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第1話 時計塔の管理者と侵入者の圧倒的な実力

 アストリア暦二千百年。

 ここは世界一の面積を誇る首都ベルモンド王国。

 街を一周するのに数日かかるほど広く、関所が八ヶ所あるため東西南北どこからでも国に入れるメリットがある。

 各所に兵が徘徊していて、兵の実力は世界で比較しても上位に立てる程の強者ばかり。

 おかげで治安も良く、宿の値段も安いため、行商人も旅人もベルモンドに着いたら数日は滞在するほどである。


 そして、ベルモンドには世界一の面積だけでなく、世界一の観光スポットが存在する。

 国の半分近くを占めるであろう巨大な時計塔が中心にそびえ立っているのだ。


 時計塔の中では、常に複数の作業員が構えている。

 外見を汚れ一つなく、まるで新築かのように保つために日々メンテナンスをしている。

 不審者がいれば、捕らえて尋問をし、抗う者がいれば実力行使もする武道派でもある。

 そんな彼らのことを人々は『時計塔の管理者』と呼ぶ。


「ユウキ! いつまで外を眺めている。早く時計の針を磨け」


「はいはい、すぐ磨きますよ。父さんはせっかちだなぁ」


 ダンディーな父親に、サボっているのがバレたユウキと呼ばれる少年が返事をする。

 彼の名は(かがみ)悠希(ゆうき)

 首都ベルモンドで『時計塔の管理者』をやっている十七歳。

 性格は飽き性、サボり癖、気が弱いと良いところが無さそうに思えるが、優しさがそれを多少はカバーしている。

 容姿は黒髪で長さは耳が隠れる程度。服は汚れても大丈夫そうな服、つまり作業服である。


「にしても、時計塔の針を毎日磨いたところでなぁ」


 誰にも聞こえない小声でぼやき、日差しの光に反射して輝く巨大な針をじっと見つめる。

 時計の針を一人で磨くともなれば半日以上はかかるであろう。

 ユウキは心の中で「だるいなぁ」と思いながら器用に時計の針を磨く。

 猿も顔負けなくらい身軽な動作で上へ登っては滑り落ちながら磨き、横になっている針は裸足で壁を押さえて落ちないように磨いたりと人間離れしている。


 そして、磨き終わるのにかかった時間は約三十分程。

 他の人が足場を作る時間よりも短い。

 汗一つかかないユウキは、


「さてと、今日の仕事は終わったし二連休だ。明後日のガンスリンガーリーグに向けて銃の整備をしないとな」


 ガンスリンガーリーグとは銃を使った対人戦。

 特殊な結界が張られ、多少の傷では瞬時に治るほど、高精度な治癒結界である。

 もちろん重傷を負ってしまうと傷は直ぐには治らず、退場となってしまう。

 観客の多く集まる大会なので、死者を出さないよう銃や弾には細かい規制がかかっている。


 ユウキの家は時計塔の中であり、場所は時計の針があるフロアから階段を一段降りた横にある部屋。

 部屋の扉を開け、大きめの木箱に入った四丁の銃を取り出した。


「やっぱ銃といえば自動式の魔力銃だな。大会(リーグ)の規制が厳しくなってから、お気に入りのエレメントショッカー二丁は使えないし、ノーマルタイプのやつしかないなぁ」


 エレメントショッカーとは弾を手で覆い、属性魔法を付与すると弾に魔力が貯まり属性弾が出来上がる。

 弾を最大二十個まで装填することができ、弾は魔力を放出するためだけなので弾自体は無くならず、使い回しが可能。

 ユウキの父親作でそこから耐久や性能を上げるため、ユウキ自身がカスタマイズを加えた半オリジナル。

 熟練者ともなれば弾要らずで自身の魔力を込めて無限弾丸にするものがいる程である。


 しかし、ユウキは魔法を扱えず自身で弾を補充することすら出来ない。

 ゆえに補充をするときは両親に頼んで補充してもらう。


「ま、ノーマルタイプでもいけるか。規制だらけの大会なんてこれで十分だしな」


 ガンスリンガーリーグの規制がかかる前、ユウキは世界的報道になる事件を起こした。

 エレメントショッカーで火属性と風属性の弾を瞬時に4発撃ち魔力合成させ大火事を引き起こしたのだ。

 相手選手は重傷を負い、観客にも熱風による火傷や突風に吹き飛ばされたりと怪我人が続出し、大会は中止となった。

 以来、規制が厳しくなり死傷者が出なくなったのである。


 銃の実力には右に出る者はおらず、人間離れした身のこなしや視覚・聴覚によって神業を毎度披露している。

 ユウキの戦闘スタイルは二丁拳銃であり、過去の事件の影響もあってか観客の人々から『天災のガンスリンガー』と呼ばれている。

 魔法の才能はないが、その他の部分が特化している。

 しかし、魔法が使えないのはユウキ本人の悩みでもあった。


 鏡家は代々魔法に特化した家系で魔法に関しては世界で見ても折り紙つきの化け物である。

 時計塔の最高責任者である、父の(かがみ)賢治(けんじ)は火、風、土魔法の達人であり、過去に戦乱を引き起こした今は亡き帝国を上級混合魔法で数分で壊滅させた男である。


 母の(かがみ)真弓(まゆみ)は水、光魔法の達人であり、オークの最上位種オークキングも混じった数万のオークの群れを光の矢で瞬殺した経歴を持つ。


 そんな家系で産まれ育ったのに魔法が一切使えず、親戚などの身内から白い目で見られることもあり、街の人も小声でヒソヒソ言われる始末。

 魔法が使えず、落ち込むユウキを両親は責めなかった。

 両親は「魔法が使えないからなんだ。身体能力と銃の実力は世界でもトップクラスじゃないか。胸を張って誇れ」と落ち込むたびに言ってくる。


 そのおかげもあってか、ユウキ自身は明るくなってきた。

 気付けば友達もでき、ご近所付き合いもする程に。

 友達の数は二人しかいないが、ユウキがそれを気にすることはなかった。


 時間にして十分程で、銃のメンテナンスを終えて、腰に銃をセットする。


「ふぅ、こんな感じでいいかな。エレメントショッカーが使えないのはテンション上がらないけど、しょうがないか。あー、でもエレメントショッカーってデザインもいいんだよなぁ」


 お気に入りの銃を眺め、結局4丁の銃を腰にセットする。

 ユウキは部屋を出て階段の裏にある隠し扉に入った。

 真っ暗闇を真っ直ぐに進むと、立ち入り禁止と書かれた看板の正面に扉があった。


「ふっふっふ。ようやく見つけたぞ。時計塔の何処かに存在すると言われる開かずの扉! 遂に発見した!」


 注意書きの看板をシカトして、扉に手をかけた。

 扉には鍵がかかっておらず、ユウキは「ラッキー」と心の中で呟き、ルンルンで部屋に入った。

 が、ユウキは固まった。

 なぜなら、部屋には白髪の老人が古びた椅子に腰かけていたのだ。

 誰一人として立ち入ることが許されない部屋に、人がいる。

 巨大な時計塔の入口から入り、一般人が入れない、ここ最上階の手前まで目指すとしても、管理者達が見逃すのか?--否、見逃すわけがない。

 

 そして、老人と目が合った。


(この老人只者ではない......)


 野生の勘とも言えるだろう。

 ユウキは銃をいつでも引き抜ける態勢に入っていた。


「ほほう、お主いい勘しとるのう。ここまで警戒心が強いのは中々おらん。フォッフォ」


「ここは立ち入り禁止の場所です。いくつか質問をしますので、返答によっては只では済まないと思ってください」


 銃を構えて、鋭い目付きで老人を睨む。

 その姿に老人は呑気な顔で頭をボリボリと掻いている。


「うーむ、そんな場所に飛んでしもうたのか。着いて早々面倒事になるとはのう。じゃがな、若者よ。お主じゃわしは倒せん。誰でもわかる。お主の冷や汗がいい証拠じゃ」


 ユウキは冷や汗をかいていた。

 それも大量の。

 顔だけでなく、手からも浸るほどに。

 震えるたびに、水滴がポタポタと地面に落ちるくらいに。


「時計塔の管理者としてここを守るのが使命です。あなたなんかに――」


「なんじゃ? 続きを言うてみろ」


 瞬間移動したかのようにユウキの背後に立つ老人。

 ユウキは目を見開き、


「うわああああ!」


 老人に向けて発砲した。

 エレメントショッカーの風属性が込められた弾を撃ち、脳天に当たった。

 と思いきや、老人は片手で受け止めた瞬間に風の弾は散布した。


「ふむ、面白い武器じゃのう。風属性が込められているのはわかったぞ。からかってすまない。お主は才能があるかもしれん。名はなんと言う」


「あ......あぁ、なんで......」


 驚愕の表情で後退りしながら、逃げようとしている。

 気が気でないユウキには、老人の言葉は耳に入ってはいないであろう。



 ユウキが走り出した瞬間、ほんの一瞬だけ老人は魔力を全身に込めた。

 あまりの恐怖に足が動かなくなり、全身が震えだして、段々と意識が遠退く。

 あまりの力の差にユウキは泡を吹きながら気絶したのだった。

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