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最終話

 鎌を振り回すイザナミ。相変わらずその鎌さばきは立派だ。

「おーいイザナミ。そろそろ休憩しよう」

 僕は庭で雑草を刈り取るイザナミに声をかける。

「ああ、はい。今行きます」

 そう言うとイザナミは汗を拭い、立ち上がる。

 学校を卒業して僕とイザナミは結婚した。イザナミはどうやら十八歳だったらしく、結婚しても問題ない年だったようだ。と言うか、人間になったときに役所のデータに適当に自分の住民票を紛れ込ませたらしい。まあそのお陰で最後の霊力を使いきって、僕の所に戻ってくるのが遅くなったようだけど。

 でも、まだ僕にはわからない事がある。何となくまだ聞き出せないでいる。

「ふう、やっぱり鎌を握るとどうしても昔を思い出しちゃいます」

「おいおい、今それやったら犯罪だからな」

 僕はイザナミにお茶を差し出す。それを受け取り、一口お茶をすすり、そのお茶の熱さに身体をびくりとさせる。

「熱かったか?」

 相変わらず猫舌のイザナミはやっぱり可愛いなと思いながら、僕はイザナミの頭を撫でる。もう結婚して一年位経つが未だに頭を撫でるとイザナミは顔を赤くして照れる。まあ、昔みたいに鎌を振り回すことは無くなったが。

「なあイザナミ」

 僕の方を少し見上げるイザナミ。

「なんですか?」

 僕は徐にイザナミに話しかける。

「何であの時俺の魂を持っていかなかったんだ? 自分の命が危なかったかも知れないのに」

 僕の言葉に少し考えて答えるイザナミ。

「何でなんでしょうね……もちろん、あなたの魂を黄泉国に連れていきたく無かったのは有ります。知ってますか? 自殺者の魂は地縛霊になって永遠に現世にとどまるんです。それは黄泉国にも現世にも非常に悪い影響を与えます」

 そこまで言うと一息つき、少し冷めたお茶を一口すする。

「死神の仕事は自殺する前の魂を刈り取って黄泉国に連れていくことなんです。そしてまた新たに生を与えます。でも、その輪廻の前に自殺者の魂は罰を与えられます。知ってますか? 自殺は黄泉国では非常に重い罰が与えられます。様々な苦行を何万回と繰り返させられてようやく次の生を与えられるんです」

 僕はその話に心底生きていて良かったと思った。

「その苦行の際に発散されるエネルギーが黄泉国全体を支える霊力になるんです。そして黄泉国の物達はノルマを課せられて、そのノルマに応じて霊力を与えられるんですが、知っての通り、私こんなんだからいつもノルマが達成できなくて……それでなんとか魂を刈り取りたかったんですけど、そこであなたを見つけたんです」

「それが俺とイザナミの出会いだったんだな」

 僕は初めてイザナミと出会った日の事を思い出す。それを微笑みながらコクリと頷くイザナミ。そして話を続けるイザナミ。

「それで、ノルマが達成できなかった者達がどうなるか解りますか?」

 イザナミの言葉に僕は少し考える。

「人間になるんです」

 イザナミがそう言うと、僕はあの時のイザナミの言葉にようやく納得がいった。

「そうか、それであの時イザナミは死神を辞めるって言ったんだな?」

 イザナミは頷く。

「はい、私はあなたと人間として生きて行こうってあの時決めたんです。それに、あの苦しみから救ってくれたのはあなたの魂でした。あなたの魂は私の中で今も生きています。まあ、少しあなたの寿命は減ってしまいましたが……」

 僕はイザナミの言葉に驚く。

「ええ!? そうなのか? ど、どれくらい減ったんだ?」

「大丈夫ですよ、ほんのわずかです。ニ、三時間位のもんですから。それくらい魂のエネルギーは大きいんです」

 僕はイザナミの言葉に難しい顔をして答える。

「いや、ニ、三時間でも困る!」

 僕の言葉に不思議そうな顔をするイザナミ。

「だって、その分イザナミと過ごす時間が減ってしまうだろ? それは大変な事だよ。年齢から考えたら僕の方が早く黄泉国に行ってしまうだろうし……仕方ない、こうなった以上はもっとイザナミとの時間を大切にしないと」

 僕の言葉にイザナミは顔を真っ赤にして俯く。春の温かい風がイザナミの髪を揺らす。その風に誘われるように隣で座るイザナミは僕の肩にその頭を持たれ掛ける。

「ああ……こんなに幸せな事があるんでしょうか? もうこの幸せなまま死んでもいいとさえ思います」

 イザナミは僕を上目づかいで見つめる。そして僕もイザナミを見つめる。自然と二人の唇が吸いつく寸前……

「やっほー、久しぶり! 今死にたいって言ったのはどっちかな? このイツキ姉さんが魂を刈り取りに来たわよ!」

「「イ、イツキ!?」」

 僕とイザナミは声を揃えてイツキの方を見る。

「あれ? なんか私凄く悪いタイミング出来ちゃった? いや、ごめんごめん」

 あははと笑いながら頭をかくイツキ。

「ま、まあイザナミが幸せそうでよかった。お邪魔そうだから私はこれで帰るわね」

 そう言ってイツキはふっと消える。

「何だったんだイツキは?」

「さ、さあ……」

 僕とイザナミは顔を合わせるとどちらからともなく笑い出してしまった。そして僕はそのイザナミの笑顔を見て思う。これからもイザナミを笑顔に、幸せにしていこうと。そして僕たちの人生を豊かにしていこう、僕は改めてそう思った。

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