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お姫様はお急ぎ中 2

「さて。じゃあ、やろうかね」


 そう言うと、男は奥の部屋に行き、ロープとナイフを持って戻ってきた。姫君は小男がなにを始めたのかと興味深く観察する。

 小男は顔をしかめて肩をそびやかし、姫君にナイフを突きつけた。


「静かにしろ」


「はい」


 姫君は言われたとおりに静かに返事をした。男はあっけにとられたようでポカンと口を開けた。

 そこへ、二階から小さな声が聞こえてきた。


「おい、まだか」


 小男はあわてて口を閉じると、二階に向かって「下りてこい」と、こちらも小声で指示を出す。下りてきたのは、いかつい顔をした筋肉質の大男だった。

 大男は姫君をみるとニヤッと笑う。


「すげえ美人じゃねえか。こりゃ、高く売れそうだな」


「いいから、早く縛れ」


 大男はロープを受けとると、姫君の両手首と足首をぐるぐると厳重に縛り上げた。姫君はなにが始まったのかわからず、目を丸くしている。


「大人しいな。怖くて口もきけないってか?」


 姫君の顔を覗きこみながら大男が聞いた。姫君は大男を見上げて、少し考えてから答える。


「私は怖がった方がいいのですか?」


 あっけにとられた大男は小男に顔を向けた。


「変わった娘だな。こんなで商品になるのか」


「黙ってりゃわかんねえよ。それより、気を抜くなよ。男どもの一人は騎士だ」


 大男は鼻で笑う。


「ふん、こんなところをフラフラしてるような奴だ。まともな騎士じゃないだろよ。脱走してきたんじゃねえか」


 カタンと表から物音がして扉が開いた。ノブに手をかけたまま部屋の中の様子に気づいたイザの表情がサッと厳しいものに変わる。


「なにをしている!」


 迫力のあるイザの大きな声にも、男たちはニヤついてみせただけだ。


「近寄るなよ。このナイフが見えるだろ」


 小男が姫君の首の側にナイフを近づけている。後ろから様子を覗いたノワールが部屋に駆け込もうとするのをイザが押しとどめた。


「なにしてんだ、イザ! 助けろよ!」


 イザはノワールの言葉を無視して男たちを睨み据えた。


「女性を人質にとるなど、卑怯な」


「ああ、卑怯さ。卑怯なやつがなにを欲しがるか、わかるよな?」


 イザの眉間に深い皺が寄る。


「金か」


「ものわかりがいいねえ。有り金を全部カウンターに置け」


 イザはポケットからコインの入った革袋を取り出し、慎重に歩いてカウンターに置いた。


「そっちの男もだ」


「金なんか持ってない」


 今にも噛みつきそうな表情のノワールに、小男は「ケッ」と舌打ちしてみせて、イザに次の要求を突きつける。


「剣もカウンターに置いて両手を上げろ。そのまま動くな」


 言われたとおりに動きを止めたイザに大男が近づき、隠している武器がないかチェックしだした。小男がノワールに向き直る。


「おい、お前も手を上げて動くな」


「手を上げて、動くな。それだけでいいのか?」


 小男はノワールをバカにした様子で笑う。


「今はそれでいい。後で縛り上げてやるから大人しくしてろ」


「じゃあ、口は開けていいな」


 ノワールは両手を上げ、同時に口を開けた。途端に、ノワールの口から黒い靄が吹きだし、小男に襲いかかる。


「うわあ!」


 小男の叫び声に驚いた大男の隙をついてイザが剣を取り、柄で大男の眉間を強打した。大男は「グゥッ」と呻いて後ろに倒れる。


 黒い靄は小男を包みこむと、壁に沿って伸びあがり、大男も飲み込んだ。イザが飛びのいて靄から距離を取る。

 黒猫の姿に戻ったノワールは靄を操って男たちを部屋の隅に押しやった。イザは剣を構え、靄の中から男たちが出てくるのを警戒する。


 ノワールの口から伸びきった靄は、伸びた時の道をたどって縮み、ノワールにまとわりついて消えた。後には人間の姿になったノワールと剣をかまえたイザ、縛られた姫君、そして二匹の猫が残された。


「……猫」


 だらりと剣を下ろして呟いたイザの顔色が悪い。二匹の猫はキョロキョロと視線をめぐらせるとパニックに陥ったようで、ギャアギャアと鳴き喚きながら室内を駆け回った。イザは真っ青になって棒立ちのまま動けない。

 ノワールが急いで姫君に近づき、ロープをほどこうとしたが、ロープの結び方など知らない彼にはどうにもできなかった。


「イザ! これをなんとかしろ!」


 ノワールに呼ばれて、やっと正気付いたイザが駆け寄って姫君を解放する。


「大丈夫か、怪我は?」


 イザはてきぱきと姫君に怪我がないかをチェックしていく。戦闘だけでなく救護も職掌に含まれるのか、手際が良かった。


「すまない、危険な目にあわせてしまった」


 イザが身を引くと、ノワールが姫君の両手を取った。


「良かった、無事で」


 姫君は二人に、にっこりと笑顔を向ける。


「私、人質にされていたのね。貴重な体験だったわ」


 のんきな姫君の言葉に、イザはぽかんとした顔をして、ノワールは苦笑した。


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