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Heaven&Hell Online  作者: 夜桜
First Stage
31/40

31話 北のボス

皆様大変お待たせしました!不肖夜桜、これよりまた執筆を再開します!

「『クロスエッジ』『ダブルスラッシュ』」


「『凪』『神凪』」


試練の丘中腹部、現れるモンスターの平均レベルは38辺りの適性レベル35〜40である。たった今倒したパニックコンドルも厄介な状態異常を引き起こして来るレベル37の強力なモンスターだったが、早くもスキルチェインを覚えたアイギスと俺の連続攻撃であっという間に倒れて、姿をポリゴン片に変える。


「ふぅ、今のタイミングは中々良かったぞアイギス。薙刀も問題無く使いこなせて来たな」


「兄さんが教えるのが上手いからさ。それと今ので『薙刀術』の熟練度が上がって新たに『旋風陣』と言うのを覚えたぞ。これで3つ目だ」


アイギスの今のレベルは21。あれからこっちの世界で1時間半は戦ったが、やはり自身より遥かに適性レベルが高い場所だとレベルアップの速度も速いようだ。本格的にレベリングし始めて2時間程度でこのレベルまで行くとはさしもの俺も驚いた。


「よし、ならここらで少し休むか。ステータスの確認もしとかないとだしな」


「了解だ」


そう言って俺とアイギスは適当な岩に腰掛け、街を出る時に買っておいたサンドイッチのようなアイテムとお茶を取り出した。温かいお茶は喉を通って身体の芯まで温めてくれ、2杯3杯と飲みながら、まったりしていると、アイギスが自分のステータスを見せてきた。そしてそれを覗き込んで俺は言葉を失った。


ーーーーーーーーーー

名前:アイギス

種族:魔天龍


LV:21


武器:昆虫王の薙刀→(攻撃速度UP(小))


防具:昆虫王の和服・昆虫王の袴→(魔法攻撃耐性UP(小)・移動速度UP(小))


装飾:魔天龍の腕輪・魔天龍のネックレス・大天使の指輪→(詠唱破棄・攻撃力UP(中)・状態異常耐性)


HP:540

MP:280

STM:1500

STR:350(100)

VIT:380(60)

INT:150

SAN:190(8)

AGI:200(85)

LUKU:200

能力:【「龍化」「龍の咆哮」「龍翼生成」「龍の心得」】

スキル:【「龍魔法」】「薙刀術」「格闘術」「ステップ」「空間把握」「投擲」「身体強化」

称号:「真なる龍」


ーーーーーーーーーー


(……これってやっぱりレア種族のレベルでは収まらないな……なんと言うか、次元が違う)


ぶっちゃけこのステータスの平均はLUKUとSTMを除いた場合の俺が20レベルくらいの時のステータスを軽く超えている。多分天魔は全体的にステータスが緩やかに高くなって行って、魔天龍は攻撃と防御に特化してそれが短期的に高くなっていくようになっているのだろう。STMに関しては中立種族は基本的にスタミナは高く設定されてるんだろうな。まぁだとしても無限なのは完全飛行型の天魔くらいだろうな。見た感じ魔天龍は空中戦闘も出来るが、それ以上に地に足をつけた(タンク)戦闘が強みっぽいし、当然か。てか、防御力に関してはレベル55の俺と300程度しか差が無いぞ。これ俺と同レベル帯まできたら倍近い差が付くんじゃないのか?


「どうしたんだ兄さん?」


言葉無くステータスを凝視する俺を訝しく思ったのか、アイギスが心配そうに俺の様子を伺って来る。


「ん?ああ、すまない。ちょっとお前のステータスに驚いただけだ」


「それならば良いのだが……私のステータスはなんか変だったのか?」


アイギスの問いにそう返すと、彼女は少し安心した表情を作り、次いで今度は不思議そうな表情を作る。


「いや、特に異常ってわけでは無いんだ。多分アイギスの種族、魔天龍が少し特殊なステータス構成にしているんだろうな」


「ううむ……よく分から無いぞ……取り敢えず普通に遊ぶ事は出来るって事でいいのか?」


「ああ、問題無い。寧ろこのステータスなら普通より楽しく遊ぶ事が出来るな」


俺はサンドイッチの残りを一気に頬張りながらアイギスの質問に答えた。にしてもこのほのかにピリ辛いマスタードとシャキシャキしたレタスの組み合わせは最高だな。めっちゃうまい。


「ん、んぐっ、ごっくん、ふぅ……ごちそうさま」


「ふふっ、兄さんは相変わらず子供っぽいところがあるな。だけど私は兄さんのそう言うところは嫌いじゃないがな」


「おっと、見苦しところを見せたな。悪い悪い。

さて、お前も食べ切ってるっぽいしそろそろ先に進むか」


スクっと立ち上がった俺に一瞬遅れて立ち上がったアイギス。俺たちは傍に置いていた武器を取り、試練の丘を進みだした。


出てくるモンスター達をアイギスと連携して片っ端から退けて進んで行くと、大体一時間くらい経った頃だろうか、俺たちは目的の場所に辿り着いた。


「ここだここだ。ここにこのエリアのボス、アクセルジェットホークがいる」


アクセルジェットホーク。

始まりの街周辺マップ最強のボス。こいつはとにかく速い。


こいつはプレイヤーの捉えられるギリギリの速度で移動する巨大な大鷹なのだが、それだけで無く高高度から一方的に矢羽根を飛ばして来たり、旋回して竜巻を起こして来たり、果てには一瞬だけプレイヤーの視界を封じ、その直後プレイヤーの目の前に現れたりする瞬間移動に近い攻撃など多彩な技も使う。

通常この攻略には六人のフルパーティで、タンク三人と魔法二人、そして一人のヒーラがテンプレ編成となるのだが、敢えてここはソロで挑む。

アイギスとの共闘も考えたが、いくらプレイヤースキルが高く、更に激レア種族であると言えど、アイギスはまだレベル21。流石に適正レベル40オーバーのアクセルジェットホークの攻略は厳しいだろう。ボスと雑魚では適正レベル以上の差があるのだしな。


「んじゃ、ちょっと挑んで来る。30分以内には終わるだろうから待っててくれ。あ、周辺で雑魚狩りをしていてもいいぞ」


「分かった。兄さん頑張ってくれ!」


俺はアイギスと組んでるパーティを一時的に解除した。すると、視界の端に浮かんでいたパーティを組んでる事を示すアイコンと組んでるメンバーであるアイギスの名前とHPバーが消滅する。


「うっし!やるぞ!」


気合の込めた鼓舞と共に、俺はアクセルジェットホークが待ち受けるボスエリアへと足を踏み入れた。


***


「キエェェェェェ!」


足を踏み入れ、いつも通りエリアの中心あたりまで進んだ直後、背後で空間が隔絶された気配が伝わり、同時に耳をつんざく甲高い鳴き声が俺の体に襲いかかった。


「うおっ、でっか!?β版の時の情報よりデカくないかこれ!?」


鳴き声と共に現れたのは四つの翼をめいいっぱいに広げた全長20メートルあまりの巨鳥。このエリアのボスにして、始まりの街周辺エリア最強のボス、アクセルジェットホークだ。


20メートルあまりある巨体を支える二本の足は非常に逞しく、俺が抱きついても後ろで手を組めるか分からないほどである 。

王者を彷彿させる茶色がかった頭部の毛に、全てを見透かすかのような黄金の双眸、そして全身を包むは生半可な攻撃などあっさり弾いてしまう事だろう茶色い羽毛。なるほど、確かに始まりの街周辺エリア最強のボスに相応しい出で立ちだ。


「さぁて、行こうか……来い!ツクヨ、ベルセルク、ウリエル!」


いつも通り登場時演出の時はシステム的なもので動けなくされる。それが解けた瞬間、つまり戦闘が開始された瞬間、俺は手持ちの使い魔を一斉に召喚し、俺自身も二本の剣を抜き放つ。


「ママ、呼んだ……?」


「シャア!」


「お呼びですかマスター」


ツクヨ、ベルセルク、ウリエルは既に顔を合わさせている。なので初めてベルセルクとウリエルを合わせた時のような驚きは無い。呼ばれた三人はそれぞれ、アクセルジェットホークに目を向けると即座に各々の臨戦態勢へと移る。


「ツクヨ、ウリエルは俺と共に空中戦闘、ベルセルクは敵の注意が俺たちへと集中しないように地上からタゲを取っていてくれ」


「分かった……」


「了解です」


「ゴアッ!」


言うが早いか、俺は背中に翼を広げて空へと飛翔する。背後に、俺に付き従うようにして同じく飛び立ったウリエルとツクヨの気配がする。ツクヨは混沌の巫女と同じく幻影の翼で飛び、ウリエルは俺の白翼に似た翼で空を駆ける。


「取り敢えず様子見、だ!『クロスエッジ』『ダブルスラッシュ』!」


俺はスカイウォークで空中を思い切り蹴り、縮地を以ってアクセルジェットホークの懐に飛び込む。そして、それと同時にスキルチェインでクロスエッジとダブルスラッシュを叩き込む。この二つなら発動後の技後硬直もクールタイムも少ないので、仮に対応されてもそれに対しこちらも即座に対応出来るのだ。


「キェェエ!?」


だが結果は俺の予想斜め上を行った。

俺の放った攻撃はアクセルジェットホークに直撃したのだ。いや、それならまだいい。そもそも当てる気で行ったしな。俺が予想していなかったのはその後に通る攻撃のダメージ量だ。


「一撃で1本目のゲージの半分近くを削った?」


そう、アクセルジェットホークに通った攻撃は、その威力を余すことなくアクセルジェットホークのHPバーへ伝えた。その結果、アクセルジェットホークの1本目のHPバーは一瞬にして3〜4割が吹き飛んだ。


「これがレベル差か……まさか一撃でこんな威力になるとは……」


俺が予想外の結果に少し驚いていると、後方から巨大な火球と禍々しい色をした黒球が飛んで来てアクセルジェットホークを襲う。


「キエエエエ!!」


アクセルジェットホークは、両翼を胸の前で交差させるようにして火球と黒級を防ぎ、反撃だとばかりに矢羽根を放って来る。


「甘い!」


ウリエルとツクヨを目掛けて飛んで来た矢羽根を、二人の前に出て二本の剣で全てを斬り払う。


「ゴァア!」


その瞬間、地上から飛んできたベルセルクの水圧ブレスがアクセルジェットホークの顔面を直撃する。


「ナイスだベルセルク!」


それにより一瞬逸れたアクセルジェットホーク注意。その瞬間俺は空を縮地で蹴ってアクセルジェットホークの懐に潜り込むと、全力で攻撃を仕掛ける。


「『グランドクロス』『セイクリッドクロス』!」


大技のスキルチェインがアクセルジェットホークに突き刺さる。その威力は劇的で、攻撃をくらったアクセルジェットホークはあまりの衝撃に錐揉みしながら地上へ落下した。


「今だ!」


俺は空中で上下逆さまの姿勢になり、空を向いてる両足で縮地を発動させる。

爆発的推進力を持った俺の体は地上へ落下したアクセルジェットホークへと直進して行き、狙い違わずアクセルジェットホークへと進んで行く。


「っらぁ!」


そして、デッドポイントである心臓部に盛大な音を立てて剣を突き立てる。だが相手は紛れもなくこの周辺最強のボスだ。そう簡単には行く筈がなかった。


「キェエ!!」


俺が剣を突き立てた瞬間、アクセルジェットホークは二本目のバーの全てを犠牲に、心臓部へ剣を突き立てていた俺を巨大な翼で抱き寄せるようにして捕まえた。


「なっ!?」


これには流石の俺も驚いた。何とか抜け出そうともがくも、相手は20メートルもの巨体を持つボスモンスター。対してこちらはレベル的には上回っていても、一人の人間サイズ。そう簡単には抜け出せない。


「マスター!」


「ママ!」


「ゴアッ!」


使い魔達がそれぞれの呼び方で俺を呼ぶが、その声は途中で途切れる。俺を襲った急激な浮遊感がそれを強制的に遮ったのだ。


「ぐ、お、お、お……」


途切れ途切れになる自分の声。この浮遊感がどのくらいの時間あるのか分からない。だが、そんな不思議の感覚も唐突に終わりを告げる。


「は?」


この時の声はいかに間抜けだったのだろうか。だが、この状況ならそれも仕方ないと許して欲しい。何故なら……


「フリーフォールかよぉぉぉ!!??」



俺を襲っていた浮遊感は、唐突に地上目掛けての急加速になったのだ。


「ぐっ、くっそぉ!」


ズドォォォォン!!


轟音と大量の砂埃を舞い上げて俺の体を絶大な衝撃が通り抜ける。


「うぐぅ……」


俺は受け身も取ること出来ず地面に叩きつけられた。その上、俺の上にアクセルジェットホークの巨体が全体重をかけて俺を地面に押し付けている。


「ぐぐっ、こんな、攻撃、知らない、ぞ」


途切れ途切れ紡がれる俺の声はとても弱々しい。HP自体はステータスの高さも相まって今のですら約4割程しか削れていないが、レベル差が無かったら今ので全損させられていたかもしれない。それに、巨体に押し潰される事による継続ダメージが地味に大きい。こんな攻撃、β時の情報には乗ってなかったぞ!


「マスターを離しなさい!」


「ママを返して……」


「ゴアッ!ゴアッ!」


ウリエル達の火球や黒球、水圧ブレスが次々とアクセルジェットホークにぶつかる。アクセルジェットホークの拘束が少し緩むが、俺への押し潰しは続く。恐らくこいつのAIが俺が一番危険だと判断したのだろう。だが……


「それだけで十分だ!『カオスレーザー』!」


拘束が僅かに緩んだその隙に、そこからすかさず手を取り出し、アクセルジェットホークの体躯に見合った巨大な眼球目掛けて『カオスレーザー』を放つ。

放たれたレーザーは狙い違わずアクセルジェットホークの眼球を捉え、アクセルジェットホークを一時的な暗闇の状態異常へと陥らせる。


「ぷはぁ!あー苦しかった!」


アクセルジェットホークはいきなり陥った暗闇状態に、混乱して暴れ出した。それにより、俺を押し潰していた拘束は無くなり、ごろりと一回転して立ち上がった俺は腹一杯に息を吸い込む。あぁ、自由って素晴らしい。


「俺の残りHPはもう4割程か……結構削られたな。今の内にポーション飲んでおくか……」


俺は昨日、アイギスと会う前にジュエリーから買っておいた初級HPポーションを一本取り出して飲み干す。


「ふぅ、これでよしっと……さて、あいつの残りHPは……」


ふむ、ゲージ丸々一本と6割か……俺達の総攻撃力を考えると、後大技数発で倒し切れるな。


「よし、今のうちに一人一発全力の攻撃を叩き込め!」


俺が大声で指示を出すと、ウリエル達三人は一瞬で技を放つ姿勢へと移り、自身の持つ中で最も強力な技の準備へと入る。


ーーだが物事はそんなに上手く進むわけ無かった。


「っ!?退避!」


その動作を見て取った俺は、準備していた大技をあっさり諦めて大声で退避を促しながら俺自身も翼を使ったバックステップで大きく距離を取る。いきなりの指示だったが、使い魔達は即座にそれに反応して俺の近くまで戻ってきてくれた。その瞬間。


「キェエエエエ!!」


アクセルジェットホークが大きく身体を震わせる。そして、風塵を撒き散らしながら物凄い速度で低空旋回を行い出した。


「ちっ!まだ目が見えて無いっぽいが、あれじゃあ近付け無いぞ!」


アクセルジェットホークの危険度が高い技の一つである竜巻旋回。激しく旋回を行って竜巻を作り出すβ時代からあるアクセルジェットホークの要注意技だ。

それに巻き込まれたプレイヤーは例えタンク役のプレイヤーだったとしても下手したら一撃で体力が吹き飛ぶとまで言われている。実際この目で見てそれは大袈裟でも何でも無いと理解させられる。これは一度巻き込まれたら最後、竜巻が止むまで降りてこれ無いな。


「さて、どうするかな……」


「マスター、あそこに魔法を撃ち込んだらどうでしょうか?」


俺が呟くとウリエルがそんな事を提案して来るが、俺はそれに横に首を振る事で答えた。


「ダメだ。あの竜巻に魔法を撃ち込んでもただ弾かれるだけで終わる」


「ママ……私の滅却属性は……?」


滅却とは混沌属性を闇側に寄せた属性の名称で、混沌属性を中和とすると滅却はその名の通り全てを滅ぼす破壊と言ったところか。混沌の巫女が使ってあの属性だ。

因みに本当の属性分類ではこれは闇よりの混沌と言う属性に分類される。滅却と言う属性はシステムとして確立しているわけでは無いので、俺達プレイヤー勝手にが勝手にこう呼んでるだけだ。


「ふむ、そうだな……滅却ならもしかしたら突破出来るかも。だけど……」


その言葉を後に俺は二つの剣を構え、クロス状態から開くようにして剣を振るう。


「この間断なく飛んで来る矢羽根の中を発動に時間かかる滅却を練れるか?」


竜巻の中から間断なく飛んで来る矢羽根は、てんで見当違いの方向に飛んで行く物もあるが、それでも結構な数が俺たちに目掛けて飛んで来る。まだ暗闇状態は解除されてないはずだが、こんな大量に飛んで来たらそれもあまり当てに出来無い。


「ん……難しい……でも……」


ツクヨはそう言って俺の背後に移動する。


「ママが攻撃を弾いてくれてる間に……練る……!」


「なるほどな、分かった。ウリエル!ベルセルク!お前らも守備の体勢になっておけ!」


「「承りました(ゴォ)!」」


俺の掛け声と共に一斉に動き出したウリエルとベルセルクは、俺とツクヨの近くに纏まると、各々で防御手段を発動させた。


「『天使のベール』」


「ゴォァァァァァ!!」


ウリエルが使ったのは天使魔法で覚えられる魔法の『天使のベール』。

これはパーティを包むようにカーテンのような物が出現させ、パーティ全体に状態異常耐性と防御力のバフをかける補助魔法である。それと同時に、出現させたカーテンに、熟練度と発動者のステータス依存で耐久力が設定し、それが0になるまで敵の攻撃を防いでくれるという優れものだ。

ぶっちゃけ、初期に覚えられる魔法の中では特に強力な部類である。今のウリエルなら数が多いだけで一つ一つの威力があまり無い矢羽根程度なら数分は時間を稼いでくれるだろう。


ベルセルクが発動させたの『身体強化』の魔法と、最初から持っていた能力である『咆哮』。

ベルセルクには直接的な防御手段は覚えさせていなかったのだが、大声を放って敵の動きを止める『咆哮』の副次効果である”大気を振動させる効果”で矢羽根の威力を殺し、『身体強化』で強化した己の巨大な肉体で威力の大半を失った矢羽根を受け止めると言う所業をやってのけた。これを『天使のベール』と合わせる事で、矢羽根だけなら恐らく10分程度なら余裕で稼いでくれるはずだ。それだけあれば溜めに溜めたとしても、ツクヨの滅却魔法なら数発は放てるだろう。


「って、やっぱりそう楽には行かねぇよな!」


矢羽根は完璧防げていた。しかし、このタイミングで遂にアクセルジェットホークの暗闇状態が完治してしまったのだ。その瞬間、広範囲に適当に放たれていた矢羽根が一つに纏まり、俺達目掛けて一直線に放たれる。


「マスター!『天使のベール』が破壊されました!」


それを受け止めたウリエルの『天使のベール』がその矢羽根と同時に消滅した。レベル50近いウリエルの『天使のベール』を一撃で消すとは中々恐ろしい威力だ。

だがアクセルジェットホークの攻撃はこれだけでは終わらなかった。


ーーアクセルジェットホークの猛禽類特有の鋭い双眸がキランと輝く。


ゾワッ


それを感知した俺は瞬間的にマズイと判断した。


「うぉぉぉぉぉお!!」


俺はウリエル達を押し退け、一歩前に出る。そして、『神魔眼』を発動させ、『魔力強化』をかけた『森羅万象』で真正面にある空気を思い切り逆方向に叩きつけるように動かす。そして、『瞬歩』で新たに覚えた『弾着』を使って一直線に飛び出し、二本の剣をクロス状態から全力で開くように動かす。

弾着は、自信を弾丸のような速度で前に跳ばす、縮地を直線的な動きにのみ特化させた戦技(アーツ)である。


ガキンッ!!


裂帛の気合いと共に飛び出した俺と、回転の遠心力を使って突進を仕掛けて来たアクセルジェットホークが激突する。


「ぐぅぅぅぅ……」


重い。幾らステータスの恩恵で強化されているとは言え、自分の何倍もの大きさを誇る相手と真正面からぶつかり合うとなると流石にキツイ。ビリビリと手に伝わる重量はとてつもない。


(魔力強化を使って発動させた森羅万象で威力を抑えているってのに、なんつー馬鹿げた威力してやがる)


俺は唇を噛み締めながら耐える。だが、徐々にだが此方が押され始めた。


「ぐっ、こん、の!」


全力で耐えるがこのままだとあと数秒もしないうちに此方が弾き飛ばされる。そしたら、こんな馬鹿げた威力を持った攻撃がウリエル達に行ってしまう。特に俺たちの中ではまだ弱いと言わざるを得ないツクヨは一撃でHPを全損してしまうだろ。


(マジでやべぇ!)


ーーそう思った時の事だった。


「『天使の鼓舞』!」


そんな声が背後から聞こえて来た。同時に、俺の中から力が溢れてくるような感覚に見舞われる。


「ゴァァァァア!!」


そしてそれに続くようにして水のブレスが俺を追い抜き、アクセルジェットホークの目を撃ち抜いた。


「キェェ!?」


いきなり訪れた目への激痛にアクセルジェットホークは怯む。その瞬間を俺は見逃さなかった。


「吹っ飛べ!!」


俺は渾身の一撃で、アクセルジェットホークの横っ面を叩きつける。


「キェェ!?」


俺の高いステータスと、ウリエルの補助魔法によるバフがかかった一撃は、宣言通りアクセルジェットホークを思いっ切り吹き飛ばした。


「ママ、準備出来た……!」


「撃てツクヨ!今がチャンスだ!」


俺が言うが早いか、ツクヨは時間をかけて練った滅却魔法を空中でフラフラしてしているアクセルジェットホーク目掛けて投げつける。


「『黒炎却火』」


ドス黒い色合いをした巨大な炎は、一直線にアクセルジェットホークへと襲い掛かり、着弾と同時に奴を飲み込む。


「全員トドメを刺せ!」


それを確認するや否や俺は大声で指示を飛ばし、自身も剣を構える。


「『コロナ』」


「ゴァァァァア!!」


俺が駆け出した直後、火魔法最大の技と渾身の水圧ブレスが俺を追い抜き、黒い火達磨と化しているアクセルジェットホークに突き刺さる。


「キェエエエエ!」


アクセルジェットホークの巨大な悲鳴。それを突き破り俺は大声でアクセルジェットホークへと肉薄する。アクセルジェットホークを包む黒炎により頬にチリチリと焼けるような感じを受けるが、それを無視して俺は大きく剣を振り翳す。


「『デュアルジャッジメント』!」


『二刀流』スキルの新たな技、『デュアルジャッジメント』。

これは剣を上段からV字に振り下ろし、そこから更に中央目掛けて逆V字を描き、ダイヤのような軌跡を描き切り裂く技であり、終了と同時にその軌跡に雷が走ると言う、まさに神の裁き(ジャッジメント)と言うべき技だ。強力だがその分隙が大きく、使い所を選ぶ技だが、身動き取れない敵を攻撃するには十分だ。


「キェエエエエエエエエエ!!」


刹那、その巨体に見合う大音量の断末魔をアクセルジェットホークは上げた。


「エエエエエ、エ、エ…………」


そしてそれは徐々に小さくなっていき、やがて全くの無音となる。


「HPバーは……?」


アクセルジェットホークのHPバーは残りゼロ。断末魔が途切れると同時にズズーンとアクセルジェットホークの巨体が地に沈む音が鳴り響く。そして、その姿は徐々に光に包まれて行き、最期にはパリーンと小気味のいい音を立ててポリゴン片となって空へと消えて行った。


【congratulations!タイム17分42秒】


『フィールドボス「アクセルジェットホーク」の討伐に成功しました。条件報酬「初個体討伐」「初回討伐」「単独撃破」「MVP報酬」「ラストアタック報酬」を獲得しました』


《フィールドボスボス「アクセルジェットホーク」が討伐されました。達成者名:アテナ》


《全てのフィールドボスが倒されました。これより第二の街へのルートが開かれます》


俺たちの勝利を確信させる脳内アナウンスが頭に響き、同時に新たなるステージの開放が宣言される。


「ふぅ、これでひと段落ついたな。お前達もご苦労だった。一体実体化を解除するから戻って休んでくれ」


「はい、ありがとうございますマスター」


「ゴアァ♪」


「疲れた、眠い……」


俺は激戦を終えた使い魔達に労いの声をかけて彼女たちの実体化を解除する。光の粒子となって俺の中へと吸い込まれて行った三人は疲れを癒す為に暫く休むのだろう。俺も帰って休もうと出現したワープゲートに足を踏み入れようとして、はっ!とアイギスの事を思い出した。


「っと、そうだった、ワープゲートに入ると強制的に街に戻されるんだったな……」


フレンドリストを開き、アイギスの名前をタップ。そして彼女にメールを送った。


『アイギス、やる事は終わったんだけど、ここから帰るには一旦街に帰らないとならないんだ。悪いけどさっき渡しておいた帰還アイテムで街に戻って来てくれ』


以上の事を簡単に述べてメールの送信をタップする。返信は直ぐに帰って来た。


『分かった。今から戻る』


と、短い文であったが、意図はきちんと伝わっているし、このまま帰れば直ぐに会えるだろう。帰還アイテムでもワープゲートでも戻った時に現れる場所は同じだからな。


「うし、帰るか。帰ったら今日はもう狩りはしないで報酬の確認やアイテムの仕入れでもしておこっと」


俺は明日から始まるイベントと、新たに開放した次なるステージへの期待に胸を膨らませ、今度こそワープゲートに足を踏み入れた。

あと数話あるかないかでようやく一章が終わります!次なるステージでのアテナの活躍をご期待ください!←その前にイベント回です 笑

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