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続・御用猫  作者: 露瀬
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神頼み 9

 御用猫は、ひとしきり、リリィアドーネからの文句とメルクリィからの抗議を聞き流し、彼女らが一息ついた、一瞬の間を目敏く突き、ぴん、と指を立てて意見するのだ。


 最初は面食らった、メルクリィの行動力であったのだが、方向性は違えど、内面的には、リリィアドーネと似ているだろうか。こうして、似たような二人を並べてしまえば、不思議と、行動法則も似たようなものになるのだ、そうと分かれば、話は簡単、御用猫の、あしらい方は、実に慣れたものである。


「よし、それじゃあ今後の方針を考えてみようか、とりあえずは、あのやくざどもの処遇についてだな、はい、リリィから」


「わ、私か? 」


 先ほどまでは、子供のように口を尖らせ、愛が足りぬと駄々をこねていた彼女であるが、こうして問われれば、実に素直に、新たな思索を始めるのだ。


「……処遇といわれても、こやつらは現行犯だ、幸いにも、私達が居合わせたから、最悪の事態は、未然に防げたとはいえ、罪は変わらぬ、水神騎士に引き渡し、然るべき罰を与えるべきだろう」


「ううん、リリィ、あいつらはな、クレオファミリーといって、ここらでは有名なやくざの一味なのだ、面子を潰されて、黙ってはいまいよ、かといって、テンプル騎士の、しかも串刺し王女……いたっ、リリィには手も出せぬ、間違いなく、腹いせに、この教会は火でもつけられ、哀れ、子供達は女衒か奴隷商に」


 そこまで言った直後、御用猫は胸ぐらを掴まれた。そのまま、がたがた、と前後に揺すられるのだ。


「ふざけないで! いい加減にして! 私達は、ここで、今まで、神の庇護のもと、慎ましやかに暮らしてきました! 貧しくとも、しあわせに……」


「そうか? 本当に? 」


 眉を吊り上げたメルクリィの表情には、鬼気迫るものがあったのだが、御用猫の一言に、その勢いを失い、ぐぅっ、と濡れた息を漏らすのだ。


「……私は、間違っていない……レウルク様の教えを守り、広め、ともに、生きて……皆の……皆で、笑顔の……」


「みな、じゃないだろ、お前ばっかり、空回りしてんじゃないのか? 」


 お節介なみつばちが、この教会の情報を集めてきたのだ、そして、実際に目にしたものと合わせれば、御用猫にも、ある程度の事情は、理解できていた。


 とはいえ、御用猫には、余計なお節介をするつもりは、毛頭無い。


 これは、依頼なのだ、仕事であるのだ。


「私は……今の私は、違います、あの子達の為に……ためなら、何だって」


「それだ、それが自分で分かってて、何であいつらの想いを奪ってんだ、お前が、餓鬼どものお守りをしたい、と思う程度には、餓鬼どもだって、お前の手伝いをしたいのさ、多分な……お前だって、さっきの見たろ? でかいの二人は、勇ましいもんじゃないか、お前が思うよりも、きっと、頼りになるぞ? 」


 だらり、と、両手を下げたメルクリィは、力無く、御用猫に問うのだ。


「私は……どうすれば……」


 敬虔な正教徒の両親に、厳しくも健やかに育てられ、神の寵愛を疑う事なく生きてきたメルクリィであったが、クロスロードに来てからは、頼りにする者の無い不安と、子供達の命を預かる重責に、毎日、耐えるばかりであったのだ。


 初めて、この教会を訪れたときは、荒れ果てた建物と、揃って、死んだ様な目をした子供達に。


(私の生き場は、ここでしたか)


 と、決意に燃えたものであったが、しかし、厳しくも残酷な現実に直面し、打ちひしがれ、それでも、神だけを頼みに、ひとり、生きて来たのだ。


 その、彼女が、ついに折れ始めていた。あれ程に頑なで、攻撃的であったのも、虚勢を張らねば、倒れてしまいそうであったから。


 ロンダヌスに居た頃の彼女は、生真面目で、融通の効かぬ頑固者ではあっても、他人に優しく、良く笑う女性であったのだ。


「そうだな、まずは、話し合いだ……お前、餓鬼どもと、ちゃんと話し合った事はあるのか? 無いだろう、まったく、それでよく、話し合いがどうとか、人に言えたものだ、反省しなさい……んで、分業だ、簡単な事は、餓鬼どもに任せよう、掃除と、洗濯と、色々あるだろ、外で働くのは、まぁ、慌てなくとも良いか」


「やくざどもは、どうするのだ? 」


 リリィアドーネが、訪ねてくる、ふと、そちらを見れば、満面の笑みを浮かべているではないか。


(……なんだ? 機嫌が良くなる要素が、いま、あったのか? )


 まぁ、良いか、と御用猫は、その疑問を切り捨てる。


「そうだな、あいつらには、お帰り願おう、ただ、今後の為に、用心棒は、必要だな……なぁ、メルクリィ、神官なら、布教が本懐だろう? 」


 御用猫は、良い笑顔を見せた、これは仕事だ。しかし、仕事ではあるが、だからこそ、つまらぬよりは、楽しい方が、良いに決まっているのだ。


「カエルにな、宗旨替えさせる、自信はあるか? 」


 目を瞬かせるメルクリィに、御用猫は、良い笑顔を見せていた。




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