12話 ユニークモンスター
ちょっと長めかも……
「制限破壊かぁ……なんか凄そうなの獲得したなぁ」
いや、間違い無く凄いんだろうけど……と言うか以前那須さんが探していたラビィのプログラミングした人物ってこの所長さんなんじゃないかな……。
ピローン♪
心の中で那須さんに南無と合掌を行っていると、不意に脳内に電子音が響いた。
「ん?」
何だろうと思い開いてみると、それはフレンドの機能を使ったメールであり、差出人はジュエリーとなっていた。
「何々、『拝啓、アテナ様へ。この度はボス攻略おめでとうございます。貴方の名前が脳内アナウンスで聴こえた時には、あまりの驚きにお客様を放置してしまいました。つきましては障りの無い程度でよろしいので、是非ボスの素材を私の店に売ってください。場所は先程出会った場所から変わっておりませんので、ご安心下さい。貴方が来るのを心よりお待ちしております』……誰だこれ?」
どうやらジュエリーは実際会って話す時とメールでやり取りする時で別人となるようだ。……偶にいるよねこう言う人。
取り敢えず、今日はこの後また別のボスに挑むつもりなので、その旨を伝えておこう。
「『分かった、今日はまだやる事があるから難しいけど、明日か明後日には顔を出させて貰うよ』っと……これでいいかな?」
俺はジュエリーのメールにそう返事を返し、ウィンドウを閉じる。
ピローン♪
すると再び電子音が鳴った。
「ジュエリーが返事を返してくれたのかな?……んん?何だ、エレンからか」
そう言えばエレンもフレンド登録してたな。
「メールの内容は、と」
『アテナさんボス攻略おめでとう!まさか昨日の今日でボスを討伐しちゃうなんて驚いたよ!この驚きを共有するため「アテナ様について語るスレ」っての立てといたから後で確認してみてね!』
「はぁ!?」
俺は慌てて掲示板を確認すると、確かに「アテナ様について語るスレ」と言うスレが立っていた。恐る恐る覗いてみると、エレンを筆頭に以前も掲示板で見掛けたプレイヤー達が物凄い勢いで書き込んでいた。その勢いの程は、もう少しでスレが埋まる程であった。
「………」
俺は無言でそれを閉じ、エレンからのメールを削除した。
「エレン……あいつ今度見掛けたら微毒の沼に沈めてやる……」
俺はエレンをもう一度ぶっ飛ばすと心に決め、開いたままになっていたウィンドウを閉じた。
「さて、そろそろ次のボスを倒しに行こうかな」
俺は何も見なかった事にして、ゆっくりと立ち上がり、宿屋を出た。
***
「ふぅ、ここまで来ればもう安心か」
宿屋を出た俺はステータスに物を言わせて、全力で西のフィールド側の始まりの草原に向かった。と言うのもエレンの馬鹿とその一味が俺の容姿や特徴を流しやがった所為で、宿屋を出た途端、大勢のプレイヤーに囲まれてしまったのだ。
某ゲームのゾンビの如く迫って来るプレイヤー達にはある種の恐ろしさすら感じた程だ。
そんな訳で俺は今、始まりの草原の西側から行ける「毒撒き散らす湿地帯」と言うフィールドに来ていた。
今回俺が挑もうと考えているボスはこのフィールドの先の「試練の熱帯雨林」と言うフィールドにいる「デススネーク・バイト」だ。βテスト時の情報によると、こいつは10メートル程もある体長に、離れれば猛毒の球を吐き出し、近付けば人など簡単に飲み込める大きさをした口で噛み付き攻撃を行って来る厄介な奴らしい。その時は30人でレイドを組み盾役が10人掛かりで毒を受け止め、5人の前衛がタゲを取り続け、15人の魔法職が間髪入れず魔法を放つ事でどうにか討伐に成功したらしい。適性レベルは30〜35であり、始まりの街周辺のボスの中では2番目の強さだ。
最も強いのが北のボスモンスターで、スティンガー・ビートルの次に弱いのが南のボスモンスターである。なら何故南に行かないか。その答えは簡単で、そこは俺とすこぶる相性が悪いのだ。
俺の戦闘方法は天魔と言う種族の高ステータスと、二刀流スキルを生かした高速戦闘であるのだが、南のフィールドは全て洞窟型のフィールドで、俺の機動力が一気に削がれるのだ。
因みに俺が昨日レベリングを行った「無音の洞窟」は南のフィールドのとある箇所から行ける隠しエリアだったので、難易度がちょっと頭おかしいんじゃないの?と言うレベルだったのだ。あそこの雑魚のレベル、南のボスより高かったんだよな……。
まぁ、と言うわけで西のボス「デススネーク・バイト」を倒しに来たわけなのだが……。
「うへぇ……ジメジメして気持ち悪い」
この通り絶賛苦戦中です。はい。
このフィールドはフィールド全体がジメジメしていて、地面も足首の下辺りまである濁った水で動きが阻害される。しかもこのゲームは無駄にリアルに作られているのでジメジメ感や水の感覚が直に伝わって来るのだ。流石に靴の中に水が入って来ると言う事は無いが、それを踏まえても非常に気持ち悪い。
「あ、これってもしかしなくともスカイウォーク使えばいいんじゃね?」
毒撒き散らすく湿地帯を進む事1時間。俺は遂にこの不快感から逃れる方法を見つけた!
「はあ〜俺、天魔で良かった〜」
俺は地上から50㎝のあたりをスカイウォークを使い、鼻歌を歌いながら悠々と歩く。流石にジメジメ感まではどうしようも無いが、それでも先程と比べると見違える程気持ちが楽だ。
普通ならこんな事でスカイウォークなんて使っていたら直ぐにスタミナ切れで動けなくなってしまうが、その問題は天魔と言う種族の特徴である、スタミナ無限が解決してくれる。
「所長さんにはマジ感謝」
そこはもっと別の良さがあるだろ!と言うツッコミは無しで。とにかく俺は今、足が水に浸かってないと言う事の清々しさで胸が一杯なのだ。
「ふんふふーん♪……ん?」
そのまま進むと、不意に俺の全索敵に何かが引っかかった。その直後、そちらの方向からトゲのような物が飛んで来た。
「あっぶね!?」
咄嗟にバック宙を行い、後方へ退避。すかさず武器を抜き、トゲが飛んで来た方向を睨み付ける。
「ゲェコ」
そこにいたのは頭部に角を生やし、毒々しい緑色の皮膚を持った60cm程の大きさのカエルであった。
「げっ、矢毒蛙かよ……」
矢独蛙はこのフィールドに存在するモンスターであり、頭部生えた角を矢のようにして飛ばして攻撃をして来る。その角には何もしてなくともプレイヤーの体力を削るタイプの毒が含まれており、遠距離からそれを飛ばして来ると言う事で近距離タイプのプレイヤーに大変嫌われているモンスターだ。
因みに現実にもヤドクガエルと言うカエルは存在するが、HHOの矢毒蛙とは似ても似つかぬ程可愛いらしく美しい姿をしている。
……まぁそいつも致死性の毒とか持っているから全く違うとは言い切れないが……。
「まぁ、せっかくだしさっき獲得しといた新たなスキルを試させて貰おうかな」
俺は矢毒蛙の方向に向き直り、10メートル程先にいる矢毒蛙に武器を向ける。矢毒蛙も何事かと危険を感じたのか、頭部の角を俺に向けて連続で発射して来た。
「さて、上手く当たるかな……『カオスボール』」
俺が唱えると、剣の切っ先に黒と黄色が禍々しく混ざりあった球状の物体が出現し、次の瞬間には矢毒蛙に向けて真っ直ぐに飛んで行った。
「ゲコッ!?」
俺が放った物体はこちらに向かって来ていた矢毒蛙の角をあっさりと呑み込み、そのまま矢毒蛙まで到達した。
「わぁお……」
矢毒蛙まで到達した俺のカオスボールは、矢毒蛙がいた木までも消し飛ばし、そこには元から何もなかったかのようにポッカリと穴が開き、木々が大量に存在するこの場にてそこだけが異様な雰囲気を放っている。
経験値やドロップアイテムがきちんと獲得出来ている事から矢毒蛙は問題無く倒せたようだが、この光景には正直言葉を失う。
このスキルの名は「混沌魔法」。初回討伐報酬で獲得した「特殊スキル獲得チケット」で獲得した天魔限定の魔法だ。やっぱり魔法を使ってみたいと思うのは一人の男として仕方無い事だと思う。
勿論理由はそれだけでは無い。現状、俺には遠距離攻撃の手段が圧倒的に足り無い。スティンガー・ビートルの時は遠距離攻撃は全てウリエルに任せていたから問題無かったが、火炎魔法が効きにくい水棲のモンスターや、単純に火属性に耐性のあるモンスターを相手にする際、遠距離攻撃をウリエルにばっかり頼った戦い方をしていると、いずれ躓く事は目に見えている。このフィールドが良い例だ。
この毒撒き散らす湿地帯と、次の試練の熱帯雨林に生息するモンスターは皆、火属性に高い耐性を持つ。勿論まだ始まりの街から近いと言う事でそこまで強力なモンスターは存在しないが、先程の矢毒蛙のように厄介な攻撃を行って来るモンスターが何種類か存在する。だから今回はウリエルは出していない。ウリエルには悪いが、出していても正直足手纏いにしかならない可能性が高いからな。
「とにかく今は進むとしよっと」
俺は一人呟き、再び歩き出した。
その後は運良く他のモンスターとは遭遇する事は無く、もう少しで次のフィールドだと言う時にそれは現れた。
「うん?何だこのでっかいマーカーは」
俺の全索敵に何やら巨大な反応が引っかかった。それは真っ直ぐにこちらに向かって来ており、間違い無くこちらを補足している。
「真っ直ぐこっちに向かって来ているな……このままだと5分もせずに接触しそうだ。仕方無い、何だか分から無いが迎え討つか」
いくらもう少しとは言え、あと5分以内にこのフィールドを抜ける事は出来無い。仕方が無いので少し先に見えている他より少し広めの空間に向かって足を進める。
***
「……はっ?」
待つ事約2分。俺の全索敵に引っかかった存在が遂に俺の目の前に姿を現した。
それはまるでドラゴンとワニを足したような姿をしており、体は真っ黒な鱗に覆われ、手足には鋭い爪、口はどんな堅い物でも噛み千切れるだろうと思わせる鋭く太い牙がビッシリと並んでいる。高さは3メートル程あろうか。俺を見下ろす眼光は鋭く、逃げる事は許さないとばかりにギラギラと睨み付けている。
「おいおい……ふざけるなよ運営、こいつは明らかにこんな序盤のフィールドで出して良いような存在じゃ無いだろうが……」
βテストの情報ではこのフィールドに生息するモンスターは「矢毒蛙」「ドレイクフライ」「沼蛇」の三種類の筈だ。こんなワニみたいなモンスターは存在しなかった。
「デビルアリゲーター・ドラゴ……HPバーは3本……ボス級モンスターか……」
これはこの手のゲームによくあるユニークモンスターって奴か?だとしてもそれをボス級の強さに設定するなよ運営。
この毒撒き散らす湿地帯の適性レベルは20〜25。スティンガー・ビートルのいた試練の森と同難易度だ。モンスターのレベルも18〜23と言った適性レベル通りの強さの筈だ。たがこいつのレベル見てみろよ。38だぜ?これ多分「デススネーク・バイト」より強いぞ。
「ゴォォォオー!」
「うおっ!?」
デビルアリゲーター・ドラゴはその巨体からは到底想像出来無い速度で俺に突進して来た。咄嗟に上空に跳び上がり回避をするが、数メートルはあった俺とデビルアリゲーター・ドラゴの距離は一瞬にして縮まった。恐らく俺の体力とVITを以っても直撃すれば致命傷になり得るだろう。
「冗談じゃねーぜまったくよ……」
俺は覚悟を決めて、天使の剣と悪魔の剣を抜き放ち、「天魔翼生成」にて翼を生やし、万全の状態へと移行した。
(多分奴の攻撃は強靭な足のバネによる高速での近距離のものばかりだ……常に空中にいて奴の動きに対応しながら魔法を放っていれば無傷で勝てる筈……)
俺は算段を整え、空高くへと飛び上がる。だが、俺の浅はかな考えは一瞬にして破られる事になる。
「ゴォォォオオ!」
唐突に轟くデビルアリゲーター・ドラゴの咆哮。その直後、俺のHPがガクンの6割程削られる。
「な、なんだ、と?」
見ると左手が無くなっており、状態以上:部位欠損左手になっていた。
左手と同時に吹き飛ばされた悪魔の剣は丁度俺の真上から落ちて来たので、咄嗟にそれを口でキャッチし、再び上空へと投げ飛ばし、そのまま腰に挿してある悪魔の剣の鞘で受け止め、納刀する。
「くそっ!……何が起こったんだ一体!?」
俺はアイテムボックスから天魔ポーションを取り出し、急いで失った左手に掛ける。これで後一時間は天魔ポーションは使えなくなったが、現状部位欠損と言う状態異常を治せる効果を持つ回復アイテムは現状これしか無いので、背に腹は代えられ無い。
天魔ポーションにより回復した左手で改めて悪魔の剣を握り、普通の回復ポーションで失った体力も回復させる。流石に回復ポーション一つじゃ失った体力の全てを回復する事は出来なかったが、それでも9割程度までは回復出来た。
俺はデビルアリゲーター・ドラゴの動きの一切を見逃さ無いように今まで使って来なかった神魔眼を発動させた。
「同じ攻撃はもう二度と喰らわ無いぞ」
天魔の瞳を発動した事で俺の片方の眼にあった魔法陣が輝き出し、それに伴い、世界がゆっくりに見えるようになった。
「体感速度は大体10倍か……今まで使わなかったから熟練度も上がって無いってのに、これは凄いな……」
俺は戦闘中と言うのも忘れ、暫し呆然としてしまった。
「ゴォォォオオ!」
「っ!?またあれか!」
その瞬間、デビルアリゲーター・ドラゴが再び咆哮をあげた。それにより呆然としていた意識が強制的に戦闘中のそれに変わり、10倍まであがった知覚速度でデビルアリゲーター・ドラゴの技の正体を探る。すると、デビルアリゲーター・ドラゴの口から物凄い速度で何かが発射された。
「なるほど……これがあの技の正体か……!」
だが今度ははっきり見えている。
俺はデビルアリゲーター・ドラゴから発射された水を二本の剣で受け流すようにして受け切る。
そう、俺の左手を吹き飛ばした技の正体はデビルアリゲーター・ドラゴが口内で高圧縮した水流を高速で放った物だったのだ。
だがなるほど。天魔の瞳を使ってもこれ程の速度の攻撃だ、普通の状態じゃ知覚する事も出来無いのは仕方無い。
「ゴォォ!?」
自身の自慢の技を防がれた事に驚いたのか、デビルアリゲーター・ドラゴに確かな動揺がおこる。
「隙ありってかぁ!」
その瞬間、俺は連続で放つ事が可能なカオスボールを放てる限界まで放った。
「ゴオォ!?」
デビルアリゲーター・ドラゴは、自身に迫る脅威を悟り、咄嗟に回避行動を取ろうとしたが、動揺していた事による隙は大きく、攻撃を認識し動き出す前に全てのカオスボールがデビルアリゲーター・ドラゴに直撃する。
それによりデビルアリゲーター・ドラゴのHPバーが1本丸々削れ、2本目のバーの半分にまで突入した。
「どうやら耐久力はスティンガー・ビートルよりも遥かに弱いみたいだな!」
俺はデビルアリゲーター・ドラゴ目掛けて急降下し、その速度のままデビルアリゲーター・ドラゴの頭部にかかと落としを叩き込む!
「ゴオオ!?」
カオスボールによるダメージが残る中、唐突に来た頭部の衝撃に思わずよろけるデビルアリゲーター・ドラゴ。減ったHPバーこそ1割程度であるが、このかかと落としはダメージ以上の結果を齎してくれた。それは状態異常:目眩だ。
状態異常:目眩になった者は一定時間視界を奪われる。つまりその間、攻撃し放題と言う事だ。
「『乱舞撃』!」
この隙に俺は二刀流スキルの戦技乱舞撃を叩き込み、デビルアリゲーター・ドラゴのHPをゴリゴリ削って行く。
どうやらこいつは体力が半分を切ると耐久力が上がるタイプのモンスターらしく、乱舞撃を以ってしてもHPを一気に削る事は出来無かったが、それでもスティンガー・ビートルと比べると遥かに柔らかいので、直ぐに2本目のHPバーを削り切った。
「ゴォォォオオオ!!」
その瞬間、デビルアリゲーター・ドラゴは思わず耳を塞いでしまうような巨大な咆哮を上げた。
「っ!?」
その咆哮は勿論俺にも影響し、放っていた乱舞撃を強制的に終わらせられ、加えて状態異常:硬直を喰らってしまった。デビルアリゲーター・ドラゴの真横で、だ。
その瞬間、状態異常:目眩が解けたデビルアリゲーター・ドラゴは、カッと目を見開き、全身の力が込められた尻尾が俺に叩き込まれた。
「ガハッ!?」
メキメキッと嫌な音を立てながら俺の体は一直線に吹き飛ばされ、少し離れた位置にあった大木に全身を打ち付けられる。
デビルアリゲーター・ドラゴの攻撃の直撃を受けた事と大木に叩き付けられた事により、俺のHPは残存していたHPの9割程が一気に削られ、レッドゾーンへ突入した。数値にすると残りの体力は18だ。
「やっべ……」
流石にこの状況はまずいので、痛む体を無理矢理起こし、ふらふらと空へと飛び上がる。この状態でさっきみたいにブレスを吐かれたら終わりなので、念のため一発カオスボールをデビルアリゲーター・ドラゴの顔面にぶつけ、僅かとは言え視界を奪う。
「はぁ、はぁ……なんつー馬鹿げた攻撃力をしてるんだこいつは……」
俺は回復ポーションを一気に3本煽り、自身のHPをある程度回復させ、再度デビルアリゲーター・ドラゴに向き直ると、その瞬間にデビルアリゲーター・ドラゴが空中にいる俺目掛けて跳び掛かってきた。
「うわっ!?」
咄嗟に翼を閉じて地面に落ちるようにして回避した事で事無きを得たが、反応が一瞬遅ければ確実に喰われていた。
「マジかよ……」
こいつここに来て行動パターンが変化しやがった。
「おもしれぇ……」
俺は獰猛な笑みを浮かべ、デビルアリゲーター・ドラゴを見る。
「ゴオォ……」
そんな俺の笑みにデビルアリゲーター・ドラゴは無意識に一本後退るが、最早遅い。俺の思考はデビルアリゲーター・ドラゴを倒す事に全てを注いでいる。
「お前のHPバーは残り1本。俺のHPは残り9割とは言え、お前の攻撃の直撃を受ければあっさり吹き飛ぶ程度……お互い残り少ないHPだ、殺し合おうぜ、デビルアリゲーター・ドラゴ!」
俺は天使の剣と悪魔の剣を構え、真っ直ぐにデビルアリゲーター・ドラゴに特攻する。
デビルアリゲーター・ドラゴも覚悟を決めたのか、咆哮をあげながら鋭い牙を剥き出しにして俺を迎え討つ。
遂に両者が激突した!
「うおおおおおおお!!」
「ゴオオオオオオオ!!」
天使の剣と牙が、悪魔の剣と爪がそれぞれ鬩ぎ合い、火花を散らす。力は拮抗。先に力を緩めてしまった方が一気に押し切られる。
「でもそれはちょっと工夫するだけで覆せるんだよ」
俺は鍔迫り合っていた力を左右同時に緩めた。すると当たり前だが、デビルアリゲーター・ドラゴの攻撃が俺へと迫る。
「悪いな、俺の勝ちだ」
その瞬間、俺に迫って来ていたデビルアリゲーター・ドラゴの巨体が吹き飛んだ。それに伴い、デビルアリゲーター・ドラゴの最後のHPバーがガクンと削れる。
「ゴォォ!?」
何がなんだか分からない様子のデビルアリゲーター・ドラゴ。
俺が行った行動は至って単純だ。
押し相撲で、相手の手に合わせてこちらの力を抜くと相手は体制を崩すだろ?今回はその要領を使って、それに一工夫した行動を俺が取っただけだ。
先ずは普通にぶつかり合っている力同士の片方のバランスを崩す。それが俺が力を緩めた理由である。
それによりデビルアリゲーター・ドラゴの体制は僅かに崩れる。後はそれに合わせて体重の掛かっている足……所謂軸足を蹴り抜き、デビルアリゲーター・ドラゴを一瞬空中へと浮かび上げる。そして最後に自身の全身の力を込めた回し蹴りを空中にいて踏ん張る事の出来無いデビルアリゲーター・ドラゴに叩き込んだだけだ。
俺は吹き飛んだデビルアリゲーター・ドラゴの懐まで一気に潜り込み、止めの一撃を放つ。
「『グランドクロス』!」
新戦技「グランドクロス」。聖なる力を込めた2本の剣で敵を十字型に斬り裂く技。
デビルアリゲーター・ドラゴとの戦闘中に獲得したそれは、白い光を纏ってデビルアリゲーター・ドラゴの体を確実に斬り裂いた。
「ゴォォォオオオオオオオオ!?」
断末魔の叫びを上げながら吹き飛び、先程の俺のように大木へと叩き付けられたデビルアリゲーター・ドラゴ。驚くことにまだ奴のHPバーは1ドット残っていた。
「ゴォォ……」
しかし、最早動く事は出来無いようで、叩き付けられた大木を背に、グッタリとしている。
俺は本当の止めを刺すべく、ゆっくりとデビルアリゲーター・ドラゴに近付いて行く。デビルアリゲーター・ドラゴからしたらこの俺の姿は自身の命を刈り取る死神のように見えたに違いない。
「じゃあな、デビルアリゲーター・ドラゴ。楽しかったぜ」
武器を振り上げ、後はこれをデビルアリゲーター・ドラゴに振り下ろすだけと言う時に、いきなり目の前にウィンドウが現れる。
「チッ!なんだよこんな時に!」
苛立ち気にそれを見ると、一瞬にして怒りが冷めた。
『デビルアリゲーター・ドラゴが仲間になりたそうにしている。仲間にしますか?yes/no』
そのウィンドウを見た後は、デビルアリゲーター・ドラゴに目線をやった。
それにより分かった事だが既にデビルアリゲーター・ドラゴの目に敵意は無く、例え自身の命を奪う剣であっても受け入れると言う意思が感じられた(気がした)。
「まいったな……そんな目をされたらもう殺せ無いじゃないか」
俺はふぅ、と息を吐き、ウィンドウに表示されているyes/noのyesを選択した。
『デビルアリゲーター・ドラゴを使い魔にしました。名前を付けて下さい』
「うーん、名前かぁ……」
俺は未だにグッタリしているデビルアリゲーター・ドラゴを見やる。
デビルは悪魔だろ?それにワニ……ドラゴン……う〜ん……そういやワニやドラゴンって凶暴だよな……凶暴……凶暴……そうだ!
「よし!お前の名前はベルセルクだ!よろしくなベルセルク!」
デビルアリゲーター・ドラゴ改めてベルセルクは、グッタリとした様子のままだが、僅かにコクリと頷いた気がした。
「デビルアリゲーター・ドラゴ」のイメージはラギアクルスが少し陸上に適応した感じの見た目をイメージしてください。




