笑った。


「バァーハッハッハ! なんの顔芸だぁそれ。ってこたぁ、時魔法使いの新米が調子に乗って時間転移しちまったってことか」


「そんなとこです。でも、時魔法を知っているなんて、いつの時代なんですかここは?」


「ん、時代? ねーよそんなもん」


「え? な、ない?」


 やってしまったと言わんばかりの表情で萎えているユウキを見て、やれやれと頭をかくビスタ。

 そして、ユウキの助けてオーラ全開の眼差しに苦笑する。


「落ち着け、おめぇのいた時代には戻れるだろう。ここに来れた事は運が良いとしか言い様がねーな」


「戻れるんですか! それに運が良いって?」


 ビスタはニヤリと笑いドヤ顔をした。


「ここは時の狭間にある、『時空の箱庭王国シャンダリア』だ」


「時空の箱庭王国?」


「そうだ。此処には時魔法使いが溢れている。皆どの年代から来たかはわからねぇし、他の年代にいこうとしても、いけねぇ奴の方が多いのが現状だ。自分の時代だけは往き来出来んのはわかるが、後で説明する。色々と説明いっだろ?」


 ユウキは頷いた。

 疑問に思うことばかりであるが、焦っていては、かえって取り返しがつかなくなる可能性が高いことを理解していたからである。


 ビスタに連れられ休憩所を出ていくと、目の前にある階段を上る。

 上のフロアに着くと、先程の観客席があり、ユウキはあまりの広さに絶句する。

 少し歩いていくと、今度は螺旋階段があって更に上っていく。

 ゴールが見えないほど長い階段を歩かされて、ユウキが疲れ始めていた。

 一方、ビスタは余裕な表情であったので、さすが屈強の戦士だろうとユウキは思ったに違いない。


 時間にして三十分、ビスタが蟻のように見えるくらい巨大な扉へ辿り着いた。

 迫力のあまりユウキは固まった。


「バァーハッハ! びびったか? ここは謁見の場だ。奥には王様がいるから失敬のねーようにな!」


 ユウキは緊張して数回小刻みに頷いた。

 声のでかいお前が言うなよっと思っているだろうが、ユウキは言わなかった。

 そして、扉が開いた。


「いくぞ。シャンダリア王が目前だ」


 二人は進んでいき、奥に座っている若い男が見えた。

 俗にいうイケメンってやつだろう。

 髪は短く切り揃えられていて、色は金髪。

 長身で身なりが周りと桁違いに豪華なため、この人が王様だろうとユウキは一瞬で判断できた。


「お初にお目にかかる。私はこの箱庭王国の王シャンダリアだ。待っていたぞ。未来の英雄ユウキよ」


「――っ!」


 初対面の相手、しかも王様にいきなり未来の英雄と呼ばれ、困惑するユウキにシャンダリアは笑った。


「初めて会った私がいきなり英雄などと言っても困惑するであろうな。無礼を詫びよう」


 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

 シャンダリアの行為にユウキだけでなく、周囲も焦っていた。


「お、王様。顔を上げてください」


「王。私めからもお願いです。ユウキ様と大臣の私めに免じてお顔を......」


 二人が必死になって、顔を上げさせようと困惑している姿にシャンダリアは折れて顔を上げた。


「すまない。年を取りすぎると頑固を通り越して、丸くなりすぎてしまってな。ハッハッハ」


「結構若く見えるんですけど......」


 ボソッと小声で言った発言をシャンダリアは聞き逃さなかった。

 ニヤリとした視線をユウキに向けたらブルッとしていたので、さぞ寒気がしたであろう。

 ビスタも同様に同じ反応をしていた。


「私は今年で四百歳になるか。いや、五百歳だったか?ま、そんな細かいことは気にしないでいいか」


「――ご、ごひゃくっ?」


「うむ。私はエルフと人のハーフでな。後、五百年は生きるだろうな」


 自身の知識を遥か凌駕する人智を超えた寿命に、開いた口が塞がらないユウキであった。

 まず、エルフとは物語に出てくる仮想の種族だと思っていたのに、目の前にいるシャンダリア自身がエルフとの混血だというのだ。

 長寿の域を超えているのもあるせいか、エルフと言われてもユウキは納得している。


「英雄ユウキの時代は二千百年だったな。その時代には既にエルフは滅んでおる。驚くのも無理はないだろう。さて、此処に来て急な頼みがあるんだが」


「頼みですか?」


 シャンダリアは頷いた。


「早速だが、過去に行き滅んだ未来の原因を探ってきて欲しい。そのために過去へいくのだろう?」


「――っなぜそれを?」


 師匠ラグナスと交わした約束を知っていることに驚きを隠せないでいるユウキにシャンダリアは微笑む。


「ラグナスの弟子なのだろう?ならば、これから連れていくゲートへ案内する。此処に戻りたいときは、この部屋を想像して魔法を自身に込めればよい」


「え、もういくんですか?」


「うむ。ついてこい」


 腕を引っ張られ、半ば強引に連れていかれるユウキにビスタは豪快に手を振っている。

 助けてという目線は今回通じなかったようである。

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