老剣 木枯らし 9
「あ、猫の先生! 」
クロスルージュに到着した御用猫達は、いつもの遣り手支配人に案内される途中で、スイレンと鉢合わせた。
ぱたぱた、と、赤いドレスに身を包んだ彼女は、まるで子犬のように駆け寄ってくるのだ。胸元の大きく開いた衣装から、揺れる二つの果実がこぼれ落ちんばかりである。
「……うん、そこは子犬じゃないな」
「へぇ? 何がですか? 」
その作りの良い顔を、ことん、と傾け、スイレンは問うのだが、御用猫はひとつ、安堵していた事がある。
(この様子だと、誰か他の客に付いているな……ならば、今日はゆっくり出来そうだ)
この野獣を相手取るのは、カンナに負けず劣らず、骨の折れる仕事であるのだ。クロスルージュに他の馴染みは居ないのだが、この店の嬢は皆、愛想も良く、教育も行き届いており、かねてから御用猫は、一度、他の娘を呼んでみようと思っていたのだ、ならば、これは丁度良いだろうと考える。
「いや、なに、お前は森の銀狼の様に美しい女だと思ってな……しかし、今日は先約があるようだ、残念だが別の……」
「ああ、そういうことでしたら……スイレン、貴女は御用猫の先生のところへ、指名ではありませんし、まだ席に着いていませんから、大丈夫ですよ」
「本当ですか!?グレンデールさん、ありがとうございます! 」
クロスルージュの支配人、フリオ グレンデールは、まことに気の利く、遣り手であったのだ。
ぺこり、と頭を下げると、満面の笑みにて御用猫の腕に絡みつくスイレンに、彼は、覚悟を決める他には、なかったのである。
「……何してんの? お前ら」
スイレンに連行される途中の箱席の中に、御用猫は見馴れた顔を見とめ、足を止める。本来ならば無作法であろうが、彼は、その奇妙な組み合わせに、声をかけずにいられなかったのだ。
「あ、スイレン姉さん、それに猫の先生も」
クロスルージュの人気嬢であるマリリンは、今日も両手に花の人気ぶりを発揮していた。愛嬌のある笑顔で手を振る彼女の、両隣の花は、しかし、御用猫達から目を背けるように横を向くのだ。
「おいおいおいぃ、クロンさんや、見たでぇ、見てしもうたでぇー、心入れ替えたんじゃなかったんかいー」
「お兄ちゃんはがっかりだよ、ビュレッフェさんや、雷帝様ともあろう者が、組んず解れつ、三人で淫らな祭りの夜を過ごそうなんてよぅ」
「まぁまぁ、皆、若いのじゃから、許しておあげよ、何事も経験よ……まぁ、男も悪くはなかったの」
「おいよせ、生々しい」
わはは、と笑いながら立ち去る四人の男達の背中を見送り、スイレンは箱席の中で固まる男二人に。
「……そうなの? 」
と、問いかけたのだった。




