15話 訪問者
今回の話は珍しく主人公のリアルの話。
眠気と戦いながらの執筆だったので変な箇所があるかもしれません。見つけたら是非ご指摘下さい!
また、この話に繋げるため、最初の方の話を少し改稿しました。
最後に作者のミス報告→ベルセルクのステータスが間違っていました。通常モンスターが使い魔となった場合、レベルがリセットされます。ですが、今回のミスはレベルをリセットせずに続けてしまっていました。惑わしてしまって申し訳ありません……m(_ _)m
現在は既に修正が終わっているので問題ありません。
「ふぁ〜あ……」
現在10:45。休みの日は遅寝遅起きな俺は、この時になって漸く眼が覚める。
眼が覚めたばかりでまだぼーっとする頭を抱え、自室がある二階から一階まで降りる。
「お、漸く起きたか兄さん。朝食用意してあるぞ。簡単な物で悪いがな」
「あれ?留美?今日は部活じゃないのか?」
彼女の名前は早神 留美。俺と1つ違いの妹であり、現在高校1年の現役のソフトボール部だ。
あ、因みに俺は同じ高校の2年で帰宅部です。
「それが今日は見ての通りの雨でな……急遽練習が中止になったんだ」
まぁ話し方から分かる様に、相当男前なんですようちの妹。
身長は俺の170cm対して留美は175cmと俺より大きい。しかも体型はすらっとしており、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。身内目で見ても相当な美人だ。
運動し易いよう短く切り揃えられたショートヘアーに、キリッとした双眸がクール感をとても醸し出している。
そのため近所では「男女逆転兄妹」とか色々と呼ばれている。まったく、失礼な事だ。
「ふーん……留美も大変だな「期待のイケメン新人」だっけか?俺の学年でも有名だよ」
「や、止めてくれ兄さん。それに兄さんこそ私の学年でも有名だぞ?「現代の大和撫子」だったか?」
「俺は男だっての……。そもそも俺が清楚って柄か?」
「男女逆転兄妹」とか呼ばれている俺達兄妹だが、兄妹間の仲は非常に良く、留美の部活が無い日は殆ど一緒に登下校をしている。何故か俺達の登下校を見かけた人には良いことがあるとか言う噂があるが、決してそんな事は無いと思う。
「それよりも兄さんは今日もゲームか?」
「んー……まぁなー。ゲームの為に宿題を7月のうちに全部終わらしたと言っても過言では無いし」
俺は留美が淹れてくれたお茶を啜りながらテリビに流れるニュースを眺め、答える。
「そうか。だが程々にするんだぞ。ゲームだけでなく偶には外で実際の体を動かす事も大事だ。……それに偶には私にも構って欲しい……」
最後の方は語尾が小さくなって聞き取れなかったが、妹が俺の心配をしてくれていると言う事は分かった。
俺は留美の頭に手をやり、優しく撫でてやる。
「ああ、ありがとうな留美」
「あ……うん……」
留美は一瞬ピクリと反応をしたが、直ぐに大人しくなり、されるがままになった。心なしか少し赤くなっているようで、その姿は小動物的可愛さがある。
ピンポーン♪
留美を撫でていると、不意に家のインターフォンが鳴った。
「うん?誰か来たみたいだな」
そう言って留美は立ち上がろうとしたが、俺がそれを制した。
「いいよ、俺が出る。留美は食器任せていいか?」
「ああ。じゃあよろしく頼むよ兄さん」
そう言って留美は机の上の食器を台所に持って行った。程なくして水の流れる音が聞こえ出した事から、留美が食器を洗っているんだと言う事が分かった。
ピンポーン♪
「はいはい、今行きますよー」
再び鳴らされたインターフォンに、俺はふらふらと玄関の方へ向かった。
外に見える影は二つ、身長的に見ると男性と女性の物だろう。まぁ大きい影の方も留美のような高身長の女性かもしれないが、そう言う女性はそうそういないだろう。
「はーい」
俺は玄関に出ていたスリッパに履き替え、玄関の鍵を開き、玄関を開けた。
「やぁ、2日ぶりだねアテナさん……いや早神 瞬矢君?」
「へー君が早神君かー。本当にアテナちゃんそっくりだ」
そこにいたのは20代後半くらいに見える見知らぬ男女。
男性は身長180cm程の知的系イケメンで、きちっと手入れのされた髪の毛に黒縁眼鏡が特徴的である。その容姿からも彼が真面目な性格の持ち主である事がひしひしと伝わって来る。
一方女性の方は身長160cm程で、男性とは対照的に無造作に伸ばされた髪の毛に、所々見える寝癖は彼女の女性としてのお洒落願望の乏しさが感じられる。それでいて横の男性といてもまったく見劣ることのないその姿に、彼女も十分美人だという事が分かる。ただし見知らぬ男女と前述したように、まったく知らない人達である。
俺は無言で扉を閉めて鍵をかける。
「ち、ちょっと待って!こっちはともかく私は一度会ってるから分かるだろう!?」
「ちょっと!こっちってなによ隆ちゃんの馬鹿!」
「ええい!そこに突っ込んで来るな麗子!」
玄関の外で漫才のような事を繰り広げる二人に内心溜め息を吐き、再び鍵と扉を開ける。
「すいません、冗談です。どうもご無沙汰ですね那須さん」
そこにいたのはHHO製作所のチーフである那須 隆一さん。そして那須さんが麗子と呼んだこの人物は恐らくHHO製作所所長の那須 麗子さんだろう。
「はー……冗談きついよ早神君。ちょっと本気にしちゃったじゃないか」
那須さんが眼鏡を抑えながら苦笑する。
「いや、すいません。ついお約束で。でも何で家が分かったんです?」
場合によっちゃ警察に電話しないといけなくなるのでそこははっきりと聞かせて貰わないと困る。
「んー、それは私が答えよう!と言っても単純で、アテナちゃんの使っているHHOのソフトを購入した人物を予約リストから探しただけなんだよね♪
あ、勿論この情報は絶対に悪用しないよ?帰ったらきちんとシュレッターにかけて情報を抹消しておくから♪」
そう言って麗子さんは一枚の紙を取り出した。そこにはHHOを予約する際、俺が記入した名前と住所、そしてHHOのソフト番号が書いてあった。
そう言えば確かにHHOの発注元は予約したお店じゃなくて直接会社からだったな。
「なるほど。まぁ立ち話もなんですし上がって下さい」
「すまないね」
「お邪魔しまーす♪」
俺は那須さんと麗子さんを客間に案内した。
「それにしても君は何と言うか凄いね」
「ん?そうでしょうか?」
客間に案内している途中、那須さんから唐突に声を掛けられた。
「ああ。だって普通、リアルでは見知らぬ他人の筈の人間がいきなり家にやって来たら驚くだろう?でも君からはそんな動揺がまったく感じられ無いんだ」
「あー、まぁそれが俺の良いところであり悪いところだと言われます。俺って、結構物事を受け入れ易いたちでして、起こった事がどんな不思議な事であっても「色々言ってもこうして実際起こってるんだから仕方無い」って感じで受け入れちゃうんですよ。……っと、こちらにどうぞ」
「どうも」
「どうもー♪」
那須さん達を客間に案内し、すかさず台所に向かい、お茶と茶菓子を用意する。
「ん?誰か来たのか兄さん?」
そこには洗い物をしている留美の姿があり、俺が何かを用意しているのを確認すると、誰か来たのか?と聞いて来た。
「ああ、まぁ多分俺の客だろうな」
「そうか。なら後で私も挨拶くらいはしておこう」
まったく、律儀な妹だ。
「いいよ、別に」
俺は軽く肩を竦め、用意したお茶と茶菓子を持って客間に戻る。
「こちらをどうぞ」
「ああ、ありがとう。手間かけさせちゃってすまないね」
「うわっ美味しそー。ありがとね♪」
持って来たお茶と茶菓子を那須さん達に出すと、那須さんは申し訳なさそうに、逆に麗子さんは生き生きと礼を言い、用意した茶菓子を一つ手に取った。
「それで、こうして態々訪れるなんて一体何の用でしょうか?昨日そちらの所長さんから送られて来たイマジネーションシステムとやらが関係しているんですか?」
「所長さんなんて止めてよー。普通に麗子でいいよ」
麗子さんは茶菓子として出した饅頭を頬張りながら、軽快に笑う。
「そうですか。では麗子さん、と。改めて麗子さん、俺に何のご用が?」
「それについては私から伝えさせて貰おう」
麗子さんとは対照的に、真面目そうな雰囲気でお茶を啜る那須さん。
「単刀直入に言うと、昨日麗子が君に送ったイマジネーションシステムの実験に強力して欲しいんだ」
やっぱりか。昨日送られて来たイマジネーションのメモの麗子さんからのメッセージでデータを取らせてくれと言う文があった事から大体予想はついた。まぁまさかリアルで直接家まで来るとは思わなかったがな。
「別に構いませんが……それによって俺に何のメリットが?
申し訳ありませんが、俺は純粋にゲームを楽しみたいので貴重な時間を奪われると言うデメリットだけで、メリットが無いのならばお断りさせて貰います」
そもそも俺は元はただのプレイヤーだ。偶々天魔と言う激レア種族を引いて、偶々体を動かすのが得意であった。ただそれだけだ。
「分かっている。だから君にはこれをバイトと言う形で受けて欲しいんだ。勿論バイトである以上給料も渡すし、ゲームも普通にプレイしてくれるだけで構わ無い」
「……それだとこちらの条件が良すぎませんか?」
ただ普通にプレイするだけで給料が出るバイトなんて簡単過ぎる。簡単過ぎる故に安易に首を縦に振れない。
「それは「あーもう隆ちゃんは話を省略し過ぎなのよ!」……じゃあどうするだよ麗子」
「私が説明するわよ」
麗子さんは自身に出されたお茶を一気に煽り、普段のふざけた様子からは想像出来ないような真剣な顔になり話し始める。
「イマジネーションシステムは今、VR界では最も優れた最先端の技術なの。そのシステムはVR世界で自身の想像をそのまま現象とさせる事であって、これが完成すれば不治の病と言われている病気であっても、本人の想像力次第では完治させる事が可能となるの。もしそうなった医療界、VR界の大きな発展となるわ。人類の死亡数も大きく減らす事が出来るはずよ。そのためには多くの実験が必要なの。
一見、君にしか得が無いように見えても、君が協力してくれると言う事がそのまんま、私達の得になるのよ。理解して貰えるかしら?」
麗子さんは真剣な表情のまま、俺の顔を見詰める。答えを待っているのだろうか。
「なるほどね……分かりました。そう言う事ならお引き受けします。取り敢えずは自分の好きにやっていいんですよね?」
俺の答えに、那須さんと麗子さんは見るからに顔を綻ばせ、俺の手を取って来る。
「ありがとう!よろしくお願いね!」
「こちらの都合に君を巻き込んでしまって本当すまない。でも決めてくれてありがとう」
「そこまで感謝しなくても大丈夫ですよ。だってどっちにしろ俺にデメリットと言うデメリットは存在しないじゃないですか」
俺は微笑みながらゆっくりと握られている手を離す。だがまだ聞いておかなければならない事は存在する。
「でも一つよろしいですか?」
「うん?」
「なんだい?」
「何で俺なんですか?実験ならそちらの職員の方がやっても同じだと思うんですが……」
俺の質問に如何にも罰の悪そうな表情を作る。どうやら何かある事は間違い無いようだ。
「いや、それはだね……」
「誤魔化さないで下さいよ?手伝うと決めた以上、俺にもある程度の情報なら聞く権利がある筈です」
目を逸らす那須さんと麗子さんに、俺は眼光を鋭くして二人を見詰める。
「はぁ……まったく、君は油断ならないね」
「そうね……誤魔化すのも間に合わなかったわ……」
「ははっ、この手のやり取りは得意なんです」
観念したように両手を上げる二人に、俺は得意気な顔をして告げる。その時も、相手の一切を観察するように眼光は緩め無い。
「仕方無い、それについては私から説明しよう。
君が言う私達の職員にやらせれば良いのではないかと言う事だが、結論としてはそれは不可能だったんだよ。
勿論その案は真っ先に上がったさ。でも、いざやってみると誰一人として制限破壊とイマジネーションシステムを扱えなかった」
「HHOでイマジネーションシステムを扱うには先ず前提として制限破壊が出来無いとイマジネーションシステムはシステムの法則により発動しないのよ。HHOの制限破壊はプレイヤーに働くシステムの法則の一部を妨害する機能が付いているの。私達はそれをHHO内で能力として確立させる事で違和感無くシステムの法則と同調させる事に成功したんだけど……システムの法則に同調させる上で弄ったプログラムの所為か他のVR世界では制限破壊が可能であった人も何故かHHO内では制限破壊が扱え無くなってしまったの」
那須さんの言葉を引き継ぐようにして説明を行う麗子さん。
「おい、私の説明を取らないでくれよ。……コホン「コホンとか古い〜」うるさい!
取り敢えずそう言う事があって私達の職員は皆制限破壊が扱え無くなったのだが……覚えているかい?君がデビルアリゲーター・ドラゴとデススネーク・バイトと戦った時を。あの時君は一瞬、システムの法則から外れたんだ」
「はい、デビルアリゲーター・ドラゴとの戦闘では何があったかは分かりませんが、デススネーク・バイトを討伐した時はシステム的に不可能な筈の3連スキルチェインが発動しました」
俺は記憶を探り、今の説明にある事と関係しそうな事を思い浮かべた。
「一つでも分かってればそれでいいさ。因みにデビルアリゲーター・ドラゴを君にけしかけたのは僕達運営側だよ。君が本当に制限破壊を扱えるかどうか確認するためにユニークモンスターとしてけしかけてみたんだが……まさか使い魔にしてしまうとは流石に予想外だったよ。あの時は麗子諸共あんぐりしてしまった」
はははっと笑いながら告げる那須さん。と言うかやっぱりデビルアリゲーター・ドラゴはあそこに出現するモンスターじゃなかったか。
まぁボスであるデススネーク・バイトより強かったわけだし、そう言われて寧ろ納得した。
因みにデビルアリゲーター・ドラゴに設定していたテイム条件は「AIを畏怖させる」と「AIに圧倒的実力を見せ付ける」と「AIに好かれること」の3つらしい。
「因みにデビルアリゲーター・ドラゴの時に発動した制限破壊は最後のカウンターみたいに吹っ飛ばした時だよー♪システム的にはあれはプレイヤーにダメージ判定が入る筈なんだ♪」
麗子さんの真面目な雰囲気は最早綺麗さっぱり消えており、最初の方のふざけた態度に戻っている。やはりあの雰囲気を常にキープしておくのは辛いのだろうか。
「なるほど、良く分かりました。取り敢えず俺はひたすらモンスターと戦っていればいいんですね?」
「まぁそうなるね。イマジネーションシステムを自由自在に扱えるようになるには何よりもモンスターと戦って実戦でコツを掴み取る事だ」
「君ならいずれ普通に戦闘にイマジネーションシステムを取り入れる事が可能となると思うよ〜」
那須さんと麗子さんはそう言って残っていたお茶を飲み切り、席を立った。
「それじゃあ私達はここらで失礼するよ。そろそろ君もお昼だろ?」
時計を見ると時間は既に12時を回っており、普段昼食を作る時間となっていた。
「あ、本当ですね。良かった那須さん達も食べて行きます?」
「いや、遠慮しておくよ。私達はこの後直ぐに行かないとならない所があるからね」
「そうですか、なら無理に引き留めはしません。お仕事頑張って下さいね」
「は〜い♪早神君もアテナちゃんとして頑張ってね♪」
那須さんと麗子さんはそう言って玄関まで向かい、靴を履いた。
「あっ!」
「どうしました?」
そこで麗子さんは何かを思い出したように持っていた袋を探った。
「……?ああ、アレか」
那須さんもそんな麗子さんに最初は訝しげにしていたものの、何かを思い出したように腕をポンッと叩いた。
「これこれ、人様の家にお邪魔するんだから土産の一つでも持って行こうと思ったんだけど、生憎私達はそう言うのに疎くてね〜。代わりと言ってはなんだけどこれ妹さんにあげて♪」
俺、この人達に妹がいる事教えたか?……いや、深くは考えまい。那須さんと麗子さんの事だ、事前に俺の家族の事を近所の人からリサーチしていたんだろう。
「これって……HHOのソフトじゃないですか!?本当に良いんですか?」
「おお、初めて君の驚いた姿を見たな。少ししてやった気分だ」
那須さんが冗談混じりに何か言って来るが、今の俺にはまったく聞こえない。
「ふふっ、凄い凝視しちゃって♪じゃあね早神君!あ、これ私と隆ちゃんの電話番号とアドレスね♪何かあったら連絡して。なるべく力になるからさ♪」
そう言って那須さんと麗子さんは帰って行ったが、俺はその後も暫くの間そこから動けなかった。
「俺が徹夜までして並んで漸く予約したってのに、こんなあっさりと2本目が入手出来るなんて……」
俺の呟きは誰にも聞こえる事は無く、留美の昼食が出来たと言う声が聞こえるまで呆然と手の中のHHOを見ていた。
もう次回、もう一本リアルの話を入れてからゲームの中に戻ります(予定)




