19話 混沌の神殿
遅くなりましたが更新です。
次いでテストが近くなってきたので暫く更新は行えません。あらかじめご了承くださいm(_ _)m
「やべぇ!やらかした!」
俺は今、北フィールドの「魔鳥の楽園」を全力で飛行していた。……後方に何十もの巨大な鳥を連れて……。
***
事の発端は俺が着地した場所だ。
北方面の「始まりの草原」を自慢のAGIで速攻駆け抜けた俺は、北のボスフィールド「試練の岳」に行く為のフィールド「魔鳥の楽園」にやって来たのだった。
「魔鳥の楽園」はその名の通り鳥系統のモンスターが存在する場所で、空中戦が可能なプレイヤーの修行場にもなっていた。
俺は空中戦が可能なプレイヤーなので勿論修行も兼ねて空中を飛行しながら、時折現れる巨大なニワトリ型モンスターの「フライングコーク」や鷹型モンスターの「アクセルホーク」、それに鷲型モンスターの「ファレストイーグル」などを相手にしながら進んでいた。
そんな時だった。
ファレストイーグル2体とアクセルホーク2体を同時に相手にしていた俺は流石に少し疲れたので近くにあった崖のようになっているところに向かった。その崖の上に少しポコってなっている場所があり、そこで休憩しよう考えたのだ
「あー……やっぱり鳥系統のモンスターは動きが早いし、動きに規則性が無いから相手にし辛いな……」
二対四枚の白銀と漆黒の翼をはためかして岩場に着地した俺は、アイギスと会う前あらかじめ購入しておいた食料を取り出してそれにかぶりついた。
食料は通常、スタミナを回復するためのアイテムなのだが、スタミナな無限の俺としてはただの嗜好品みたいなものだ。それでも一応満腹感は得られるので気に入っている。
「にしてもここはいいな。モンスターもいないし、景色もいい」
俺はそこから見える景色を楽しんだ。いい景色に美味い飯、そしてご丁寧に作られた草木のふかふかなベット。うん、最高だ。……うん?ベット?
「ピエェェェェ‼︎」
「ーーっ!?」
唐突に頭上からきこえた鳥の鳴き声。慌てて見上げるとそこには既に無数の鳥系統モンスターが存在していた。
何故だ?
その疑問は脳裏に過ぎったとある情報によって解決した。
「フィールドトラップかっ!?」
俺はそう判断した瞬間、一瞬で翼を再展開して逃げ出した。
フィールドトラップ。
その名の通り特定のフィールドに存在する罠の事だ。その内容はフィールド毎に違うため、一概にこれとは言えないが唯一共通して言える事は全てえげつない物だと言う事だ。
「あそこモンスターの巣だったのかよ!?」
後方に何十ものモンスターの怒りの鳴き声を聞きながら全力で逃げる。ここのフィールドの適性レベルは30〜35。そんなフィールドのモンスター多数相手にまともにぶつかったら勝てる可能性は限りなく低い。
「やべぇ!やらかした!」
だから俺は全力で逃げに徹する。そして冒頭に戻る。
***
「はぁ、はぁ……何とか撒いたか……」
魔鳥の楽園奥地、ここまで来て漸く追い掛けて来た鳥系モンスター達から逃げ切る事が成功した。はっきり言って、このゲームを始めて初めて死ぬかと思った。
「はぁ、はぁ……で?ここどこだ?」
マップを見てもerrorと出ていてこの場所が何処のあたりなのかまったく分からない。少なくともエリア移動はしていないないからここはまだ「魔鳥の楽園」だろう。
「確か、突進して来たアクセルホークをカウンターで蹴りとばして後続なファレストイーグルをぶっ飛ばしたのは覚えてる……」
その後何があったんだっけなぁ……。
辺りを見回すと周囲には巨大な崖が存在しており、道は一本道になっている。今俺がいる場所はその一本道の行き止まりらしく、背中に崖を形成する岩の冷たさを直に感じる。
「ああ……俺あそこから落ちて来たのか……」
周囲の確認を終え、続いて上を見上げると、そこには僅かな光が見えており、微かに何かが削られたような跡がある。恐らく俺が落ちる際に削った物だろう。
「翼は……展開出来るな。戻るのは問題無さそうだ……でも……」
俺は一本道の先を見詰める。
「ここって多分隠しエリアとかなんかだよな」
ならばゲーマーとしては是非とも攻略しておきたい。それに加え、このフィールドに足を踏み入れたのは多分俺が初めてだ。βテストの時代の情報にはこんな場所は無かった。ならば誰も知らないレアアイテムとかがあるかもしれない。
「よし、行くか」
俺はそう決定して先の見えない一本道を進む。
***
「所長、サボって無いで仕事してください」
ここはHHO製作所。HHOの全てを管理している場所である。
「えー?昨日検出されたバグ300件と新イベントのプログラミングやったじゃーん。少し休ませてよ隆ちゃーん」
「仕事場で隆ちゃんは止めてくれ……。はぁ、どうしてお前はその能力の高さをもっと活かせ無いんだ……」
所長と呼ばれた女、那須麗子と隆ちゃんと呼ばれた男、那須隆一は所長室に設置されているソファに腰を掛けた。
「なんだー、隆ちゃんも休むんじゃーん」
「私は今、休憩時間だ。お前と違って休むべき時に休んでいるんだ」
隆一はぶっきらぼうに言い放ち、所長室に常備されているコーヒーを淹れる。これは所長の麗子がコーヒー好きなのが理由である。
「あ、私にも淹れてー」
「はいはい」
相変わらず真面目な時以外は緩い麗子に、隆一は苦笑しながら二人分のコーヒーを淹れた。
「うんうん、やっぱり隆ちゃんの淹れたコーヒーは美味しいね〜。私、隆ちゃんと結婚して良かったよ♪」
「結婚した理由がコーヒーだけって言うのは嫌だな。もう少し良いところ見てくれても良いだろうに」
口ではそう言っている隆一だが、口元は僅かに緩んでいる。幾らだらしない人間であってもやはり自分の妻に褒められるのは嬉しいのだろう。
「あははー、大丈夫大丈夫、隆ちゃんの良いところ私、たくさん知ってるもんね〜」
隆一からコーヒーを受け取り、所長席へと戻る麗子。
「それに仕事だって、ここでこうしてHHOの中をモニタリングして……ぶっ!?」
席に着いた麗子は、ディスクに映る映像を見て唐突にコーヒーを吹き出した。
「どうした麗子!?」
いつも飄々としている妻の驚きの行動に思わず声を荒げて、ディスクに駆け寄る。
「一体何が……ぶっ!?」
そしてその画面に映っていたものを見て同様に吹き出す。違うのはコーヒーを含んでいたか否かだ。
「お、おい麗子、これはマズイんじゃないか?」
「確かにマズイわね……こんな所にこんなバグが潜んでいたなんて予想外だったわ……」
画面に映っているのは何やら地下神殿らしき場所に立つ一人のプレイヤー、アテナであった。
「制限突破とイマジネーションシステムがバグに対して発動したんだな……」
「ええ、でないとこの時点で『混沌の神殿』が見つかるわけないわよね……」
深刻そうな顔になる二人。その視線の先には今にでも神殿に入り込まんとするアテナの姿がある。
「マズイわ……アテナちゃんなら下手したらあそこを攻略しちゃう……」
「かと言ってプレイヤーを外部のシステムから強制的にログアウトさせるなんて危険過ぎる……」
「こうなったら私がアテナちゃんが混沌の神殿を攻略する前に混沌の神殿の機能に制限を掛けるわ」
「そうだな、なら俺は他のプレイヤー達が再びこのバグに巻き込まれないように部下達と急ぎ修正しよう」
言うが早いか、隆一は駆け足で所長室を出て行く。
残された麗子は、真剣な顔つきで目の前のモニターを覗く。
「私が設定したのは戦闘関連の事に対する制限突破なのに、バグの補正もあったとはいえ
自力で新たな制限を突破するなんて……」
果たして彼にイマジネーションシステムを授けたのは正解だったのか。答えの無い問いに意識を傾けたくなるが、先ずは今やるべき事をやるとしよう。
麗子は真剣な顔つきのまま、作業を開始する。
***
「ここは……神殿?なんで魔鳥の楽園にこんな鳥とはかけ離れた物があるんだ?」
目の前にあるのは天使のような見た目をした悪魔が口を開けたような形の入り口。
中には天使を象った神々しい像と悪魔を象った禍々しい像が左右に立ち並んでいる。
「なんと言うか……カオスだな」
そう言う感想しか思いつか無い。天使と悪魔、まるで俺の種族である天魔のようだ。
先に進むと何か巨大な扉のような物が現れた。この扉にも天使と悪魔か描かれている。辺りにはその扉以外通路も何も無い。
「ここを進め、と言う事か。何か仕掛けあるかもしれないし、注意しよう」
俺は武器を抜き放ち、いつでも戦闘に移れるように意識を集中させ、扉を開けた。
「ーー!?」
扉を開けた瞬間、そこにいたのはモンスターの群れ。
【カオスナイト:LV64】
【カオスマジシャン:LV61】
【カオスファイター:LV63】
【カオスプリースト:LV62】
盾役、火力、攻撃役、回復役。モンスター達がそのような構成のパーティを組み、巨大な部屋の中に所狭しと存在していた。
「おいおい、レベル60超えがこんなにいるだと?北フィールドのボスでさえレベル45だってのに……」
思わず声を出してしまい、ハッとする。だがもう遅い、モンスター達の視線が俺に向く。
「オォォォオオォオ‼︎」
それは一体誰の雄叫びか。そんなもの確認する暇も無くモンスター達は一斉に俺に飛び掛かって来る。
「くっ!」
俺に咄嗟に部屋から出て扉を閉める。
スドォーン!!
その直後、扉に何か巨大な物体がぶつかる鈍い音が響いた。同時に手をつたる巨大な振動。
「ったく、俺はお前らよりレベルが30近く低い奴等から逃げてたってのによ!」
俺は誰にともなく悪態をつく。だがそんな事しても結局こうして今の状態になっている以上、今この場でどうにかするしかない。
「いいぜ、やってやるよ!」
俺は自身を中心として設置型魔法「カオスウォール」を発動させた。それと同時に自身はバック転をして扉から距離を取る。
直後、俺が抑えていた扉は一方の支えを失い、勢いよく開かれる。
「ウォォォオオォオ!?」
だがらそれと同時に、一番最初に扉を出て来たパーティが俺の発動したカオスウォールによってダメージを受ける。今ので与えたダメージはパーティーの前衛で1割。元々体力が少ないだろうマジシャンとプリーストが3割。これだけ見ればあまり大きな痛手でとは言え無いだろう。
「やっぱり硬いな……だが俺のステータスならレベル差はあるけど何とか戦える!」
だが裏を返せば1割や3割の確実なダメージは与えられると言う事。俺は続け様にカオスボールを連続で放つ。そにより、先に出て来たパーティは全滅し、後続のパーティにと被害が出る。
とにかくモンスター達が扉から出る為に固まっているうちに出来るだけ倒す!
「『カオスブレイク』」
混沌魔法、第三の技カオスブレイク。拳大の魔力の塊を敵に叩き込み、ひるみやノックバックなどの状態異常を引き起こす技だ。それにより扉に固まっていたモンスター達は皆一様に吹き飛び、大なり小なりのダメージを受ける。
「うおっ!?」
その直後にカオスマジシャンから放たれる闇魔法や光魔法。どうやら俺が吹き飛ばした事で一時的に開いた扉の奥から魔法を放って来たようだ。
急に飛んで来る魔法に少し驚いたが問題無く回避した。
「ウォォォオオォオ!」
「っ!?マジかよ!」
魔法の回避に体制を崩した俺に扉を抜けて来た数匹のカオスナイトとカオスファイターが攻撃を仕掛けて来る。
俺は咄嗟に翼を広げて空へと逃げる。それと同時に数匹の敵に反撃を行い、その直撃を受けた1匹を光の粒子に変える。
それを横目で確認しながら俺は敵から離れた所に着地する。
「こいつは一人じゃしんどいな……」
一体を屠れたとは言え、目の前にはまだ100はくだらない数のレベル60超えモンスター達がいる。幾らチートスペックを持つ天魔でもこれらを全て相手にするのは厳しい。
「なら……試してみるか『天魔創造』」
瞬間、俺のMPがごっそり持って行かれ、それに伴い俺の周囲に黒と白の魔法陣が現れる。そこからはたくさんの人型と異形の生物が現れた。
それらは背中に神々しい翼を生やす者や禍々しい翼や角を生やしており、その瞳には確かな意思の色を浮かべていた。
「「「「お呼びですが我が主よ!」」」」
声を揃えて一斉に跪く天使や悪魔達。俺は満足気に頷き、次の作業に入った。
「次はお前達だ。ウリエル、ベルセルク、来い!」
俺が言うと、俺の左右に赤と黄色と白が入り混じった魔法陣と、青と水色と紫が入り混じった魔法陣が現れる。
「お呼びでしょうか、マスター」
「ゴオオオ!」
ウリエルとベルセルクは出現すると同時に天使や悪魔達同様に俺に跪き、敬意を表す。
「お前達に命令を下す」
そんな彼女らに俺は正面を指差し、獰猛な笑みを浮かべながら命じる。
「奴等を殲滅しろ」
「「「「御意に!」」」」
その命令と同時に跪いていた者達は一斉に俺の指差す方向を振り向き、各々が薄い笑みを浮かべながら俺の命令のままに目の前の部屋に存在するモンスター達に飛び掛かる。
「ウリエル、お前達はなるべくあいつらと俺の補助に回れ。ベルセルク、お前はその自慢の体躯で奴等を蹴散らせ」
「はい!」
「ゴオ!」
言うが早いか、俺は一息にMP回復ポーションを煽り、翼を広げて扉の先の部屋い突した。後からはベルセルクが前衛のカオスナイトやカオスファイター達をその巨大で吹き飛ばしながら着いて来る。
「さぁて……ここからは総力戦だ。行くぞお前ら!奴等を一匹残らず叩き潰す!」
俺は剣を掲げ皆を鼓舞する。
「「「「了解!!」」」」
それに呼応して俺の召喚した天使や悪魔達の動きが速くなり、我先にと目の前のモンスター達に飛び掛かる。
さぁて……楽しい楽し蹂躙の時間だ!




