思い出 8th.
夏休みが始まった。
冬に付き合ったものの、デートというデートはしたことはなかった。
だから、夏休みの始めにあった花火大会が初デートとなった。
着るのは大変だったけど、浴衣を着て髪を結った。
奮発して下駄と帯と同じ色の巾着みたいな鞄を買った。
メイクなんてしたことないけど、メイクもしてみた。
ちょっとでも可愛いって思ってもらえるように。
花火大会当日、待ち合わせ場所に時間ぴったりで行くと彼がいた。
「ごめん!
待たせちゃった?」
時間を確認しつつ陽君に聞くと、彼は顔を赤くしながら、いや、と一言。
言葉には出してもらえなかったけど、浴衣を着てよかったと思った。
「行こっか。」
そう言って、そのまま歩いていく陽君。
後ろをついていくと、はぐれちゃいけないから、と言って手を繋いでくれた。
甘酸っぱい気持ちが広がっていく。
彼を、好きだなって心から思う。
繋がれた手から彼の緊張が伝わり、あたしに移っていく。
ギュって握ると、ギュって返してくれる。
そんなやり取りがとても愛おしい。
あったかい気持ちのまま花火大会が終わり、家まで送ってもらってキスをして別れた。
幸せな夏休みが始まったが、それは長くは続かなかった。