30話 アイギスの可能性
本当はバレンタインの日に合わせて更新したかったんですが、ちょっと間に合わなかったです。ごめんなさい。
あ、特にバレンタインと関係のある回では無いですよ?なんとなく、行事に合わせたかっただけです(笑)
「さて、装備も手に入った事だしそろそろフィールドへ出てみるか?」
時刻はリアル時間で9:30。装備を受け取った俺とアイギスは始まりの街を歩きながらこの後の予定について話し合っていた。
「うむ、私もそろそろ体を動かしたいしな。兄さんに着いて行くから何処か連れて行ってくれ」
どうやらアイギスも満更じゃないらしく、買ってあげた装備一式を歩きながらニヤニヤとしている。うん、兄としてこんなに誇らしいことは無いな。ゲームだけど。
「そうだな、なら魔鳥の楽園ってフィールドに行くか。俺もそのフィールドの先に丁度用があるしな」
アイギスのレベルは始めたばかりなので当然1だ。対して魔鳥の楽園の適性レベルは30〜35。明らかにレベルに見合ってない。しかしそれはあくまでアイギス個人の話で、俺とアイギスのレベルを平均すると(56+1)÷2で28.5だ。僅かに適性レベルには届かないものの、それなりに戦えるレベルになる。それに、それはあくまでレベルの話であり、実際の戦闘になればあそこのモンスターくらいなら何体現れても問題にならない。
「分かった」
アイギスは頷いて了承の意を示してくれた。
「んじゃ、先にパーティ登録だな。俺が申請を送るからアイギスは了承してくれ」
そう言ってパーティ申請を送ると、すぐさまパーティ申請が受領された旨を告げるメッセージがポップした。
「よし、行くか」
「よ、よろしく頼む」
意気揚々と告げる俺と少し緊張気味に答えるアイギスは、揃って魔鳥の楽園へと足を向けた。
***
「着いた着いた。ここが魔鳥の楽園ってフィールドだ」
歩く事数十分。俺とアイギスは魔鳥の楽園よ入り口へと到達していた。
「ほー、話には聞いていたが、まさか本当にこんなリアルな風景なんだな。ここがゲームだと言う事を忘れてしまいそうだ」
「だろ?俺たちがこの世界に魅了される理由が少しは分かったか?」
「ああ!それにゲームの中でも体が思い通り動くから違和感もない」
それはアイギスが俺同様に天才的な運動能力を持っているからなのだが、この時の俺はそれを知らなかったため、アイギスの言葉にうんうんと頷いて得意気な顔をしていた。
「おっ!ほら早速モンスターが来たぞ。あいつはフライングコークだな。このフィールドでは一番相手をし易い敵だから戦ってみるか」
すると、少し先の方から空飛ぶ巨大ニワトリであるフライングコークがやって来るのを発見した。
「そういや、お前はどんなスキル構成にしたんだ?」
「スキル構成?」
「ああ、チュートリアルの最後でやっただろ?初期スキルの設定って奴」
「ああ、あれか。確か【格闘術】【投擲】【ステップ】【空間把握】【身体強化】だったな。よく分からなかったので取り敢えず名前で効果が分かる奴にした」
うむ、我が妹ながら中々良い構成だな。その名の通り格闘術スキルを獲得出来る「格闘術」と発動させる事でステータスを一時的に強化する「身体強化」は最も相性が良いとされるし、それに加えて「身体強化」は「ステップ」にも適応されるからヒットアンドアウェイ戦法にも最適だ。そして「ステップ」で距離を取ったら「投擲」で中・遠距離攻撃を行えばほぼノーリスクで敵にダメージを与えられる。それに「空間把握」の空間把握能力が加われば背後にも隙は無いしまさに最強。
あれ?これ下手したら俺より良いスキル構成なんじゃないか?
「凄いなアイギス。もしかしたらお前はこのHHO内最強のスキル構成を発見したのかもしれん」
「うん?そうなのか?よく分からないな……」
アイギスは首を傾げながらそう言った。
「まぁそれはともかく、一先ず俺があいつの注意を引くからお前も背後から攻撃仕掛けてみな」
「ああ」
アイギスが短く返事をするのを置き去りに、俺はAGIにものを云わせ、素早くフライングコークに接近する。そして、豪脚を叩き込み、アイギスの方へと蹴り飛ばす。
「アイギス、取り敢えず攻撃を入れろ!」
「え、あ、『魔天の息吹』!」
「え、ちょ、何そ……のわーーーーっ!?」
「に、兄さーーーーん!!」
その瞬間、俺はフライングコークと共に吹き飛んだ……。
***
「はぁ、はぁ、何あれこわっ!」
1分後。吹き飛ばされた俺は息も絶え絶えにアイギスの元へと戻って来た。
「ご、ごめん兄さん!私、攻撃と言われても良く分からなくて!」
そう言ってアイギスは俺を胸に抱き抱える。アイギスの中々ある胸が俺の顔を包むが、今の俺にはそれを楽しむ余裕は無かった。と言うかこれ、傍から見れば相当百合百合しい光景じゃないか?
「いや、いいんだ……いきなりけしかけた俺が悪い……てか、何今の攻撃?何か出してたよな?」
「種族を決めた時に獲得した固有能力の『龍
の咆哮』だそうだ。確か【龍の息吹】『魔龍の息吹』『天龍の息吹』の3つが使えるとか……」
えー、何それー……まぁレア種族だし、固有能力を持っているのは不思議じゃない。それにレベル1では俺に大きなダメージを与える事は難しい。今回ので減ったHPも全体の一割程だ……って、あれ?よく考えたらレベル1で俺のHPの一割を削れるのは凄くないか?これ同レベルだったら一撃で俺のHP吹き飛んでんじゃね?
「ん?でもさっき『魔天の息吹』って……」
「あれは全ての息吹を合わせた攻撃だ。咄嗟だったので選んでる余裕は無かったんだ。本当にすまない……」
え、それってイマジネーションシス……その瞬間、俺のメールボックスにGMメールが届いた。
『妹ちゃんにあげたソフトに入れてたイマジネーションシステムが作動したみたいだね。流石は君の妹だ!と言う事は同時に制限突破も獲得しているはずだからよろしくね!
PS:隆ちゃんにはナイショにしておいてね☆
by麗子』
おい、何をしてるんだこの人。後で絶対隆一さんに言いつけてやる。
「は、はは、はははは……そうかそうか。うん、素晴らしいじゃないか。流石俺の妹、ゲームの才能もばっちりだ」
俺は乾いた笑みを浮かべながらそう言うしかなかった。と言うか、アイギスの奴こんなあっさりと制限突破とイマジネーションシステムを獲得をするとか凄すぎるだろ。いや、勿論麗子さんが細工していたってのもあるけど、それを発現させたのは間違いなくアイギスの実力だ。うん、悔しい。
「こりゃ、俺もうかうかしてられないな……」
「うん?何か言ったか兄さん?」
「ん、ああ別に。アイギスは凄いなと思っただけだ」
流石にゲームの中で留美に負けるのは悔しいし嫌だ。それにアテナと言う名においてもアイギスには負けられない。
「さて、気を取り直して今のでレベル上がっただろう?どのくらいだ?」
「えっと……6だな。一気に5レベルも上がってる」
「よし、なら後3〜4体倒せば多分10には行くだろう。そしたらやる事あるから一旦言ってくれ」
俺は抱き抱えられた状態からスクッと立ち上がって言った。
「う、うむ」
アイギスもそれに伴い立ち上がるが、その顔は少し不満そうだ。まぁ休憩って感覚だったのにそれがいきなり終わったら不満に思うのは仕方ないな。それにアイギスはまだ不慣れなんだからもう少し休憩させても良いかもしれないが、早い所取って欲しいスキルがあるからここは心を鬼にしてやるぞ!
「さて、『全索敵』っと……ふんふん、十時の方向からファレストイーグル二体が近付いて来てるな。よし、少し厄介だが大丈夫だろ」
俺は地面を蹴り、ファレストイーグルと距離を詰める。そして、いきなり現れた俺にファレストイーグル達が驚いているうちに一体を斬り捨てて倒し、地面に片方の剣を突き立てもう一体へ空中回し蹴りで豪脚を叩き込む。
「アイギス!もう一度『魔天の息吹』撃てるか!?」
「ああ!『魔天の息吹』!」
今度は俺の方へ飛んで来ず、吹き飛んで行ったファレストイーグルだけを捉え、残っていたHPを全て消し飛ばす。
「よし、今度は兄さんを巻き込まなかったぞ!それにレベルも7になった!」
ブレスを吐き終えたアイギスが楽しそうに声をあげる。どうやらアイギスもHHOの世界を気に入って来たようだ。
「よーし、ならペースを上げるぞ!」
「ああ!」
そして俺達はもうペースで獲物を探して、サーチ&デストロイで次々とモンスターを倒して行った。
それから少し経った時、遂にアイギスのレベルは10まで上がった。
「10まで行ったぞ兄さん」
「おっ、そうか。なら新たなスキル枠が出来ているはずだからそこに【薙刀術】ってスキルを取ってくれ。薙刀を装備しているからきちんと出ているはずだ」
レベル10でスキル枠を増やし、そこに薙刀術を取られせる。これが俺の考えた留美ことアイギス強化術である。
と言うのも、留美はゲームの才能が高い。それは先程一発で制限突破とイマジネーションシステムを発現させた事から明らかだ。無知識状態で作ったスキルの構成もそれに確信を持たせる。
それならいっその事、俺の持つ知識をフル活用して留美が操るアイギスを俺と同等、もしくはそれ以上のプレイヤーに仕立て上げて、天地戦争で本格的に大暴れしてみようという魂胆だ。
そう、俺は以前言った2つの大勢力vs少数精鋭と言う夢物語を本当に起こしてやるつもりなのだ。そのためには魔天龍であるアイギスの強化は必須事項。やると決めたからには妥協はしない。
「薙刀……薙刀……あった、これだな。兄さん取ったぞ『薙刀術』!」
俺がそんな考え事をしていると、アイギスが俺の手を引っ張ってそう言った。
「おし、なら次からは薙刀をメインに使った戦闘にしようか。熟練度上げてくと戦技って奴が使えるようになるから、それを戦闘に取り入れて行こう。
確か『薙刀術』で最初に覚えてる戦技は『凪』だったかな」
俺は【薙刀術】の獲得戦技を思い出しながら敵を探して辺りを見回す。
「おっ、丁度あそこにアクセルホークが一体でいるぞ」
すると、視線の先にアクセルホークが一体ふらふらと飛んでいるのを見つけた。
「よし、アイギス、今度は一人であいつを相手してみてくれ」
俺は剣の先をアクセルホークに向けてアイギスに向かってそう無茶振りをする。
「分かった。やってみる」
それをアイギスは何も気負う事なく了承した。
適性レベル30〜35のこのフィールドでレベル10のアイギスに相手をしろと言うのは無茶振りもいいいところだ。だが俺は敢えてそれを伏せて伝えた。勿論これはアイギスへの嫌がらせでもなんでも無く、アイギスの真の実力を見極めるためだ。
ゲームでも留美は強い。それはもう十分に分かった。だがこのゲームは元々運動神経に自信がある人なら大抵がそれなりには戦える。問題はそこから先に行けるかだ。要は留美がアイギスとしてこの世界でどれだけよ格上と戦えるかを見極めるのが目的と言うわけだ。
ただ運動神経が良いだけでは途中で必ず挫折してゲームから去って行く。でもせっかく兄妹揃ってやれるのなら長い間楽しむに越した事は無い。留美が俺に、アイギスがアテナに着いてこれるか。これが大事なのだ。
(俺はバイトも兼ねてるからそうそう辞めないけど、留美は違うからなぁ……レベル10でレベル31のアクセルホークを倒せるならば、数日もしたら一緒のフィールドで俺が相手するような敵相手に一緒に遊べるだろ)
と言うか、俺はバグのせいでレベルが30近く上の奴等と大量に戦わされて生き残ったし、多分今後も格上とやり合うだろう。
「よし、倒したぞ!」
そんな事を考えていると、何時の間にか戦闘は終わってた。見るとアイギスのHPは3割程度削られている程度で、レベル31のアクセルホークを倒していた。てか、戦闘の風景があっさりし過ぎていて語るに語れないぞこれ。
「どうだ兄さん!」
「あーうん、凄いぞアイギス。その敵はレベル31なのにあっさり勝てたな」
えーっと……そうだな、アイギスがアクセルホークに背後から「凪」を使って斬りかかり、驚いたアクセルホークに凪から一回転させてロスを無くした薙刀で上段から斬りつける。そして反撃して来たアクセルホークの攻撃を敢えて受け止めてデッドポイントである首を的確に切り裂いた。それで戦闘終了。うん、本当に呆気無い戦いだった。
「そ、そうか?
えへへ、兄さんに褒められた嬉しいな……」
最後の方は何を言ってるかよく聞こえなかったけど、どうやら喜んでいるというのは分かった。
(こりゃあ、大丈夫だな。暫くは一緒にやって行ける)
これならここに来た目的を果たすために更に奥のフィールドに行っても大丈夫だ。
「アイギス、移動するぞ。道中はなるべく敵を倒して経験値を稼ぎながら行こう」
「ああ!」
俺とアイギスは揃って歩き出した。目的地はこのフィールドの更に次のフィールド「試練の丘」。あそこのボスを今日中に倒して第二の街への道を開いてやる。
みなさん、バレンタインはどうでした?私の結果は……内緒です (笑)




