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続・御用猫  作者: 露瀬
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神頼み 13

「辛島さん、ひとつだけ、お願いがあるのですが」


 食事の後片付けも終わり、子供達は、寝る支度の為に大部屋に戻っている。寝具を整えた後は、消灯まで、自由時間となっていた。


 ぱたぱた、と遊びまわる子もいれば、マイクなどは敷地内で素振りをしていたし、ミネコは、リリィアドーネから差し入れられた絵本を、年少組に読み聞かせていたのだ。


「なんだ? 今のところ、大きな問題は、無さそうだけどな」


 御用猫は、食卓に座り、淹れては干しを繰り返し、すっかり味のなくなったお茶を、酒の代わりに啜っている。


 膝の上には、だらしなく涎を垂らし、腹を膨らませた、卑しいエルフを抱きかかえていた。今日の夕食には、暇を与えた大雀に狩らせた、猪の肉が使われていたのだ。もっとも、教会に来た頃には、ひと抱えの肉しか残っていなかったのだが、彼女の性格を考えれば、これは、神の奇跡だと言わざるを得ないだろうか。


「いえ、大きな問題では……いや、教育上、よろしくありません、大きな問題です」


「なんだ、はっきり言えよ、らしくないな」


 御用猫は、笑いながら、つるり、と剥き出しの、チャムパグンの腹を揉みしだくと、そのまま服の下に手を入れて、脇腹の辺りをまさぐるのだ。


「だから! 所構わず、少女の身体を弄るのを、やめて下さい、と、言っているのです! 」


 ついに、声を荒げたメルクリィである。この怒声を聞くのも、随分と久し振りの様な気がして、思わず、御用猫は頬を緩ませた。


「真面目に聞きなさい! 食事中も膝に乗せ、ねだられるまま、口に匙を運び、日がな一日、抱きかかえて、いやらしくも触り放題、ウチの子らに、悪い癖がついたら、どうするのですか! 」


 最近では、小さな子達が、メルクリィやゲコニスの膝に乗りたがると言うのだ、強く断る訳にもいかず、やんわりと嗜めてはいたのだが、結局、仕事を、一時中断するはめになっているのだとか。


(ウチの子、ねぇ……もう、すっかりと、お母さんだな)


 そんな事を考えた御用猫の顔には、ますます笑いが浮かび、それを見たメルクリィの眉が吊り上がる。


「まぁまぁ、メルクリィさん、恋人同士の睦み合いだ、多少は、大目に見てやりましょうや」


「おいよせ、その冗談は命に関わる」


 がらがら、と笑うゲコニスは、しかし、直ぐに、少しだけ、困った様な顔を見せ。


「だがなぁ、ここに居るのは、親の顔も知らねえ奴らが大半だ、あんまり、ちっさな子が、大人に気安く甘える姿は、見せないでやって、欲しいんだがな」


 申し訳なさそうに、しゃがれ声を抑えて、にきび跡の残る、その頬を、ぴしゃり、ぴしゃりと、叩くのだ。


「馬鹿かお前達は、いや、馬鹿だったな」


 腕を滑らせ、卑しいエルフの背筋を揉みほぐすと、くすぐったかったものか、チャムパグンが、ぺしぺし、と、御用猫の二の腕を叩く。


「そんなもの、好きに甘えさせてやれ、小さい内に、そういうことをな、させておかないと、歪むぞ? 俺みたいにな……あいつらに、家族になると約束したそうじゃないか、餓鬼相手に遠慮してんのか、それとも、怖いのか? 」


 にやにや、と、笑いながら告げると、メルクリィとゲコニスは、しばし見つめ合い、小さく、頷き合うのだ。


(まぁ、これは、時間が解決してくれるだろうか)


 家族を始め、助け合い始めた彼らの姿は、野良猫にとって、微笑ましくも、少し、羨ましい。


 しかし、所詮は部外者の野良猫であるのだ。この家族の行く末を、見守る事は、出来ぬであろう、と御用猫は考える。


 そういえば、最近、ノムラン司祭の姿を見る事が少なくなっていた。


 メルクリィが仕事を辞めた為、留守番の必要がなくなり、一日中、金策に走り回っているそうだが。


(はてさて、一体、何の為の金策やら)


 野良猫の眼に、一瞬、鋭い光が差す、これは、捕食者の眼光か。


「……ま、どちらにせよ、あと少しだ、好きにするさ」


「駄目です、触るのはやめなさい」


 ついに、メルクリィが、強引に、御用猫の腕を引き抜き、彼は楽園から、追放されたのだった。



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