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お姫様は背負われ中

 沼をぐるりと回りこみ、東に向かう。沼地のシダ類が減っていくと、硬い岩場が広がる。

 向かう先は高い岩山だ。拳大ほどの岩がゴロゴロしていて歩きにくい。ヒョイヒョイ進んでいくメルキゼデクから遅れ気味に歩く姫君の手を、イザが引きつつ先へ進む。ノワールはむっつりと黙り込んで最後尾を歩いていた。


 深夜に大樹に火をかけられて逃げ出し、そのまま沼地まで歩き詰めだったので睡眠が十分とは言えなかった。しかし広くもないエルキトワイルの家では全員が横になって休むことはできない。休みたいところだが、日も昇ってきて次第に辺りが明るくなっている。


「日が昇りきる前に、なんとか一つ目の峰までたどり着きたいが、どうかな」


 メルキゼデクがぽつりと呟き、後ろを振り返った。姫君は息をきらしていたが、強く頷くと足を速めようとした。


「ペースを崩しては、後ほど体がもたなくなる。無理はするな」


 イザはそう言ったが、姫君は逆にイザを引っぱるようにしてメルキゼデクに追いつこうとする。


「できるだけ早く進まないと、追手が来るかもしれないでしょう」


「それはそうだが……」


「俺が背負う」


 後ろから追いついてきたノワールがイザから姫君の手を奪い取り、姫君をさっと自分の背に乗せた。

 姫君は急に抱え上げられて驚いてノワールの背にしがみつく。イザがノワールの乱暴な動きに苦言を呈する。


「斜面で急に動くと危ないだろう。それに、女性の許しも得ずに体にさわるなどとは、あってはならないことだ」


 きつく睨みつけるイザの視線を、ノワールは無視して、さっさと歩きだした。


「俺は騎士なんかじゃないからな、ただの猫だ。それに、毎日お姫様に抱かれてたんだから、体に触るの触らないのなんて、今さらなんだよ」


「猫だった時と今では違うだろう」


 厳しい口調でノワールを咎めながら後を追いかけるイザの背中を見ながらメルキゼデクはゆっくりとついていく。


「俺はなにも変わってない。今も俺は俺のままだ」


 かたくなに前だけを見続けるノワールに、イザはまだなにか言おうとしたが、メルキゼデクに肩を叩かれて立ち止まった。メルキゼデクは軽く首を横に振り、ノワールを放っておいてやれと言外に伝える。イザは納得できないながらも黙って歩きだした。


 むっつりと黙り込んだノワールの肩越しに、姫君はノワールの表情を見ようと首を伸ばした。夜明け時の空の白さにノワールの金の瞳の輝きが映えて美しい。


「ノワール、なにか怒っているの?」


 ノワールは返事をしない。ただ、視線が少しだけ下を向いた。


「あなたは本当に、なにも変わっていないわ」


 姫君の言葉に、ノワールの顔はさらに下を向いた。


「いつでも大好きな、私のお友達よ」


 ノワールは寂し気に微笑んだ。


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