26話 要塞ギルド
今回は会話が多いです
通路は想像よりも短く、5分程度で一番奥に到着した。
「なんだここ?」
そこは今までの神殿風な風景とは何処か違っており、先程までの場所を神秘的と表現するならここは遺跡的と言うべきか。
プレイヤーが10人入れるかどうか程度の広さしかなく、中心にコンソールのような物がポツンと置いてあるだけの簡素な部屋であった。
「広さ的に戦闘は無いと思うけど……取り敢えずコンソール弄ってみるか」
戦闘無さそうと言う事で少し安心した俺は、取り敢えず見るからに怪しいコンソールを弄ってみることにした。
「ん?GMコール?」
コンソールに向けて歩き出した瞬間、脳内に電話を彷彿させる音声が鳴り響いた。なんだろうと思いメニューを開き確認をしてみたたころ、GMと書かれたアイコンが点滅しているのに気が付いた。
「はい」
『あ、アテナちゃん!?良かったー、どうやら間に合ったみたいだね!』
点滅しているGMと言うアイコンを押してコールに出ると、脳に直接響く感じで明るそうな女性の声音が聴こえた。
「そちらからの逆GMコールとは中々新鮮なものですね。どうしましたか?麗子さん」
コールの先にいるのはこのHHOを製作した製作所の所長である那須 麗子さん。中々に変わった人で結構面白い女性である。
『いやー実はアテナちゃんがいるそこって本来はまだ実装していないフィールドでさ〜、いつかやる予定だったイベントの時に解放するつもりだったんだけど、こちらのミスでアテナちゃんをそこに迷い込ませちゃったんだよね〜』
「ああなるほど。道理で敵の強さがおかしいと思いましたよ。でも実装されていないフィールドに迷い込むなんてあり得るんですか?」
『うーん……本来ならあり得ないんだけどアテナちゃんって制限破壊とイマジネーションシステムを持ってるじゃない?だからそれらがバグと共に発動しちゃったんじゃないかなーと思うよ』
「それって俺に何か害ってあったりします?」
『いや、今回のこれは完全にこちらに非があるから特にペナルティとかは無いよ〜。あ、でもこの事は他言無用でお願いね〜』
「そうですか、良かった。せっかく必死に混沌の巫女とか倒したのにその実績が無に帰す事にならないですみました」
『あちゃー……やっぱりアテナちゃんはあの子達を倒しちゃったかー……それならちょっと待ってて。直ぐにそこに行くから』
「え?麗子さんが来るんですか?」
俺の言葉が終わる前GMコールは向こうから切られてしまったので、仕方無く麗子さんが来るのを大人しく待っている事にした。
***
待つ事約1分。俺の目の前にキラキラと青白い光の粒子が現れ、それが徐々に人型を形成して行く。
「パンパカパーン♪みんなのアイドル麗子ちゃんでーす☆」
キラッと言う擬音を発しながら派手派手しいピンクと赤のフリル付きの衣服を纏って現れたのは20代前半程度の麗子さんに似た女性。一応GMと言う事を証明するエンブレムを付けている事から麗子さん本人だと言う予想は付くが……
「麗子さん……そのアバター、5歳くらいサバ読んでません?」
「そ、そんな事無いよ!私は今でもピチピチの女の子だよ!」
本来の麗子さんも精々20代後半程度だろうしそこまで大きく変わっているわけでは無いのだがここは心を鬼にして敢えて言わせて貰う。
「麗子さん……幾ら自分を取り繕っても本物の若さは戻りませんよ」
「グハッ!」
そんな事自分でも分かっていたんだよ……無理している感じが出てるのも分かっていたんだよ……と、俺そっちのけで凹む麗子さん。流石に哀れに見えてきたので、ちょっとだけフォローをしておこうかな。
「大丈夫です麗子さん。麗子さんはまだまだお綺麗ですよ」
「アテナちゃんの容姿でそれを言われると逆に辛いよ!?」
……なんかフォローしたつもりが止めを刺した感じになってしまった……。
「いいもん!私にはまだ隆ちゃんと言う素敵な旦那様がいるもん!」
「もんって……」
うわ、きっつと言う言葉を咄嗟に飲み込み俺は一つ咳払いをした。
「で、そろそろ本題なんですが、麗子さん程の人物が直接来るって、ここはどんな所なんですか?」
「アテナちゃんの反応、軽過ぎだよ……女の子が凹んでたらもうちょっと慰めるとかなんかしないとモテ無いよ?」
「余計なお世話です」
俺ははぁーっと溜め息を吐きながら麗子さんにジト目を向けた。それ見た麗子さんも流石にこれ以上はふざけてられないとばかりに真面目な顔になった。……相変わらずサバ読んだ見た目のままだが。
「それで私がここに来たわけなんだけど……アテナちゃん、要塞ギルドバトルって知ってる?」
「要塞ギルドバトル……?それってβ時代に実装はされていたが、そこまで辿り着ける者がいなくて結局一回も行われなかったやつですか?」
「うん、それだね。要塞ギルドって言うのは特別なギルドホームに搭載されているシステムで、ヘヴルで買える普通のギルドホームには無い機能なんだよね」
「確かにそんな風な説明があったような……」
俺はHHOの購入前に見ていたHHOの情報を思い出しながら麗子さんの言葉に耳を傾ける。
「まぁそこまで言えば予想出来るだろうけどこの混沌の神殿もそんな要塞ギルドバトルの機能を搭載したギルドホームなんだけど……アテナちゃん、要塞ギルドホームの機能は知ってる?」
俺は無言で首を左右に振った。
「そっか、ならそこから説明するね。
要塞ギルドって言うのはギルド自体を一つのフィールドのような物として扱い、そこの所有者であるプレイヤー達が自ら自由にカスタマイズしてダンジョンみたいな物に造り変える事が出来ると言う機能を持っているギルドの事で、定期的に行われる天地戦争やこれからの実装を考えているギルド対抗イベントとかでカスタマイズしたギルドでの参戦が可能となるんだ。勿論要塞ギルドバトルも出来るよ」
「え?それって凄過ぎません?」
「うん。多分要塞ギルドを持っているだけで他の普通のギルドより何倍も優れた結果を出せるだろうね」
正直それは卑怯じゃないのか?と思ったが、よく考えたらそもそも入手が非常に困難なのだからそのくらいの性能は当たり前かと言う結論に至ったので何も言わない。
「ま、とにかくこの混沌の神殿はそんな強力な機能を搭載していると言う事。そこにあるコンソールでギルドのカスタマイズが出来るはずだよ。最初に使う時に使い方の説明とかあるから今はそれはいいよね」
「え?この混沌の神殿を俺が貰ってもいいんですか?」
「当然だよ。私達のミスがあったとは言え、この混沌の神殿を攻略したのはアテナちゃんだもん。要塞ギルドは殆どの物が最初はフィールドで、そこに存在するガーディアン……ここで言うと混沌の巫女だね、を倒さないと獲得出来ない設定なんだけど、この混沌の神殿はそんな要塞ギルドの中でもトップ10入るレベルの難易度に設定しているから、そこをソロで攻略したアテナちゃんがここを受け取るのは普通の事でしょ?」
「はぁ、まあそれなら……と言うかトップ10の難易度?それにしてはかなり簡単に攻略出来ましたけど……」
「うん、普通レベル50程度の状態であのカオスナイトとかの群れは倒せないからね?ましてや中ボスに設定したグレートデーモン・ガーディアンとアークエンジェル・ガーディアンやここのボスの混沌の巫女は倒せないどころか、前線するのも難しいはずなんだよね」
麗子さんはジト目でツッコミを入れて来る。……いや、グレートデーモン・ガーディアンとアークエンジェル・ガーディアンや混沌の巫女は勿論、カオスナイト達も十分強かったよ?でも正直あのレベル帯のカオスナイト達が相手なら早々負ける気はしないんだよこれが。だってあいつら動き鈍いし。
「まぁでもこのフィールドが本来の脅威を発揮出来ていないのは事実だけどね」
「やっぱりそうですよね」
「うん、本当の事を言っちゃうとアテナちゃんがここに迷い込んじゃった時に、ここを攻略されちゃう事を考慮してこの混沌の神殿の機能に制限を掛けたんだ。強制ログアウトさせるのは危険だったしね。その結果本来の姿を出せていなかったんだよねここ。それでも今のプレイヤー達では到底クリア出来無い難易度には変わり無いんだけど……」
「そう言えば幾つも部屋や分岐点みたいなのがあったのに中に入れる場所や進める場所とかが少なかったですね。モンスターのポップ率もかなり低かったですし」
「多分それらが私がプログラミング掛けた際の弊害だね。流石にここのバグ解消だけのためにサーバーを全て落とす訳にはいかなかったし」
「もしそれが無かったら俺も諦めていたかもしれませんよ?」
「あははっ、多分アテナちゃんだったらそれでもクリアしていたんじゃないかな〜」
「どうでしょうね」
まぁ例えそうであったとしても少なくとも攻略は進めたかもしれないけど。
なんか気恥ずかしくなったので出来るだけ無表情を装いながら素っ気なく答えた。麗子さんも真面目を取り繕うのが疲れたのか普段のような喋り方に戻っているみたいだし。
「とにかくここはもうアテナちゃんの物だよ♪でも状況がイレギュラーだから機能には大きな制限を掛けさせて貰うからそこは了承してね♪だから当分は普通のギルドホームとしての機能だけで我慢して貰う事になっちゃうかな〜。
うーん……取り敢えず一番最初の要塞ギルドが解放されるまでが妥当だよね♪そしたら要塞ギルドとしての機能を全て解放するから〜♪」
「分かりました。ではありがたくこの混沌の神殿を頂きますね。機能を解放する時はメールか何か頂けるのですか?」
「うん、そのつもりだよー。他の要塞ギルドが解放されたのを確認したらGMメールを飛ばすから確認してね♪」
「了解です」
俺の返事に麗子さんは満足そうに頷き、それから何かを思い出したかのような表情を浮かべ、手元に出現させたウィンドウを操作する。
「そうそう、忘れるところだった。……はいこれ、私達運営からアテナちゃんへのプレゼント☆」
麗子さんがそう言いながら何かの操作を行うと、唐突に俺のメニューに何かが贈られて来た。それを開いてみると、《混沌主の紋章》と言う名前のアイテムと《主の証》と言うアイテムが入っていた。
「これは?」
疑問に思い麗子さんに聞いてみると、麗子さんは”それはねー”と言いながら説明してくれた。
「それは私達のミスでここに迷い込ませてしまったお詫びと、それにも関わらずここを攻略して見せたアテナちゃんへの褒賞みたいな物かな♪」
「褒賞?でもこれってどうやって使うんですか?」
「普通の消費アイテムと一緒だよー♪使ってみてごらん☆」
「はい」
俺は早速受け取ったばかりの混沌主の紋章を使用してみた。すると……
「うおっ!なんか光ってる物が出て来たんですけど」
「その光ってるのが混沌主の紋章だよ〜☆触ってみてごらん♪」
麗子さんの指示に従い、光輝く物体に触れてみると、
「うわっ、なんか俺の胸に吸い込まれて行った!」
触れた瞬間、光が収縮して行き、次の瞬間には一本の光線みたいになって俺の胸に吸い込まれて行った。
「胸とかアテナちゃんのアバターだと凄くセクシーだね♪とにかくそれで混沌主の紋章は完全にアテナちゃんの物だよ〜。と言う事で次は主の証行ってみよー♪」
それよりこの混沌主の紋章の効果とかを教えて欲しいんだけど……いや、まぁ主の証を使ってからでも遅く無いか。
そう納得した俺は、続いて主の証を選択し使用してみた。
「……何も起こりませんけど」
そう、きちんと使用した筈なのだが一瞬強い光を放っただけで何も変化が起きなかったのだ。
訝しく思って麗子さんに視線を向けと、何故かドヤ顔の麗子さんがいてイラっと来た。……まぁきちんと説明してくれたから別に文句は無いけど。
「いーや、もうきちんと発動してるよ。あ、ほらアテナちゃんの足元を見てごらん♪」
「足元……?」
麗子さんに促されて足元を見たのと、天魔のコートの裾が引かれたのは同時であった。
「……え?混沌の巫女?」
そう、俺の足元にいたのはあの強敵を小さくしたような美幼女だったのだ。
「勿論、説明してくれますよね?」
俺は取り敢えずこの事を知っているだろう麗子さんに説明を求めた。
ちょっと強引でしたかね?何か違和感があったらご指摘ください。




