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続・御用猫  作者: 露瀬
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銀盤踝 18

「あはははははっ」


 普段ならば、静けさに包まれる、この聖域も、今日ばかりは、姦しい女どもの喧騒に、支配されてしまうのだ。


 畏れ多くも、銀の湖に腰を下ろし、御用猫達は焚火を囲み、宴の最中であった。


 最初、断固として拒否していた、黒エルフ達も。


「こら、これは、祖霊の意思なのだぞ? 寂しいから、たまには、ここで騒げとの御達しなのだ、まぁ、長さんも座れよ、実はな、酒ならあるんだ」


 ぽんぽん、と、銀の湖面を叩きながら、御用猫は、黒エルフの戦士長を誘うのだ。ブブロスへの手土産にと、オーフェンの家から、くすねてきたワインであったが、どうやら、役に立ちそうだ。


 御用猫の話術に丸め込まれ、すっかりと打ち解けた、黒エルフの戦士達は、彼等の集落から、果実酒と食料を持ち込み、世界樹の下で、ちょっとした祭りを始める事にした。


 これからは、年に一度、ここで祖霊の為に、祖霊と共に、宴を開く事になりそうだ。


 チャムパグンの施術にて、一キロ程の銀を吸い込み、すっかりと元気になった、くるぶしと。ぴよぴよ、と鳴きながら、サクラに懐いた様子の、てんてん丸を引き連れ、銀盤の上を滑り続ける少女達を眺めながら、御用猫は、膝の上で眠りにつく、卑しいエルフの頭を撫でる。


 杯に手を伸ばすと、纏わりつく二つの蛍火が、まるで、先を争うように、ワインの水面に、ちょんちょん、と足を付けるのだ。


「蛍か、お前らは、まぁ、久しぶりの酒だろうな、好きに飲めよ……ありがとうな」


「猫の先生は、真実、祖霊と会話が出来るのか、尊敬だ、尊敬する」


「何となく、だよ、長さんも、ここに、誰か知り合いがいるなら、分かるんじゃないのか? そういう気持ちがさ」


 長い黒髪を首に巻き付け、戦士長は、しばし目を閉じ、考えていた様子であったが。


「……母は、優しい女性であった」


「なら、分かるだろ、立派になった息子を見て、喜んでるさ」


 御用猫は、占領されてしまった、自前の杯を諦めると、チャムパグンの銀杯を持ち上げ、本来の、柔和な笑みを浮かべた戦士長と、乾杯をするのだ。


「……なぁ、キミに、ボクの気持ちは、分かるかい? 分かるだろう、ボクはね、このうえもなく、不機嫌なんだよ、今ね」


 御用猫の隣で、横座りに足を投げ出すホノクラちゃんは、その、美しい唇を、てんてん丸のように尖らせるのだ。


「サンダーバードに名前を与え、今度は、戦士長殿と、名前の友情を交わしてしまったのですよね、なので、今まで、自分だけの特別なものであった、その関係が崩れてしまい、腹を立てている、といったところでしょうか……確かに、若先生は、すぐにあだ名をつける癖を、直した方が良いでしょうね、残念でしたね」


 行儀良く、ワインを舐めながら、リチャード少年は、ホノクラちゃんに笑顔を見せつける。


「ふふ、リチャード君は、大物になるよ、ボクが保証する……この森から、生きて出る事が、叶うのならね」


「もう、その眼は、通じませんよ、チャムさんに、眼鏡の呪いを、かけて貰いましたから」


 顔を寄せて睨み合う美形二人に、イリヤラインと、黒エルフの女性達が、黄色い悲鳴をあげるのだ。


(今回は、良い旅であった、本当に)


 蛍火に囲まれ、チャムパグンの頭を撫でながら、御用猫は、残りのワインを呷る。


 向こうでは、仰向けになったてんてん丸の腹の上で、サクラとくるぶしが、大の字になっていた、全く、底無しと思われていた、子供の体力も、ついに、空になったのだろうか。


「来年は、オーフェン達にも、見せてやりたいな、この祭り……そうだな、俺も、また呼んで貰おう」


「ふふ、良い考えだね、新たな祭りだし、賑やかなのも、また、おつ、なものさ……そうだね、うん、これは銀猫祭と、名付けようか」


「やめろよ、恥ずかしいから、あと、何で、手を広げてんの? 」


 分からないかい、と、距離を詰めるホノクラちゃんに、御用猫は、少年の援護を頼むべく、振り返るのだが。


 いつの間にやってきたものか、リチャード少年を囲む黒エルフの淑女達は、代わる代わる、彼の唇に、自らのそれを、押し付けていたのだ。


 何故か、イリヤラインも、その流れに加わっていたのだが。


 既に、ぐったりと、諦めてしまった様子のリチャード少年に、自らの未来を重ね、御用猫は肝を冷やした。


「後回しに、した分と」


 にっこり、と、満面の笑みで両手を広げるホノクラちゃんは。


「少し、欲張るとも、言ったはず、なのさ……まさか、この期に及んで、尻込みしたのでは、あるまいね」


「くっ、良いだろう、しかしな、ホノクラちゃんよ、野良猫が、いつまでも、やられっぱなしだと思うなよ? 」


 不敵な笑みを浮かべた御用猫は、両手を広げ、ホノクラちゃんを迎え撃つのだ。


 こちらから反撃すれば、大人しくなるだろうとの、御用猫の、我が身を削った作戦であったのだが、どうやら、それは、ホノクラちゃんを、悦ばせるだけの結果に終わりそうだった。


 彼らの真上を、呆れたように飛び回っていた、二つの蛍火であったが、ぱちぱち、と、焚火の気流に舞い上がり、再び、もつれ合う様に、天に帰ってゆくのであった。








亡き友と、新しき友に、古き友


手と手取り合い、輪になって


滑る銀盤、宴の皿よ



御用、御用の、御用猫










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