10話 東のボス
更新再開2日でまさかのジャンル別日間ランキングが11位に……!
このまま頑張って、総合日間ランキング上位を目指すぞ!
ボスモンスター。
各街の周辺に四体存在するこの存在は、圧倒的強さを誇り、その強さで挑んで来る冒険者達を迎え討つ。
「取り敢えず今日中に次の街まで行きたいな」
「そうですね。私も情報はプログラミングされていますが、実際に目にした事はありません」
俺は今、始まりの街周辺の4つの大フィールドのうちの一つ、「試練の森」にやって来ていた。
試練の森は始まりの草原から行ける東のボスモンスターが存在するフィールドであり、始まりの草原から「風吹く丘」を超え、「微毒の沼」を突破した先にあるフィールドの名称である。適性レベルはボスフィールドでは最も優しい20〜25。
「おっと、アーマービートルか。ウリエル、任せたぞ」
「了解です」
試練の森に現れるモンスターは森と言うだけあって昆虫型のものが多い。今、出現したアーマービートルもその例に洩れず、鉄のように硬い甲殻を持つカブトムシと言った、昆虫型のモンスターである。
「『フレイム・ピラー』」
そのアーマービートルをウリエルの魔法、フレイム・ピラーで一撃で屠り、俺達は順調にボスエリア目指して進む。
「にしても、ウリエル、お前が火属性魔法を使えるとは、ラッキーだったよ。ここは火属性が弱点のモンスターばっかだからな」
「お褒めに預かり、光栄でございます。私達四柱の守護天使はそれぞれ火、水、風、土を司る存在ですので、火を司る私に取っては美味しい場所ですここは」
始め、ウリエルのステータスを確認した俺は、思わずおっ!となったのを覚えている。まさかこれから挑むフィールドにもってこいのステータス構成だったとは、本当に僥倖だった。
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名前:ウリエル(使い魔)
種族:天使
LV:22
武器:天使の細剣
防具:天使の法衣・天使のズボン→(魔法攻撃UP(小)・魔法防御UP(小)・移動速度UP(小))
装飾:天使の指輪→(詠唱短縮)
HP:380/380
MP:320/400
STM:480/500
STR:170(30)
VIT:120(70)
INT:350(35)
SAN:280
AGI:500(60)
LUKU:100
能力:【「天翼生成」「神眼」「天使従属」】
スキル:【「火炎魔法」「剣術」「魔力強化」】
称号:「守護天使」「天魔の僕」
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このステータスは俺からしたら劣るものの、現状では恐らく俺に次いで全プレイヤー(プレイヤーでは無いが)中、2位の高さを誇るであろうと思える程高い。
装備は使い魔になった時から装備していた物であり、驚く事にどちらも俺の装備と同様に進化装備であった。
そして最後にスキルだが、この「火炎魔法」が今回最も頼りになるスキルだ。
HHOではスキルには皆、熟練度と言うものが存在し、この火炎魔法は火魔法と言うスキルの熟練度を最大まで上げる事で進化するスキルである。まだ火炎魔法の熟練度が足りないせいか、フレイム・ピラーの他にはフレイムボールとフレイム・ウォールの2つしか使えないが、それでもこのフィールド程度の敵であれば十分な火力となる。
「さて、そろそろボスエリアに着くぞ、気を引き締めろよ」
「はい」
俺が言ったのがフラグとなったのか、今まで周囲には木しか無かったのが、唐突に開けた場所に出た。
そこは森の中に出来たミステリーサークルのような風貌の円形の場所で、その広さは半径50メートル程にも及ぶ。
中心まで進むと、いきなり周囲に結界のような物が張られ、今来た道を塞がれる。
「っと、どうやらボスを倒すまでは出られ無いらしいな」
「そのようですね。ですがそれは既に覚悟の上です」
俺とウリエルは各々の武器を抜き放ち、いつ何が起きても即座に反応出来るように構える。
やがて頭上よりブブブッと虫の羽音のようなものが聞こえて来た。それに反応し、上空に目線をやると、そこには巨大な影が存在していた。
影はゆっくりと降下して来て、俺とウリエルから20メートル程離れた位置に降り立った。どうやら奴がこのフィールドのボスモンスターらしい。その名も……
「こいつがスティンガー・ビートル……」
ボスの正体はクワガタとカブトムシを足したような姿をした3メートル程の昆虫型のモンスターであり、黒光りする鎧のような甲殻は見るからに硬そうで、生半可な攻撃じゃダメージすら与えられ無いだろう。それに加えてあのクワガタの大顎とカブトムシの角を足したような物は何でも貫き、切り裂けそうだ。
「いいねぇ、楽しめそうだ……ウリエル!作戦通り俺が前衛、お前が後衛だ!いいな!」
「はい!」
俺達は弾けるように駆け出した。
「『フレイム・ピラー』!」
それと同時に後方からウリエルの魔法がスティンガー・ビートルの頭部に激突する。
「クロスエッジ!」
唐突に喰らった苦手な火属性の魔法に一瞬たじろいだスティンガー・ビートルに、俺はすかさず「二刀流」スキルで獲得した戦技「クロスエッジ」を、全体を見て最も脆そうな足に叩き込む。
この攻撃で早くもスティンガー・ビートルの3本のゲージのうち、1本が半分を切る。流石にステータスに差があり過ぎたか……。
だが流石はボスモンスター、俺の攻撃を喰らった瞬間、ダメージ覚悟の突進を放った。
「くっ!」
それは戦技発動直後で、体制が整っていない俺を的確に捉える道筋であった。
俺は咄嗟に剣をクロスさせて突進を受けると同時に後方へ跳び、衝撃を逃す。
「マスター!『フレイム・ウォール』」
機転を利かせたウリエルが俺とスティンガー・ビートルの間に炎の壁を作る事でスティンガー・ビートルの追撃を止めてくれた。その隙に俺も体制を整え、ボスのどんな動きにも対応出来るように武器を構え直す。
「すまんウリエル!助かった!」
「いえ、当然の事をしたまでです!」
俺はもう油断はしない!と目で訴え、再びスティンガー・ビートル目掛けて駆け出した。
「はぁぁ……『クロスエッジ』『タブルスラッシュ』!」
俺は昨日のレベリングで偶然発見したシステム「スキルチェイン」を使い、スティンガー・ビートルの足に強烈な連撃を叩き込む。
スキルチェインとは最初に発動したスキルが終わると同時に次のスキルを発動させる事で発動する事が可能なプレイヤースキルであり、これにより一瞬で大きなダメージを与える事が出来る。
「キシャアアア!」
俺の連撃で1本目のバーが完全に消滅する。スティンガー・ビートルはダメージの所為か、そう言う仕様なのかひっくり返ってもがいている。
「ウリエル、奴の腹部に攻撃を加えるぞ!だが油断はするな!」
「了解!」
ウリエルは連続で放つ事が可能なフレイムボールをスティンガー・ビートルの剥き出しの腹部に向けて放つ。ボウボウと音を立てながらスティンガー・ビートルの腹部は燃え上がる。
俺は燃え上がるスティンガー・ビートルの腹部目掛けて現在使える二刀流スキルで最も強力な威力を誇る『乱舞撃」を叩き込む。
乱舞撃はスタミナの続く限り永遠と攻撃を放てると言う、スタミナ無限の俺にとってとても相性の良いスキルである。攻撃中は移動が出来ないと言う大きな欠点があるが、未だにもがいているだけのスティンガー・ビートルに叩き込む分には問題無い。
俺とウリエルの連続攻撃でぐんぐんと減っていく2本目のバー。高火力の攻撃を受け続けてもがいているうちにやがて2本目のバーも消滅した。
だがその直後。
カッと目を見開いた(ように見えた)スティンガー・ビートルはいきなり起き上がり、周囲を巻き込んだ大回転を始めた。
「チッ、これじゃ近付けないな」
「少し距離を取って様子を見ましょう」
不穏な気配を逸早く察した俺達は咄嗟にスティンガー・ビートルから大きく距離を取ることで大回転をなんとか回避したが、スティンガー・ビートルの大回転は止まること無く、魔法を撃ち込んでも弾かれ、接近して剣を振るう事も出来無い。
そんな状況が数分、あるい数十秒か続いたある時、徐に回転を止めたスティンガー・ビートルが、背中に生える翅を広げ空に飛び上がった。
「へぇ、やっぱりこいつも飛ぶのか」
空中よりこちらの様子を伺うような動きを行うスティンガー・ビートル。
βテスター情報によれば、この状態になったスティンガー・ビートルは殆ど下に降りて来ず、空中より粘着性の液体を吐きかけたり、翅を使った衝撃波と言った遠距離攻撃を永遠と繰り返して来るらしい。この状態のスティンガー・ビートルに攻撃を当てれるのは魔法による遠距離攻撃や、遠距離攻撃を可能とする武器による攻撃しか無い。ある程度成長した竜人ならば自身も飛んでの空中戦闘が可能だが、それでもスティンガー・ビートルの耐久力の前に圧倒的にスタミナが足りない。
だが、それはあくまで竜人の場合である。
「ウリエル、一気に畳み掛けるぞ!」
「はい!」
俺とウリエルは自身の持つ翼を広げた。
天使の象徴たる神々しく美しい純白の羽と悪魔の象徴たる禍々しくも逞しい漆黒の羽が辺りに降り注ぐ。
「行くぞ!」
俺とウリエルは一斉に空へと飛び上がり、吐き出される粘着性の液体を次々と回避して進み、スティンガー・ビートルの懐に潜り込んだ俺は、スカイウォークを使った踏ん張りを利用し、体重をかけた一撃を弱点である腹部に叩き込んだ。
「キシャアアア!!」
スティンガー・ビートルは悲鳴を上げ、それに伴い最後の1本のバーが2割ほど削れる。
「どうやらこいつも空中戦になると耐久力が落ちるようだな!」
角を振り回して暴れるスティンガー・ビートルから距離を取ると、それと入れ替わるようにして後方から魔法が飛んで来る。
「マスターには手は出させません!」
天使の細剣を媒介にして放たれる魔法は、的確にスティンガー・ビートルの頭部と腹部に着弾する。それにより更に3割程バーが減り、遂にスティンガー・ビートルの体力がイエローゾーンに突入した!
「ウリエル!同時に行くぞ!」
「Yesマスター!」
俺とウリエルは同時に「魔力強化」を行い、各々、放つ攻撃に全集中力を込める。
スティンガー・ビートルは不穏な気配を察したのか全力で空へと逃げるが、最早時既に遅い。
「とどめだ!」
俺はスカイウォークで空を蹴り、大きく距離を詰める。
スティンガー・ビートルも逃げるのは不可能だと判断したのか、方向転換を行い、降下の威力を利用した突進を行って来る。
「させませんと言ったはずです!」
そこにすかさずウリエルのフレイムボールが連続で撃ち込まれるが、元々ダメージ覚悟だったのか、スティンガー・ビートルは避けようともせず、HPバーをガクンガクンと減らしながら一直線に俺に向かって突進して来る。
「よくやった、ウリエル。後は俺に任せろ」
俺は天使の剣と悪魔の剣を握らしめ、天魔翼を以って自身もスティンガー・ビートル目掛けて突進し、奴を迎え討つ。
「おおぉ……『クロスエッジ』!!」
激突すると同時に、戦技クロスエッジを放つ。狙いは最も柔らかい部位である腹部では無く、最も硬いであろう角と大顎だ。
俺の放ったクロスエッジは、的確に角を捉え、大顎も巻き込む軌道で振るわれた。その攻撃は角も大顎も関係無く破壊し、邪魔する物が無くなった頭部をもう一本の剣が捉える。
こちらから放った攻撃にスティンガー・ビートルの突進の威力が合わさり、その理不尽な威力は頭部だけで無くその後ろに控える背中まで破壊し、背中から生えていた翅はその攻撃で斬り飛ばされた。
翅を失ったスティンガー・ビートルは満身創痍で地上へと落下して行き、轟音を立てて地面に激突をすると、遂にそのHPバーをゼロにさせ、パリーンと言う何かが弾ける音と共に光の粒子へと姿を変えた。
【Congratulations!タイム12分36秒】
『フィールドボス「スティンガー・ビートル」の討伐に成功しました。
条件報酬「初個体討伐」「初回討伐」「単独撃破」「MVP報酬」「ラストアタック報酬」を獲得しました』
《フィールドボス「スティンガー・ビートル」が討伐されました。達成者名:アテナ》
脳内に響くレベルアップのファンファーレ。呆れる程大量に流れて来るドロップアイテムの数々。そして数々の条件報酬。どうやら使い魔は俺の一部としてカウントされるらしく、条件報酬「単独撃破」を獲得する事が出来た。
「へぇ、これが全プレイヤーに流れるアナウンスか。ウリエルの時は気付かなかったけど、こんなはっきり聞こえるんだな」
恐らく俺がスティンガー・ビートルを討伐した事は今の脳内アナウンスで、既に全プレイヤーに知れ渡っている事だろう。まぁ目立つのは、現実では御免だがゲームでは望む所だし、特に問題は無いな。
「ふぅ、お疲れ様でしたマスター」
ウリエルが肩で息をしながらゆっくりと空から降りて来きた。
「ああ、お疲れ様、ウリエル。今実体化解くから少し俺の中で休んでな」
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。何かありましたら何時でも呼んで下さいね」
俺はウィンドウを操作して使い魔の実体化を解いた。使い魔は主人の中に存在する時は通常の3倍の速度で回復を行うので、数時間しないうちに失ったスタミナやMPは完全に元通りになるだろう。
「うし、条件報酬を確認したら街に戻って次のボスに挑戦だ!」
俺は目の前に出現したワープゲートを潜り、始まりの街へと帰還した。




