プロローグ
アストリア暦三千年。
かつて、大きな町であった辺りに灰の吹雪が舞い散っている。
足元を見れば灰に埋もれる沢山の死体。
人や動物といった様々な白骨死体が足場に敷き詰められ、これを見たものは口を揃えて地獄絵図と言うだろう。
この町にただ一人、生き残りがいる。
街の中心にある灰にまみれた時計塔の中で、ロウソクを焚いて座っている人がいる。
呼吸をするたび、ひゅーひゅー言いながら苦しそうにする白髪が伸びきった老人である。
「わしは皆を助けられなかった。一体いつの時代に原因があると言うのじゃ......」
老人の問いに答える者はいない。
いや、答えられる者が存在しないと言った方が正しいだろうか。
老人は大粒の涙を流しながら拳を握りしめ、子供の様に泣き始めた。
「時魔法を扱える才能が有るものさえいれば可能性があるのに......それすらも見つけられんとは」
泣きながらではあるが、比較的聞き取りやすい独り言を言う。
「あの化け物を打ち負かせる者。そして、時空を越えていける者さえおれば......。欲張りすぎかのう。せめて、この身を犠牲にしてでも封印さえ出来れば......。わしだけじゃどうにもならん。時を越え、化け物を封印出来る手段と戦力さえあれば」
遠い目をする老人は先程とは違い生気が少しずつ出てきた。
自身が書いたであろうボロボロのメモ帳を取り出して、
「もっと過去へ飛ぶしかないのか。わしも長くはないし、これが最後のチャンスかのう」
メモ帳に栞を挟んで閉じ、黒い渦を巻く空間に取り込まれて、メモ帳が消えた。
老人は立ち上がり、深呼吸を一回。
足元に魔方陣が形成され、周りが風に吹き荒れる。
老人の目付きが変わり、右手を頭上にあげて、
「永遠に過ぎ去りし流れる時代よ! 時に逆らい我を過去へ導きたまえ」
『時を越えし力』
その瞬間、周りに魔方陣が現れ光った。
光りが消えた時には老人の姿は何処にもなかった。