第4話 植物魔法と鑑定魔法
気が付けば自室のベッドで寝ていた。
見慣れた天井、自室の匂いを感じて夢だったのかっとユウキは思っているところだろう。
起き上がった瞬間、ユウキは目を丸くした。
先程まで、争っていたラグナスと賢治が何処からか引っ張ってきた小さいテーブルを置いて、互いに酒を飲んでいた。
「え、何がどうなって......」
「おう! ユウキ目覚めたか。いやぁ、こんな面白い人を連れてくるなんて、父さんは楽しいぞ。興味深い話がたくさん聞ける。禁術も奥が深いな!」
「よく言うわい若造。術も用途によっては、全て危険じゃ。悪いことばかりではないことを教えておってな。話すと理解のある奴で盛り上がっとったわい。わしも久しぶりに楽しんどるよ、フォッフォ」
「いや......さっきまでのはなんだったんですか?」
「「腕試し」」
ガクリとするユウキであった。
その後の話によると、属性法の改修は後々に行うとのことで、今は各属性の優位性や危険性を探るのを優先するらしい。
時魔法をユウキに教えること自体は賛成であり、ユウキは喜んだが、一つ疑問があった。
「父さんが賛成してくれるのは嬉しいんだけど、どうして賛成したの?未来から来た師匠を怪しむのが普通だと思うんだけど......」
ユウキの意見はもっともである。
なぜ、賢治はラグナスを信用するきっかけになったのか、流石に属性の知識だけでは初対面なのもあり、難しいはずである。
賢治は胸のポケットから鎖で巻き付かれた金属製のカードを取り出し、机に置いた。
ラグナスもポケットから同じものを取りだして机に置いた。
「これは鏡家の紋章だ。素材はハルトニウムという。今はこの世に存在しない金属でな。鏡家一番の有権者だけが持つことを許される世界に一つだけの代物だ。同じ紋章を所持しているってことは過去、または未来から来るしか方法はないだろう」
「わしは鏡家でも分家に値するが、生き残りはわしだけ。これを所持出来るものは、自分だけしかいないってことじゃ」
「なるほど」
世界に一つしかないものが、今まさに机に二つ置かれている。
これが信用に値することなのだとユウキは理解した。
「早速、時魔法の修行といきたいところじゃが、魔法は自発的に扱えるのか?」
ユウキは首を横にふった。
ラグナスは腕を組んで目を閉じながら考え込んだ。
それに釣られて賢治も同じように考え込んだ。
二人の姿を見ると、遠い血縁同士でも似ている部分はあるんだなっとユウキは一人納得した。
「ラグナスさん、ユウキに魔法を教えたことは幾度なくあります。ですが、人より魔力総量がなく、今まで覚えられた魔法は一つもなくて......。それでユウキに魔法を体感できる武器を発明しました。属性銃というやつです」
属性銃とはユウキが所持しているエレメントショッカーのことである。
自身が魔法を使えずとも、弾にさえ魔法を込めれば、その魔法を扱えるという特殊な武器である。
それだけではなく、属性弾を圧縮させたり、拡散させたりと仕様方法は様々で弾に込める魔法属性の質量によっても変化する優れものなのだ。
「ふむ、ならば一つ魔法を教えよう。魔法は使えば使うほど、微量ではあるが魔力総量は増えていくからのう。じゃが、前回も言った通りユウキには特殊な魔力を感じる。その方面で鍛え上げればよい」
「ほ、ほんとですか? でも、今の俺でも扱える魔法って?」
ラグナスはニヤッと笑った。
ユウキは純粋な少年のような眼差しで答えを待っている。
「植物魔法じゃ」
賢治は頭を抱えた。
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ユウキは小さい植木鉢に手をかざしている。
目をしぱしぱさせながら「うーーん」と唸っている。
他の人が見れば呪術士と間違える者もいるだろうが、少数であろう。
「師匠、いつになったら出来るんですか?」
「お主の力量次第と、いったところだろう。わしの鑑定で見たところ適性は出ておったぞ」
「か、鑑定?」
「うむ、知らんのか?」
ユウキは頭を横に振った。
鑑定術は過去に滅びた魔術の一つである。
この世に知らないものはいないほど、知れ渡っておるが、扱える者は誰一人といない伝説の術である。
魔法学者の間では、過去にも実在しない魔法だと唱える者も少なくはない。
もちろんユウキも知っているため、驚愕の表情である。
「植物魔法が出来るようになったら教えてやるわい。鑑定術の適性もあるからのう。じゃが、他の魔法と違い、術自体の成長は酷く遅いから覚悟しておくことじゃ」
「はい! 頑張ります!!」
必死に修行を再開したユウキを見て、ラグナスは現金な奴だと思ったに違いない。
しかし、すぐに根をあげた。
「師匠、ヒント」
「お主......言葉遣い雑になっとらんか?」
「ヒントください大賢者ラグナス様」
棒読みで教えを乞う姿を見て、段々とユウキの本性が現れ始めてラグナスは苦笑いした。
溜め息を吐いて、右手を握り、開くと何処から出したものなのか、針が右手に現れてユウキに投げつけた。
驚いて身体が一瞬固まったが、ユウキの素早い身かわしでギリギリ避けた。
針はサクッと音をたて、壁に深々と刺さっている。
「なにするんですか! 当たったら貫通しますよ」
「ふむ、避けた時に何を意識したんじゃ?」
「え、避けなきゃやばいと思って......ってなんなんですか」
怒りを爆発させて怒鳴りまくるが、ラグナスは真剣な眼差しで見つめる。
ずっと喚き続けるユウキを無視して、ユウキに近づいて、ガシッと力強く手を掴んだ。
ユウキは我に返ったが、ラグナスの真顔を見ると若干パニック状態に成りかけたところで植木鉢を指差し、
「わしがサポートする。もう一度、植物魔法を使って種を発芽させてみよ」
「は、はいっ」
調子に乗りすぎたと反省しているユウキは言われた通り、再度チャレンジをした。
内心、自分は悪くないと考える余裕すら今はないだろう。
同じように鉢に手をかざして植物魔法を試みる。
すると、
「こ、この感覚、いつも時計を磨くときに感じる感覚です。なんというか、上に打ち上げられるような、そんな感覚を」
「それがお主の魔力を引き出す源っていったとこじゃの。この部屋に植物や薬品関係の本があるくらいじゃから、植物が成長する過程くらいわかるじゃろ?」
ユウキは頷いた。
「なら、種から発芽するのを想像しながらやってみろ。コツは植木鉢全体に自身の魔力巻き込む感じでよい」
指示通りに実行した。
ハッとした表情になるユウキから笑みが溢れた。
時間にして一分程、葉っぱが土から顔を出したのである。
「で、出来たああああ」
「うむ、上出来じゃ」
ガッツポーズをして喜ぶユウキを見てラグナスは微笑む。
その影で小さいテーブルで酒を飲んでいた賢治が嬉し泣きしていた。
事情を知らない人からすれば、誰が見ても泣き上戸にしか見えない。
その後、ラグナスの補助付きで何度かやり、その日の内に一人でも扱えるようにはなってきた。
時間は結構かかるが、小指より小さい木を掌に出すところまでは出来るくらいには。
ユウキも一日でここまで出来るとは思っても見なかっただろうが、ラグナス自身も想定はしていなかった。
二人揃って驚き、興奮している。
何も言わずとも、お互い顔に出ているので分かりやすい。
「植物魔法の理論は大体理解したのう。後は自分で鍛え上げ、活用出来るかじゃな」
「はいっ! もうちょっと成長したら試したい事があるんで、精進します」
「ふむ、試したい事とは?」
ユウキに疑問をぶつけると、部屋のクローゼットを開けて、両手で抱えるくらいの大きさの箱を取り出した。
中から数本の液体の入った瓶を取り出し、丁寧に机に並べた。
「薬や酸などの薬品の調合に植物を使う事が多いんで、成長具合によって性能の変化を知りたいんです。といっても、趣味の範囲なんで専門家には敵わないですよ。ははは」
謙遜し笑って誤魔化しているが、ラグナスが薬品を眺めるたびに目が見開かれていく。
「ユウキ。お主の薬品は不純物が少ない。紛れもない優秀なアルケミストじゃな。これも知らず知らず『不純物分解』を扱っておるじゃろう」
「ケ......ケミカルブレイク?」
「アルケミストの精製スキルみたいものじゃ。物質には基本的に不純物が混じっておるからのう。不純物を取り除いて純度の高い物を作り上げる魔法といったところか」
「ふむふむ」とユウキは何度も頷いて、自分が精製した薬品を眺めた。
そして、幾つかの瓶を丁寧に箱に入れていく。
あまりに丁寧に扱っているため、疑問に思ったラグナスが、
「その薬品は火炎瓶か?」
ユウキは頷いた。
「使いようによっては武器になるぞ。時魔法を覚えたら過去に飛ぶんじゃ。身を守る手段は一つでも多いに越したことはない」
「俺が扱えるようになったら、師匠や父さんを連れていけないんですか?」
「残念だが無理じゃ」
ガクッと項垂れて溜め息をついた。
表情から察するに、危険が迫った時に自分で対処しなきゃいけなくなった事に萎えているのだろう。
「さて、約束通り鑑定を教えてやろう。その後はメインの時魔法じゃ。覚悟はええか?」
「はいっ! いつでも!」
期待に胸一杯なユウキであるが、一気に絶望へ落ちることになることを本人はまだ知らない。