9話 露店
自分の気分転換が終わるまで更新続けます♪
サービス開始から2日目。今日も今日とてHHOの街をふらふらと歩く。
昨日は結局あの二人組みをボコボコにした後、もう一度外に出てモンスターの討伐を行った。場所は「無音の洞窟」と言う所であり、適性レベルは30〜40と言った始まりの街周辺のエリアでは最高難易度を誇る場所であった。
出て来たモンスターは「ゴーレム」、「鉄鎧騎士」、「サイレントバット」、「ナイトウィスプ」、「ナイトヴァイパー」と言った暗い所を好むモンスターばかりであった。今日は先ずそこで得た素材を売却するとしよう。
「さて、このレベルの素材はまだ出回って無いだろうし幾らで売れるかな〜」
俺は意気揚々と街を進む。時折俺の事を知っているような人達とすれ違うと、驚かれたりするが、まぁそれ以外では特に変わった事は無い。あ、因みに今はウリエルを出していない。
昨日のレベリングで俺のレベルは早くも27になっており、間違い無くこの世界で一番のレベルだろう。ウリエルも使い魔になった事でレベルがリセットされ、レベル1からのスタートとなったが、それも昨日のレベリングで20まで上がっている。天魔や天使と言う種族はレベルが上がり難いらしいが、俺達ならば適性レベルが自分より遥かに上であっても油断しなければ戦える為、特に問題は無い。
「さて、何か良い物があるかねぇ」
露店が乱立する場所に着いた俺は、何処が一番良いかなと辺りを見回した。
今回売る素材は「無音の洞窟」でドロップした物ばかりだ。普通の露店では金額が高過ぎて買い取って貰えないだろう。
「うん?あそこは……」
暫く探していると、一つの露店が目に入った。それは少し路地に入った所にあり、注意しなければ見つけられないだろう。だがその露店を出しているプレイヤーの装備は、明らかに1日や2日で揃えられる物では無い。とすれば考えられるのはβテスターか、βテスターから装備を買えるだけの資金を持った人物かと言う事になる。
俺はその露店に近付いて行った。
露店の主人であろうプレイヤーは、俺が近付いて来るのに気付いたのか、崩していた姿勢を正した。
近付くとそのプレイヤーの姿が良く見えるようになった。どうやらプレイヤーは女性らしく、装備は鎧とかでは無くローブを着用し、自身の右手には竜を象った木製の杖が置いてある。どうやら魔法系の職業のようだ。
「こんにちは」
「はい、こんにちは〜。何かお探しですか〜?」
きちっとした見掛けとは裏腹に、間延びした喋り方をする女性。
「実は素材を売りたいんですが、此方で買い取りしてますか?」
少々面食らったが、まぁこれもまたVR-MMOの楽しさの一つだなと考える事にして、当初の目的通り、素材の売却をお願いした。
「はい、出来ますよ〜。でも現在、スライムやホーンラビットなどの素材は大量の出回っていますので、非常に安くなっています〜」
女性は申し訳なさそうに言う。だが俺が売りたいのはスライムやホーンラビットと言った街周辺の低レベルモンスターの素材では無い。
「大丈夫です。俺が持って来たのは別の素材なので」
「そうですか〜。なら此方で値段の査定を行いますので、売りたい物を提示して下さい〜」
俺はアイテムウィンドウから売りたい素材を選択し、実体化させて女性に手渡す。
「!?これはゴーレム!?えっと、こっちは鉄鎧騎士で、こっちはナイトウィスプ……それにサイレントバットにナイトヴァイパーまで!?」
女性は手渡された素材を確認し、目が飛び出る程驚いていた。まぁいきなり適性レベル30〜40のエリアに出現するモンスターの素材を渡されたらそうなるのも仕方ないだろう。
女性は間延びした喋り方をする事すら忘れて一心に素材を見詰める。
「あの、どうでしょうか?」
それから数分が経ったが、一向に顔を上げ無い女性に、俺は痺れを切らして声を掛けた。
「あ、すみません〜。まさかこんな早くにこのレベルの素材を渡されるとは思って無かったので、遂我を忘れてしまいました〜」
俺の声に女性はハッと我に返っり、再び間延びした喋り方で謝罪をして来る。
「いえ、構いませんよ。ところでそれらは売れますかね?」
「はい〜是非とも買い取らせて頂きます〜」
女性は目をキラキラさせながら俺の渡した素材を眺める。
「これらなら間違いなくまだ市場に出ていませんから、少し高めに買い取らせて頂きますね〜」
そう言うと女性は手元で何やら操作を行った。すると、俺の目の前に半透明なウィンドウが現れ、そこには38000ヘヴルと書かれていた。
「こんな高くていいんですか!?」
驚いた俺は思わず女性に迫ってしまったが、女性は特に気にした様子は無く、はい〜と答えた。
「先程言ったようにこちらの素材はまだ市場に出回っていません〜。なのでこれらを全て市場に流せば、結果としてもっと稼げるんです〜」
「そ、そうですか……」
女性は微笑みながら俺から買い取った素材を自身のアイテムウィンドウにしまった。
俺はいきなり迫ってしまった事を謝罪し、買い取ってくれことに礼を言い、またお願いしますと言って去ろうとした。
「あ、ちょっと待って下さい〜」
すると、女性が俺のコートの裾を掴んで制止を求めて来た。
「はい?なんでしょうか?」
俺は首を傾げ、女性の方を振り向いた。
「あの〜私とフレンド交換して下さい〜」
「構いませんが……何でですか?」
フレンド交換とはプレイヤー同士がお互いのIDを交換し、メールやチャットを打てるようにする機能である。他にもフレンドがログインしているか否かも分かり、結構便利なのだ。因みに現在の俺のフレンドはエレン一人だけだ。ずっと高レベルの狩り場に篭っていたから誰とも出会う機会が無かったのだ。
「貴方に私のお得意様になって欲しいのです〜。貴方が素材を取って来て〜私は貴方が持って来る素材を通常より高く買い取るんです〜。そうするとお互いに利益が生まれるじゃないですか〜」
なるほど……つまり俺は素材を持ち込めば通常よりも多くの金額を得て、女性の方はそれを更に高く売る事で資金を作れる。確かにそれならお互い損は無い。寧ろ得しか無いと言える。
「分かりました。その提案受けさせて頂きます」
「はい、よろしくお願いします〜。私はジュエリーと言います〜。それとフレンドになるんですしこれからは敬語は不要でお願いします〜……あ、不要でお願い〜?」
……どうやら女性改め、ジュエリーは結構な天然のようだ。ま、まぁ資金力は本物だし、大丈夫だろう!うん!
「分かった。俺の名前はアテナだよろしくなジュエリー」
ジュエリーから来たフレンド申請を受理し、お互い改めて名乗った。
「えぇ〜、貴方がアテナさんだったんだ〜。掲示板で騒がれてるよ〜」
ジュエリーは俺の名を聞いて心底驚いたと言う表情になる。口調は相変わらず間延びしているが……。
「まぁな。と言うかまだ2日なのにもうそんなに騒がれてるのか……まぁゲームの中で有名になるのはありがたい事だし、構わないか……」
「あはは〜。やっぱり女の子にしか見えないよね〜。でもでも、少なくとも私はアテナが男の子だって知ってるから安心してね〜」
ジュエリーの言葉が今はとても嬉しい。
「ははっ、ありがとなジュエリー。じゃあ俺はそろそろ行くよ。攻略と素材集めしなくちゃだしな。ある程度素材が集まったらメールするから平気な時間とかを教えてくれ」
「分かった〜。頑張ってねアテナ〜」
俺は背後で手を振ってくれるジュエリーに手を振り返し、適当に必要な物を買って街の外に向けて進んで行く。
「さて、取り敢えず今日はボス攻略でもしようかな♪」