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思い出 4th.
それから、2人でいろんな話をした。
まずは彼の名前。
彼は斉藤 陽【さいとう あきら】と名乗った。
陽、という字でよく【よう】と先生に最初は間違えられるんだよな、とまた笑った。
幼なじみの家にいたことも話をした。
小学校の頃から仲が良かったらしい。
あたしのことも話してた、と聞き、びっくりした。
入学式の日に同じクラスになったのも知っていたのだという。
ただ、話すきっかけがなかったから話さなかった、と。
話していくと、彼はよく笑っていた。
笑うたび心臓が音を立て、落ち着くなんてできなかった。
そんな話をしていたら、始業時間ギリギリになっていた。
「じゃあ、また。」
彼ー斉藤君はそう言って先に教室へと向かった。
あたしは、彼が出てから少しして教室を出た。
にやけそうになるのを必死で堪える。
話せたのが嬉しかった。
知らない事を教えてくれて、嬉しかった。
満ち足りた、言葉にし難い感情が自分の中に募っていく。
まだ、この時はこの思いの名前なんて知らなかった。