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第2話 ユウキと未来から来た老人

クズ場面まではまだかかりそうです。

 夕陽に照らされ、重い瞼が開いた。

 ユウキが目覚めた場所は自分の部屋であった。

 見慣れた自室の天井の見て「あぁ、夢か」と思った。

 起き上がり、周囲を見渡すと顔は青ざめた。

 先程の様に、椅子に腰かけていた老人が目の前に座っていた。


「う、うわあああああ。誰か助けてええええ」


「『音が消え去る部屋(フロアミュート)』。外にはもう聞こえん。全く、取り乱しおって」


 パニック状態に陥り、再び気を失いかけた。

 それに気づいた老人は溜め息を吐き、ユウキに手をかざす。


「『無数に降り注ぐ祝福(コンフェインヒール)』」


 老人の手が光り、手から発された無数の光がユウキを包む。

 おかげで意識が元に戻った。


「落ち着いたかのう? わしは悪いものではない。立ち入り禁止の場所にいたから信用はしてもらえんと思うけどのう」


「多少は落ち着きました。これ程の回復術は母さんしか見たことありません。やはり只者ではないと判断出来ます。正直、まだ怖いですが、何者ですか?」


 落ち着いたとはいえ、冷静でいるのは不可能。

 たった一瞬、魔力を込められただけで、死を悟った程である。

 ユウキは自身の恐怖を紛らわすかのように目を瞑り、震える手を押さえ、老人に問う。


「わしは未来から来た。――と言って信じてくれるかのう?」


「へ?」


 突拍子もない答えに、頭の理解が追い付かず、震えが先程より収まってキョトンとした表情になった。

 ユウキは老人を見ては天井を見て、首を傾げた。

 挙動不審とは、まさにこの事である。


「み、未来ですか?」


「うむ、わしはアストリア暦三千年の時代から来たのじゃ」


「え、えーっと......この時代にどのようなご用件でいらして?」


 慣れない敬語を使って質問をする。

 ユウキにとっては過去とか未来とかどうでもいいのだ。

 今、恐れていることは老人の実力が両親並み。いや、それ以上ではないかと思っているからである。

 下手な事を言って殺されたくないのが現状だろう。

 自分の身は大事である。


「わしの時代は滅びたのじゃ。生き残りはわしだけじゃ」


「へ?」


 老人の言葉に再度キョトンとした。


「その原因を突き止める為に、時魔法を使って過去へ飛んで探っておる。じゃが、わしにはこれ以上過去へは飛べん。より過去へ飛べる人材を探しておったのじゃ。中々見つからなかったがのう」


「そ、それでまだ見つかってないんですか?」


 老人はニヤリと笑った。

 ユウキを視線を向けて、


「見つかったわい。お主には才能がある。それも時魔法のな」


「ぼ、僕ですか?」


「うむ、お主には特殊な魔力を感じる」


 特殊な魔力と言われても理解が出来ない。

 なにせユウキは魔法を扱えないのだから、いきなり魔法の才能があると、しかも時魔法ときたものだ。

 頭の中がパンクするのは必然であろう。


 まず、ユウキがいる時代に時魔法というものが存在しないのである。

 火水風土が主流で、稀に光闇等を扱える人がいるくらい。

 各属性を混合させる混合魔法はあるが、一人が持てる属性の数は大体一種類。

 二種類扱えるとなれば天才の領域であり、三種類以上となれば国家の総力以上に匹敵する者もいる。

 ユウキの両親はもちろん例外級の化け物であるが。


 しかし、それ以外の魔法は禁術に指定されている。

 過去に植物系の魔法を使用した人物が、一国だけではなく、領地全域を滅ぼした事がある。

 五人の大罪者と呼ばれる内の一人で名前はフーラルという。


 魔法を扱える代わりに、死罪確定の罪人になるのは悩みどころであった。

 一般の人は、いくら有能な魔法と引き換えでも、死罪なんか御免である。

 そこで悩むのがユウキらしいと言えよう。


「さっき時計の針を磨いておったろう?」


「――っ!」


「普通はあんなに器用に出来るもんじゃない。浮力魔術を微量に使っていたのう。お主の身体能力も中々じゃが組み合わせ方は上手いのう」


「――」


「ふむ、自覚なしか。まぁよい、これでわかったじゃろ? お主は魔法を扱えるのじゃ」


 衝撃的事実に驚きの表情を隠せない。

 意識をせず魔法を使っていたなどユウキ自覚していなかった。

 いや、扱えるとすら思っていなかった。

 しかも、禁術っぽい魔法を知らずに扱っていたと。

 ユウキの表情を見るからにそう感じられる。


 ユウキのコンプレックスは魔法を扱えないことである。

 ただそれだけなのだ。

 今、目の前にいる得体の知れない老人はユウキに魔法を授ける気でいる。

 しかも、時魔法という過去に飛べるチート魔法を。



 ユウキは悩むことをやめた。

 自身が既に禁術を使っていたとなれば、迷いはない。

 気づけば、悪魔に身を売るかのように老人に迫っていた。

 色々と気が気でないのだろう。

 老人はやれやれといった表情だ。


「才能はあっても色々と難ありじゃな」


 ポツリと不満をこぼした。

 それを聞いたユウキは「はっ」と我に返り、申し訳なさそうにシュンとした。


「すいません」


「よいよい、では覚える気があるってことでよいな? はっきり言って時魔法を覚えるのも、この先で待っている苦難も甘くないぞ。お主にはその覚悟があるのか?」


 真剣な眼差しでユウキを見つめる。

 すぐには答えを出せず、腕を組んで考えている。

 背負うものが、どれほど規模がでかいものか、安易に決断出来ることではないことを老人も理解している。


 今から九百年後の世界を救うために行動するとしても、果たして成功するのか?

 ーー否、失敗するかもしれない。

 それ以前に時魔法を覚え、過去にいけるのか、それすらもわからない。

 不安を抱いているのはお互い様である。


「あのー、俺やります」


「――っ!」


「もちろんプレッシャーは感じます。でも、適任者は俺しかいないんですよね?」


 老人はゆっくり頷いた。


「だったら答えは一つしかありません。未来を救える自信は正直ないです。ですが、可能性があるなら全力でやります。僕に魔法を教えてください!」


 老人は驚いた。

 正直、答えはノーであると思っていた。

 仮にイエスと答えても貢献はしてくれないだろうと。

 だが、目の前の少年が嘘をつけるほど器用ではないことを、この短時間で理解している。


 そして、老人は泣いた。

 外に聞こえるほど声を張り上げて。

 『音が消え去る部屋(フロアミュート)』をしているため、外には聞こえないだろうが、泣き叫ぶ姿を見てユウキは驚いた。

 自分の両親よりも強いかもしれない老人が。

 表情一つ崩さず、周囲の警戒を怠らない老人が。

 銃を発砲すれば避けるどころか撃たれたのに気付かないくらい隙だらけの状態に衝撃を受けている。


「お、落ち着いてください」


「落ち着かずにいられるかっ! やっとじゃ、やっと可能性が出てきたんじゃ! 才能有るものを見つけても、そやつがわしの意志を引き継いでくれるのか? 普通は引き継がないじゃろ。でも、お主は――」


「寧ろ、俺なんかで申し訳ないくらいですよ。俺、うちの家系では落ちこぼれ扱いだし、親戚で適任者がいればそっちの方がいいと思うんですがね。ハハハ」


 言葉を遮り、苦笑いをしながら言う。

 不器用なりにユウキの気遣いであろう。

 それを察したのか老人も笑う。


「いや、お主がいい。迷惑じゃろうが、わしはお主に決めたんじゃ。内心はやはりだめか?」


 ユウキは首を横に振る。

 老人は安堵して、


「ならば、教えよう。その後も出来る限りのサポートはする」


「お願いします!」


 二人は互いに握手を交わした。

 老人はハッとした表情になり、


「そういえば自己紹介がまだじゃったな......」


 ユウキもハッとなる。

 お互いにクスクスと笑った。


(かがみ)悠希(ゆうき)です。おじいさんの名前は?」


「か、鏡家じゃと。そうか、なるほど」


 一人で納得して頷く。


「わしの名はラグナス・ポポラーレじゃ。鏡家とは遠縁じゃ。よろしくのう、ユウキ」


「こちらこそ、よろしくお願いします。ラグナス師匠」


 少年のようなキラキラした目に宿るのは尊敬の眼差し。

 そして、表裏のない覚悟を決めた表情。

 ラグナスは少し照れ臭くなり、


「師匠はやめい。さんにしろ、さんに」


「だめです! 俺の中では師匠なんです」


「じゃがのう」


 困り果てたラグナスにユウキは「ならば」と言った。


「俺が成果をあげ続けたら『さん』付けにします。それまでは教わることばかりだし、師匠で!」


 やれやれといった表情をするラグナスであるが、そこには嬉しさを隠せないでいる。

 二人は再度握手をした。

 未来を救うため、今ここに師弟関係が築かれる。

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