29話 アイギスの装備
久しぶり過ぎて文章が上手く書けん……
8月4日午前9:00
「おーい、留美ー」
「ん?何だ兄さん?」
少し遅めの朝食を食べ終えた俺は、食後のコーヒーを片手に家事仕事へ従事する留美へと声をかけた。今日は元より部活が休みの日なので留美は家に居る。
「いや、今日は留美はHHOどうするのかと思ってさ。昨日はあの後結局再ログインしなかったから頼んでいた装備を受け取ってないしな」
昨日はあの後母さんと父さんの誤解を解くのに疲れてそのまま寝てしまったから、現実時間で23時頃に出来上がってる筈のアイギス用の装備を受け取れていないのだ。
「昨日……?そう言えば兄さん昨日、夜遅くまで母さん達と話していたが、なんだったんだ?」
「あ〜……それは気にしなくていいぞ。で、留美はどうすんだ?HHO」
留美はやはりきつかったのか、あの後直ぐに寝てしまって俺と母さん達の会話を聞いていないのだ。それについては本当に良かったと思っているけどね。留美は初心だからあんな事になったなんて知ったら恥ずかしがって暫く口を聞いてくれなくなっちゃう。そんなのお兄ちゃん耐えられ無い!シスコンと言いたければ言えばいい!
「??まぁ兄さんがそう言うなら……そうだな、この後ある程度の家事を終えたらやってみようと思う。折角兄さんが誘ってくれたんだからな」
「ん、なんか照れるな……なら俺も家事を手伝うよ、洗濯とかなら得意だ」
留美の気遣いに少し泣きそうになるが、兄としてここは気丈に振る舞わなくてはな!
「そうか、ありがとうな兄さん。やっぱり兄さんは最高の兄だな」
「やめろって、照れるだろ」
留美の微笑みながらの言葉に俺も微笑み返しながら席を立つ。
「じゃあこのカップもよろしくな。俺は昨日の洗濯物を取り込んで、新しい洗濯物を干してくる」
「分かった」
俺は留美にカップを手渡し、洗濯物を取りに向かう。
***
「よし、これで洗濯物は終わりだな。留美ー、終わったぞー。そっちはどうだー?」
「ああ、丁度こっちも終わったところだ」
家事を終えて声をかけてみると、留美の方も大丈夫だと返って来た。
「ならやるか」
「うん。だけどきちんとお昼には一旦ログアウトしないとダメだからな兄さん。お昼ごはんをきちんと作り置きしているからな」
そう言えば昨日の夕飯も留美が作り置きしていてくれたやつだったな。相変わらず美味かったぜ。
「分かってるって」
そう言い合いながら俺と留美は各々の部屋に入って行く。待ち合わせ場所は昨日と同じく始まりの街の広場の噴水前だ。
「さて、と……最初はやっぱ、細かい動作を教えるべきかな」
俺は呟きながらHHOの世界へと入って行った。
***
「お、来たなアイギス。早速頼んでいた物を受け取りに行くぞ」
「うむ、よろしくな兄さん」
HHOの中、俺とアイギスは予定通り噴水前で落ち合った。
この時間帯は大体のプレイヤーが狩りに出ているようで、昨日はあんなに人がいた広場も今は疎らにしか人の姿を確認出来ない。
「ガンテツとソウエイは、っと……おっ、ログインしてるな」
俺はフレンド機能からガンテツとソウエイに今から行く旨綴ったメールを送り、それぞれの店へと向かう。
「アイギス、最初は武器の方を受け取りに行くからな。楽しみにしておけよ」
「ああ、ありがとう兄さん」
そんななんでもないような会話を楽しみながらガンテツのいる工場へ 足を進める。
***
「おう、来たかアテナ」
工場へ到着した俺たちを満面の笑みを浮かべたガンテツが出迎えてくれた。
「ああ、頼んでいたブツを受け取りに来たぜ。嬉しそうにしているが、何か良いことでもあったのか?」
「おうよ!まさにその通りだ!」
そう言いながらガンテツが取り出したのは真っ黒な長い柄に、それに反するかのよう白く輝く刃が取り付けられた無骨な薙刀だった。
「お前さんから受け取ったスティンガー・ビートルの角を芯にして、周りを鉄で覆った刃に、同じくスティンガー・ビートルの素材で柄を作ったんだ。頑丈さは折り紙付きだぜ!」
俺はガンテツが取り出した薙刀を受け取り、性能を確認した。
ーーーーーーーーーー
昆虫王の薙刀
ATK+35 SPD+20
攻撃速度UP(小)
ーーーーーーーーーー
ほぅ、序盤にしては中々いいんじゃないかこれは?
「なるほどな、ガンテツが嬉しそうなのは追加効果が付いたからか」
「流石アテナだ、よく知ってるな」
ガンテツは腕を組みながらそう言って僅かに胸を反らす。
追加効果と言うのは、その名の通り装備に特別な効果が付いた事を言う。通常、追加効果はダンジョンやイベントで手に入る装備に付いている事が多いが、稀にプレイヤーが鍛冶スキルを使って作った装備にも付く事がある。その場合鍛冶スキルの熟練度が通常時とは比べ物にならないほど大きく上昇するのだ。
確か鍛冶スキルの上位スキルである【匠の鍛冶師】や【高度鍛冶】などを極めればプレイヤーの思い通りに追加効果が付けられるんだったかな。
「鍛冶スキルで思い通りに追加効果が付けられるのは鍛冶スキルの上位スキルだけだからな。俺的にも早くスキルを進化させたいんだ」
ガンテツはそう言って豪快に笑う。
「ほらアイギス、これがお前の武器だ。受け取れ」
「う、うむ……」
アイギスは緊張の面持ちで俺から薙刀を受け取る。
「お、おお……?なんかこれ、昔から使ってたみたいに凄く手に馴染むな……」
「ほう、アイギスは完全適合者だったのか」
アイギスの反応を見たガンテツは興味深そうに語る。
完全適合者。これは別に学名として存在しているわけでは無いのだが、社会一般でそう呼ばれている。
人間の中には稀に今まで触った事が無い物に触れた時、触った事が無いはずなのに昔からずっと使っていたかのように感じる者がいる。それが完全適合者と呼ばれる人種だ。
かく言う俺もこの運動能力の高さはある意味完全適合者みたいなものであり、実際にそう言うタイプの完全適合者についての論文が存在している。そのせいで一時期お前はスポーツ選手になるべきだと先生達に言われまくった時期があったんだよな。あの時は本当に面倒だったな……。
「おお、流石は俺の妹だ。凄いぞアイギス!」
「そ、そうか?なんか兄さんにそう言われると照れるな……」
アイギスは僅かに顔を赤く染めながら手に持った薙刀を振り回してみる。その動きは中々様似なっており、思わず拍手をしてしまいそうになる。
「うん、これなら私もある程度はやれそうだ。兄さん、ガンテツさん、ありがとう」
アイギスは薙刀を流れる様な動作で背に担ぎながらそう言った。
「いやはや、流石はアテナの妹だ。こりゃあ、アテナもうかうかしてられないんじゃないか?」
「やめてくれ、シャレになってないぞ」
俺とガンテツはアイギスの動きを見て、思わず感嘆の息を漏らした。それ程にアイギスの薙刀捌きは素晴らしかった。
「じゃあこれ貰うな。ガンテツ、幾らだ?」
「そうだなぁ……素材は全部お前さんの持ち込みだし、嬢ちゃんの凄い動きも見せて貰ったし、5000ヘブルでいいぞ」
「マジか、この性能なら1万ヘブルくらいは取れるぞ?本当にそれでいいのか?」
「ああ、まぁ代わりと言ってはなんだが、これからもうちを贔屓にしてくれよ」
「勿論だ!これからもよろしく頼むな、ガンテツ」
俺はガンテツに5000ヘブルを払い握手を交わした。
「兄さん、本当にいいのか?こんないいものを私がくれて」
「ああ、そもそも俺は薙刀使えないし、昨日も言ったが、アイギスが初めてゲームに興味を持ってくれたんだ。兄としてそんな妹の為に何かしてやりたいのさ」
不安そうなアイギスに俺は笑いながらそう言ってやった。俺はリアルでは留美に色々と迷惑をかけているし、そんな俺が留美にしてやれることはゲームの中でしか無い。ならそのゲームの中でくらい俺はリアル以上の兄を演じたい。ただの自己満足かもしれないけど、それでアイギスが喜んでくれるなら俺は幾らでも手助けしてやるさ。
「んじゃ、次は防具だな。ソウエイの所へ行くか。ありがとなガンテツ」
「ああ、分かったよ兄さん。それではガンテツさん、これにて失礼する」
「おう、二人ともまた来いよ!お前さん達は贔屓にさせて貰うからな」
俺とアイギスはガンテツに礼を言って工場を後にした。
腕も確かだし、今度またガンテツの所に何か依頼しにこようかな。俺はそんな事を考えながらソウエイの待つ店へと足を進める。
***
「 やぁ待ってたよ二人とも。頼まれていた物はもう出来てるよ」
ソウエイのいる店へと入ると、これまた嬉しそうなソウエイに出迎えられた。
「これが頼まれていた装備一式だよ」
そう言って差し出された装備は、灰色を基調とし、茶色の繊維を編み込んだ巫女服のようなものと、それに合わせて同じような色合いと様相をしたズボンであった。
「これはスティンガー・ビートルの翅で形作った服とズボンにサイレントバットの皮膜を繊維として編み込んでみたんだ。布装備の醍醐味である速度強化に加え、それなりの防御能力もある逸品だよ」
確認すると、この二つの装備はそれぞれ昆虫王の和服と、昆虫王の袴となっていた。
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昆虫王の和服
SPD+40 DEF+15 MDF+8
魔法攻撃耐性UP(小)
昆虫王の袴
SPD+25 DEF+10
移動速度UP(小)
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「おお!追加効果がどっちにも付いてるのか!」
「そうなんだよ。僕も完成した時は目を疑ったね。まさかこんな序盤に追加効果付きの防具を二つも作れるんだから」
俺の驚きにソウエイが自慢気に語る。その声は落ち着いてはいるものの、やはり普段より若干興奮しているのか何処か早口になっていた。
「ついてるな、アイギス。最初から追加効果付きの装備で始められるなんて中々無いぞ」
まだ凄さがよく分かっていない様子のアイギスは俺の言葉に首を傾げるだけだったが、それでも良い物であるということは理解したアイギスは受け取った装備を早速装備してくれた。
「どうだ兄さん?」
「おお、凄い似合ってるぞ!巫女服に薙刀ってのが実にグッドだ!」
「そうだね、作った本人としてもこんなに似合っていると嬉しくなるね」
「そ、そうか?」
アイギスの姿は灰色っぽい巫女服に薙刀を背負った金髪の長身女性だ。この和風の中に混ざる洋風な出で立ちを例える言葉が見当たらない。俺としてもまさかここまで似合うとは思ってもいなかったので少しばかり驚いた。アイギスはアイギスでそこまで褒められるとは思っていなかったのか、顔を赤くさせて照れている。
「流石だなソウエイ、これは幾らだ?」
俺は目を輝かせながらソウエイに詰め寄る。これはどんなに高くとも絶対に買うべきだ!
「そうだね……素材持ち込みって事と完全オーダーメイドと言う事を加味すると一式で大体3万ヘブルってところなんだけど、アテナさんには贔屓にして貰いたいし、アイギスさんも凄く嬉しそうにしてくれたし、2万ヘブルでいいよ」
「分かった、それで買う」
俺はソウエイに2万ヘブルを渡して、再度アイギスを見る。
アイギスは装備した昆虫王の和服と昆虫王の袴の着心地を確かめるためか、手に持った薙刀を振るいながら装備の性能を確認している。
「うん、中々いいな。兄さんありがとう」
本日何度目かの礼に俺は苦笑を漏らしながら、気にするなとアイギスの頭を撫でてやる。するとアイギスは嬉しそうにはにかみながら上目遣いで俺を見て来る。身長は俺の方が低い筈なのだが、今のアイギスはまるでペットの小動物のような可愛さがある。
「コホンッ、兄妹で仲が良いことは良い事だけど、場所を選んでくれないかい?」
少しの間そうしていると、横からソウエイが仲裁に入って来た。思わずばっと離れるが、何故かアイギスは不満そうだ。
「ご、誤解するなよソウエイ?俺たちはただ兄妹仲がいいだけだ」
「うんうん、分かってるよ」
ソウエイの分かっているよと言ってるかのような笑顔に俺は盛大に頬を引き攣らせた。
「と、とにかく装備ありがとな!また頼むから!」
「いい装備をありがとう、ソウエイさん」
「はいはい、またねー」
ダメだ何故だか知らんがソウエイには勝てる気がしない!
俺は逃げるようにしてその場を去った。
補足:主人公が妹について話す際、留美とアイギスはリアルについての話かゲームの中についての話かで分けています。




