思い出 5th.
あれから、雨の日は空き教室に行くのが2人の定番となった。
英語の先生がどうだとか、歴史があまりおもしろくない、とか…
くだらない話をよくしていた。
慣れてくると、授業の間の短い休み時間も空き教室へ行くようになった。
雨の日だけじゃなく、普通の日も話せることがとても嬉しかった。
週末になると、お互い幼なじみの家で3人で遊んでいた。
そのうち、呼び方も斉藤君から陽君と呼ぶようになり、向こうも夏美、と呼ぶようになった。
名前を呼ばれると心が温かくなり、話していると自然に笑顔になれた。
ドキドキする感じはおさまる事を知らず、会うたびにずっとドキドキする。
幸せ、とはこんな感じだろうか。
舞い上がりそうになる自分を抑え、隣にいれる喜びに浸っていた。
こんな毎日が続けばいい…
本気でそう思っていたがそんな風に思うのは一瞬で、気づけばもっと一緒にいれたら、と知らない間に思うようになっていた。
話す時にいつも空いている一人分の空白。
空き教室にいる時も、少し離れて座るのが当たり前だった。
3人で遊んでいた時も、あたしは隣にならばず少し後ろをついていった。
近くにいるのに、なぜか少しさみしかった。
触れたい、と思うのはおかしいだろう。
友達、なのに。
…本当に、友達のままなのだろうか。
友達のままは気分がいい。
だけど、陽君の近くには別の人がきてしまうかもしれない。
あたし以外の、他のだれか。
その子に笑いかけるのだろうか。
その子と手を繋ぐのだろうか。
その子のことを一番大切になるのだろうか。
そこに、あたしはいないのだ。
友達のままなら…
気づいた時には季節は変わって、暑い夏が通り過ぎ、足早に秋が終わり、冬休みが直前に迫っていた。
そんなある日、もう思いをとどめて置くのが限界になってしまった。
いつものように空き教室で話していると、好きな人の話になっていった。
陽君から、好きな人のことなんて聞きたくない…
気づけばそんなことを考えていて、うっかり口にしてしまった。
あたしの好きな人は、陽君だよ、と。
心臓が爆発しそう、とはこのことだろう。
鳴り止まない鼓動を落ち着かせることなんてできず、顔を上げることもできず、ただ返事を待っていた。