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仮想世界のフォークロア  作者: 黒川零次&同居人
3/15

◇時代遅れのブービートラップ?

「ほら、見えてきた」


 しばらく道沿いに歩いたあと、緩い坂を上ると寮が見えてきた。

 塀に囲まれた中に、いまどき珍しい木造建築だ。

 このご時世、どこに行っても鉄筋コンクリートだのモルタルだので、

 木を使った建物なんてお寺や神社くらいのものだ。


「鈴那ー、お客さーん」


 レイアちゃんが呼ぶと、塀の向こう側から若い女性の声が返ってきた。


「はーい。入って待っててー」

「さ、入って、入って」


 寮の敷地内に二人そろって押し込まれる。

 二メートルもの高い塀の外からでは見えなかったが、自転車置き場や小さいけれど畑まである。

 そしてなにより目を引くのが、少し開けた場所での木刀を使った打ち込みの練習だ。

 いまどき剣道・・・なんて古臭い。

 と、思っていたら、よく見れば防具は一切付けてないし、動きも剣道のそれとは違う。

 これはまるで・・・殺陣と言うか、競技ではなく実際の戦闘を想定したような動きだ。

 しかも、男子よりも女子の人数が圧倒的に多い。

 比率で表すなら男1に対して女9だ。


「こーら、そっちは見なくていいから」


 見入っているとレイアちゃんに引っ張られて寮の玄関まで連れてこられた。

 目の前には木造二階建て、それなりの大きさの建物が一軒。

 飾り()っ気()()ない()()ザイ()()だな。

 でもなぜか古臭いとは思えない。

 むしろなんだろうか、要塞とかを見た時と同じような感じだ。


「なあ、アキ。これって築何年だと思う? もしかして前世紀の遺物レリックか?」

「あほ。そうだったらこんなに綺麗じゃ、いてっ!」


 レイアちゃんに叩かれた。

 不服そうな顔だ。


「この寮をそんなに甘く見ないほうがいいよ」


 その華奢な身体で軽やかに飛び上がった。

 そして寮の壁に思い切り蹴りを叩き込んだ。

 響いてくる音は全然、木の音なんかじゃない。

 金属と合成樹脂の硬質な音だ。


「「うわ・・・・・・」」


 なんでごく普通の寮なのにそんなに頑丈な素材が・・・・・・。

 いや、寮だからか。

 寮生のおふざけで壊れたりして修理しないでいいように。


「しかし・・・趣味的だな」

「鈴那の提案だからね。こういうのってなんか落ち着くから」

「その、鈴那さんって?」

「ここの寮長だよ」


 寮長さんかぁ。

 さっきの声も若い声だったし、美人さんだったら俺の隣の盗撮野郎が・・・。


「てかさ、さっさと入ろうぜ」


 雅也が入口へと足を運ぶ。


「・・・・・・?」


 突っ立ったまま何もしない。

 なにやってんだか。


「・・・・・・なんで開かないんだ、このドア?」

「それ、手動式」


 レイアちゃんがさっと一言。

 これまた・・・・・・いまどきどこも自動ドアなのに。


「お邪魔しまーす」


 中もやっぱりというか、外の見た目通り古風な見た目だった。

 でもそれは途中までだ。

 奥のほうは改装中なのか無機質な金属の内装がむき出しだ。


「なんだ、なんか匂いが・・・」

「妙に鼻にくる匂いだな」

「えっ?」


 レイアちゃんが靴を脱ぎ捨てて、走って行った。

 なんだろうな、胸焼けしそうな・・・・・・というかだんだん体がだるくなってきたぞ。

 匂いじゃなくて臭いだ。


「ちょっと白! なにやってんの!?」


 奥のほうからレイアちゃんの叫び声が聞こえてきた。


「お前ら何作ってる!!」

「おいおい、今日の料理当番は・・・ていうかマジでなんだこれぇぇ!?」


 さらに男子の声が聞こえてきた。

 なにやら相当なものを作っているようだ。

 なにができているのかは知らないが、ここまでの反応で食いたいものではないな。


「まず!」

「逃げて!!」

「あっ、これアカン・・・」


 ドサッと誰かの倒れる音がして、レイアちゃんが出てきた。

 出てきたその部屋からは紫色の煙がもくもくと・・・もくもくと・・・毒?


「な、なあアキ。これって」

「言うな。それから先は言っちゃいけない」


 しかしなぜ紫色の煙が?

 普通に料理していても白い煙だろ?

 完全に焦がしたところで灰色が限度だよな?


「あずさー、なんとかして」

「もう、しかたないなー」


 別の女の子とレイアちゃんが再び毒が出ている部屋へと入っていく。

 そしてその女の子を見た瞬間、俺は靴を脱ぎ捨て、部屋へと駆けていた。


「なんであいつが!?」

「あ、おい!」


 廊下を走っちゃいけない、その考えは今は俺の頭から消えていた。


「なにやったらこうなるのよ」


 あいたドアの向こうから彼女の声が聞こえる。

 その声に吸い寄せられるように俺は部屋へと入ってゆく。


「ねえ、白月さん。いったい何を作ろうとしてこんなことになったの?」


 その部屋は台所だった。

 髪の長い子が不愛想な男子と彼女にお説教を受けていて、もう一人の髪の白い男子は床に倒れ伏している。

 そして、


「黙ってちゃわからないよ、怒らないから。ほら」


 懐かしい姿に、昔に戻ったような感覚を受ける。

 俺は彼女の後姿を呆然と見つめ・・・・・・。


「もう仕方ないなぁ、とりあえず掃除を・・・」

「あずさ・・・?」


 絞り出すように声を出すと、彼女の動きが止まった。


「え?」


 振り向いたその顔は忘れもしない。

 間違いない。

 幼馴染の山吹(あずさ)


「アキ・・・なの?」

「あ、ああ。・・・そうだ」


 なんだろう。言葉がうまく出ない。

 あれきり会ってなかった。

 そしてもう会えないと思っていたからなのか?

 梓は何も言わない。

 俺のことをじっと見ている。

 今にも泣きだしそうだ。


「アキ・・・」


 あ、これは・・・。

 と思ったときには梓は俺に抱き付いてきた。

 俺の胸に顔を当てて、肩を震わせて、そしてついに泣き出してしまった。

 昔と変わらないな。ほんとに大袈裟というかなんというか。


「おいおい、泣くなよ。大袈裟だって」


 反射的に抱きしめたものの・・・なんというか、どういう反応を返していいのかわからない。

 でも、あの頃よりも、梓はいつの間にかこんなのも成長したんだな、ということがわかる。


「ぐすっ・・・・・・」

「まったく、いつまで泣いてんだよ」


 何の気なしに言って、ちょっと胸にぐさりとくる。

 俺にとっては幼馴染であり、親友であり・・・。


「そこのラブラブのお二人さーん、そういうのは後でやってもらえますかー」


 レイアちゃんに生暖かい目で見られている。

 ほかの二人にもだ。

 これは気まずいな。

 というか、最も見られたくないやつが後ろに。


「おい・・・まさかアキ!? おま、おまえ、そ、その子は」


 ばっと抱擁を解いて、振り返る。


「あ、雅也! あ、えーと、この子はだな、俺の幼馴染でだな」

「ということは彼女か!? 俺は・・・俺はぁぁぁ!!」


 勝手に叫び始めた。

 こいつは放っておいてもいいな。

 というかそんなにショックか?


「こんなヤツに後れを取ったのかぐふぉ!?」

「うるさいんだけど」


 レイアちゃんの跳び蹴りで一撃の下、撃沈!

 自業自得だな。

 ・・・いや、可哀想だとかは思わないよ。

 さっきの一言があったからな。


◇◇◇


「私が寮長の如月鈴那よ」

「どうも、俺は狼谷影秋です」


 広い畳部屋に移動してから、寮長さんとの会話。

 俺の隣には腹を抑えたまま蹲っている雅也がいる。

 よく響いたようだ。

 破裂はしていない。


「で、そっちは?」

「えっと・・・俺の友達で、倉岡雅也っていいます」

「ど、どうぞ、よ、よろし、く」


 さっきのがだいぶ応えているみたいだな。

 というか、あの体格差で・・・。

 中学生くらいの女の子のレイアちゃんが、学園生男子の雅也にこれほどの大ダメージを与えるとは。


「で、寮長さん。空き部屋のことなんですが」

「空き部屋はたくさんあるから、好きなとこ選んじゃって。

 それと私のことは鈴那と呼ぶように」

「適当ですね・・・鈴那さん」

「さんづけ禁止よ。そして堅苦しいから敬語もなし!」


 なんだろうな。

 いきなりフレンドリーに話せって言われてもな。


「・・・わかったよ、鈴那」

「そう、それでいいのよ。で、隣の彼は・・・」

「こいつは俺が何とかするんで」

「うん、じゃあよろしく。私はこれから出かけるから、用があったらレイアちゃんに言ってね」


 鈴那はさっと立ち上がると、畳部屋から出ていった。

 さて、俺もこいつを運ぶか。

 雅也を無理やり立たせて部屋から連れ出した。

 廊下に出るとちょうど外で打ち込みをしていた人たちが部屋に戻り始めていた。


「な、なあ、アキ。俺の内臓は破裂してねえよな」

「知るかよ。ていうか自業自得だろ」


 俺は空き部屋を探すためにちょうど近くを通った女の人に声をかけた。

 癖のない艶やかな黒髪がふわった揺れる。

 打ち込みをしていた人たちとは服装が違うな。


「あの、すみません。空き部屋は・・・え?」

「アキ?」

「えっ、桐姉ぇ・・・」


 なんだろうな、転居先で懐かしい人に、それも二人も会えるなんて。

 彼女は従妹の桐恵。

 苗字は違うし、血縁も遠いけど、昔は一緒に暮らしていた。

 あのつらい家庭で。

 俺たちは他に誰もいなくなった廊下でしばらく見つめあっていた。


「・・・そろそろ俺も紹介してくんない?」


 こいつを紹介してもいいのだろうか。

 さきの一件もあることだし。


「室井桐恵・・・よろしく」


 と思っていたら桐姉ぇが雅也に握手した。

 そして雅也は一目ぼれのような感じでぐへーとした表情で・・・。

 もうダメだこの変態。

 放っておこう。


「ねえ、空き部屋はどこにあるの?」

「ネームプレートがない部屋は全部空き部屋」

「・・・また適当な」

「んーー、眠い・・・さよなら」


 桐姉ぇはそのまま俺たちをおいてどこかへ行ってしまった。

 これは相変わらずだな。

 昔からいつも眠そうな感じで。


「ず、ずずず、ずいぶんな美人さんだぁ!」

「桜都学園電子工学科xx番」

「へ?」

「学生リストを見てみろ。お前には高根の花だ」


 こういうのは早いうちに絶望と手を出せるものではないこととを知らしめて諦めさせねば。


「さっさと調べてみろよ」

「あ、ああ」


 雅也は目を閉じた。

 俺たちはいつでもネットに接続されている。

 どこででも情報の検索は可能で、アクセスするときは目を閉じる人もいるしそうでない人もいる。

 

「マジで!?」


 うんうん、いつもみんなこういうリアクションをするんだよ。


「成績トップでしかもウィザードなのか!? それも特別級の!?」

「あんな見た目でも、な。もういろんな企業から学生なのに仕事の依頼が来たりしてるんだ」

「す、すげえ。ソーサレスかよ」

「そう。天才だよ」


 桐姉ぇは昔の宣言通り、学園の一番いい学科に入って現在はソーサレス(ウィザードのことで女性の場合に使われる)としていろいろやっている。


「つか、部屋を探そうぜ」

「そうだな」


 俺たちは寮の探索を開始した。

 住む部屋と寮の中を知っておかないとな。

 ネームプレートのない手近な部屋を開ける。


「・・・・・・」

「物置か?」


 暗くてよく見えないが、箱とかで一杯なのはわかる。


「手分けして探そう」


 そうして俺たちは空き部屋を一つすつ確認していったけれど、


「だーめだこりゃ、どの部屋も使われてんじゃん」

「でもネームプレートはないし・・・つまり空き部屋ってことだろ?

 前の人が荷物を置いたまま引っ越したのか?」

「いや・・・引っ越しよりか、急いで出ていった。そんな感じじゃないか?」


 近くの部屋のドアを開け、中を見る。

 コンロの上には鍋が置かれたまま。(なぜか共用の台所があるのにそれぞれの部屋にもキッチンはある)

 机の上には飲み物の入ったままのコップや、開きっぱなしの本がそのまま。


「・・・確かに。それに変だよな、男子の数が異常に少ないなんて」

「だよな・・・」


 部屋のドアを閉めて再び廊下を歩く。


「まさか、男子が揃いも揃って覗きでもして、ってことはないよな?」

「あるわけないだろ。・・・・・・いやでも、俺たちの寮と同じことがあったとしたら?」

「・・・あり得るな」


 昨日の不正アクセスは殆どが男子だった。

 堅苦しい勉強ばっかで、それが終わって羽目を外すのは女子よりも男子が多い。

 ならば、この寮も同じことが言えるんじゃないか?

 やりすぎでお縄になった先輩たちの姿が脳裏によみがえる。


「んなっ!?」

「どうした?」


 ある部屋の中を、少し開いていたドアから覗き込んだ雅也が固まる。

 俺もなんだろうと思って、中を覗き、同じように固まった。

 中には壁一面のモニターとサーバールームのようにラックに積まれた機器がたくさん。


「「・・・・・・・・・」」


 俺たちは二人そろって絶句していた。

 これだけの設備がなぜ普通の寮においてあるのか?

 そして、そこらの企業が抱えるような機器とは比べ物にならないほどに高価なものばかり。


「こんなの見たことないぞ・・・」

「これって・・・AS社の最高級品だよな」

「おいこれ」


 雅也が鉛色の小さな箱状のモノを見せてきた。


「・・・軍用モデルじゃないか」


 それを手に取って眺める。

 表面には俺たちの住んでいる国、桜都の象徴である桜の模様が刻まれ、側面には接続口がついている。

 コンピューターの記憶装置だな。


「・・・・・・」


 超高級な機器で埋め尽くされた部屋。

 薄暗さは外とは別の世界であるかのような錯覚を引き起こす。

 どことなくグレーゾーンに引っ掛かりそうな・・・。

 いや、間違いなくブラックだ。

 なんでこんなところに軍用モデルの対電子機器用のパルス発生装置まである?


「証拠隠滅用の装置か・・・この部屋の主は・・・」

「遊び半分のハッキングとかじゃねえな。・・・繋いでみるか」


 俺が首筋に手を当ててコネクタを開く。

 これは脳に埋め込むチップ同様に、首裏のもっとも神経系が集中する部分に埋め込まれた機械との接続口コネクタ

 これが直接神経に電気信号を流して、脳内のチップとやり取りをする。

 まあ、某アニメとかで仮想世界に入るためにHMDをつけたりするだろう。

 それと似たようなもんさ。

 そしてケーブルを繋ごうとした瞬間。


「なに勝手に人の部屋に入ってるの」

「「!!」」


 咄嗟に手に持っていたものをポケットに押し込みながら、ゆっくりと後ろを向く。

 振り返ればレイアちゃんがいる。

 そして手にはライフルの形をしたものが。


「見られたからには・・・」


 その銃口が俺たちに向けられる。

 ライフルの形をしたものじゃなくてそのまんまアンチマテリアルライフルだ。

 ものほん。

 槓桿を起こし、後ろに引く。

 ガチャンと音がして弾薬が装填される。


「さようなら、お二人さん」


 さっきまでの明るい表情とは違って、感情の一欠片もない昏い表情。

 そして引き金が引かれ、俺たちは青春の春の日、死んだ。


「テメェらなにやってんだ!」


 ってことはなかった。

 レイアちゃんの後ろから不愛想な男子が寄ってきて、一喝。


「ひっ・・・・・・」

「さて、お前ら三人、ちょっとそこに正座」


 部屋から引き摺りだされ、廊下に座らせられる。

 不愛想な男子の手際はよかった。

 レイアちゃんからライフルを取り上げ、すぐに弾倉を外して排莢。

 セーフティーをかけてそっと壁に立てかけた。


「で、なんで勝手にあの部屋に入った? 

 まあ、そこの二人は知らなかっただろうからわからんでもないが、

 レイアに関しては・・・・・・」

「ねえちょっと待って、わたしだってこの二人が」

「だからって精密機器のある部屋で対物ライフル使おうとするのは、なぁ?」


 俺たちに視線が向けられる。

 どうやら意見を言えといいたいらしい。

 だったらちょっとひねくれた答えでも出してやるか。


「そうですね。俺たちが撃たれたとしたら、飛び散った肉片とか血液とかでもっと大変なことになりますね。それに跳弾で部屋の中がメチャクチャ大変なことになりますよ」

「だ、そうだが。何か言い分はあるか? レイア」


 完全に委縮しきっている。

 朝の活発そうな見た目が嘘のように消えて・・・。


「ぅ・・・・・・」


 なんか可哀想だな。


◇◇◇


 その後三人仲良くお説教を受け、罰として晩飯の買い出しに出されるという・・・。

 いや、これくらい済んでよかったよ。

 寮生全員分のレトルト食品を買って運ぶという重労働で。


「ああ、幸せ。久しぶりにごちそー」

「桐姉ぇ・・・これレトルトカレーなんだけど」

「ここ、料理は当番制。あの人以外のはあんまり美味しくない」


 そう言って俺たちにお説教をしてくれた男子寮生に顔を向ける。

 ここの寮では朝昼晩の食事は大広間に集まって食べるのが基本らしい。

 でも・・・なんというかこれは女子会だな。

 明らかに男子の数が少ない。

 ほんの数名の男子たちは隅のほうに卓袱台を置いて集まってるし、

 俺たちも真ん中のほうに行くのはなんか嫌なので端っこのほうにいる。

 それにしてもなんでこんなに男女比率に偏りが?


「ねえ、なんでこんなに男子の数が少ないの?」

「・・・・・・」


 直球すぎたかな?


「ここ、もと女子寮だから」

「ほんとに?」


 それにしてはおかしい。

 さっき部屋を見てわまったときも男子の部屋と女子の部屋は同じ数だった。

 人のいない家具だけの部屋も、おいてあったものからして殆ど男子部屋だったし。

 ほんとに元女子寮なら設備の年季がほとんど同じだってのもおかしい。

 まあ、常にうっすらと香水のような甘い匂いが漂ってるとことを見ればそうとも言い切れないが。


「なんで、そんなことを気にするの?」

「えっと・・・・・・」


 言葉が詰まるなぁ・・・。

 隣の変態に助けを求めるか。


(おい、雅也。なんかないか)

(だったらまかせとけ)


「あの、知ってるでしょうけど、俺たちのいた寮って先輩の不正アクセス騒ぎで潰れまして。

 んでそのときに参加してたのが男子生徒が多かったもんで」


 助け舟・・・ではあるがド直球なこといいやがるな。


「こいつ、心配なんすよ。ここも同じように潰れないかとか。

 桐恵さんもウィザードだって聞いてるんで、まさかそんなことやってないかと」

「私も心配。あなたたちがグレーゾーンに入ってるんじゃないかと」


 逆に言い返され、

 急にポケットの中のものが存在感を増す。

 どさくさに紛れて持ち出してしまってそのまんま、

 俺のズボンのポケットに入っている。

 ば、ばれてはないはずだ。


「だ、大丈夫ですよ。俺たちにはそんなことする勇気はありませんし、アキだって根は大真面目ですから」


 すかさず雅也が俺をたたいてくる。


(パスだ、墓穴は掘りたくねえぞ)

(おい・・・・・・)


「あははぁー・・・・・・」


 笑ってごまかすしかないよな?

 でも視線が痛い。


「まあこれはこれで、いい」


 なんとかなっちゃった!?


「そ、そんなことよりさ! 部屋、どうする?」


 これはナイスだ。話が途切れたところで急な話題転換。


「お前はどうすんだよ」

「俺は二階の端っこにする。隣も空いてたぞ、来るか?」


 へぇ、隣ねえ。冗談じゃねえよ。

 こんな盗撮野郎の隣だと変な疑いをかけられるという事故のフラグが丸見えなんだよ。

 それに隣だと音が聞こえてしまうだろ。

 健全な青少年としては、な。

 いろいろ気まずい。


「やなこった。お前が二階なら俺は一階の部屋にする」


 レトルトのカレーを口に掻き込んで、手を合わせる。


「ごちそうさま」


 そのまま勢いよく立ち上がって大広間から、廊下にでる。


「さて、部屋はどうするかな」


 廊下を歩きながら部屋を見る。

 一階は一階で人気があるのか部屋は埋まっている。

 やっぱだめか?


「109・・・108・・・107・・・106、空き部屋発見と」


 ドアを開けて中に入ると埃まみれの灰色の部屋が・・・。

 さっき一階にすると言った手前、ここ以外はないしな。


「はぁ・・・まずは掃除か」


 こうして俺たちの新しい寮での生活は始まった。

 なんかあやしい寮だけど、これから先大丈夫かな? 



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