第7夜:夜明け
女はよくこんな夢を見ていた。
自分と自分の知人の写真がランダムに表示され、その後、背景が真っ暗な国会議事堂が現れて真っ赤に染まるのだ。
女はその夢を見る度、飛び起きて冷たい汗をかいていた。
彼女の仕事はSPのため、自分の思う最悪の結末を夢に見てしまうのだろうと言い聞かせていた。
ある日、政治家の高校生くらいの娘の警護をしているときだった。警護していた少女がふと、街頭のモニターに釘付けになっていた。
モニターには、女が見た夢と同じ画像が映し出されていた。女はとっさに少女の目を自分の手で覆い、見てはいけないと少女に言った。
政治家の娘の警護が無事終わり、テレビをつけると放送局全てがあの時間帯に電波ジャックされたことを話題にしていた。テロリストの仕業だろう、世も末だ、などとコメンテーターたちは他人ごとのように言う。
しかし女にとっては不思議だというより恐ろしかった。なぜ自分の夢が大勢の目の前で晒されていたのか・・・。
女はもう電波ジャックのことを忘れようと仕事に没頭していた時のことだった。ある政治家が白昼堂々誘拐されたのだ。しかしなぜか誰も政治家を助けようとはしなかった。その政治家は汚職で議員辞職してまもなくだったからだ。指揮系統も混乱し、誰も動けない状態だった。
女はもどかしくなって、自宅に戻って体にピッタリとフィットするライダースーツを身に纏い、黒いヘルメットを被ると、漆黒の大型バイクに跨って犯人たちを追跡した。
歩行者天国を、女が乗る黒い獣がうなりをあげて疾走する。人々は黒い一迅の獣に慌てて道を譲る。
やがて日も暮れた頃、女はやっと犯人たちの居場所の近くまで追いつくことができた。
汚職で辞任した元政治家は、高層マンションの空中庭園に居た。高層マンションはテロリストたちに入り口を封鎖されてしまい、高層マンションから入ることは難しかった。
女と、元政治家を警護していたSPたちは高層ビル近くのマンションの屋上に居た。
その屋上と空中庭園は一本のロープで結ばれている。つまり、汚職で辞任した政治家に対して警察はどう動くのかをテロリストたちは高みの見物しているのだ。
女は汚職で辞任だとかどうだか関係なかった。他のSPたちがただ呆然と見つめる中、女はそのロープ伝いに空中庭園へ向かおうと試みた。
最初はテロリスト達も笑いながら見ていたが、武器を持って居なさそうな女が自分の命をなげうってまで一本のロープにしがみついて空中庭園へとたどり着こうとしている姿に戦慄を覚えていた。
女がロープにしがみつきながら落ちることなく空中庭園近くまで辿り着こうとしていた。まさに神業としか言い用がなかった。
女がもう少しで空中庭園へたどり着こうとしたその時、地上から花火のように閃光弾が上がった。
閃光弾のようなものは女の側で激しい光を放った。
気がつくと、女は空中庭園に居た。ライダースーツではなく、ゆったりとした麻のワンピースを身に着けている。そして空は明るくなっていた。
そして近くには、夢の中に出てきた写真の知人が一人いた。しかし、本当は彼女はその人物を知っているようで全く知らなかった。そしてそのことすらも疑問に感じていなかった。
「あなたは夢の中の・・・。」
女がそう言うと、若い男はにっこりと笑った。
「僕は君の守護霊なんだ。」
男は荒唐無稽なことをサラリと口にするが、女は不思議と信じて納得してしまった。
「君や他の人に近々災難が来るってメッセージをあんな形でしか示せなかったけど、まさか君は本当にその災難に自分から丸腰で飛びついていくなんて。」
男は呆れたように、でもなぜか嬉しそうに言う。
女は少し考えて言った。
「だって、人の命を守るのが私の仕事だもの。」
女が穏やかに微笑みながらそう言うと、男はそっかと相槌を打った。
空中庭園に夜明けがやってきた。明るい太陽が登り、空中庭園を照らしだす。
「今ここは、この世とあの世の真ん中だけど、君はどうする?」
朝日に照らされた男の顔は穏やかで、まるで答えを知っているかのようだった。
「もちろん帰るわ。まだ仕事が残ってるもの。」
女は男の予想通りの答えを返した。
結構脚色してます。
夢で見たのは
・写真と国会議事堂
・バイクにまたがって犯人を追う女の人
・バイクの進路方向とは真逆から人が沢山やってきて、通るのに困っている
・バイクにまたがった女の人が犯人たちのいるビルまで綱渡り
・そろそろ到着、という時に閃光弾が上がる
・朝焼けの空中庭園でいつのまにかナチュラル系のゆるい服を来た女の人が登る太陽を見ている
と、かなり脈略のない感じでした。