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仮想世界のフォークロア  作者: 黒川零次&同居人
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◆アカモート襲撃戦

これはまだ、仮想で死体が残らず、草花を摘むことができなかった頃の話

『ミッションを説明します

 航空都市アカモート跡地、仮想空間に展開中の不明部隊を殲滅してください

 周知の事実ではありますが、アカモートは旧時代のレリックです

 サルベージすることで得られると思われる技術、資源は現在のものでは再現不可能です

 我々シンジケートは対話を呼びかけ続けていますが、依然として彼らからの良き返答はありません

 その為、本意ではありませんが強硬手段にでることとなりました

 あなた方には前準備として不明部隊を排除、東西南北の四方から一斉攻撃を仕掛けていただきます

 なお、不明部隊の主戦力であるランク591・ツァウヴァクゥゲル

 及びランクアウト・シャドウゲイルは確認されていません

 後方の警戒、心配の必要はありません

 存分に敵を排除してください』


 果ての無い仮想の海に浮かぶ白い島。

 かつて大空を駆けていたと言われる都市の仮想での姿だ。現実での座標は不明、仮想空間ではどのエリアにも属さない広大な中立エリアに浮かんでいて、海流に乗って、ときにはエンジンを使って流れている。

 いまは付近に足場となる構造体が存在しないため、曳航してきたフロートの上に南側を担当する彼らは立っていた。


「ミッション内容はいつもどーりかぁー。ばんっと目標だけで具体的なプランがない、動きやすくていーねー」

「むしろ上がそういうプラン作りをサボったとも言えるんじゃないか」

「おいおい、あんたそういう言い方は……そういや、あんたのコールサインは?」

「コールサイン・スコールだ。今回のミッションはそちらのメンツが多いみたいだが」

「ま、俺たち傭兵集団ですから」

「そうか」

「あんたは?」

「フリーランス。第一世代ファーストで使用機体も第一世代ファースト機。軽量二脚型ヴェセル、追加エンブレイスはトルネード。コンバットパターンは遠距離からのマイクロミサイル攻撃と接近してからの高機動格闘戦が主だ」

「随分といい装備してっけど、もしかしてランカーさんか」

「ランク外、ランクアウトの雑兵にすぎんさ」


 フロートの端に座り込んでいたスコールが雑草をむしり取ると、それはエラーとして再現処理が停止しデリートされていく。


「これから先、異知性体、AIが人を知れば仮想は変わる」

「?」

「さあ、任務開始だ。西側の三十機はこちらで貰い受ける、残りはそちらで頼む」

「三十? 一人でやりきれる数じゃないだろ」

「西の敵機はアイシリーズ、安価ながら汎用性の高い偵察機だ。有人機ではないぶん楽にやれる。東側はアサルトシリーズが四十、武装の換装が容易な全エリア対応型の戦機。数が多ければ厄介だがそちらには人数がいる、やれるだろう」


 いうなり手を横合いに伸ばし"ストレージ"から人型戦闘兵器・ヴェセルを顕現させる。フロートの面に沿って展開されたグリッド、そこから上に五メートルほど四隅からグリッドが伸び、グリッドで覆われた直方体を創りだし鋼鉄の巨人が姿を現していく。

 ほっそりとしたシルエットでどこか狼を思わせるような鋭さを持ち、人型でありながら頭と手足は獣のそれだ。足裏の駆動輪や背面のブースター、各所のスラスターは有るがあくまでそれは陸上で高速戦闘を行うためのもの。海上や空中の戦闘向けのブースターは備えていない。

 そのためその欠点を補うための追加装甲、エンブレイスを顕現させる。ほぼ黒に近い青の機体に同じ色のエンブレイスが装着される。トルネードと呼ばれるそれは軽量機に空中での高機動戦闘を提供する追加装甲だ。カテゴリーとしてはオプション兵器のフライトユニットになる。装甲としてはないよりはマシ、という程度であり、追加の武装やジェネレーターを取り付けるソケットすらない。


「こっちはヴェセル、そっちはシェル。使用する機体スペックが違う以上は多少の遅れは許せ」

「スペックつうか、あんたそれこないだ出たばかりの脳波制御型! 最新式じゃないか!」

「ヴェセルは乗り込んで操縦する、つまり認識してから操作、動きまでにラグがある。それはどうやっても自分の身体を動かすほどのラグと同等に縮小することはできん。そのぶん自分の身体を変換するシェルは認識から行動までのラグは本人次第だ。古い新しいよりも内部の処理だな」

「いや、でもな」

「話しは終わりだ。潰しに行こう、時代遅れの兵器を」


 背面からコックピットに滑り込んだ彼は、コックピットが閉まり切るのも待たずに機体をふわりと浮かばせ、次の瞬間には轟音を響かせて音速で飛んでいった。トルネードのデメリットは紙装甲、言い換えればとても軽く飛行特化型の専用機ということ。燃費・加速性能だけであれば上位百位に入り込めるほどだ。

 "あたらない"を前提とした高機動戦闘が行えるのならば、そこそこの数が相手でもヒット&アウェイで削り切ることもできてしまう。


「すげぇ……」

「ほら恭介、私らも行かないと」


 バンッと背中を叩いた少女は肩ほどまである茶色い髪を風に揺らしながら目標地点を見ていた。


「はいはいっと、朱里。みんな、準備良いな?」

「うっす」

「あいよー」

「おぅっし」


 リーダー格の来未恭介。

 メンバーでは唯一の女性にして最年少の木南朱里。

 体格のいい体育系の秋枝浩太。

 後方サポート担当のゆるーい感じの倉木悠真。

 工作担当の上条才木。

 年は16から22とかなり若いメンバーではあるが、すでに戦闘の技能は訓練を受けた兵士を相手に互角程度に戦えるほどだ。一応形だけではあるが各々の担当が決まっており、とくに何もないときはその担当を軽く意識して行動を行う。


「そんじゃ行きますか――オープンコンバット!」


 揃ってムーブプロセスを呼び出して空中に移動すると同時にシフトプロセスを呼び出す。

 身体のすべての感覚が鈍くなり、溶けるような違和感と共に存在の情報が拡散して広がっていく。それはグリッドによって区切られた空間の中で五メートルクラスの人型兵器として再構成される。

 人という存在を兵器にシフトさせる戦闘用のプログラム。

 乗り込んで操縦するヴェセルとは違い、人そのものを変換しているため自分の身体を操る感覚で動けるという利点がある。こちらはシェルと呼ばれ仮想空間の戦闘では主役の座を奪い取りつつある兵器だ。

 仮想では戦闘機や戦車といったものはまだ使われてはいるが、徐々にその立場はなくなっている。

 彼ら五人が飛び立っていくと、遅れまいと残りの傭兵たちも次々と鋼鉄の巨人に成り代わって仮想の大空へと飛翔する。それは下半身が無限軌道であったり、四脚であったり、逆関節であったり、はたまた十メートルクラス以上の巨体であったり。


「どうせもうこっちをロックし終わってる頃だろう、交戦距離に入り次第撃つぞ」

「アイシイーズ。あんのでけぇアイカメラ乗っけた目玉野郎か」

「二メートルクラスだ。白兵戦でもなんとかできないことはないが、安いから数が多いのが難点だな」

『こちらスコール。目標確認、増援含めて六十機。…………っ、ミサイルが足らんな、これは』


 ブースターを吹かして時速五〇〇キロで目標地点に向かっていると、電子戦装備満載の倉木の機体が真っ先に敵を捉えた。まだ目で視える距離ではなく有効射程外でもあるが、相手の武装を把握できる利点は大きい。


「敵確認、目玉だけのリコン型に足と翼をつけたやつだ」


 形としては某ファンタジーに登場する空飛ぶ目玉のアイツから尻尾を取った感じか。

 五機で一編隊、それが二つ。


「パイロンには四〇センチマイクロミサイル、上と下両方にある。……十八発だな」

「機銃は?」

「見当たらないな……上条、近づいたらチャフとフレアを散らせ」

「了解。赤外線とホーミング誘導か?」

「赤外線、ホーミング、シーカー。どれもこれも対応できる」

『こちらスコール。目標、残り五機』

「はやっ、負けちゃいられねえ。一気に仕掛けるぞ!」


 恭介が両手にブレードを顕現させ、彼を先頭にミサイルの射程に突っ込むと斉射の嵐が襲い来る。一機当たり十八発のミサイルを搭載し、十機からの斉射で総計百八十ものマイクロミサイルが飛来する。通常のミサイルと違ってかなり小さいがミサイルはミサイル、当たれば"機体=自分の身体"が弾け飛ぶ。


「才木! 倉木さん!」

「あいよっ!」

「ほいっと」


 皆がばらばらに動き、上条の機体からは搭載したフレアが天使の翼のように溢れ出しミサイルを引きつけて明後日の方向に連れていき、ばら撒かれた金属片の壁にでたらめな軌道でミサイルが飛んでいき、倉木の電子支援によって目標を見失ったミサイルがただまっすぐに飛んでいく。


「終わりか?」

「解析完了、他の武装はない」

「よぅっし墜とせ!」


 大きな目玉が特徴の不気味な無人兵器。カラーリングは草色のそれに距離を詰めるとブレードで一刺しして、ブースターを吹かして一気に距離を開ける。

 即座に爆散したそれは瞬く間に処理エラーとなり存在した跡すら残さずにデリートされていく。

 もう一度ブレードで貫こうと次の獲物を探せば朱里たちがアサルトライフルを二丁持ちで包囲しながら殲滅していくところだった。

 量産型の安物ということもあり二、三発撃ち込んでしまえばそれだけで爆散していく。

 会敵からわずか十秒足らずで二編隊を撃墜し、他の場所でも傭兵たちが戦闘を終わらせていた。有人機や大型機がいないと一方的な戦闘となるのは今のご時世では当たり前だ。


「なんだよ、もう終わりか?」

「終わりでしょう。我々の受け持ちは南方面のみ、レポートはいつも通り仕上げておくから帰投しようか」

「倉木さん、なんか今回の依頼、簡単すぎやしません?」

「不明部隊の殲滅とはあるが、どういう話なのかさっぱりだな」

「傭兵の仕事ってのはそうものじゃないんですか? 必要以上の情報は知らせないし、あたしたちも知らなくていいっていうやつ」

「そうだな、とりあえずこれで仕事は終わり。さっさと帰って報酬を貰うとしよう」


 激戦を予想して来てみれば、実際は小型無人機を相手にするだけ。これでは大した利益にならない。弾代、仮想での処理リソースの利用料、通信費、ほかにも色々と掛かる。


「なんともまあ呆気ないミッションだったなぁ」


 あっという間に収束していく戦火を名残惜しそうに眺め、仲間たちと並んで戦線から飛び立っていく。


『こちらスコール、残弾無し、近接武器破損、戦線を離脱する』

「……? 終わったんじゃ」


 ふと振り向けばアカモートの北側で青白い爆発が起こり、それは次々と傭兵を撃墜しながら西側と東側に別れこちらに迫ってくる。


『不確かな情報を提供してしまい申し訳ありません

 次世代ネクスト機の反応を感知

 アカモートの所属機、ランク112・山猫リンクス

 及び所属不明機、ランク1・調停者ミディエイターです』

「くそっ、いい加減な情報を!」

「シンジケート、追加報酬を要求する。ダメならば違約金を寄越せ!」

『こちらアカモート、オペレーターだ

 周辺でドンパチやってる阿呆共、まとめて撃墜してやるから覚悟しておけ

 以上、通信終了』


 破壊の波が勢いを衰えさせることなく、不明勢力と傭兵のどちらも見境なく吹き飛ばしながら津波のように迫る。


「うぉいうぉいおいおいおいおいぃぃぃっ!!」

「倉木さん、どうにかできない!?」

「ムーブプロセスを起動する。朱里、恭介を掴んでおけ、みんなリンクを離すな」


 破壊の波に呑まれる寸前で彼らの姿が瞬間的に消え、遥か上空に出現していた。仮想空間だからこそできる瞬間移動だ。


「あれがランク1……」

「おかしいな」

「どうした倉木?」

「ランク1・調停者は複数勢力の入り混じったとき、そして戦闘規模が一定以上のときにしか出現報告が上がっていないんだ」


 見下ろせばアカモートの周囲を一掃するように動いた破壊の波の源、二つの機影が到底追いかけることの敵わない速度域で凄まじい戦闘を繰り広げていた。


「あれが次世代機……」

「我々第一世代の次の世代、第二世代ネクストの操る新型機。あれを見て分かる通りランク上位はすべて新型で埋め尽くされている。今回は命拾いしたな」

「倉木さん、ありがと。そんじゃまあさっさとログアウトしようぜ、みんな」

「恭介! お前がリーダーだ。リーダーならば慌てずに指示を出せ、いいな?」

「は、はいっ!? く、倉木さん?」

「お前が一番慌ててどうする? いざというときくらいきちんと指示を出せるように冷静でいろ」

「す、すんません……」

「うむ。いつも通り、あとの処理はやっておく。お疲れ様」



黒川&同居人の提供でお送りします

男二人ということで荒っぽい話メインになります

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