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Heaven&Hell Online  作者: 夜桜
First Stage
16/40

16話 アイギス

今回は自分の感覚的に少し短めです

「まったく……後で挨拶に行くって言ったのに、なんで帰してしまったんだ」


「どうやら向こうも忙しいらしかったからな。こっちの勝手で引き留めるのは悪いだろう」


俺と妹の留美は向かい合って机に座りながら、昼食にと作ったピラフを食べていた。

妹特性の味付けで作られたピラフはとても美味であり、何度もレシピを聞いたが「食べたければ私が作る」の一点張りでまったく教えてくれない。


「む……なら仕方無いな。挨拶はまたの機会にしよう」


「だから別にそこまで律儀になる必要は無いって」


俺は最後の一口を咀嚼しながら、やれやれと律儀な性格の妹に内心首を振る。


「そうだ、留美、その人達からお前にプレゼントがあったぞ」


「うん?私に、か?」


留美も最後の一口だったピラフを飲み込み、ピラフと一緒に用意してあったお茶を飲みながら俺の言葉に首を傾げてみせる。


「ああ、どうやらそのようだ。ほら、これだ」


そう言って俺は横に置いておいたHHOを留美の座る場所の前に差し出した。


「これはゲームソフトか?H、H、O……?これって確か兄さんがやってるゲームの名前じゃなかったか?」


留美は俺が差し出したソフトを手に取り、宙に掲げながら名前を読み上げた。


「そうだ。さっきの人達はそのゲームの開発関係者の人でな。是非妹さんにもってくれたんだ。せっかく貰ったんだし、どうせなら一緒にやってみないか?ハードは持ってたよな?」


「む、確かに持ってはいるが……」


留美は答えに詰まり、少し悩む素振りを見せた。大方やってはみたいけど、時間が無いってところか?


「部活に影響が出るかもって心配してるのか?もしそれなら問題無いぞ。このゲームの中では体感速度が3倍に引き上げられているから時間が無い人間でも問題無くやれる。

それに現実時間であらかじめ時間を設定してからログインすると、現実でその時間が経過したら強制的にログアウトされると言う機能も設定出来るから、それによる時間感覚のズレとかも気にならない筈だ」


「まぁそれなら……でも自慢では無いが、私はこの手のゲームは良く分からないぞ」


留美は納得したように一つ頷くが、今度は不安そうな顔で俺を見詰めて来る。どうでも良いが妹の上目遣いとはどうしてこうも可愛らしいのだろうか。


「それなら安心していいぞ。ある程度慣れるまでは俺がきちんと教えてやるからさ。こう見えてゲームの中ではもう、そこそこ有名なんだぜ?」


「……分かった。ならよろしく頼むよ兄さん」


食器を片した後、俺と留美は協力して家事を終わらし、HHO内で会うことを約束して部屋の前で別れる。時刻は13:30。少し遅いが、これなら丁度夕飯の時間の前には終われそうだ。


「さて、留美は先ずキャラメイクしてからチュートリアルを受ける筈だし、その間にジュエリーの露店でスティンガー・ビートルとデススネーク・バイトの素材の一部を買い取って貰うか」


この後する予定を決めてからVR-METを被り、HHOの世界に飛ぶ。


「フルダイブ・リンクオン!」


そう唱えた次の瞬間、俺の姿は昨日ログアウトした宿屋の部屋で目覚めた。


「んじゃ、早速行きますか」


俺は宿屋を出てジュエリーの露店に向かう。フレンド機能によれば、ジュエリーも丁度ログインしているので、今から行く旨を簡単に綴ったメールをジュエリーに飛ばし、たくさんのプレイヤーやNPCが集まる街を全力で突っ切った。

俺の経験談では、キャラメイキングとチュートリアルが終わるには30分程かかる筈なのでそれまでに全ての用事を終わらせなければ!


***


「わぁ!こんなに沢山取れたんだ〜?」


ジュエリーの露店までやって来た俺は、早速持って来た素材を取り出し、ジュエリーの前に出す。


「まぁな。ボス素材はこれの倍はあるが、それはいずれ使う予定だからこれで我慢してくれ。その代わりと言ってはなんだけど、無音の洞窟の素材は以前の倍はあるぞ」


ジュエリーは目の前にある現在最高の物である素材に目をキラキラさせてた。


「そんな〜これだけでも十分だよ〜!丁度以前アテナが売ってくれた素材が予想以上の値段で売れたからお金も十分だし、全部買い取るよ〜」


ジュエリーが何やらウィンドウを操作すると、以前同様、俺の目の前に半透明なウィンドウが現れ、そこには168000ヘヴルと書かれていた。


「んー……まぁこんなもんか」


「はい〜。無音の洞窟のモンスターの素材は以前アテナが売ってくれたのが多少出回っているから少し値段が下がるけど〜ボス素材は間違い無く出回って無いから、それらを踏まえてこの値段が妥当かな〜と」


「なるほど、分かったならそれで頼む」


「はい〜」


俺はウィンドウのトレードボタンをタッチし、最終確認で出るyes/noのyesをタッチした。するとウィンドウの端に出ている所持金に168000ヘヴルが追加された。


「はい、ありがとうございました〜。またよろしくね〜」


「ああ、それとここで回復ポーションとかの消費アイテムを一式買いたいんだけど、売ってる?」


「それならいいのがあるよ〜。丁度さっき仕入れた物なんだけど〜、回復ポーションより効果の高い初級回復ポーションや初級MPポーションって言うのがあるよ〜値段は少し高めだけど、アテナはお得意様だから少し負けてあげる〜」


回復ポーションのような消費アイテムは基本的に普通のポーション、初級ポーション、中級ポーション、上級ポーション、超級ポーションと言う感じに効果が大きくなって行く。まだサービス開始3日目でもう初級ポーションが出回るのは比較的早いと言えるんじゃないのだろうか。


「おっ、いいなそれ。ならそれらをあるだけと、普通の回復ポーションやMPポーションもあるだけ貰えるか?」


「はいは〜い、毎度あり〜。それにしても一杯買い込むね〜。もしかしてまた今日もボス討伐でもするのかな〜」


「まぁそんなところだ」


俺はニヤリと笑いながら答える。勿論ボスには挑むつもりだし、嘘では無い。ただ、ちょっと別の用途もあるだけだ。


「それとジュエリーの知ってる中で、最も腕の良い武器職人と防具職人も教えてくれない?」


「そうだね〜、ならβ時代の知り合いで「ガンテツ」って言う武器職人と「ソウエイ」って言う防具職人かな〜。彼等に会うなら後でメール送っておいてあげるよ〜。その時、何処にいるのかも聞いておくから、分かったらメールするね〜」


ジュエリーは数秒程悩む素振りを見せ、ポンっと手を一つたたき、二人のプレイヤーの名前を教えてくれた。

それにしてもガンテツか……如何にも鍛冶職人っぽい名前だ。逆にソウエイはなんと言うか、職人より戦闘プレイヤーっぽいな。


「何から何まで悪いな。でも本当に助かるよ、ありがとう」


「いえいえ〜、こんな事で良いならいくらでも力になるよ〜」


俺はその後、少しの間雑談を交えた後、客として来たプレイヤーがアテナだ!叫んだ事で集まって来たプレイヤー達から逃げるようにしてその場を離れた。

因みにジュエリーの露店はアテナ御用達の店と言う事で有名になり、暫くの間ジュエリーの露店からは嬉しい悲鳴が聞こえたそうな。


***


「20分程経ったし、そろそろ留美を待ってるか」


HHO内の時間を示す時計を確認したところ、そろそろいい時間なので、俺は留美を迎えにHHOのスタートである始まりの街の噴水の前までやって来た。


「留美は……まだいないようだな。良かった」


俺は辺りを見回し、留美と思われるアバターがいないのを確認し、噴水の前にあるベンチに腰を掛ける。

周囲にはちらほらとプレイヤーの姿があったが、運良く俺の姿を知っているようなプレイヤーはいなかったようで、俺に声を掛けて来るような者はいなかった。

俺はウィンドウを操作し、アイテムボックスの整理をしながら時間を潰す事にした。


「今の時間は……ふむ、大体25分と言ったところかな」


ならそろそろ良い時間だろう。

そう考えた直後、丁度俺の目の前の位置に青白い光の粒子が集まって来て、人型を形成して行く。

現れたのは身長175cm程で、青色の双眸と凜とした顔立ちをしたイケメン風の女性であり、短めの位置に綺麗に揃えられた髪は俺とは対照的に黄金色をしており、それがまた王子様感に拍車をかけていた。

多少は弄ってあるようだが、顔や髪の毛はあまり弄っていないようで、それが妹の留美だと言う事は直ぐに分かった。


プレイヤー名はアイギス。


一説では、アテナと親友であったパラスが喧嘩になった際、パラスの一撃を受けそうになったアテナを危惧したゼウスが天より差し出したとされる盾の名だ。


「よう、どうやらきちんとチュートリアルも終えたらしいな」


「……もしかして兄さんか?」


留美改め、アイギスは俺の声にばっと振り返り、ベンチに腰掛ける俺を見て一瞬訝しげな表情を作るも、この姿にもどことなくリアルの俺の姿を感じたのか、直ぐに警戒を解き近寄って来た。


「ああそうだ。ここではアテナって名前でやってるからお前も俺の事をリアルの名前で呼ばないようにな、アイギス」


まぁ、アイギスと言う名を選択している時点で俺の名前がアテナだって事は知っていたんだろうが。


「了解した。でも呼び方は、呼び慣れた兄さんでも構わ無いか?……どうもゲームの中とは言え、兄さんを呼び捨てにするのは憚れるんでな」


「まぁ好きにしていいぞ。とにかくリアルの名前さえ出さなければ何だっていい」


俺の言葉にアイギスはコクリと頷いた。そこで漸く俺はアイギスの姿にどこと無く違和感を感じた。


「ん?アイギス、お前なんか少し変わった姿だな。一体なんの種族だ?」


アイギスの姿は、パッと見ではただの人間なのだが、よく見ると常にうっすらと青白い雷を纏っているのが分かる。それに肉体の方も注意して見ると僅かにだが鱗のような物が所々見えている。


「ああ、これか?なんか種族を選択しろと言うとこで何にすればいいか分からなかったから適当にランダムを選択したらこうなった。確か【魔天龍】とか言ったな」


なんと言う事でしょう。妹もまさかのレア種族でした。しかも俺と同じで天国にも地獄にも所属しない中立種族。麗子さん、あのソフトに何か仕組んだのか?

……まぁそれは無いだろうが、あの人なら本当にやりそうで怖い。


「くしゅん!」


蛇足だがこの時、何処かで一人の女性がくしゃみをしたとかなんとか。


「へぇ、魔天龍か。そんな種族もあったんだな。名前的にそれ、俺の天魔と同じタイプで天国にも地獄にも属さない種族だろ?チュートリアルで何か言われたか?」


「うーむ……確か天地戦争に参加する場合は自分の参加したい方に参加すればいい……だったな。それと同じような種族の人が2人以上いれば、天地戦争の第三勢力として参加する事も出来る……とも言われたな」


おい、俺はそんな事聞いて無いぞ。どう言う事だラビィ。

……まぁラビィの事はプログラミングした本人様にゆっくり聞くとして、第三勢力として参加出来るというのは楽しそうだ。

少数精鋭対大戦力×2……燃えるねぇ!


「ふむふむ、てことは俺とお前で2人だな。これで第三勢力として参加可能だ」


「正気か兄さん?兄さんはともかく私はこのゲーム初心者なんだぞ。まだ右も左も分からないんだ、戦力になんてなるわけないだろう」


なんとクールなネガティヴ発言でしょう。そんな風に言われたらお兄ちゃん、反応に困っちゃう。


「まぁ天地戦争イベントはまだ当分は来ないし、それまでにお前をトッププレイヤーまで育てあげてやるさ」


「……兄さんがそう言うなら私も腹を括ろう。トッププレイヤーとやらになるのはともかく、せめてこの魔天龍と言う種族を使いこなす程度はしてみせるさ」


うむ、その意気だ妹よ。


「それより、お前はチュートリアルの達成報酬とかで何か装備を貰わなかったのか?」


「確かこの「魔天龍の腕輪」と「魔天龍のネックレス」が貰えた物だな。他にも消費アイテムを幾つか貰ったが、魔天龍オリジナルの物はこの2つだけだ。

私のチュートリアルを担当したNPCが言うには、一応魔天龍専用の進化装備とやらが存在するらしいが、何処にあるかまでは教えて貰えなかったな」


まぁ、普通はそうか。俺の天魔が特殊だっただけで、普通はチュートリアル報酬で進化装備なんて貰える筈も無いもんな。


「そうか、でもそれなら俺の準備も無駄にならなかった」


「準備?」



アイギスは首を傾げる。


「ああ、まぁこう言うゲームにはあまり興味が無いと思っていたお前がこうして、このゲームの中にいるんだ。兄としてささやかな餞別をな、と思ってな。取り敢えずフレンド登録するか」


俺は少し微笑みながらアイギスにフレンド申請を送った。


「兄さん……」


アイギスも満更でも無いようで、俺と同じように微笑みながら俺が送ったフレンド申請を受諾した。


「よし、なら早速向かうか。着いて来い」


「何処に向かうんだ?」


俺が歩き出すと、アイギスは歩出した俺に少し小走りで近付いてきて、俺の横に並びながら何処に行くのかと聞いて来る。


「ああ、ちょっとな」


俺はその質問には敢えて答えず、少し含みのある笑みを向ける。

アイギスはそんな俺に少しジト目を向けて来たが、それ以上は何もせず素直に付いて来る。なんだかんだ言って俺の事を信頼してくれているのだろうか。


俺は内心少し嬉しい気分になりながらも、それを隣を歩く妹に悟られ無いように前を向き、進む。


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