イベント風景3
さて、と……相手の残りHPはHPバー丸々2本分か。まだまだだな。
「ウリエル、天使のベールと魔法による援護を頼む!ベルセルク、後ろに回り込んで俺の合図で攻撃!ツクヨ、お前は俺と来い!」
「はい!/ゴアッ!/うん…」
俺は仲間たちに声をかけて、武器を構えて走り出す。瞬間ウリエルから『天使のベール』が飛んできて、俺とツクヨを包む。それを感じると、俺は地面を蹴り高く飛び上がる。
『わざわざ逃げ場の無い空へと飛ぶとは、血迷ったか!』
そんな俺を嘲笑うようにゲヘナゲートキーパーがその手に持つトゲ付き鉄球を振りかぶる。直撃すれば一撃死を免れないだろう威力を持つそれが眼前に迫る。
「ツクヨ!」
だがこれでいい。俺は肩に抱えたツクヨを武器を振り翳してがら空きとなった懐に投げ込む。ゲヘナゲートキーパーはそれに反応こそしたものの、俺を排除する事を優先したのかツクヨの存在を無視して俺への攻撃を続行した。
「あめーよ!!」
よし!狙い通りだ!
俺の望み通りの状況になった事に内心ニヤリと笑い、迫り来る凶撃に対して今まで閉じていた翼を一気に広げて体を急静止させた。その目の前をゲヘナゲートキーパーの攻撃が紙一重で通り過ぎる。
「なに!?」
「ツクヨ、今だ!」
「任せて……『カオスパニッシャー』」
『ぐおおおおっ!?』
ツクヨが新たに覚えた魔法『カオスパニッシャー』。これは範囲内の敵に大ダメージを与えると同時に混乱のバッドステータスを与えるという非常に使い勝手が良い魔法で、ツクヨがこれを覚えてからは良く使わせている。
『ぐぅ……おのれ、忌々しい!』
狙い通りゲヘナゲートキーパーは混乱のバッドステータスを受け、認識能力を狂わされている。レベル差とステータスの差で与えたダメージ自体は非常に少ないが、相手にバッドステータスを負わせられたのはとても大きい。
「脳天ガラ空きなんだよ!『セイクリッドクロス』『デュアルジャッジメント』!」
ゲヘナゲートキーパーは混乱していて手に持つ武器をぶんぶんと振り回すだけで俺の攻撃に一切反応出来ていない。
狙い違わずデッドポイントにスキルチェインを叩き込んだ俺は、すかさずツクヨを抱え直して『豪脚』でゲヘナゲートキーパーを蹴りつけてその反動で後ろに跳ぶ。
「よし、今ので残りHPの3割は削れたな!」
デッドポイントへの攻撃は例えレベル差があったとしても軽んじれるものではない。その証拠にゲヘナゲートキーパーは俺の攻撃に膝をついている。
「ウリエル!」
「はい!」
指示を出さなくともウリエルは俺の言いたい事を理解してくれた。
「『コロナ』」
ウリエルの持つ火炎魔法の中では単発火力最強の魔法が膝をつくゲヘナゲートキーパーへと襲いかかる。
『ぐううううっ!?』
ゲヘナゲートキーパーが苦悶の声を上げる。このままイケるか!?と期待したが、やはり相手はレベル80の強力な魔物。そう簡単には行かない。
『舐めるなぁ!!』
ゲヘナゲートキーパーが自身を包むコロナの炎を腕を一振りして切り裂いた。その事に驚く間も無くゲヘナゲートキーパーは地面を踏み込み、俺へと肉薄して来た。
「はやっーー」
『遅いわぁ!』
嘘だろ?天魔の瞳でも反応出来ないぞ!?
俺は振り下ろされる片手斧と大鉈の凶撃を咄嗟に剣をクロスさせる事で受け止めるが、あまりの重さにあっさり力負けをした。
「くそっ!」
『ふん、咄嗟に自ら弾き飛ばされる事で威力を流したか。小賢し真似を』
小賢しい真似、ね……はっ!お前の攻撃なんてまともに受け止めてられるかってんだ。
……しかし参ったな、武器と武器のぶつかり合いじゃ此方が不利過ぎる。しかも下手な受け止め方なんてしたら、それこそ此方がダメージを受けてしまう。こりゃ本当に参った。
「ツクヨ、ウリエルの元へ行ってとにかく魔法を放ってくれ。ダメージはそこまで大きくなくていい、奴の注意を少しでも引いてくれればな」
「分かった……」
俺の指示に素直に従ったツクヨはぴょんと、俺の腕の中から飛び降りてトテトテとウリエルの元へと向かう。ゲヘナゲートキーパーは……うん、大丈夫だ。奴のヘイトは今俺が請け負っている。
「ベルセルク!」
「ゴアアッ!」
俺が呼びかけると、威勢の良い咆哮と共にゲヘナゲートキーパーの背後から強烈な水圧が襲いかかる。その瞬間、ほんの一瞬だけだがゲヘナゲートキーパーの注意が俺から逸れた。
「ナイスだベルセルク!」
それを認識するより早く俺は地面を強く踏み締め弾着を発動させる。
「これでどうだ!」
スキルの発動と共に二対四枚の翼を広げ、爆発的な勢いを持ってゲヘナゲートキーパーへと蹴りを叩き込む。
一発や二発じゃない。
何発も何発も体の動きが許す限り全力で力を込めて蹴りつける。弾着以降はスキルも何も使ってない攻撃だが、だからこそシステムに邪魔されず自由に動ける。
「おおおおおおっ!!」
『ぐぅ……!小癪なぁ!』
ゲヘナゲートキーパーが武器を振り上げて俺を叩き潰そうとする。だが俺の動きに自身の動きを阻害されているゲヘナゲートキーパーは何時ものような力を出せない。
(この程度の動きなら見える!)
俺はスカイウォークを発動させて空中で空を蹴り壁を駆けるようにしてバック転を行う。目の前をゲヘナゲートキーパーの武器が通り過ぎるがダメージは無い。
「おらぁ!!『グランドクロス』『セイクリッドクロス』!!」
そのまま着地をし、ガラ空きとなった胴体めがけて十字を斬るようにして連続で剣を叩き込む。HPバーは……よし!残り半分を切った!
「っ!?」
瞬間、背筋が凍るよう感覚に襲われる。頭で理解するより早く、倒れ込むように体を仰け反らせる。その数ミリ上を何処からとも無く現れた漆黒の肉切り包丁が通り過ぎる。
『ほう、これを避けるか!』
先程までやられていたのが嘘のような声音のゲヘナゲートキーパーが、”さっきまで何もなかったはずの位置”で先程の肉切り包丁と見覚えの無い鈍器を構えながら感心したように言う。
「あっぶねぇ!?」
し、心臓止まるかと思った……。まさか、HPが半分を切ったら茹でた武器を新たに生成するなんて……初見殺し感が半端ない。
俺は即座に立ち上がり、追撃が来るより早くバックステップで距離を取る。その際に背後からの遠距離攻撃を行なっていたベルセルクに戻るよう合図を出してウリエルとツクヨが控えている場所まで下がる。
「マズイな……新しい武器を使い出すなんて予想外だ。この状況で敵の手数が増えるのは展開上あまりよろしくない」
「どういたしますかマスター?」
ウリエルが神妙な面持ちで尋ねて来るが、残念ながらまだ考えがまとまっていない。ベルセルクが俺たちを庇うように前に陣取りゲヘナゲートキーパーを睨み付けているが、奴の攻撃をまともに喰らえば体力自慢のベルセルクですから一撃で戦闘不能に陥らされる。
『ふんっ!』
「っ!?全員回避だ!」
くそったれ!作戦会議の時間などくれてやるかってか!
俺達は全方向に散るようにして突っ込んで来たゲヘナゲートキーパーを回避する。
奴の攻撃は地面を抉り、砂埃のエフェクトを散らしながら大地を揺らす。よく見るといつの間にか混乱も解けてるし、これは本格的にヤバイ。
『かかったな!』
「しまった!?」
俺が思考を巡らせていると、突如ぐるんと首を俺の方へと向けたゲヘナゲートキーパーが勝ち誇った笑みと共にそう告げた。その瞬間、俺の視界は砂埃に包まれて周囲の様子が一切分からなくなった。理解出来た状況はただ一つ、俺はゲヘナゲートキーパーの攻撃をまともに受けてしまったと言う事だ。
「ぐああああっ!?」
俺のHPバーが安全圏のグリーンゾーンからイエローゾーンまで減り、一気にレッドゾーンへと入り込む。天使のベールを突き破った上でこの威力とは恐れ入る。
「マスター!」
「ゴアッ!」
「ママ!」
使い魔達が口々に俺を呼ぶが、視界がチラついてまともに目が見えない。
『ふん!これで終わりだ! 』
ゲヘナゲートキーパーは弾き飛ばされる俺に肉薄して来て無情にも武器を振り上げる。
マズイッーー!?
俺は咄嗟に回避姿勢を取るが間に合わない。初めての死を覚悟したその瞬間に背後から闇属性の魔法が飛来して来て武器を構えたゲヘナゲートキーパーの腕を弾き飛ばす。続いて何かが俺の前へと飛び出して来てゲヘナゲートキーパーを殴りつける。更には残り僅かにまで減った俺のHPがぐんぐんと見る間に回復して行き、攻撃、防御、速度上昇の付与が俺にかかる。
「メラク!ヒビキ!シズク!」
俺は思わず感涙の声を上げた。するとメラクは此方に顔を向けてニヤリとサムズアップして来た。
まったく……本当に頼りになる仲間達だ!
俺は内心から湧き上がる声を噛み殺し、キッと視線をゲヘナゲートキーパーに向ける。今はヒビキが自慢の速度で翻弄してくれているが、あのままではいずれ捉えられてHPを吹き飛ばされる。
「なら、その前にケリをつける!」
俺は体制を立て直し、縮地を使って地面を蹴る。そして目の目でヒビキに合図を出しながら横を通り過ぎると、二刀の剣をゲヘナゲートキーパーの攻撃に合わせて動かしてパリィを行う。
「『獣化』『神狼脚』」
体制を崩すゲヘナゲートキーパー。その隙をついて獣人種の固有スキルである「獣化」を発動させるヒビキ。そして銀色に輝く毛皮を持つ勇ましい狼の姿になると、その足にスキルを纏わせゲヘナゲートキーパーを吹き飛ばす。
「メラク!」
それを追いかけ背後に回り込むと、俺はメラクの名を叫び豪脚をゲヘナゲートキーパーの無防備な背中に叩き込む。
「任せろ!『デスサイス』」
死神固有スキルの一つ「デスサイス」を発動し、吹き飛ばされて行くゲヘナゲートキーパーの首に狙い違わず吸い込まれる。デッドポイントへのダメージと、デスサイスの能力、デッドポイントへ攻撃を当てた場合ダメージ量が2倍になると言う効果でゲヘナゲートキーパーは派手な音を立てて地面に叩きつけられる。
「シズク!」
続いて弾着を発動させ、一直線にゲヘナゲートキーパーへと飛びかかる俺はシズクの名を呼ぶ。
「はい!『女神の施し』」
シズク女神固有スキルの一つを唱えた瞬間、俺の剣に神々しい光が宿る。
「女神の施し」は一撃だけ発動させた人物の攻撃に光属性の追加ダメージを加える能力で、そのダメージは攻撃をする人物の攻撃力に依存する。
「行くぜウリエル、ベルセルク、ツクヨ!俺に合わせろ!」
「はい!/ゴアッ!/うん!」
「終わりだゲヘナゲートキーパー!『グランドクロス』『セイクリッドクロス』『デュアルジャッジメント』!」
目に見えないが、確かに背中で感じる仲間達の姿。それらの全てを目の前の敵を屠る力へと変え、システムの制限を破って技を叩きつける。
『ぬ、ぐ……こ、これしきのこと!!』
ゲヘナゲートキーパーは全ての腕と武器をクロスさせて受け止めるが、俺の攻撃はここからが本番だ!
「うらぁぁぁぁぁあ!!」
一発二発三発四発……何発もの斬撃がシステムのアシストに則って叩きつけられる。その時間は無限のようで一瞬で。ただひたすらき敵を倒す事だけを考えて振るわれる刃は確実に敵の|HP(命)を削って行く。
「こ、れ、で……どうだぁぁぁぁぁ!!」
三連スキルチェインの最後のスキルが発動する。それを狙ったかのように赤、青、黒、白の色取り取りの魔法が同時に激突する。
『ぬぐわァァァァァァ!!??』
それにより遂にゲヘナゲートキーパーの腕は限界を超えて消し飛んだ。そして遂に俺達の攻撃は奴の本体へと届き、確かな手応えと共にゲヘナゲートキーパーは大きく後ろへと吹き飛び門を破壊する。
「はぁ、はぁ、や、やったのか?」
ゲヘナゲートキーパーの3本のHPバーは真っ黒。そこには一ミリの赤すら無く、確実に0へとなっている。
『ぐっ……見事、なり……だが忘れるな……私はただの門番に過ぎぬ、こと、を……』
ゲヘナゲートキーパーはそう言葉を残して光の粒子となって消え去った。
【congratulations!タイム23分52秒】
『イベントフィールドボス「ゲヘナゲートキーパー(地獄級)」を討伐に成功しました。条件報酬「初個体討伐(地獄級)」「初回討伐(地獄級)」「MVP報酬」「ラストアタック報酬」を獲得しました』
『「MVP報酬」はアテナに渡されました。「ラストアタック報酬」はアテナに渡されました』
『イベントフィールドボス「ゲヘナゲートキーパー」が倒されました。パーティ名を設定してください』
「か、勝った〜!」
それを見届けた俺は力が抜けたように倒れ込む。いや、本当もうくたくた……相手のHPはメラク達が離脱した時点で丸々2本分。それを削り切るのは俺一人じゃ絶対無理だったな。しんど過ぎる。
「お疲れ、みんっーー!?」
お疲れ、みんな。と言おうとした瞬間、俺めがけて飛んで来る影が三つ。慌てて受け止めると、それはメラク、ヒビキ、シズクの3人だ。
「ど、どうしたんだお前ら!?」
「いや、ホントすげぇよ瞬矢!」
「私達が勝てたんだよあの化け物に!」
「早神君、お怪我はありませんか?何処かに異常はありませんか?」
「落ち着け落ち着けって!」
あ、ちょっ、そこはダメ!いやホントやめて下さいお願いします!い、いやァァァァ!!ーー……
***
それから数分かけてみんなを宥めた俺は、みんなと共に改めて勝利を喜んだ。男としてちょっとアレな目にあったけど私は元気です。
「とにかくみんなお疲れ様。初めて圧倒的格上の敵と戦った感想はどう?」
「ホント、何度死ぬかと思ったわよ。と言うか実際に一回死んだし!」
「そうですね、私の場合は完全に後衛ですから皆さん程には危機感を覚えませんでしたが、それでも一つ間違えれば全滅していたと思います」
「なぁ、なんか俺勝った後の方がダメージ受けてるんだけど?」
「そうかそうか。そりゃみんないい経験になったな」
「え?無視?」
メラクが頭をさすりながらぶつぶつなんか言ってるが無視だ無視。
「まぁ取り敢えず今はさっさとこっちをすましちまうか」
そう言って俺は手元に出て来ているパーティ名設定のウィンドウをスライドして見せる。
「パーティ名か……何も考えてなかったわ」
「そうね、でも名前かぁ……どうせならかっこいい名前がいいわよね」
「そうですね。なんて言ったって、アテナさんが率いるパーティですから」
みんなは一様に頭を抱える。そんな中俺は無意識の内に頭に浮かんだ名前を呟いた。
「レアシース……」
「え?なんだって?」
「レアシース……希少種達と言う意味ですか?」
俺がボソリと呟いた言葉を耳聡く聞き取るメラク達。このパーティでは最も頭の良いシズクが意味を細くしてくれる。
「ああ、何となく浮かんだんだけど、俺達って全員レア種族だろ?しかもかなりの。だからピッタリかなと思ったんだ。どうかな?」
俺が尋ねると、みんなは顔を見合わせて頷いた。
「いいじゃん。それで行こうぜ!」
「そうね、中々センスあると思うわ」
「私も賛成です」
どうやらみんなも気に入ってくれたようだ。
『「レアシース」でよろしいですか?yes/no』
当然yesっと。
と言う事で俺たちのパーティ名は「レアシース」に決定した。
「さて、と……勝ったはいいけど、この疲労を抱えたまま進むのは愚策だな。取り敢えず今日はもう帰ろう」
時間を見るといつに間にかリアルの時間で17時に差し掛かってる。そろそろ留美も帰って来る頃だしな。
「あー……いつの間にかこんな時間か。瑠美ちゃんが帰って来る頃だな」
こいつ……俺の心を読みやがったな!
「まあそんなところだ。帰ったら改めてこいつらを紹介するよ」
俺は背後に控えている使い魔達戻るように伝えてから中に戻し、 メラク達を振り返る。その後、帰りに散発的に現れるモンスター達を慣れた動きで処理して行き、始まりの街で少しの談笑を楽しんでから解散した。
次回は掲示板ネタ




