23話 宝の守護者2
すいません!書いている内に寝てしまい20時に間に合いませんでした!(>人<;)
取り敢えず遅れましての更新です!
「ふーん、やっぱり向こうとあんまり変わんないな」
天使像が飾られている左側の階段を上ると、そこには右側の階段を上った先にあった部屋と同じような造りの部屋が存在していた。部屋の奥には手を上に掲げた天使像。そしてその天使像の手には美しい色合いで作られた宝石が乗っかっている。
「超級ポーション達の効果は後役19分……間に合うかな……」
俺は意を決して足を踏み出す。すると先程と同様、一時的に体の自由が奪われ、階段を塞ぐギミックと天使像を囲う柵が登場した。そして俺と柵の間には巨大な魔法陣が発生し、そこから人型をした何かがきらきと無駄に派手なエフェクトを伴い出現した。
【アークエンジェル・ガーディアン:LV72】
それは3メートルほどの体躯を誇る鎧を纏った女性で、手には2メートル近くもある一本の大きな槍を持っていた。顔上半分を覆うように被られた兜からは瞳は伺えず、背中から生やした大きな一対二枚の翼は白銀で、ある種の畏敬すら感じるほど立派な物であった。だがその雰囲気には友好的なものなど皆無で、今にも動き出して俺を槍で貫かんとする意思が伺えた。スラっとした肢体には大きな力などありそうに無いが、あの細い腕には人一人など簡単に吹き飛ばせるだけの膂力を秘めている事は必至だろう。
頭上に浮かぶHPバーは中ボスを表す2本。
「はっ!上等!」
俺は硬直が解けた瞬間、縮地でアークエンジェル・ガーディアンに肉薄し、鎧を纏っていない足の部分にクロスエッジとダブルスラッシュを叩き込む。
「よし!一撃でも結構削れるな」
減少したHPバーは一本目の3割程。先程のグレートデーモン・ガーディアンの時とは比べ物にならない程のダメージ量だ。
俺はすかさずその場を飛び退き、反撃にと振るわれた蹴りの一撃を回避し、アークエンジェル・ガーディアンを獰猛な笑みを浮かべて見据える。
「これは案外早く終わるかもな」
とは言っても油断は出来ない。グレートデーモン・ガーディアンを基準に考えるなら相手の攻撃は直撃すると一撃でこちらのHPを全て吹き飛ばせるだけの威力を秘めている事になる。無論、超級DEFポーションで防御力の底上げをしてはいるが、それでも放っておける程度のダメージにはなり得ない。
「『カオスブラスト』」
俺は離れた位置から魔法を放つ。これは別にダメージを狙ったものでは無く、単純に敵の魔法に対する耐性を確かめるためのものだ。
「一撃で削れるのは1割程度か……グレートデーモン・ガーディアンよりは脆いな」
通常、天使と言う種族に属するモンスターは魔法や素早さが特筆して高く、あらゆる攻撃には脆弱だ。逆に悪魔と言う種族は動きに機敏性は殆ど無いが、魔法や物理攻撃に対する防御力が特筆して高い。種類にもよるがそれがHHOの一般的な認識だし、実際そうだ。このアークエンジェル・ガーディアンもその例に洩れず、防御力は本当に低い。それを確かめるための魔法であったがどうやら俺の判断に間違いは無かったようだ。
「『ホーリー・レイ」』
俺がそんな事を考えていると、アークエンジェル・ガーディアンから美しい声音で魔法が放たれる。
「っ!?やっぱり魔法は強いな!」
放たれたホーリー・レイと言う魔法は、一本の巨大な矢を上空に向けて飛ばし、一定の高さに到達したとたんにそれを弾かせ、雨のように光の矢を降らすと言う魔法だ。
「『スターダスト・ホーリー』、『ホーリージャジメント』」
それに続くようにして次々と放たれる魔法。幸いにも俺のようにスキルチェインを使っているわけでは無いようなので、一つの魔法が放たれてから次の魔法が飛んで来るまでには時間差があるため、避けるのはそこまで難しくは無いのだが、それはあくまで魔法が単発であった場合だ。
「これは洒落になんねぇよ!?」
アークエンジェル・ガーディアンが放って来たスターダスト・ホーリーは部屋全体に届く超広範囲魔法。それをなんとか回避している俺目掛けて更にホーリージャジメントが飛んで来る。
ホーリージャジメントはグレートデーモン・ガーディアンが使っていたブレス攻撃の魔法版みたいな攻撃で、極太の白い極光を相手に向けて放つ魔法だ。つまり今の俺にの状況は必死に超広範囲魔法であるスターダスト・ホーリーを回避しているところに極太の極光が飛んで来ると言う笑え無い状態だ。おまけにブレスとは違いある程度はアークエンジェル・ガーディアンの意思によって操作出来ると来た。まったく、なんと言う鬼畜な攻撃なのだろうか。
「チッ、こりゃあ、少しのダメージくらいは受ける覚悟をしねぇとな!」
俺はスターダスト・ホーリーを回避するのを止め、全力でホーリージャジメントを回避する事にした。
「あぐっ!」
俺を狙って少しずつ角度を変えて行くホーリージャジメントから全力で逃げると、時折俺の体にダメージが走る。未だに僅かに残っているスターダスト・ホーリーが俺に当たったのだ。勿論直撃はしないようにはしているが、それでも徐々に削られて行くHPに焦りを隠せ無い。逃げ続ける事数十秒。漸く敵の攻撃が収まった。僅か数十秒程度の回避劇だったのに、俺にはその数秒が何分にも感じられた。
「ふぅ……これスターダスト・ホーリーが発動された瞬間に神魔眼を発動させて無かったら確実に死んでたな」
神魔眼はベルセルクとの戦闘の際に使って有用性を実感していたからちょくちょくと使って熟練度を上げていたのだが、それがここに来て漸く身を結んだ。今の神魔眼で引き上げられる知覚速度は20倍。最大で100倍までになるらしいので、まだまだ未熟の域だろうがそれでもこの場では非常に頼もしい。
「だがやはり大技の後は隙が出来るな!」
俺は初級回復ポーションを煽り、一先ずのHPを回復してから一気にアークエンジェル・ガーディアンに肉薄した。
「『クロスエッジ』『ダブルスラッシュ』『グランドクロス』!」
三連スキルチェインを使った戦技の連続攻撃でアークエンジェル・ガーディアンの1本目のHPを一気に吹き飛ばした。
因みにセイクリッドクロスでは属性的に相性が悪いので今回は出番は無い。
「ぐはっ!?」
1本目のHPが消えた瞬間、アークエンジェル・ガーディアンの動きが変わった。今まで使ってこなかった大槍を無造作に振るい、自身に付き纏う煩わしい存在、つまり俺に叩き付けて来た。
唐突な槍での攻撃に、回避も防御も間に合わず俺の体は面白いように弾き飛ばされた。それによりHPが半分を切りイエローゾーンに突入する。超級DEFポーションの恩恵が無かったら今のでHPを全て失っていたかもしれない。
「くそっ、油断した!」
だが俺もグレートデーモン・ガーディアンの時とは違う。弾き飛ばされている中、大きく翼を展開して空中で体制を整える。生憎無様に壁へと叩き付けられるのはもう御免なんでな!
「『ホーリースピア』」
「っ!?」
だがアークエンジェル・ガーディアンの攻撃はそれだけでは終わら無かった。アークエンジェル・ガーディアンか手に持つ大槍が白い光を放ったと思った瞬間、槍が俺目掛けて飛んで来る。
「戦技も使えるのかよ!?」
俺は咄嗟に剣を構え、飛んで来た槍にクロスエッジを放ち迎撃する。
「『ホーリー・レイ』、『ホーリースピア』」
放たれる魔法の雨と鋭い槍の刺突。俺は本能的に判断した。
(避けられ無い!?)
それを理解した直後、俺の脳は即座にその場を凌ぐ唯一の手段を取った。
「『森羅万象』」
直後、ガクンとMPが減り、それに伴い俺目掛けて降り注いた魔法の雨は俺の意思に従い飛んで来る槍を迎撃するように動き出した。
天魔の固有スキル「森羅万象」。
自身の最大MPの半分を消費する事で発動出来るこのスキルは、このゲームのあらゆる事象に干渉出来る。流石にシステム的なものにまでは干渉する事は出来無いが、相手が放った魔法の操作権を奪う程度なら問題無く可能である。と言うか多分、俺が制限破壊とイマジネーションシステムを完璧に使いこなせるようになればシステム的なものにも干渉出来るようになるかもしれない。流石にそれはゲーム的につまらないので、どうしようも無い時以外には使う事は無いと思うが。
ーーとにかく
「これでお前の魔法は完全に俺の支配下だ!」
ホーリースピアを迎撃したホーリー・レイは、そのままアークエンジェル・ガーディアンに突撃して行った。俺の驚きの回避方法に怯んだ一瞬の隙に俺の支配下に降ったホーリー・レイがアークエンジェル・ガーディアンに激突し、アークエンジェル・ガーディアンよHPをがりがり削る。相性的には強い筈だが、アークエンジェル・ガーディアンの驚異的な魔法の威力と、ホーリー・レイと言う魔法の特徴である数の暴力により、アークエンジェル・ガーディアンのHPバーは残り7割を切った。
「『ダブルスラッシュ』『グランドクロス』『乱舞撃」!」
俺は大ダメージを受け、怯んでいるアークエンジェル・ガーディアンに縮地を使った高速移動で接近し、三連スキルチェインの戦技を叩き込む!
ダブルスラッシュ、グランドクロスの高威力攻撃からの乱舞撃による連続ダメージに流石のアークエンジェル・ガーディアンは声無き悲鳴を上げ、地に落ちた。
「ダメ押し!」
それを確認した俺は一気に跳躍し、落下の威力も秘めたグランドクロスをアークエンジェル・ガーディアンに叩き込もうとし……
「っ!?」
背筋に何か寒いものが走る感覚に襲われる。心なしか、その時アークエンジェル・ガーディアンの双眸が兜の内側で怪しく輝いた気がした。
俺は勘が告げる警告に従い、全力で体を捻る。その直後、一瞬前まで俺の頭があった場所をあの大槍が通り抜ける。ホーリースピアでは無い本物の大槍だ。
体を捻っていた事により、直撃こそ避ける事に成功したが、脇腹を掠めたようで、その部位から光の粒子が立ち上る。単純な威力はホーリースピア以上にあったらしく、掠めただけなのに残っていたHPの2割程が削られた。
「あっぶねぇな!」
俺は発動しようとしていたグランドクロスを止め、地に倒れ込んだままのアークエンジェル・ガーディアンに縮地を使い加速した状態の豪脚を叩き込む!
アークエンジェル・ガーディアンは鈍い音を立てて壁際まで吹き飛ぶ。俺は再び縮地を使い吹き飛んで行くアークエンジェル・ガーディアンに追いつき、そのままデッドポイントたる首目掛けてスキルチェインを使ったダブルスラッシュを二発叩き込んだ。それによりアークエンジェル・ガーディアンのHPが残り1割に入り込む。
「止めだ!」
反撃にと突き出された腕での一撃を豪脚で弾き、それによりグラリと揺れたアークエンジェル・ガーディアンに全体重を乗せたグランドクロスを叩き込む。そして遂にアークエンジェル・ガーディアンのHPバーが全て真っ黒に変わり、その神々しい姿を光粒子へと変えて行った。
***
「ふぅ、勝った。でもちょっと物足りないかも」
いや、確かにアークエンジェル・ガーディアンは強かったのだが、ゲーム開始からほぼ常に格上と戦って来た俺からするとこんなギリギリの戦闘は何時もの事だ。とは言え、流石に超級ポーション達の恩恵無しで戦えと言われると厳しいだろうが。今回のグレートデーモン・ガーディアンとアークエンジェル・ガーディアンを倒せたのは超級ポーションの効力によるものが大きいし。取り敢えず一先ずの休憩を取るとしよう。
「にしても最後のあの槍の投擲は焦ったな……」
俺は休憩ついでにアークエンジェル・ガーディアンとの戦闘を振り返り、最後の攻撃を思い出し身震いした。あれはあのまま行ってたら間違い無く串刺しになっていただろう。自分の身の丈よりも大きい槍に頭から貫かれての死亡とか洒落にならん。
だが逆を言えばあの槍の投擲が勝敗を決めたとも言える。と言うのも、俺はあの時あのままグランドクロスで止めを刺そうとしていた。だが実際はどうだ。デッドポイントへとダブルスラッシュを二発も叩き込んだと言うのにあいつは生きていた。もしあのままグランドクロスで止めを刺そうとしていたら間違い無くHPを削り切れ無くて手痛い反撃を喰らっていた事だろう。
体を捻って回避したため体制が崩れてグランドクロスを放て無くなったから仕方無く豪脚で蹴り飛ばしたのだが、それが回り回って俺の勝利へと繋がったのだと考えると何か感慨深いものを感じる。
「っと、丁度超級ポーション達の効力が切れたな……」
と言う事はアークエンジェル・ガーディアンとの戦闘は15〜6分程度だったと言う事か。グレートデーモン・ガーディアンも超級ポーションを使ってから10分くらいで倒したから総合的に見るとかかった時間は大体同じくらいか。
まぁ、どちらが厄介だったかと聞かれると明らかにアークエンジェル・ガーディアンだと答えるがな。
グレートデーモン・ガーディアンは攻撃力こそアークエンジェル・ガーディアンの倍近くあったけどその分動きが単調だったし、防御が硬かったのはめんどうだったけど、言ってしまえばそれだけだ。それに対してアークエンジェル・ガーディアンは多彩な攻撃を仕掛けて来る。魔法だったり戦技だったり……それに槍そのものを投擲して来たりと、動きが予測し辛かった。神魔眼が無かったら多分5回は死んでいたと思う。
「でも多分あの大扉を開けたらまた何かいるんだろうな……」
俺は回収して置いた天使像が持っていた宝石を弄びながら憂鬱気味に呟いた。
いや、強い敵と戦えるのは楽しいんだが、流石にちょっと疲れたと言うか、もうお腹いっぱいと言うか……。でもここまで来たんだし、どうせならこのフィールドは攻略したい。
「はぁ、やるしかないか……」
でも今はもう少しだけ休憩をさせて欲しい。




