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プロローグ
また、夏がやってきた。
スーツを着るのも当たり前になってきた28の夏。
責任がある立場を任されることも多くなり、アラサーになっている自分を振り返れば結婚だの仕事だの家族だの、いろいろな場面からくるストレスに解放されたくなる今日この頃。
仕事帰り、暑さを凌ぎに近くのコンビニへ足を運ぶと、いつものようにソフトクリームを頼む。
一口味わえば、冷たく甘いバニラの味が口いっぱいに広がる。
…うん、おいしい。
満足げにほうばっていると、ふと隣に人の気配を感じた。
あ、俺にもちょうだい。
声が、聞こえた気がした。
隣をみても、誰もいなかった。
いるはずもなかった。
…まだ、今年の夏も忘れられそうに無いらしいな。
そんなことを思うと、無意識に口元が緩む。
バニラの甘ったるい味が口の中に残り、あの日をゆっくり思い出そうとしていた。