力試し
短いっす。
場所を移して大広場。目立つけど、ここ以外にPVPがし易い場所は始まりの街には無い。
辺りを見渡すと俺たち以外にも何組かPVPをしている人達もいて、周りの人達が囃し立てている。
「うし、この辺りでいいか」
俺がそう言うと、メラク達が俺から10メートルほど離れた位置で立ち止まる。
「決闘ルールは1対3のハーフアウトで良いか?オールアウトでもいいけど、それだと復活時に小さなデスペナルティ付くけど……」
デスペナルティといっても一定時間ステータスが下がるだけの軽い物だが、念のため聞いておかないとな。
「ハーフアウトでいいぜ。この後にイベントも控えているし、なるべく万全で挑みたいからな」
「了解。んじゃ制限時間10分のハーフアウトでルール決定するぞ」
そう伝えて俺はウィンドウの確定ボタンをクリックした。
ハーフアウトとは正式名称HP半減勝利と言うシステムの愛称で、その名の通り相手のHPを半分まで削ると勝利となる短期決着用のルールで、もう一つのオールアウトはHPを全損させるのが勝利条件となる長期決着用のルールである。
「んじゃ、決闘申請送るから受諾してくれ」
「はいよ」
俺がウィンドウを操作して決闘申請を飛ばすと、即座に受諾されたと言う通知が現れた。
『アテナ対メラク、ヒビキ、シズクの1対3のPVPを開始します。5…4…3…』
すると何時ぞやの無機質な機械音声が聞こえ、俺たちを決闘用のゾーンで囲む。
「えっ?もしかしてアテナが闘うのか!?」
「マジか、絶対動画撮ろう」
「相手は三人か……って相手の三人ってあの有名な未確認レア種族の三人じゃないか!?」
「うそっ、アテナさん?初めて生で見たわ。やっぱり綺麗ねー」
「そうっすね。あれで男なんだから、正直女としての自信を失くすっす。それに相手の女性二人もアテナさんほどでは無くても綺麗っすね」
周囲の外野が俺たちに気付いて決闘用のゾーンの周りに集まって来る。まぁ観戦有りにしてるから当然なんだろうがな。と言うか今決闘中の奴等まで戦闘の手を止めてこっちを見てるよ。いいからそっちはそっちで闘えよ。
そんな風に思っている間にカウントが0になった。その瞬間に飛び込んで来るのはヒビキ。
彼女の種族は獣人系統のレア種族神狼。狼系統となると素早い動きと高い攻撃力が特徴だが、神狼であるヒビキは更に疾い。
「やあっ!」
ヒビキの装備は獣人のテンプレ装備のクロー。鋭い鉤爪を備えたその武器の威力は非常に高い。
「甘い!」
だが素早い敵と言うならもう既に交戦済みだ。あのアクセルジェットホークの素早さはヒビキの比じゃ無い。
俺は上段から袈裟懸けに振り下ろされた爪を大天使の剣の柄で受け止めて、そのまま体を流すようにしてヒビキを流す。だがそこに撃ち込まれたのは闇魔法と思われる攻撃。
「どうだアテナ!」
メラクが放った魔法は真っ直ぐ俺に突っ込んで来て、あわや直撃するかと思われた瞬間、俺は体を倒し豪脚でヒビキを蹴り飛ばしながらそれを回避する。
「マジかよ!?今のを避けるか!?」
その様子に驚いているメラク。その隙に俺は指を一本の差し出してメラクに狙いを定める。
「『カオスレーザー』」
「うおっ!?デ○ビームかよ!」
メラクは咄嗟に直撃は躱したが、僅かにかすって体勢を崩す。
「『天使のベール』」
マジかよ、この段階で天使のベールを使える奴がウリエル以外にもいたのか!
シズクが唱えた魔法は先のアクセルジェットホーク戦でウリエルが使った天使魔法。流石にウリエルほどの熟練度は無いだろうが、それでも数発は攻撃を防がれそうだ。
「いいね三人とも!以前やり合った奴とは比べ物にならねぇよ!」
俺はまだ抜いて無かった大悪魔の剣を抜き放ち、一気に相手の懐に潜り込む。
「うっそ、私より速い!?」
ヒビキが悲鳴みたいな声を上げているが、関係無い。
「『クロスエッジ』『ダブルスラッシュ』」
スキルチェインで素早く切り裂く。俺の攻撃は『天使のベール』に防がれるが、その代わりに『天使のベール』を剥ぐ事に成功。
「一瞬で私の天使のベールが……」
シズクが珍しく戦慄の表情になる。
「まだまだぁ!」
『体術』のスキルで新たに獲得した『旋風脚』を体を捻りながらシステムのアシストに任せてメラク目掛けて斜めに蹴り下ろす。
「んなっ!?『旋風脚』って普通、足払いみたいにかけるものだろうが!」
そう言いながらもきちんと回避をしているんだからメラクも中々やりおる。しかもご丁寧に武器を抜き放ち反撃もして来るんだから厄介だ。
「何それ大鎌?死神っぽいな」
「だろ?おらぁ!」
振り下ろされた大鎌を膝をつきながら首の裏に構えた大悪魔の剣で受け止め、大天使の剣でその腕を斬り払う。
「大鎌ってのは中距離武器だろ?こんな懐に入られたら本来の力なんか発揮させられるわけ無いだ、ろ!」
回し蹴りの要領で『豪脚』を放つ。
『豪脚』は綺麗にメラクの横っ腹に減り込み、ズドンッ!と言う鈍い音と共に彼の体を決闘ゾーンの端まで吹き飛ばす。
「うげぇ……勝てねぇはこりゃあ……」
その言葉を最後にメラクは光の粒子へと姿を変えてゾーンから退場して行った。
「流石アテナ……メラクなんか瞬殺だったわね!」
続いて俺に攻撃を仕掛けて来たのはヒビキ。先程の『豪脚』を喰らったとはいえ、上手く受身を取った事と、そもそも直撃がしなかった事によりHPはまだ7割弱残っている。
「まぁな。さて、後はヒビキとシズクお前達二人だけだぞ」
大天使の剣の切っ先を向け、ニヤリと笑いながら告げる。
「っ///アバターでもやっぱりかっこいいわね……///」
「恥ずかしくて直視出来ません///」
あん?なんかあいつら顔背けたぞ?まぁいいや。
「隙あり!」
俺は『縮地』で一気に距離を詰め、そのままヒビキの目の前で跳躍して頭上で一回転、勢いのまま踵を落とす。
「あっぶな!?流石に女の子の頭に踵落としはあり得ないわよ!」
チッ、すんでの所で回避されたか……流石に速いな。
「ゲームに性別は関係無いっての!」
バックステップで後ろに下がりながら叫ぶ。同時に俺は今まで展開していなかった翼を素早く広げる。
「綺麗な翼……」
外野からそんな声が聞こえて来るがそれらは全て意識からカットする。
「こっからが本番だ」
俺は翼を一気に振動させ、空へと翔ぶ。『縮地』も含めた跳躍だったため、全てのプレイヤーからは俺の姿が消えたように見えた事だろう。
「なっ!?何処に行った!?」
「分かりません!見えなかったです!」
外野ですらそうなんだから、実際に相対しているヒビキとシズクも当然を俺を見失うわけだ。
俺はスカイウォークで空で足場を作り、180°回転して作った足場を蹴り一直線に二人の間に現れる。
「終わりだ」
「なっ!?」
「えっ!?」
突如自分達の間に現れた俺に二人は面食らったような表情になる。だがそれはただの隙でしかない。
素早く動かした大天使の剣と大悪魔の剣をそれぞれ二人の首元に突き付けた。少し動かすだけで何時でも止めをさせる状況だ。最早勝負は決まった。
「はぁ……私達の負けですね……」
「アテナ強過ぎ。最初から本気でやってればもっと早く決着ついたんじゃない?」
負けを認めた二人がウィンドウを用意してリザルトの部分をクリックする。
『You Win!タイム1分14秒』
おや?思ったより早かったな。2分くらいは経ってるかと思った。
俺がそうおもっていると決闘ゾーンが解除されて意識から外していた周りの声援が俺の耳に届いた。
「すげぇ!やっぱりアテナは次元が違う!」
「はー……凄いわねー……全然何してるかわからなかった……」
「女として負けて、単純な強さでも負けて、アテナさんには何で勝てばいいんすかね〜」
「何やってるかは分かんなかったけど動画はしっかり撮れた!」
「よし、早速掲示板に投稿しやがれください」
騒がしい……。
戦闘中はそっちに集中してるから気にならないけど、終わってみるとまぁ随分と騒がしかったんだな。
「ったく、流石アテナだな。俺たちもそこそこ強いとは思っていたんだがまさかこんなにもあっさり負けるなんてなぁ」
一足先に退場していたメラクが苦笑しながら近付いてくる。
「まぁな、これでもソロでボス三体狩ってるんで、簡単には負けねぇよ」
「はっ、違いねぇ」
互いに苦笑を浮かべながらハイタッチを交わす俺とメラク。そこにヒビキとシズクも近付いて来て、四人で改めて労い合った。
「改めてお疲れ様三人とも。中々楽しい決闘が出来たよ」
「光栄だけど、今は嫌味にしか聞こえ無いわね。本当に手も足も出なかったわ」
「そうですよアテナさん。私渾身の『天使のベール』が一瞬で破られた時はとても驚きましたわ」
「お前、ほんと女には優しいよなー。俺の事を何の躊躇いも無く蹴り飛ばしてくれたのにヒビキとシズクには剣の切っ先を突き付けるだけで降参させるんだもん。男女差別だぞー」
「何言ってんだ、寧ろお前だからこそ遠慮なくぶっ飛ばせるんだ」
何時ものような何の事の無い談話。だけど俺はこの談話が結構好きだったりする。
「アテナさんとあの三人って知り合いなのか?」
「真ん中の男の子が綺麗な女性達に囲まれているハーレムに見えるわね。一人は男だけど」
「両手どころか両手両足に花っすね。世の中のモテ無い男達が見たらあの男の子殺されそうっすね」
「どうすればあのハーレム男を殺せるかな……フィールドで闇討ち?」
「あ、もう手遅れっすね。殺人計画建ててる人がいるっす」
……やっぱり移動するか。談話するのは好きだけど、こんな騒がしい所じゃ落ち着いて話もしてられない。と言うか、あちこちの掲示板で色々話題にされてる俺はともかくメラク達はまだ人に注目され慣れて無いだろう。
「取り敢えず移動するか。そろそろイベントの情報も開示されるだろうから何処か落ち着けるところ行こう」
「あー……そうだな。流石にアテナは慣れてるっぽいけど、俺たちはまだこんなたくさんの人に注目されるのは慣れてないからな」
「そうね。こんな風に騒がれるのは好きじゃないわ」
「そうですね……私もちょっと苦手です」
全員の意見が合致した為、俺たちはその場を移動し、街の中心に向かって歩く。何人かの物好きが後を尾けてきたりもしたが、メラク達とはのんびりと話したいのでその度に巻いてやった。
雑談を交えつつ歩く事数分。雑談していて気にしてなかったが、気付いたらいつの間にか時計は9:29となっており、そして遂に9:30へと表示が変わった。
「お、時間だ」
メラクが呟いたその瞬間。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
唐突に俺たちの頭の中に警告音に似たアラームが鳴り響く。
『緊急事態発生!始まりの街に異界への扉が開きました!』
その瞬間俺は全てを察した。待ちに待ったイベントが始まったんだ、と……。




