君とあの子と反省会。
駆け込み乗車は危険ですので止めましょう。
ーー扉が閉まります。ご注意ください。
電車が発車するアナウンスが流れる中、1人の少女が駆け込んでき
「瑠花!?」
「菫先輩!?」
駆け込んできたのは、後輩の津村瑠花だった。
「あれ、今日部活は?」
「あの…実はサボっちゃったんですよ」
「あー…だよねー」
彼女は今日は本来陸上部の活動があるはずだが、部活をさぼって、友人である浜崎琴乃ちゃんと話しているのを私は目撃していた。琴乃ちゃんと私は以前から知り合いだったが、瑠花と琴乃ちゃんは最近知り合ったばかりだった。それにもかかわらず、同い年で趣味が合うので急激に仲良くなったのだ。楽しそうな空気に声を掛けられず、羨んだまま一人帰ってきたところだったのに。偶然に喜ぶべきか、悲しむべきか。
「さっきめっちゃ楽しそうに話してたよね」
「そうなんですよ!何だか最近は部活より琴乃ちゃんと話しているほうが楽しくて。」
自分から話を振っておいて、言葉が刺さる。部活より楽しいって言われるって何。私の方が付き合いが長いのに。だめだ、抑えなきゃ。普通に返答しないと。
「あら…まぁ大会まで時間がないわりに危機感が持てないもんね」
「やんなきゃなとは思ってるんですけどね。」
私も現役時代はそういうこともあっ…ないな。
でも、勉強に打ち込めていない今の自分には、叱る資格がないように感じてしまう。
「いつも何を話してるの?趣味の話?」
「それもあるのですが、他にも色々雑談をしてますね」
「あー琴乃ちゃん、瑠花ちゃん大好きなの!って言ってたもんな」
「そうですね。可愛がっていただいています。」
「そこで敬語」
「何と無くです。笑」
自分で言い出したのに傷付いて、誤魔化すように話してしまう。私の方が昔からずっと可愛がってるのに。思い出だってあるのに。私と話しているのは琴乃ちゃんより楽しくないのかな。認めたくないけれど、考えてしまう。琴乃ちゃんが関わらない話…やっぱり部活。
「部活…どうしたらいいですかね。」
ちょうど同じタイミングで、瑠花が話を振ってきた。
「やる気ない空気があって、それを見ているとますますやる気が無くなってきてしまって。」
「それは辛いね。やる気無い人に頑張ってという気は無いからな」
「今は琴乃ちゃんと話している方が楽しいというか。なんか、部活の同輩より、先輩方や琴乃ちゃんのほうが話しやすいんですよね。」
「確かに私も年上と話すのは楽かなー」
「楽とは違いますけどね。気を遣いますし、反省は多いです。」
「私は誰と話しても反省するよ?返答間違えたな、とか。」
「それじゃ人と話せないじゃないですか」
「いや、話すのは好きなんだ。反省するだけで。」
「そうなんですか笑」
そんな風に話しているうちに駅に着く。
ここでお別れ。
「じゃあ、またね。お疲れ。」
「ありがとうございます。お疲れ様です!」
1人になると同時に始まる反省会。
心の中で繰り返す。
『琴乃ちゃんと話している方が楽しいんです』
何を話すの。何して笑ってるの。ぐるぐるぐるぐる。考えが止まらない。そんなことしても無駄なのに。
『先輩方や琴乃ちゃんとのほうが話しやすいんです』
琴乃ちゃんは置いといて、私も、話しやすいってことだよね?気を遣うのに、あとで反省するのに、見かけると声を掛けて話してくれるのは、少なくとも私に好意を抱いてくれているんだよね?
後輩と先輩の差。趣味の差。会う時間の差。
色んなものがあって、遠いなと思うけど。
反省するときでもいい。
少しでも貴女が、私のことを考えてくれる時間があったら良いなと願う午後だった。