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お姫様は居眠り中

 空が明るくなり、鳥の声がどこか遠くから聞こえるようになったころにはノワールの歩みが遅くなってきていた。姫君は何度も自分の足で歩くと訴えたのだが、ノワールはその言葉を聞かず、姫君を背負ったまま歩き続けた。


 峰に手が届きそうなほど高く上るほどになってもノワールは姫君を背負い続けた。姫君はいつしか眠ってしまって、ノワールの耳元にかわいらしい寝息が聞こえる。

 全員分の荷物を受け持って先を上っているイザが、遅れがちなノワールを振り返り声をかけた。


「変わろう。お前は少し休んだ方がいい」


「いやだ」


 かたくなに前へ進もうとするノワールの前に立ちふさがったイザは眉根を寄せて尋ねた。


「なぜそんなに意固地になる。我々は力を合わせなければ黒き魔女に立ち向かえないだろう」


 ノワールはキッとイザを睨む。


「お姫様には触れさせない」


「なんだって?」


 イザはノワールがなにを言い出したのかと首をひねった。


「お姫様のことを簡単に忘れてしまうようなやつに、お姫様は渡せない」


「なにを言っている?」


「イザはなにもかも忘れてしまってるのかもしれないが、俺は忘れてないぞ。イザはいつもお姫様のことを見てた。お姫様の婚約が決まった時はお祝いにも出ず部屋に閉じこもってた」


「な、なにを言っている」


 ノワールの言葉にうろたえたイザが口ごもる。


「俺は二人が子どもだったころを知らないけど、俺が一番お姫様のことを知ってる」


 なぜかもわからずイザはいら立ちを覚えた。


「猫になにがわかる」


 ノワールはなにも答えない。


「姫君がどれほど純粋な魂を持っているか、どれほど美しい心を持っているか、猫になどわかりはすまい」


 ノワールは黙って姫君を背負って歩く。


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