18話 ソウエイ
ストックが……尽きた……orz
「すまないな兄さん……」
「ん?どうした急に」
俺とアイギスは次の目的地であるソウエイがいると言う場所に向けて歩いていた。そんな時、アイギスが唐突に謝罪をして来た。俺は不思議に思ったので歩きを止めてアイギスの方を向いた。
アイギスもそれに伴い、歩く足を止めて同じように俺に相対して来る
「いや、私の所為で兄さんに迷惑を掛けた事が申し訳なくてな……」
アイギスは心底申し訳無さそうに俯きながら話す。
「なんだそんな事か……いいかアイギス。これは俺が好きでやっている事だ。確かに素材も金も俺持ちだ。だけど俺がそうする事で、可愛い妹が俺の好きなこのゲームを楽しんでくれるなら、この程度俺はいくらでもする。お前が楽しんでくれると言う事がそのまま俺の望みなのさ」
「か、可愛いなんて……///で、でもありがとう兄さん……」
無駄に責任感の強い妹に、相変わらずだなと苦笑し、俺の考えを伝えてやった。
アイギスは何故か可愛いと言うところに大きな反応を示した。顔を赤くさせて俯くその姿は、まるで小動物みたいであった。
アイギスはそんな顔を俺に見せたく無いのか、顔を赤くさせたまま俯いてしまう。
「……まぁなんだ。お前にはリアルでも世話になっているし、そのお礼だと取ってくれていい」
俺は少し照れながら言う。
俺の家は両親が共働きのため、土日祝日以外は、基本的に夜遅くに帰ってくる。日によっては両親揃って会社に泊まり込みと言う事もある程だ。
そんな時は留美が家事を一手に担って来た。勿論俺も手伝うが、それでいても留美の負担は俺のそれとは比べ物にならない。そんな留美に何か返してやりたいと思う事は何度もあったが、俺に出来る事は殆ど無い。精々、留美の誕生日に留美の望む物をなんでもプレゼントしてやれる程度だ。
だから自分の得意なゲームの中でくらい、留美のために何かしてやりたい。これは留美へのお礼と同時に、俺の自己満足でもあるのだ。
「だから俺に迷惑じゃないかとか言うことは気にするな。寧ろこのゲームに限ってはなんでも言ってくれ。俺に手伝えることならなんでも手伝うからさ」
「兄さん……。分かった。なら遠慮無く兄さんの好意に甘えさせて貰おう!でも、少しでも厳しいとかめんどくさいとか感じたら言ってくれ。私としても兄さんの世話になってばっかりじゃいられないし、いたくないからな」
「ああ」
俺は頷きながらアイギスの頭に手を置いた。昔から留美は頭を撫でると大人しくなる。それはアイギスと言うプレイヤーになっても変わっていないようで、少し嬉しく思う。
「じゃあ行くか。もう少しで目的地だ」
「ああ!」
俺とアイギスはどちらからともなく手を繋ぎながら目的地へと走る。
***
「いらっしゃい。君がアテナさんだね。僕はソウエイ。短剣使い兼防具職人だ」
俺とアイギスは今、ジュエリーの紹介してくれた防具職人であるソウエイの元に来ていた。
ソウエイはパッと見20代前半くらいであり、藍色の髪をショートカットにした真面目そうなエルフの男性だ。
「はい、俺がアテナで、こっちが妹のアイギスです」
「どうも」
「うん分かっているよ。ついさっきガンテツさんから連絡があってアテナとアイギスって言うプレイヤーがそっちに向かっているから頼みを聞いてやってくれって言われたからね。それと僕にも敬語は不要だよ。ガンテツさんやジュエリーさんには普通に接しているのに、僕だけ敬語って言うのも変だしね」
ソウエイは微笑みながら手を差し出して来た。
「じゃあそうさせてもらう。改めてアテナだ。一応双剣士をやっている。今日は妹のアイギスの防具を作って貰いに来た」
そう言ってソウエイの手を握り返した。
「任せてよ。君ほどのプレイヤーの依頼を受けれるなんて光栄だからね。……それとずっと気になっていたんだけど、君達は兄妹なんだよね?なんでずっと手を繋いでいるの?」
「えっ……?」
ソウエイの言葉にハッとなった俺は、先程からずっと繋いでいた手を慌てて解いた。
「……そんなに慌てて離さなくてもいいじゃないか……」
何故かアイギスは不満そうだが、俺としてはそれどころでは無く、顔を真っ赤にして俯く。
これってソウエイと握手した時ももう片方の手でアイギスの手を握っていたって事だよな……うわっ恥ずかしい!
「……まぁ愛の形は色々だし、僕は何も言わないよ」
そこに悪意無く浴びせられるソウエイのフォローが更に追い打ちとなる。
勘弁してくれ……。
確かに俺とアイギスは仲良いが、そんなんじゃないんだ!だからソウエイ、その慈愛の笑みを向ける止めてくれ!
「と、とにかく素材はこちらで用意するかは必要な物を教えてくれ!」
俺は恥ずかしさを誤魔化すように声を荒げて言う。
「あはは、そんなに照れなくてもいいのに。必要な素材は作る防具の種類によって代わるけど、何かご希望は?」
「えっと……布?系の防具で頼む」
アイギスがそう答えると、ソウエイは少し面食らった顔になった。
「どうしたんだソウエイ?」
俺はすかさず尋ねると、ソウエイは苦笑しながら答えてくれた。
「いや、僕の専門は防具だからね。布系の装備は防具であってもスキル的には【裁縫】に分類されるんだ。だから普通は専門外なんだよ」
「と言う事はお前は布系の装備を作れないのか?」
まさかの展開に俺は少し焦っていた。アイギスは話がよく分かっていないようで、首を傾げている。
「あはは、安心してよ。βテスターはβ時代のデータからスキルや装備、アイテムなどを一つ引き継げるんだ。ガンテツさんの金槌やジュエリーさんの杖とかがそれだね。で、当然僕にもその権利があって、それで引き継いだのが【防具生成】って言うスキルなんだ。
通常、武器や防具を作るのに必要なスキルは【鍛治】スキルで、布装備を作るのに必要なスキルは【裁縫】スキルなんだけど、僕が引き継いだ【防具生成】って言うスキルは防具に分類される物は全て作れるって言う、生産スキルの中の上位スキルなんだ。素材さえあればアクセサリーだって作れる」
それを聞いて俺は安堵した。妹にプレゼントしようと考えていた手前、ここじゃ目的の物は作れませんじゃ情けなさ過ぎる。ゲームの中でくらい、妹からしたら頼れる兄と言う存在でいたいのだ俺は。
「良かった……なら早速頼みたいんだが、素材は何が必要だ?」
「そうだね……今の僕の【防具生成】の熟練度だとスティンガー・ビートルが最高かな。スティンガー・ビートルの翅系の素材があったら貰える?後、無音の洞窟に出てくるサイレントバットの素材も幾つか貰えるかな。あの素材を流したのって君だろ?」
「まあな。丁度昨日狩ったのがある……これだけあれば足りるか?」
俺は何かに使えるかもとジュエリーに売らなかった分の素材を取り出し、ソウエイに渡した。
「ん、十分だよ。なら完成には丸一日かかるからその頃また来てね」
「ああ」
「よろしく頼む」
俺とアイギスはソウエイともフレンド交換をしてソウエイの借りている店を後にした。
***
「さて……装備の目処は立ったけどこれからどうするアイギス?」
ソウエイの元を後にした俺とアイギスはNPCの店で買ったジュースを飲みながら近くのベンチに座っていた。当然もう手は握っていない。握ってないったら握ってないのだ。
「そうだな……この世界での丸一日と言うとリアルの時間で大体8時間程度か……なら私は一旦ログアウトとして夕飯の支度をしておくとするよ」
現在の時刻はまだ15時前。夕飯の支度をするにはまだまだ早いが、先に準備しておいて後は食べるだけと言う形を取るなら問題無いだろう。
「分かった。なら俺はそのうちに次のボスに挑んで来よう」
「うむ、頑張ってくれ兄さん」
俺とアイギスはどちから伴く微笑んだ。その直後の事だった。
《フィールドボス「グランドロック・ゴーレム」が討伐されました。討伐パーティ:流星群・ビーストソウル・帰らずの森》
なん、だと……!?
「ん?なんだこのアナウンスは?」
アイギスは訳が分からず困惑しているが、俺の同様振りを見て更に首を傾げる。
南のフィールドボス「グランドロック・ゴーレム」。俺が次に挑もうと思っていたボスだ。
グランドロック・ゴーレムの見た目を一言で言うと動く山だ。一応人型っぽい形してはいるのだが、あまりにも巨大で最早人型を表す頭や手が見えない。確か公式では30メートルとか書いてあったな。
近接プレイヤーは振り下ろされるグランドロック・ゴーレムの拳を回避して駆け上がり、遠距離プレイヤーはグランドロック・ゴーレムの周囲を動きながら弱点である胸のコアを狙う。
フィールドは洞窟になっており、グランドロック・ゴーレムが自由に動けるように高さは50メートル程に設定されているのだが、グランドロック・ゴーレムが巨大過ぎて俺の得意な飛行戦が出来無い。だから俺も素直に拳を掛けあがってコア攻撃を叩き込もうと考えていたんだ。それがまさか他のパーティに先を越されるとはな。
「ちくしょう!グランドロック・ゴーレムも俺が倒したかったのに!」
「落ち着け兄さん!」
俺は誰にとも知れず悪態をつく。それを俺の様子にあたふたしていたアイギスが宥めてくれた。
「こうなったら予定変更して北のボスをぶっ飛ばしてやる!」
俺は全力で北フィールドまで駆け出した。
「兄さーん!HHOに戻ったらメールするからなー!」
後方でアイギスの大声を聞きながら俺は北のフィールド、「魔鳥の楽園」を目指す。




